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珍しい所から通信が入ったので、手にしていた研究を一端切り上げてイヴェールは回線を開いた。
途端爽やかと形容すれば良いのか、涼やかな声が脳内を走る。
―――「やぁ、久しぶりだね。イヴェール」
―――ああ、どうも。レオン。僕に用事なんて珍しい、何か?
―――「ああ、ちょっとね」
元々あまり性格が合わず仲が悪いというよりは、意気投合の出来ない相手だが今日はどうにも感じが違う。
怒っているのか? と首を傾げたその時、レオンが口を開いた。
―――「先日祭りがあったろう」
―――そうだね……。帰りたかったんだけど、今年は無理だったなぁ。
―――「エノア姉さんが帰るなら、何故言わないんだ」
―――……はい?
思わず、間の抜けた返事を返してしまった。
エノア姉さんと口に出した人は、自分達の親戚で今は同じ博物館に勤めている。
部署は違うが元々仕事の出来る人間なので、時折無茶をしてオーバーワークしては倒れ旦那に怒られてる姿も何度か見かけた。
そういえば数日姿を見かけてなかったなと思い返して、溜息をつく。
―――レオン。悪いけど知らないよ。エノア姉さんはアクティブ過ぎてどうにも……。それに祭りに行くなんて話聞いてない。
―――「本当か」
―――そんなことで、嘘ついてどうする。とにかく文句なら直接言えば良い。どうせまた顔を見せなかった云々だろう?
悪いけど僕は忙しいんだよ、と言い捨ててまだ何かを言いたそうだったレオンの通信回線を切った。
沈黙が満ちる。
大体、何故あの人の動向を把握していると思うのか。
分かるわけがない。
「全く、下らない事で時間を取らせないで欲しいな」
そして一端手を休めた作業に取り掛かろうとして、部屋のドアが開いたのを認識した。
ノックはされたのかもしれないが気付かなかった。
「――冬さーん? あれ、なんだ。居るじゃない」
ひょこっと顔を出した少女が苦笑する。
矢張りノックされたのに気付かなかったようだ。くるりと椅子を回して向き合うと両腕いっぱいに彼女が抱えた荷物が目に入る。
余り差し入れを持って来ることはないのだが。
「随分、大荷物だね。景ちゃん」
「うん」
頷いてテーブルに荷物を置いた隆景が抱えていた紙袋に手を突っ込んで、何か取り出してイヴェールに投げた。
慌てて手を出して無事に受け取った物は、変わった綺麗な色の缶。
「……あれ、これって」
見覚えのある缶をまじまじと見てイヴェールが首を傾げる。ソファに腰掛けてまた紙袋に手を突っ込んだ隆景が笑った。
「お土産だって。これ、冬さんと僕にって貰ったんだよ」
そして両手いっぱいに抱えてきたお土産を指して言う。
「エノア姉さんか」
「それ、冬さんも好きなんだって聞いたよ?」
「まぁ、そうなんだけど」
「祭りに行くならお土産宜しくって言ったんだけど、こんなにくれるなんて……。冬さんも時々金銭感覚が一般じゃないなぁって思うけど、ザクスさんもそうなんだねぇ」
「……ん? 景ちゃん、エノア姉さんが祭りに行くの知ってたの?」
「え? 冬さんは知らなかったの?」
一つ缶を開けて飴を口に入れた隆景が首を傾げる。
「今年は冬さんは仕事で行けないんだよ、って言ったらね、”可哀想だからたくさんお土産買ってきます”って言ってたんだよ」
「……そう」
缶を見下ろしてイヴェールは溜息をつく。
その”可哀想”がどこに掛かっているのか、正確に読み取ったが故で何とも格好悪すぎて情けなくなった。
本当は今年、目の前で笑う少女に祖国の祭りを見せてあげたかったのだ。
一緒に国に戻って祭りを楽しみたかった。きっと楽しかっただろうに。
(――抑も、ギリギリで仕事を振られて断れなかった僕が悪いんだけど)
「どうしたの? 冬さん眉間に皺寄ってる」
思わず顰めてしまった顔を見た隆景が心配そうに声をかけた。
それに少しだけイヴェールは笑う。
「ううん。何でもない。来年は僕達もお祭りに行こうね、景ちゃん」
是非見せてあげたいから。一緒に楽しみたいから。
その言葉に隆景がにこりと笑った。
「うん。楽しみにしてる」
>>まつりに関しての、もう一つの話。
お土産はいつだってたくさんあげたいエノアお姉さん。
いっぱいお土産を貰って驚きつつも上機嫌なのは景ちゃん(笑
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サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
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