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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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人外と関わることは避けなければならない。
到底叶えられぬ事象を引き起こす力を持ち、願いを成就させる存在であっても人間は彼らと関わってはならない。
人間と外見上は何ら変わらぬと伝え聞いた存在は、確かに目の前に現れてしまえば本当に遜色なく自分たちと似た形をしていた。
呼ぶ為の方法はならぬと禁じる割りに酷く簡単な方法だった。月の無い夜に暗闇の中両の掌を打てば良い。たったそれだけ。他に何も要らない。
彼らが人間の呼びかけに応える時、彼らは人間が価値があると認めるあらゆるものではなく、たった一つだけを秤に掛け価値を見出す。
それは、

「今晩は、リタ。今日も良い夜ですねぇ」

掌を数度打ち鳴らし宵闇に気配を探る間、ぼんやりと榛の利発な瞳を思い出していた。
程なく闇に沈んだ茂みから気配と共に音が鳴り、闇の中では褪せた色合いの着物を着た少女が一人顔を出す。
呆れたと口を開かなくても分かる表情を浮かべ自分を見詰める瞳の色は榛。
肩の上で切り揃えられた髪は癖なのかあちこちを向いていた。その髪に葉が一枚ついているのが目に留まる。
勝ち気な印象は拭えないが可愛いと分別に値する容貌の少女は髪に伸ばした手を不思議そうに見遣って、摘み上げた葉を見て合点がいったようだった。
「……葉っぱです」
「見れば分かるわ」
差し出された葉を受け取った少女が素っ気ない言葉を返すので思わず笑った。
訝しげに眉を顰めた表情さえ可愛らしいと思う。同性でありながら幾分か下げなければ合わない目線を、今は敢えて合わさない。
乾いた音を先程あげた両手を軽く示せば少女の眉間に皺が深く刻まれた。
「駄目だって言われなかったの?」
「言われていますね」
「なら、それは道理よ。碌なことなんて無いわ。止めておきなさい」
きっぱりと言い切る声は心地の良い低さを兼ね備えて闇の中ですとりと落ちた。
両の手を見下ろして思案する。少女の言い分は多分正しい。十中八九正しいと評価されるのは分かり切っている。
「でも、」
「でもは無いのよ、エステル」
言い含める声に名を呼ばれて顔を上げれば、少女が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
少女が何に対して苦い感情を抱いたのか、考えなくとも直ぐに見当が付き自然と笑みが零れる。
「名前、呼んでくれましたね、リタ」
消え入るように失敗したと呟いた少女が、今なお闇へ目を向ける自分を苦々しく思っているのは分かっている。
空にはささやかな星ばかりで月は無く闇を一層深く引き立て、自分が事を為すには絶好の日和でもあった。
遠く闇に響くように打ち鳴らそうとした手の片方を、音が鳴る手前で掴み引き留めた温度は暖かく、力任せに引かれた先で聞こえた声は震えている。
「エステル、止めて」
止めた少女が俯いている為、顔は見えない。
僅かに身を屈め覗き込もうとした気配を察したか、首を捻って顔を逸らしてしまう彼女は心底優しいのだと痛い程理解出来る。
なのに自分は彼女の言葉に応えることは出来ない。
「ねぇ、リタ。わたしはどうしても叶えたいことがあるんです」
人の身では、たった一人のか弱い女では、到底叶えられないであろう願望を、人外との取引で叶えようとするのは愚かだ。
代償が余りにも大きい。それは未来とを引き換えにする行為。
「リタ、」
「……ねぇ、エステル。願いを叶えたからと言って、その結果の未来に貴女は生きていられない」
「知っていますよ?」
「自分の命と引き替えに願いを叶えようだなんて、意味無いわ」
月の無い夜。闇が一層深くなった晩に取引を望み手を打ち鳴らす際、人外の彼らに支払う代償は、人間が価値を見出す財では無い。
人が人として唯一を持つ命を彼らは秤に掛ける。
願いを叶えても、その結果を引き出した未来に願った本人は生きてはいられない。それが”鬼”との取引だ。
「意味は無いかもしれない。リタにとっては意味を見出せないかもしれない。けどわたしはそれで良いんです」
「エステル」
「それが良いんです」
笑えば震える息を吐き出した少女が逸らしていた視線をひたりと合わせてきた。
真っ直ぐ射抜く視線に今までとの馴れ合いには見せた事の無い冷酷な色を混ぜて、薄い唇が言葉を紡ぐ。
「契りが成立すれば、取り消しは効かない。それでも?」
「はい」
「……あたしを」
「はい?」
ふ、と。
合わせられた瞳が揺れた。一瞬泣きそうな表情を浮かべる、それに気を取られて言葉に返事が遅れる。

「友達だって言ってくれたじゃない、エステル。……でも友達のままじゃ居させてくれないのね」

伸ばされて触れてきた指先は少し冷たさを纏い、反射的に目を細めた。
片方の手が所在無げに揺れるのを見て咄嗟に両手で握り締める。
最初に彼女に会ったのも月の無い夜。闇の中、視界が順応し切らぬ内に乾いた音を立て耳を澄ました。
がさりと気配が立った瞬間、自分でも驚くほど心臓は早鐘を打ち呼吸も侭ならず、しかし次の瞬間呆気に取られたのだ。
自分と同じ年頃か、少し幼く見えるだろう少女の姿に。
「わたしの命は、リタにとって価値がありますか?」
「……愚問よ。契りはあたしが価値があると認めなければ成立する事も、持ちかけられることも無いわ」
「でも、リタは躊躇ってくれたじゃないですか」
「あたし達にとっては一度じゃなくても、”人間”にとっては一度限りだもの」
命を代償にするのだから、唯一しかないものを掛けるのであれば、確かに一度限り。
取り消しも効かないと少女が言った、正しく一度切りだというのなら、自分は彼女に残酷なことを思う。
「わたし、契りを交わすならリタとが良いです」
「エステル」
「……友達の居なかったわたしの、友達になってくれたリタに、わたしの命はあげたい」
馬鹿ね、と泣きの入った声が耳朶を打つ。
人外との取引は愚かな事。命を掛ける行為の先、続く未来に願望者は居らず、成果を与えた存在に命を代償として払う。
成果を与えるのは”鬼”。対し代償を払うのが”人間”。
けれど本来は違うのかもしれない。堪らず少女の頬を滑り落ちる涙を救い上げて思う。
自分達よりも力を持つ彼らは、少なくとも彼女は優しい。命を秤に掛ける為か人間よりも命を尊ぶ。
契りを交し成果を齎した先、緩やかに命を彼らが掌握する時間は、彼らに如何様な感情を与えるのだろう。
若しかすれば代償を払っているのは、自分達ではなく”鬼”たちかもしれない。



>>微妙に世界観だけ続いてる似非和風。エステルとリタ。
   なんかリタかわいそうだな、と書き上げてからすごくすごく悲しくなった(苦笑

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