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画面に映し出される街の様子は少し浮かれている。何十台分のモニターを同時に見つめながら頭を整理するため傍らにあったグラスを指先で弾いた。甲高い澄んだ音を立ててグラスが震える。モニターが発する光で照らし出された細い指は白い。
面白くなさそうに指先がまたグラスを弾いた。白い指先と同様に自身の体格よりも大きいであろうシャツも白く、光が当たる箇所はぼんやり仄かに光っているような錯覚を覚えた。
「………ああ、そうか」
ぽつり。
白の中で少しだけ色づいた薄い唇が言葉を紡ぐ。抑揚のない淡々とした、それでいて性別も曖昧に断定出来ぬ声。
感情の欠片も殆ど含まぬ声が嘆息する。
『………L?』
画面越しに窺う声に「なんでもありません」と返した、その手で外部との通信を拒絶する。一方的に送られる映像に埋もれるような感覚に一度瞬いた瞳は深い色で、光を移しても色は薄くはならない。
手持ち無沙汰だった片方の手で白い未だ何にも染まっていないようなくるりとした癖のある柔らかな髪先を丸める。
そうやって癖毛は更に巻いて指を離れ、落ち着いた。
「………嫌になる」
モニターに埋もれるようにして呟いた言葉はノイズに混じって消える。
誰に話しかけているわけでもないのに、話すような口調なのも不本意で少しだけ尖らせた唇を見咎める者もいない。
流れる映像は変わらず街の様子を映す。
ぱきり、と乾いた音を立てたのは歯で些か行儀悪く折った板チョコのものだ。
破片が床に落ちる様を面白く無さそうに視線で追った後、口の中に広がるカカオの味に眉を顰めた。
昔はこの味を、年に一度。そう、丁度今頃食べる位で良かった。元々食べ物の嗜好にさほど拘りは無い。
「……本当、感傷なんてらしくない」
甘いものが好きだったのは、目標だった人間。
チョコレートが好きだったのは、一緒に競った人間。
同じものを命を掛けて追いかけた、残ったのは一人。
Lの名を継いだ時、無意識のうちに甘いチョコレートを選んで口にした。
忘れない為か、何の為かは自分でも分からなかった。それが当たり前になったとき、ふとした時に思い出す面影も存在も、そういう感傷に浸る自分さえ”らしくない”と思えて、普段はしもしない自嘲を零す。
天才と呼ばれる頭脳を持っていても、人間として欠落した何かの端で残った一つの人間性。
だからきっと。
「私は、本当は甘いものなんて…そんなに好きじゃなかったんですよ」
もう一欠片と折ったチョコレートを口に含んで、世界の切り札としての名を継いだニアは口元を指先で拭った。
生き残った自分の中、忘れられぬ影がある。
口に含むカカオ特有の苦さはきっと喪失の痛みにも似て、忘れそうになる全てを引き止めるようであるから、だから好んで口にするのだと結論付けた。
>>デスノ小ネタ。
キラとの対決後、ニアがチョコレートを口にする理由。
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サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。
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