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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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雪が降ったあの日。
花が散ったあの日。
幾度となく景色を見ては流れるものとして受け入れた。
本来必要であるはずの名前を知ることなく、彼を葬った日。
その日の記憶だけはきっと生涯忘れることはないのだろう。
黒いノートに記された名前を見た瞬間の気持ちを名付けることはきっと出来ない。
何かとっても混ざりすぎて拾うことさえ不鮮明なものであった。
色で喩えるなら混ざりすぎて黒になった正確には黒ではない色。


「…え、る」

呼ぶ。
その名は、彼が最初に名乗った時の名。偽名だと思っていた本来の名。

「………L」

なんだよそれは、と言えずくすりと形の良い唇に笑みを乗せた青年は空を仰いだ。
雲一つ無い快晴。
其処に一つの思い出を見る。
騙し合いの合間に行った他愛のない会話の一つ。
鮮明に思い出されたのは空を仰いで少しだけ拗ねた様子の男の姿だった。


「……満足か、L」
「そうですね。出来るなら、こういう形でなければ、」
すぐさま返った声は記憶のまま。
ならば視線を移し見詰める顔もきっと、記憶の―…。
「月君、貴方の負けです」
「ああ」
「終わってしまいました」
「ああ」
「正直、残念です」
「…なんだよ、それ。お前、キラを捕まえたかったんじゃないのか?」
「はい。捕まえたかったし止めたかった。…でも、こういう形は望んでません」
「………なんだよ、それ」
「分かりませんよ、私にだってそんなこと」
隣にいつの間にか立つ酷い猫背の男が拗ねたように言葉を口にする。
久しぶりの感覚は心地良い。
「…竜崎」
「名を」
「……え?」
「私の名前を、知ったでしょう? ならば名を」
「…L」
「はい」
「……人は死んだら無なのだ、と」
「はい」
「僕は、」
「はい。死にました」
「それじゃ」
「何もない場所です。そう言う場所です」
「お前は、」
「貴方が貴方の罪を忘れないよう、その為に此処に来ました」
「なんだよ、それ」
「…ちゃんとお別れをしないと、と思ってきたんですよ。月君」
「……」
身長は略同じなはずだが、酷い猫背のせいで隣の男の方が視線は低い。
見上げられる視線を受ける形で言葉を待つ感覚も久しぶりだった。
「何もない場所で、お前が別れを言う意味は?」
「けじめですね」
「…何の」
「生というものに対してですよ」
「…はは。お前、その為に六年も?」
「六年ですか。……嗚呼、そんなになりますか。長いようで短かったですね」
「…そうだな」
「貴方も、大概早逝過ぎます。あんなノート拾わなければ長生き出来たかも知れないのに」
「愚問だな。そうしたら僕とお前は」
「ですね。出会っていないでしょう」
全てを吸い込むような漆黒の瞳で見詰めてくる男が少しだけ笑った。
「でも、思うんですよ。そうしたら月君は幸せな人生を歩めたかも知れないのにって」
「お前もあんなところで死なずに済んだって?」
「捻くれてますよ、月君」
「そんなの、」
「はい。分かってます」
寂しそうにぽつりという男が何もない蒼穹を仰いだ。
そういえば、この空は空虚に似ている。
「月君は、私にとって初めての友達ですから」
「………お前」
「本心だったんですよ」
いやですね、と付け足した男がふと視線を泳がせた。
「だから、ちゃんとお別れをしたいと思っていたんです」
「…ああ」

なんとなく理解した。

「さようなら、夜神月」

告げた声は明瞭で、さっぱりと耳に残るのに不快感を与えない。
成る程。
けじめをつけるというのは、彼だけではなく自分もらしい。
生を終え、何もない死の世界に在るだけになると言う通過儀礼のような。

「ああ…。さようなら、エル、ローライト」

ノートで知った名を、初めて音に乗せるようにして告げる。
呼ばれた名をまるで全て記憶に刻むように、まるで誓いの言葉を聞き漏らさぬように世界の切り札と呼ばれた男は享受した。

「………………、はい」
「これで、さよならだ」

 


生や世界、諸々に対しての執着も気持ちも全て。





>>何気に一番生への執着が強かったのは月な気がして。
   実は割と簡単に享受してしまうのはLな気がしている という話(?)

   さよなら を本名で言い合う二人が書きたかっただけとも言う。

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そんなところです。

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