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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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ふわふわしたシフォン素材のワンピースを身に纏い、街の中を歩いていく少女の髪の色は鮮やかな色。
足取りには迷いが無く、ふと目にとまった噴水に目を細めた。
キャスケットを被り五分袖のパーカーに半ズボンの、後ろ姿だけでは少年にも見える人物をそこで見かける。
ウェストポーチに無造作に片手をつっこみ、何かを取り出し作業しているのか戯れているのか、その姿は楽しげでもあった。
「何をやっておるのだ?」
背中に問いかければ、肩越しに振り返った相手が笑う。
「ああ、アンヘル! 今日はオフなの?」
にこにこと機嫌の良さそうな声に、アンヘルと呼ばれた少女もまた笑った。いや、正確に言うなら既に少女の年齢は出掛かっているのだが、どうにも身長は伸びず少女の姿に近いまま成人を迎えてしまったというべきか。
「いいや、少しだけ時間が空いただけだ」
質問に返せば、「そうなんだ」と相槌を打つ相手が手にしていた小型の測量器具をポーチにしまう。
「お前こそ、今日は休みか?」
「ううん。そんなわけないじゃない。お休みなら僕、一日中お家で寝てる」
「健康的なんだか、不健康なんだか…」
「そう? まぁ、良いじゃない」
どうだっていいよと付け足し噴水の縁に腰掛けた少年のような少女は、少しだけ陽に透ければ薄い黒髪を揺らして笑う。水しぶきが掛かっているはずなのだが頓着はないらしい。
「で、どうしたの? なんかあった?」
またウェストポーチに手を突っ込んで何かを探し当てたらしい少女がアンヘルに何かを投げて寄越す。
取り落とすことなく両手で受け取ったそれは小さなキャンディだった。要するにおやつか。
「何かあったように見えるか?」
溜息一つ落として同じように噴水の縁に腰掛けたアンヘルが手のひらのキャンディを手慰みに転がす。
自分の分のキャンディは既に口の中らしい。ころころと転がしながらアンヘルの様子を見つめる少女に観念してアンヘルが立ち上がった。
背中から流れる鮮やかな赤い髪が噴水の光を受けて綺麗な残滓を描く。
「隆景」
「はいはい」
「この格好、どう思う?」
「………は?」
意を決して聞いた言葉に隆景は目を丸くした。質問を上手く処理しきれなかったらしい。
一度二度と瞬きを繰り返した後に、アンヘルの頭からつま先までを視線で追う。特に変なところは無い。
「かわいいよ?」
なので素直に感想を言った。
少年のような格好ばかりをする隆景も一応女性だ。可愛い格好が嫌いなわけではない。
アンヘルの腰まで伸びる癖のない鮮やかな髪も綺麗で好きだし、今の格好―柔らかなシフォン素材のワンピースも彼女に似合って可愛いと思う。
「本当に?」
「ええ? なんでそこで嘘つく必要があるの」
疑い深く聞いてきたアンヘルにふるふると隆景が首を振る。
お世辞でも何でもなく可愛いと言った筈だが、何か気に障ることをしただろうか。
しかし隆景の心配を余所に貰ったキャンディを握りしめたままアンヘルは眉間に皺を寄せて、また座り込んだ。
「誰かに何か言われた?」
「いいや」
「それじゃ、どうしたの」
やっと手のひらのキャンディの包み紙を開けて口の中に放り込んだアンヘルが困ったように首を傾げる。
「あやつがな」
「カイムさ、」
「ああ、あの馬鹿者がな…!」
アンヘルが良くも悪くもそういう風に言い表すのは、昔は学芸員であり今はこの人工惑星のセキュリティやシステム管理部門に移管した男性でしかない。
「どしたの」
「…………これは嫌だ、と言われたんだ」
指先でワンピースの裾を引っ張ってアンヘルが溜息をつく。
(ああ、なんだろう。可愛い)
そう隆景が思った瞬間に、接続されているデータベースのガイアが突っつくように反応をしてきた。
(何、ガイア? ああ、そういうこと)
学習機能のついているAIを積んだデータベースは少しずつ悪知恵もついていくらしい。
あまりにも悪さをするようならば親とも言える開発者とシステム管理者が怒るだろうが、これは範疇のうちか。
先ほどアンヘルがカイムの元で何かを話していたらしい映像が映し出される。監視カメラの映像ログ。
「あのさ、アンヘルさん、アンヘルさん」
監視カメラに音声を拾う機能はないが、カイムが何かを言ったのとやりとりの様子だけは何となく掴めた。
よいしょ、と少しだけ反動を付けてから立ち上がって隆景が笑う。
「何だ?」
「カイムってさ、水玉模様好きじゃないんじゃないの?」
「え?」
柔らかなシフォンの、ワンピースは少しだけ大きめのドット。
コントラストは淡く、クリーム色の生地に薄く水色が乗るだけなのだが。
「僕が思うに、アンヘルにその服が似合わないんじゃなくて」
口数が少ないと言うより無口過ぎる印象の男は上手く言えなかったのだろう。
「水玉模様は好きじゃないのに、アンヘルが着ると嫌いじゃなくなっちゃうから」

――だから、嫌だったんでしょう?

笑って告げればアンヘルが少しだけ照れたように赤くなって俯いた。
「そうなら、」
小さく呟かれる声に隆景が笑う。
「そうとちゃんと言え、馬鹿者」



>> 時折書きたいカイムとアンヘル。今回は分類不可、博/物館/惑星パロにて。
    なんか可愛い女の子な、そんなのが書きたかったんだな。

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サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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