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祭りの夜は人でも多く喧噪も一際激しい。街のあちこちにイルミネーションが点り、とにかく賑やかだ。一つ通りを入ったホテルは騒がしさから少しだけ離れてはいたが、矢張り人々の熱気だけは伝わる。
カランとドアのベルが鳴った音に番をしていた主人が顔を上げれば、帽子を目深に被った女性が入ってきたところだった。
どうにも線の細い女性だ。深く被った帽子で表情は余り見えないが。
「いらっしゃい。予約は?」
問えば、女性が肩に提げていた鞄から一枚の紙を取り出す。
「ちょっと待ってくれよ」
それは確かに予約票で主人は自分の持つ控えと照らし合わせた。問題はない。
確認して部屋の鍵を用意する。その間女性は一言も口にせず、ただ通りから聞こえる喧噪に耳を傾けているのか、ドアの方をちらりと見遣ったりしていた。
鍵を女性の目の前に置くと、その視線が主人の方を向く。
「ありがとう」
さらりとした流暢な響きで礼を言われ、その後女性がふと首を傾けた。
「何か?」
「ええ、すみません。一応二人で予約してたのですが、連れはまだ来てませんよね?」
「……ああ」
「分かりました。ありがとうございます」
口元が笑みの形を作り、カウンターに置かれた鍵を白い指先がつまみ上げる。
同時にいつの間にか記帳してたのだろう、宿泊者名簿の紙がカウンターに置かれた。
迷いのない足取りで上の階に向かう女性の背中を見送った後、主人は記帳された名前に視線を落とす。
先ほどの流暢な言葉と同じく、筆跡も滑らかで、
「……ルネット、さんね」
連れがいると言っていたが、確かに予約の人数はもう一人分あったが、不思議と人目を引く女性だった。
***
――嘘吐き。レイムさん、来れないなら来れないって言って下さいヨ。
部屋に入るなり荷物を置きながら、繋がった回線の先にいるであろう夫に告げる。小さく溜息が聞こえた気がした。
――『仕方ないだろう。抜けられなくなったんだ』
――別にそこは責めませんヨ? レイムさんは忙しいですから。でも無理に予定を空ける事なんて無かったんです。
結局予約した一人分は無駄になってしまった、と帽子を外しながら思う。
目深にずっと被っていたのは、どうにもこの国で自分の容姿は知られすぎているからだ。
ぺたりと額に張り付いた前髪を指先で摘むと、邪魔にならないように掻き上げる。
――『行こうと思ってた』
――だから、それ。そんな風に無理しなきゃ良いでしょう、って話ですヨ。
別に一緒に祭りに来れないのは、共働きである以上仕方ないと割り切っている。
土産に話とお菓子をたくさん持って帰れば良いだけのこと。
――『でも、エノア』
――はい?
――『多少は無理したいだろう? 折角なら一緒に楽しみたい』
お前の国の祭りなんだから。
そう付け足されては、文句も何も言えなくなってしまう。
空いたベッドに腰掛けて「そうですね」とそれしか言えないままで、まだ賑やかな祭りの喧噪に耳を澄ませた。
(来年は一緒に行きましょうネ)
>>博物館設定の眼鏡と帽子屋さん。
お祭り好きの帽子屋さんと一緒に出かけたいレイムさん。
なかなか予定が合わない…(苦笑
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サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。
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