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非日常に憧れる平凡な高校生は、人混みの中ひょこひょこと動く黒い頭を発見し、いったん首を傾げ見間違いじゃなかったことに気付くと深く深く溜息を吐いた。
自然と零れ出た溜息を咎めるものは存在しない。
手に持った百均のレジ袋を見下ろし、気付かない振りをして次の角を曲がってしまおう。そう判断する。
俯けば自然視界は狭まり、そのまま見慣れた角を曲がろうとした時だった。
「あれぇ? 帝人くん?」
妙に触りの良い声が落ちてくる。見えるのは立ち塞がった黒い足下。
恐る恐る視線を上げていく。黒で統一された服装の上にあったのは予想通り端正な顔だった。
赤褐色の瞳が緩やかに細くなる様をまるでスローモーションのように見守って、帝人は内心で盛大に溜息を吐く。しかも何度目かの。
「奇遇だねぇ。今、帰り?」
そんな風に何食わぬ質問をする男に会釈して、「はい」とだけ返す。
彼の活動起点を考えれば、用事もなくこの界隈をうろついてはいないだろう。何よりこの街は彼の命の危険さえ存在する。
なら何か彼にとって用があるわけで、無駄なようで一切の無駄のない彼の行動を考えると自分に声を掛けたのさえ用事の一つか。
と横でつらつらと言葉遊びのような一方的会話を繰り返すのをぼんやり聞き流して推測する。
「ね、聞いてる?」
ふ、と行く先を遮るように腕が目の前に伸びた。
「は、い?」
しまった。あまりに滔々と、次から次へと話題が、言葉が流れていくものだから半分以上も取り落としていた。
さっきまではつい最近発売した飲料についての独自の感想を、それはもう大袈裟且つ饒舌に語っていたのだが、現在時点で言えばそれはもう押しやられた過去の話題だろう。
だから素直に謝ることにする。勿論悪いとは思ってはいない。
「すみません。ぼうっとしてました」
「なぁに? 夜更かし? 良くないよ。大きくなれないよ」
昨日深夜までチャットしていたのは彼も良く知っているはずだ。
それを無視してしれっと言ってくる、優しい口調で毒を流し込むような、そんな男にゆるりと帝人は頭を振った。
「臨也さんは何か用が有ってきたんですか?」
話題を変えようと口にした言葉に男の眉根が寄る。
え、と疑問に思った瞬間、いつものように笑顔を貼り付けた男が「酷いなぁ」と口にした。
それだけで話題を変えたのが失敗だったと分かり、帝人はどうしようと思案する。
一瞬の表情。僅かに不機嫌を露わにした語尾。
「さっき言ったよ。君に会いに来たんだって」
答えはさらりと目の前の男が提示する。聞き流してしまった部分で彼は彼の用事を告げていたらしい。
下げていたレジ袋を無意識で握って帝人は「すみません」と頭を下げた。途端露わになる無防備な項の、その首元に手がするりと触れる。
冷たい、と肩を強張らせた帝人に上から笑い声が降る。
「ちょっと」
「無防備だな、帝人くんは」
反射的に手を払われたことを気にせず笑みを浮かべる男が、宙で制止したままの手をひらりと振る。
自然と動きを追い、注意力が散漫になった帝人の首もと、きっちり一番上まで留められた制服のシャツを男のもう片方の手が掴んだ。
少しだけ緩かったシャツの首周りが絞られ、息を詰めた帝人を至近距離で男が覗く。
襟元を掴まれ少しだけ持ち上げられた体勢は不安定で。
「臨也さん、ふざけるのはやめましょう」
緩く弧を描く瞳を見つめ、帝人はそれだけを告げた。
引っ張られたネクタイはきっと皺になってしまって、帰ったらアイロンを掛けなければならない。
絡む視線を逸らさずに数秒。前触れもなく手を離され、つんのめった先で男の腕に抱き留められた。
一つ角を入った路地は大通りに比べて人が少なく、そうじゃなくても他人には極力関わらない都会らしさで二人を咎めるものはない。
距離を取る為に胸についた手に手を重ねられ落ちてきた影に顔を上げた。
「あの、」
掠め取られそうになる瞬間、疑問だけで声を上げる帝人に男が「あぁ、もう」と呆れた声を返す。
そして離れた距離に何も反応せず襟元を正す帝人の様子に肩を竦め、男は笑った。
面白くも何ともないのに、いつもの作り物めいた笑みではなく心底嬉しそうに笑う。
「で、僕に用事って?」
「もう済んだよ」
とん、と両手で両肩を叩き、利き足を軸にくるりと踵を返す。黒コートの裾が翻り、色彩的には地味な男は笑みを浮かべたまま帝人を振り返った。
「済んだんですか」
「うん。済んだ。だから良いよ」
先程僅かにかいま見せた不機嫌さも形を潜め、もう一度距離を詰めてくる男に今度は帝人が肩を竦める。
本当に。
何と言っていいのか分からないが。この幾分も年上の、それでいて非合法を生業として生きる男は、とても面倒な性格で、性質も悪くて、勿論性格も宜しいとは言えなくて、それなのに時折酷く些細なことで満足そうに笑ったりする。
打算で生きる癖に、そんな時だけ彼の持つ狡猾さが全くない。
人を愛すという彼独特の持論はどちらかといえば人間のマイナス面を評価するのに、それさえも投げ捨てたような一面を、きっと彼は自覚していない。
だからそんな風に笑える。
そして無自覚のまま、それに気付いていつも付き合う帝人との関係を打算で成り立っていると評価する。
「臨也さん」
呼び止める声に動きを止めた男の唇を踵を上げ距離を詰めたことで掠め取り、帝人はその動きの延長で脇をすり抜けた。
声も上がらず少しだけ目を丸くした表情は視界に捉えている。
振り返らない背中に、「では、また」と言い置いて路地を抜けた。
あの絶妙なバランスで出来上がった男に対する感情は、同じクラスで同じ委員を務める同級生の彼女に抱く恋愛感情とは全く異なる。
――それでもきっと名付けるのなら。
「……あぁ、もう」
路地に取り残された形になった男がくつくつと笑う。
近くを通り過ぎた中年の男性が訝しげな視線をくれたことになど気にも留めず、腹を抱えくつくつと笑い寄りかかったビル壁に頭を預けた。
笑いがゆっくり収まるのを待って視線を上げる。
いつもと同じように利用する手駒として近づいた、年齢にしては細い印象を拭えない少年。
不思議なことだ。打算も無しに、ふらりと足を運ぶ時、必ずと言っていいほど少年は目の前に現れる。
例えば仕事を終えてマンションに向かう前。寄り道にも程がある寄り道で普段寄りつかぬ駅前を歩いて、彼が現れるのを待つ。
少年が男の前に現れるのではなく、自分から会いに行っていると気付いたのは少し前。
何だろう。それでも、何も用がないのに会うというのは少年に用があるということに他ならず、しかしいつも特段の用は見つからないのだ。
敢えて言うなら声を聞きに来ているのだろうか。それとも、顔を見に。
端から見たら単純な動機を男は見つけられず、ふらりと人混みに紛れる為に一歩を踏み出した。
男が少年に対する感情に気付くのは、もう少し先のこと。
>>デュラアニメ見た記念に。臨帝。
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そんなところです。
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