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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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これは賑やかな事だな、と流石の元親も苦笑せずにはいられない。
建物からは色鮮やかな布が掛けられている。
染め上げられたその布たちには綺麗な文様。
ひらりと視界を掠めて降り落ちたのは花びらを模した紙吹雪だ。

「…元親…!」

その紙吹雪を摘み上げて眺めていると背中に声が掛けられる。
明るい声は聞き覚えがあってすぐに振り返った。
通りの向こうから駆けて来る体格のいい男は、自身の長い髪を頭の高い位置で一つで纏めて背中に流している。笑顔を貼り付けたまま、元親のところまで辿り着いた男は今走ってきたのなど感じさせない所作で元親の肩をぽんと叩いた。

「久しぶりだな」
「ああ。…久しぶりだ」

それはカナリアの聖地で一緒に過ごした頃と変わらない笑顔と行動。
思わず安堵して破顔した元親がぐるりと街の様子を眺めた。

「良い時期に来たな。丁度祭りの時期だ」
「…通りで」

成る程、とも思ったが半分絶望も覚えた。
こんな時期にぶち当たったのは幸か不幸か。今の元親に祭りを楽しむ余裕なんて無い。

「……謙信から連絡受けてるよ」
「…へ?」
「人捜し、だろ」

暗い考えに沈みそうになった元親に含みを持った言葉が投げられる。
何か文句でもあるのかと言いたげに視線を向ければ揶揄するというには程遠い人好きされる笑みがあった。

「なんだ。用意周到じゃねぇか」
「まぁまぁ。連絡を受けたのもあるけど、俺も元親の歌、聞こえたからねぇ」
「……おい」
「俺は昔から耳が良いんだよ」

政宗や謙信のいた街は元親が歌を紡いだ場所から近いといえる距離にはあった。
けれどこの街は些か遠い。
そこまで聞こえる歌だったのか、と驚いて声を上げた元親にさらりとなんてことは無いと言葉が返される。

「でも、元親が…ねぇ」
「何?」
「いや。恋って良いよねぇ」
「……慶次」

愉しそうに隣を歩く男に低く声を掛けても動じる様子は無く、ぱっと明るい笑顔で返される。

「それでさ。早速本題に入ろうか」
「本題?」

返せば「全く何のために此処に来たの?」と逆に咎められる口調で返された。
とすれば自分が人を捜してくると連絡を受けた慶次が言う本題は只一つ。

「……何か手がかりがあるのか?」
「あるよ」
「本当か?」

意を決して言った言葉に対してのさらりとした返答の内容に尚も念を押してきた元親に、困ったように苦笑した慶次が頷く。

「まだ、たぶんこの街にいるよ」
「え」
「人を隠すなら人の中」
「……ああ」
「捜すんなら裏通り。とりあえず地図やるから、俺んちに寄ってけよ」

こっちだと言いながら歩いていく慶次の後姿を追って元親は歩く。
祭りの喧騒は楽しそうで、元親の脇をはしゃぐ子ども数人が駆け抜けていった。
その後姿を見送ってから祭りの騒ぎから遠ざかっていく慶次を追いかける。
祭りは好きだ。楽しむのも好きだが、誰かが楽しんでいる姿を見るのも好きだ。
その気持ちは元親にもあったが前を歩く慶次は、殊それに関しては異常なまでの執着を見せていた。
カナリアの聖地でも底抜けに明るい歌声で歌うから、聞いた人間は思わず笑顔が伝染するように。
かと思ったら切ない恋の歌を歌って少し感慨に耽ってみたり。
慶次はそういうカナリアだ。カナリアの聖地を出て街で暮らす選択をした慶次は、何箇所か点々と回ったようだがこの街が一番居心地がいいらしい。
やがて落ち着いた色合いの建物に辿り着いて、そこで立ち止まった慶次が手招きをした。
此処が彼の家らしい。
元親は招かれるままに足を踏み入れる。

「よっこいしょ…っと。お前が来るっていうからさ。…挙句人探しだろ? だから…地図用意してたんだよ」

そういって投げて寄越されたものを片手で受け取って元親はそれに目を落とす。
何箇所かに赤い印が付けられたそれはこの街の地図のようだった。

「たぶん。いるのはそこらへんだね」
「此処まで調べてくれたってぇのか」
「そりゃ、幼馴染の恋の行方がかかってんなら」

謙信が元親の事情をどのように伝えたのかは分からないが。
慶次はどうやら元親が恋人を追いかけているものと思っているらしい。
恋人なんてものじゃないな、と思いながら元親は苦虫を潰したような表情を浮かべる。
出会ったのは偶然。人の出会いなどそんなものだから、気にしないにしても、自分と元就の関係は恋人ではなかった。
一方的に気にかかっただけのこと。
二度目に会った時に目的地が一緒だから、と行動を共にして…気付いたらずるずると半年の間一緒に居ただけ。
元就が何かを言ったことはなかったし、自分が何かを言ったことも無かったと思う。
否。嗚呼、言った。
確かに「お前が屹度好きなんだ」と言った覚えがある。
その時に困ったように眉間に皺を寄せたので、「そういう意味じゃない」と返しただけだ。

「何考えてんのか分かんないけどさ」

地図に視線を落としたまま、考え込んでしまった元親に慶次が溜息混じりに言う。

「とりあえず、会って話がしたくて追いかけてきたんだろ。だったら、ちゃんと話してこいよ」

後悔しないように。
そう付け足した慶次が少しだけ寂しさを滲ませた笑顔を向ける。

「……謙信からは、そいつが何であるかって聞いたのか」
「調律師?」
「………」
「いや、聞いてないよ。けど、分かったよ」
「…俺は」
「…関係ある?」
「慶次?」
「調律師とかカナリアとか、普通の人間だとか。人を好きになる理由にそれは関係あるか、って訊いたんだ」
「…………いや」
「だろ。なら、いいじゃないか。…元親が好きになった人なら、大丈夫。俺はそう思う」

言い終わるや否や、「さあ」と慶次が地図を持った元親をくるりと反転させて背中を押した。
そして家から追いやるように一緒に出ると、こう告げる。

「俺はこれから祭りに行くから忙しい。…元親はさっさと捜しておいで」
「お前な」
「…そんでふられたら、一緒に馬鹿騒ぎして寂しさなんて紛らわせてやるよ!」

だから行っといで。
そう優しく言った慶次に頷いて元親はとりあえず印の付けられた一箇所に足を向けることにした。
見慣れない街の中だが、事詳細に書かれてある地図のおかげで迷うことは無いだろう。

「ありがとよ」
「…礼なら、後で聞くよ」

そう返した慶次を一度だけ振り返って、元親は今度こそ裏通りに入る道に足を踏み入れた。
怖いと思うよりも、何故だろう。忘れられないと気になる言葉が脳裏から離れない。
「さよなら」と告げた元就は泣いてはいなかったけれど、泣いているかのようだった。





>>創作カナリア設定話。たぶん6話目。
   慶次もカナリア。お祭り大好きは相変わらず。
   慶次で本当に人のことに対しては、察しがいいような気がしてます。すき(いいから)
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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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