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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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初夏の緑。
影を落とす庭の端でゆったりとした所作で立ち上がった元就に控えめに声がかかった。

「父上」

穏やかな調子の声に振り向けば縁側から、元就によく似た容姿の青年が手に書状を持って庭に下りてくるところだった。

「…何用か、隆元」

其の青年の名を、正確には自分の子の名を元就は平素よりも柔らかな調子で呼んだ。
気に留めた風もなく歩み寄ってきた隆元が自身の手に握られた書状を視線で示す。

「何処からだ?」
「土佐の長曾我部殿から」
「……ふん」

長曾我部。
其の名が出てきた瞬間に反射的に眉を顰めた元就が思い出したかのように空を仰いだ。
初夏の爽やかな色合いの青が続く空の上、中天に日輪はある。
眩しさに目を細めた元就は、しかし次の瞬間崇拝する日輪ではなく、太陽の匂いのする白銀の髪の男の姿を正確に脳裏に蘇らせる。

―何とも疎ましきことよ。

内心毒づきながら息子の手にあった書状に手を伸ばした。
心得ているという風に差し出した隆元が、ふと思い出したように呟く。

「噂を聞きました」
「…何?」
「長曾我部殿は、最近体調を崩していた様子」
「ほう?」
「何でも奥州の方へ行った折、風邪を召して帰ってこられたとか」
「…成程、奥州の風邪は侮り難いようだな」
「父上?」

珍しく笑みを漏らした元就に、不思議そうに隆元が声を掛けた。

「莫迦でもかかる風邪とは」

莫迦と元就が差したのは他でもない四国の国主、長曾我部元親のことだ。
細い指先で丁寧に折り畳まれた書状を弄いながらくつくつと笑いを零していた元就は、しかしふと思い当たったように視線を上げる。
そうだ。
日輪の光が一層増す季節に差し掛かっていた。

「いや、違ったか。今は莫迦しか風邪を引かぬ季節だったな」






>>馬鹿は風邪ひかない。夏風邪は馬鹿しかひかない。
   けどちかたんは馬鹿かもしれないけれど、本物の愚か者ではない。
   そんな感じ。
   夏風邪はある意味性質が悪いよね。
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そんなところです。

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