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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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「…のう、長曾我部」

語りかける。闇に。濃い潮の香りに。ゆるりと細い手を上げて手招くようにしながら、けれどその腕は途中で力なくぱたりと落ちた。喉から絞り出すような笑い声が漏れる。聞いていて決して心地良いものではない其れは、悲痛な色さえ含んでいるように思えた。

「そなた、本当に無責任な男よな」

喪う悲しさはもう味わいたくないと、ならばそう思わないよう、氷の面を被った元就を否定し、いとも容易く氷の面を溶かした男は今はもう居ないという。
簡潔な書状で四国の国主長曾我部元親の訃報は知らされた。
呆気ないものだ、と思った。
勿論涙はない。流す涙など、幼い頃に母が死に、父が死に、兄とその子が死に、自分の弟を手に掛けたときには尽きていた。
そして淡々と思ったのだ。
嗚呼。そうだ。何も思わないように振る舞えば喪失の痛みなど。

「だというのに。……本当に、だというのに」

涙はない。流す涙はない。
けれど若干掠れた声は泣いているようだった。
馬鹿なことと思う。風景の、見る端々に銀色の髪を靡かせた底抜けに明るい鬼の姿が、残像のように掠めていく。
声も、そうだ。沈黙を好く元就の耳には鬼の声が良く残っていた。


「莫迦者。戻ってこい、と我は言ったぞ」

居ないとは俄に信じられぬ。
けれど居ないのだと信じられないくらいに残酷に世界は告げる。
だからこそ元就は泣けず、喪ったのも半分認知しないまま、曖昧な日を送る。



>>元親死にネタ。瀬戸内。
   信じていたからこそ、信じられない。
   認めていたからこそ、認められない。

   きっとそういうことではないだろうか、と。

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