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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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将来の夢ってなんだろうと、ぼんやりと隣で頬杖をつく幼馴染が言う。
夕焼けが公園を赤く染め上げ、ブランコを漕ぐ音だけが周りに響いていた。遠くで役場だろうか、チャイムが鳴っている。
ゆっくりと空は青から橙、赤、紫、混ざり合うことなく、緩やかに変化していく。いつだって同じ色はなく、そしてとっぷりと日が暮れる頃にはいつもと同じ宵闇が広がるのだ。
公園で遊んでいた子供達はそれぞれ家路につく。
日が完全に暮れてしまう前に帰るのは暗黙の了解のようなものだった。
それは幼馴染みにとってもフレンにとっても同じだけど。
「フレンは、何になりたい?」
ブランコを漕ぎながら空を眺めていた紫の瞳が、フレンの方に向けられ、問われた言葉に首を傾げるしかない。
突然の質問というわけでもない。
ただ、何でそう思ったのかという理由が余り見当たらないだけで。
「僕は、たぶん……父さんの会社で働くんじゃないかな」
「おじさん?」
何となく、母がそう言っていたから、そう答えを返すと不思議そうにフレンを見詰めて瞬く瞳が、ふと陰りを帯びる。
「ユーリ?」
「ふーん。そっか、おじさん偉い人だったもんな」
ぼんやり呟き、勢いをつけた反動でブランコから飛び降りた幼馴染が、肩越しに振り返った。
「ユーリは?」
その背中に咄嗟に問いかけた。
言ってしまえば、沈黙を回避するための手短な手段としての質問返し。
しかし幼馴染は「うーん」と困ったように首を傾げると、
「わかんねぇ」
と返して寄越す。
「何かなりたいんじゃないの?」
「んー、別に。だからフレンはどうなのかなって思ったんだ」
それだけ、と笑う幼馴染は既に完全な夜に近い空を見上げて、頭を掻く。
「ユーリはなりたいもの、ないの?」
「だから」
「ないの?」
三度。同じ質問に溜息を付いた幼馴染が肩を竦めた。
そして踵を返しフレンに向き合う形で問う。
「なんでそんなに聞くわけ?」
「気になったから」
そう告げると幼馴染みは吹き出すように笑う。肩を振るわせ、腹まで抱えて笑う様子にフレンは流石に怒った。
「ユーリ!」
「悪ぃ。あんまりにも真面目な顔してるからさ」
笑い声の合間に、ごめんの意思表示に手を顔の目の前に持ってきた幼馴染みが、「でも」と少しだけ笑いを潜めて首を傾げた。
フレンとは正反対と言っていい、艶のある黒髪が揺れる。
「オレは強くなりてぇな」
「強く?」
「そ。強く」
視線を落とした幼馴染みが足下の石を蹴って、顔を上げる。
ひたりと絡んだ視線が余りにも静かで声も上げられず、ただ頷くだけにして、フレンもブランコから降りた。
「いつだっけ?」
「……え?」
「お前、引っ越しいつだっけ?」
幼馴染みの言葉にフレンは僅かに苦笑した。
らしくない質問は、数日後にこの町を離れるフレンの事情を知った上でのことだったらしい。
父の仕事の都合で引っ越す。そんな在り来たりの、どこにでもあるような理由で育ってきた場所を離れると聞かされたのは随分前だ。
暫くは寂しいとも思ったが、年齢にしては割りと聞き分けの良い部類だったから、幼馴染みに打ち明ける頃には納得していた。
驚いて、その後、たった一言だけ、そっかといった幼馴染みの記憶は新しい。
「明後日」
「そっか。明後日、か」
「うん」
「見送りはいかないぜ、オレ」
「うん」
笑う幼馴染みの顔は、とっぷりと日が暮れた今、少し離れた外灯に照らされるだけで心許ない。
けどはっきりとした口調はいつも通りだ。
見送りに行くねと数人のクラスメートが言っていた。だからありがとうと伝えた。その輪の中に幼馴染みは加わらないだろうとは何となく思っていた。
「ねぇ、ユーリ」
「ん?」
「どうして、さっき何になりたいって聞いたの?」
幼馴染みが笑う。その拍子に頭が揺れて、泣いてるかも知れないと錯覚した。
けれど一歩フレンに向かって歩いてきた幼馴染みは、少しだけばつが悪そうに笑っていただけで、そっと右手を差し出す。
「お前ならなりたいものになりそうだったし。そしたら大きくなった時、分かりやすいかなって」
差し出された手を握った瞬間、少し早口に告げられた答えはとても幼馴染みらしいと思った。
本当は少しだけ寂しい。
大丈夫と口にして誤魔化しても、住み慣れた場所を離れるのは不安だったし、何より目の前の幼馴染みとは簡単に会えなくなる。
寂しくないわけが無い。
目の前で平然としている幼馴染みも寂しいと感じているのだろう。
それが何だか嬉しかった。
「元気でな」
「……君もね」
少し辛気くさくなった雰囲気を振り払うように目一杯手を振られ、思わず蹌踉ける。
フレンが蹈鞴を踏んだ様子に笑いながら、握手していた手に力が込められた。
そのまま腕を引っ張るようにして歩き始める幼馴染みに、慌てて声を掛けるとすっかり暗くなった公園を視線で示される。
「帰ろうぜ。あんまり遅いと怒られちまう」
当たり前のことに頷いて、フレンは手を握られたまま家路についた。
あと二つ、角を曲がればそれぞれの家に帰る為に手は離さなくてはいけなくて。
「……ね、ユーリ?」
「ん?」
「……ううん。なんでもない」
いつも通りそれぞれの家への分かれ道で手を離す。
手を振って別れる、そのいつも通りの中で、手を下ろす瞬間幼馴染みが口を開いて、でも何も言わなかった。それだけがいつもとは違った。
フレンもまた返す言葉が無くて、幼馴染みに背を向けて家路につく。


            ――いつも通りの、その またね だけ言えなかった。



>>某さまのリーマン設定幼少のつもりで書かせて貰った話。
   なんかもう幼少むっかしいかも!^▽^

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サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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