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起き抜けのぼんやりした思考を何とかすっきりさせようと、ブーツも履かぬまま億劫そうに洗面所へと向かう。
ぺたぺたと音を立て、裸足故に床から直に伝わる冷たさに軽く身を震わせ、辿り着いた洗面所のコックを捻った。
流れ出た水を掬い上げ顔をおざなりに洗うとユーリはそこで漸く一息を吐く。ふう、と小さく声も一緒に吐き出して、備え付けの鏡が自分を映し出すのを視界に捕らえた。
鏡像の自分と視線が合う。
少し紫の掛かった暗い色の瞳と、漆黒の髪。
以前は背中まで伸びていた髪が頼りなげに肩より上で揺れている。未だ慣れないその長さの髪を一房摘み上げてユーリは首を傾げた。
元より惰性で伸ばしていたから未練は無い。黙っていれば女性にも見られる顔立ちと長い髪のせいで、長身にも関わらず何度も女性に間違われもしている。
だから髪を切ることに対して何の抵抗も無かった。
鋏を入れるときでさえ一握りの名残惜しさも感じず、床に長い髪が落ちては広がっていく様にも何も感慨を抱かなかった。
それなのに、だ。
「……なんか心許ないっつーか」
今まで長い髪で隠れていた項はまだ白さを十分保ったままで、その心許なさを確認するように手のひらで擦って、未だに流れっぱなしだった水を止める。
途端、朝の静けさに包まれた洗面台で、見慣れた自分の顔を見ながらユーリは初めて興味を持って自分の髪に触れた。
最初に鋏を入れた位置が悪かったのか。思ったよりも短く切り揃えられた髪は、途中から鋏を取り上げた幼馴染がやってくれたものだ。
騎士団の入団試験で数年ぶりに再会した幼馴染は、記憶の面影を残している癖にどこか嫌味なやつになっていた。
いや、もしかしたら自分が喧嘩っ早いのかもしれないとも思う。でも幼馴染の言いがかりもかなりのものだ。
ことあるごとに小言を言われては、規律や法規なんてものに縛られるのが苦手なユーリにとっては苦行以外の何物でもない。
結果、いつも言い争いになり、酷い時には喧嘩まで発展する。
そこまで考え至ってユーリは首を横に振った。
頬に短く切ったばかりの毛先があたる。
それで先日、髪を切った時のことを思い出した。
騎士団に入団が決まり赴任先のシゾンタニアに到着し、部屋を与えられた次の日。
今まで邪魔だと感じなかった髪が先輩騎士の鎧の留め具に引っ掛かった。
髪の長さに関しては個人の自由が認められていたが、すっかり絡み付いてしまった髪は解くのが非常に面倒で、ユーリも先輩騎士もつい「邪魔だ」と言い零してしまったのだ。
一瞬しまったという表情を浮かべた先輩騎士とは対照的にそうかと納得したユーリは、持ち出した鋏で絡まった毛先だけを切ればいいものをばっさりと肩の付近で切り落とすと、床に散らばった髪に目もくれず不揃いなままで部屋に戻った。
どうせなら切ってしまおう。
さすがに自室じゃないと切るのは憚られて戻ってきた部屋には既に先客がいて。
入団してから赴任先まで、挙句部屋まで一緒になった幼馴染が何か難しそうな顔で読んでいた本から顔を上げる。
その時の顔といったら無かった。
「またノックもせず突然入ってきて、扉も閉めないで」と文句を言う筈だった口が小さく開閉を繰り返し、「どうしたの?」と尋ねた声は戸惑いを含み、おかげでいつもの角のある言い方より昔の口調に近かった。
事情を説明し、髪を切り揃えたいと伝えると神妙な顔つきをしていた幼馴染が頷く。
了承を得たとばかりに浴室に向かい、最初に切り落とした長さに適当に切り揃えようと数度鋏を入れたところで、背後から伸びた手に鋏を奪われた。
適当すぎる。そう理由をつけて鋏を取り上げた幼馴染が髪を切り揃えるのを黙って享受している間、不思議と小言は無く。
規則的に入れられる鋏の音と、はらりと落ちていく自分の髪と。
確かめるように梳いては触れていく指先が優しくて、心地良くて、些細な事でいがみ合う今の関係が逆におかしくなってユーリは笑った。
勿論、動くなと窘められたけど。
「ユーリ、早くしろ。まだ寝ぼけてるのか」
物思いに耽っていたユーリに、神経質なノックの音と共に幼馴染の声が部屋から掛かる。
「別に寝ぼけてねぇよ」
聞こえてしまえば言い争いになるのは目に見えて分かっていたし、今はそんなこともする気になれず、小さく声を落としてユーリは洗面台から離れた。
ドアノブを回して部屋に続く扉を開けると、待ち構えたように目前に立つ幼馴染にユーリはへらりと笑う。
「何?」
僅かに怯んだ幼馴染の様子も気に留めず、僅かに寝癖で跳ねる短くなった自分の髪を摘んでユーリはしれっと言ってのけた。
「なぁ。寝癖の直し方、教えてくんねぇ?」
>>Yさんに洗脳された よ^▽^
劇場版ユーリが短髪だったら、すっごく可愛いと思うんだ!って妄想。
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