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くすくす、と障子の隙間から談笑が聞こえる。
一瞬、女中達のものかとも思ったがすぐに違うのだと気付いて「何ともまぁ」と息一つでぼやけば、敏く気配に気付いたらしいすっと音もなく襖が開いた。
其処に現れたのは端正と呼ぶに相応しい顔の作りに穏和な笑みを浮かべた青年。
容姿で言えば冷たささえも含んだ作り物めいた造形。
けれど浮かべた表情がその印象を打ち消していた。
「盗み聞きとは行儀が悪いぞ」
青年の後ろ側から少しだけ機嫌の悪い若い声が掛けられる。
苦笑一つで振り返った青年の向こうからまだ少年の印象の抜けない顔が覗いた。
「こら、元春。…失礼を致しました。長曾我部殿」
すっと自然と頭を下げた青年の後ろで「そんな奴に頭を下げる事なんて」と小さく呟く声が聞こえる。
随分と嫌われたものだな、と内心独りごちると部屋の奥からじっと此方を伺う視線に気付いて顔を上げた。
聡明そうな瞳がじっと見つめてくる。
一種全てを見抜くような温度のない視線に、そうかこれはこの息子が継いだのかと納得した。
「おう。そんなに畏まらなくたって良いぜ。…見知らぬ仲でもあるまいしな」
「…親しき仲にも礼儀ありと言いますが?」
「俺には必要ねぇよ」
笑って返せば、「そうでしたね」と穏やかに言った青年が笑って寄越す。
同じ顔でも浮かべる表情が、纏う雰囲気が違えばこうも変わるものかと内心感服すれば見抜いたように青年が苦笑を一つ零して。
「父に用でも在りましたか」
「ああ」
「…少し間が悪う御座いましたね」
「みてぇだなぁ」
「……今暫くしたら戻って参りましょう」
全て見越した上での言葉に「そうだな」と相槌を打ち開けられた襖をくぐった。
途端に嫌な顔をされたのに笑ってやる。
「元春も隆景も元気か?」
「貴方に気安く呼ばれる名など無い」
「元春」
「……おーおー、俺も随分嫌われたもんだ」
「違いますよ。兄は長曾我部殿を嫌っているのではなくて尊敬してらっしゃるのですから」
やんわりとそう言い含めたのは青年と言うよりは未だ少年の様相の人物。
「隆景、余計なことは言うな」
「まことのことであれば、何も害はないでしょう?」
「俺にはある…っ」
「……こら、元春。少し落ち着きなさい」
声を荒げた青年に穏やかに諫めの言葉が入った。
ふう、と溜息を吐くと襖を開けた青年が困ったように首を傾げる。
「隆元も大変そうだな」
「いいえ。そう言うわけでもありませぬよ」
その様子を気遣えばすぐにそう返ってきた。
三人の中では一番父親似の容姿をしているが、与える印象は一番かけ離れた穏やかなもの。
「しかし、兄弟仲が良いってぇのはいいことだ」
隆元、元春、隆景。
三人は毛利元就の息子達である。
嫡子の隆元に、武勇に優れる元春、父の知略の才を受け継いだ隆景。
三人は驚くほど仲が良い。それを父の元就もよく思っているのか、仲良く三人が談笑する姿を認めては親らしく柔らかな表情で見ていたりもするのだ。
「そうですね。確かに」
「……まぁ、それが父上の望みでもあります故」
穏やかに頷いた隆元に続くように、隆景が言葉を継いだ。
どういうことだと首を傾げれば元春が珍しく素直に答えを投げつける。
「……自分は、そうはなれなかったから。……せめてそなたたちは。そういうことだよ」
「なぁるほど」
―お前達は父親も大好きな訳ね。
>>毛利三兄弟と元親。
三人は仲良しこよし。
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