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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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それは何とも言えないほどの、恐怖だった。
分からない。分からない、それが手を伸ばすのが怖くて目を逸らすことも出来ず凝視する。
顔が見えない。のったりとした影は酷く緩慢な動きで近づき手を伸ばす。逃げたいと思ったのに動けなかった。
「……おい」
そこに少しだけ掠れた子供の声が掛かる。
「……おい、大丈夫か? 聞こえてるか?」
僅かに陽光の差し込む路地に立つ身長の低い影。逆行になって顔が見えないが暗い路地裏にも臆することなく歩み寄ってくる。
「お前、貴族の坊ちゃんかなんかだろ? こんな下町で迷子なんて洒落になんねぇぞ」
乱暴な言葉遣いと、簡素な服の上を滑り落ちた漆黒の髪、差し伸べられた手。
「君は」
怖いと見詰めていたはずの恐怖をいとも簡単に押しのけた年回りの近い、女の子なのだろうか。漆黒の髪を無造作に伸ばした子供が笑う。
「オレ? オレはユーリ。ほら」
差し伸ばした手を振った子供の一人称、に同性なのかと納得して手を取る。
立ち上がった先で普通の人間には見えない黒い影が所在なく蠢いているのを見て、身体が竦んだ。
姉はあれを生きている人間と変わらずに見、自分は初めて認識した時が悪かったらしく襲われそうになったために恐怖を感じる。
思わず動けない自分の隣で首を傾げた子供がその影にも手を伸ばした。
「そっから出たいんだろ。お前もおいで」
見えているのか。
接してきた中でこの類が見えたのは姉と後は何人かだけだ。子供は怯まず伸びてきた影を掴むと日の当たる路地へと歩き出す。
日の光が十分に差し込んだ路地に出た瞬間、ふと軽くなった気配に思わず自分の手を握る子供の反対側を見遣った。
まるで溶けていくように消えるそれに息を呑むと、空になった手を振った子供と目が合う。
「いっちゃったぜ?」
だからもう怖くないよな、と簡単に自分の恐怖を看破して見せて笑った、その笑顔が印象的だった。
「……フレン」
「ん?」
「僕はフレンっていうんだ。ありがとう、ユーリ」
先ほど名乗られた名前を口にすると、きょとんと目を丸くして「どういたしまして、フレン」と返して笑った。
それが自分とユーリの出会いだった。


>>こんな感じかなぁっていう掴み。
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