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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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忘れてしまえたらいいと思うのだ。
忘れてしまってはいけないとも、思うのだ。
鮮明に焼き付けて、もう二度と映せない視界で何を思えばいいのかも分からないまま、何時だって思考は融かされそうになる。夢は夢想を映さず過去の幻影だけを映し、決して休ませてもくれない。
「……、ああ」
ひゅっと異音も混じらせる呼吸音に無意識に喉を押さえた。からからに渇いた喉から出た音は掠れて、一瞬自分でも聞き分けがつかない。
夢見が酷く悪いなと内心溜息をついて、じっとりと汗で張り付いた前髪を掻き上げた。
全身嫌な汗をかいている。
「……全く情けない」
上半身を何とか起こして酷い夢から何とか抜け出す。全てが赤く染まったような夢は錆びた臭いさえ伝えるようで気分が悪かった。
ふるりと首を振って夜着の上に上着を羽織り、見遣った時計の真夜中を示す針にほっと息を吐く。
この時間なら少しくらい夜風に当たるために外に出ても人目につかないだろう。
出来るだけ物音を立てないように部屋から抜け出し、灯りの点かない広い回廊を歩いていく。
月明かりが窓から入り込み、敷かれた絨毯に淡い影を作り出した。色彩が褪せ、夜闇と照らされた青のコントラストだけが支配する空間で残滓のように視界に赤が入り込む。
振り払ってしまいたかったが、どうにも敵わない。
何度か頭を振ればくらりと視界が回った。

――悪夢はいつだって混沌としている。
  そして嘗ての喪失と絶望を呼び戻しては、甘く囁くように狂気を落とす。

もしかしたら既に自分は狂ってるかもしれないとさえ考えさせる感覚は、面白いくらいに他人事のようにも響くのだ。
主観なのに客観。曖昧なのに明確。正常かと思えば異常を来し、矢張り狂っているのかと結論が落ちる。
眠る時には殆ど夢は見ない。夢見があれば正気と狂気の境界線を歩くような夢ばかりだ。
幸せな夢はいつから見なくなったのかと考えて、ふ、と窓の外を見上げた。
宵闇に浮かぶ青白い月。日によって色を変える月は狂気の喩えにもされるのは冒せない仄か純粋な色だからだろうか。青に混じる、赤に染まる、白く、そして黄金に、変わる月は太陽のそれよりも移ろ気で。
刻一刻と変わるから、人の感情にも似ている故に、それは。
「馬鹿馬鹿しい」
らしくない感傷を吐き捨て庭に続く扉を開けた。ひんやりとした空気を孕む風が全身を攫う。
失った目を隠すように伸ばされた前髪も吹き付ける風に揺れ、為すがままにして一歩足を踏み出した。
ここもまた月の光の下で色彩が褪せ、黒と青、白のコントラストで染まっている。
何もかもを静寂で覆う色だなと頭の片隅で思う。冷たいと言えば少しだけ違うけれど。
吹き付ける風は存外寒く時間と共に体温が下がる。ふらふらといつまで経っても夢の名残から抜け出せずに庭園を歩けば、体に障ったか小さく咳き込んだ。軽い軽い、音。
けれど口内に広がった錆臭い味は紛れもなく血のそれだ。
何度か咳き込むことを繰り返して、やっと楽になった呼吸でゆっくりと息を吸う。ふと何か花の香りが混ざった。
「………?」
それは薔薇のように芳醇な香りではなく、少し違った――。
ふらりと足が香りを辿る。暗い闇の中で庭園の奥へと何も考えずに歩を進めて、色が褪せた中で金色を見つけた。
香りにつられたと言えば誰か笑うだろうか。
小振りの枝に小さな花を無数につけた木が夜風を受けて揺れる。
小さな黄金色の花も揺れ、先ほど鼻についた香りが強まった。
「―――、」
揺れる枝に伸ばした指先が触れそうになった矢先、一際強く風が吹き枝が指に強かにぶつかる。
痛みは一瞬。
ああ、触れてはいけないのかと手を引く。冷たい風だけが髪を攫っては、木擦れの音を立てていく。
ふと見下ろした自分の手に赤の残滓が映り込む。夢だと、現実に染まっているわけではないのだと、理性では理解するのに感情は割り切れないらしい。数多の命を奪ってきた手が汚れていない筈もなく、伸ばした手でその花に触れられるわけもないのだ。
汚してしまう、と幾らだって理解する。
「……知らない、こんなもの」
本当は漠然と理解している感情だけど。
言葉と共に咳き込む。反射的に押さえた口元に生暖かい液体が伝った。
今度は幻視ではなく触れられる、本物の赤。血の色。それは自分の口元から伝ったものだ。
どうやら大分知らぬうちに負担が掛かっていたらしい。諦めて踵を返した視界の端にもう一度だけ、金色の花は映り込んだ。
何となく、ふと、似ていると思ってしまった。
本当は自分なんかが、そんな風に想う権利などないのかもしれないと思いながらも、その人に似ていると想った瞬間手を伸ばしてしまった。
けれど、白い指で、血に染まった指で、触れてしまわなくて良かったと思う。
触れてしまえば汚してしまうのは目に見えて分かっていて、だからこそ風に乗る香りにふと足を止めるくらいで、それくらいで望んでいいものではない。
だからきっと、これで良い。



>>帽子屋さん。
   曖昧にそれでも本当はね、思っているのよっていう…(え)

   「つづきをよむ」でレイムさん出てみたらいいんじゃね?ver。
   『痛みは一瞬』の後から差し替えてみたら?(え





>分岐にて。もし、レイムさんが来てたらこうなってたんじゃね? みたいな。
>(蛇足過ぎるあれやこれや)



「ザークシーズ?」
触れてはいけないのか、と自身の手を見下ろした背中に訝しげな声が掛かる。
この時間に人が起きているとは思わなかった。しかも見知った声が、その人が。
「……レイムさんだ」
振り返れば腕に何かを抱えたレイムが不思議そうに此方を見詰めている。少し咳き込んだ音を聞きとめたのか、眉根を寄せたのが暗い中でも見て取れた。
直ぐに側に寄ってきたレイムが空いた手で腕を掴む。
「どうしました?」
「お前こそ、こんな時間に何やってるんだ。しかも随分冷えてるし」
「……そうデス?」
「そうだ。顔色もいつになく悪い」
「そんなことないですヨ。きっと明かりがないからそう見えるんです」
掴まれた腕を解いて笑うと、レイムの眉間の皺が深くなる。
そこまで無理をしているように見えるのだろうか。特段身体の調子は悪いわけではない。
「……眠れないのか?」
不思議と、首を傾げたレイムの言葉は真実を突いた。
思わず笑みが零れる。どうにもこんな時にだけ彼は勘が鋭いのだが、それは彼がまだ子供の頃からの付き合いによって培われた経験なのかもしれない。
「ちょっとネ」
「それでこんな時間にこんな所をうろついてたのか。風邪引くぞ」
先ほど解いた腕を捕まれて引かれる。抵抗する意味も見当たらないので、引かれるままに任せた。
風が吹く。先ほど弾かれた枝に咲いていた花の香りがもう一度鼻を掠めたので振り返った。
暗闇に飲まれてもう見えないことは分かりきっていて振り返ったところで、腕を引いていたレイムが問う。
「あれが気になるのか?」
「……え? イエ、そういうわけでもないです」
「お前がああいったものに興味を示すのは珍しいな」
「そうですカ?」
肩越しに振り返ったレイムが頷く。
「……まぁ、散歩してたらふらふら辿り着いただけなんですけど」
「そうか」
結局引かれたまま、屋敷に入る扉をくぐる事になる。手を引く彼の足取りに迷いはなく、辿り着いた先は自室だった。
ぱたりと小さな音を立てて閉まった扉を振り返った後、部屋までついてきたレイムの背中を見詰める。
「レイムさん」
「うん?」
「そういえば聞きそびれてました」
「何を?」
「こんな時間に外出なんてどうしたんですか?」
「……仕事で急に呼び出されて、戻ってこれたのが今だっただけだ」
腕の中にある書類を一時の置き場所と決めたか、机の上に置いて振り返る。
「忙しそうですネ」
「そうでもない」
小さく肩を竦めた様子を見ると、どうにも本当らしい。
「お前こそ、無理が祟ったんじゃないのか?」
「いいえ。本当にただ眠れなかっただけなんですヨ」
「眠れそうか?」
「……大丈夫デス」
そっと気遣わしげに伸ばされた手を掴んで止める。
笑えば、まだ疑った視線が寄越されたが暫くすれば諦めたのか溜息だけが返って来た。
いつだったか、とっくに抜かされてしまった身長の差を利にして容易く頭を一度撫でたレイムが、机の書類に手を伸ばす。
「ちゃんと寝ろよ」
言い返そうと口を開こうとしたが、何も言わせない手に遮られた。
そのまま一度振り返って扉を閉めた彼の残像が見えたようで、ぼんやりとそのまま後退してベッドに座り込んだ。
「……、少し前は子どもだったくせに」
そのまま後ろに倒れこむようにしてベッドに仰向けになる。

――あれが気になるのか?

その問いに答えられなかった。たぶん気になったというよりは重なってしまったのだ。
小ぶりで目立つ花でもないのに、ふと通りすがった時に振り向かせるような香りが、自分にとって彼の存在に似ていて。
だから思わず触れようとして枝に弾かれた手は、重なるものではなく本物の彼が触れた。

「……、ああもう」
これだから。
悪夢に魘され寝付けない夜は、らしくない感傷に浸って抜け出すのに苦労するから嫌なのだ。
それなのに悪夢のせいで境界線を歩いていた精神も、映り込んだ赤の残滓も消えてしまうのだから、やってられない。


>>そんなお粗末様。あるあるねーよ。
   レイムさんなら、帽子屋さんの躊躇だって何となく理解してそれでも手をとってくれそうだよ。さりげなく!っていう願望。うん、願望^^
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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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