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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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点々、と。
鮮やかな赤が廊下の奥へと続いている。それを辿っていけば死の臭いが色濃くなっていくのなど百も承知だった。
だから本当は何も知らなかったと、見なかったと引き返すのが一番だ。
であるのに足は自然と其方に向く。
見なかったことにして引き返せ、と小さく頭の中で警鐘が鳴った気がした。
ぽつぽつと今し方汚されたばかりの廊下は、見慣れている風景の中に非道く不釣り合いだ。
つんと鼻をつく独特の血の臭いに顔を顰めた。
直後、部屋でがくりと膝を付いた後ろ姿が見える。
声にならない悲鳴が上がる。
仮にも軍を統べる大将とあろう者がなんと情けない、と片隅で思ったがどうでも良かった。
それよりももっと大事なのは――。

「小十郎……っ」

名を呼べば、脂汗を流しながら膝を付いた小十郎が肩越しに振り返る。
何処を怪我したのだろうか。
いつも羽織っている上着は既にしとどに血に濡れていて怪我をした箇所でさえ分からない。

「……政…む、ね様」
「良い。小十郎、喋るな」

しかし制止の声を緩く頭を振ることで拒んだ小十郎が血に濡れた手で、政宗の肩を掴む。

「い、いいえ…。政宗、さま」
「小十郎」

愕然と呟いたのに薄く笑った男に、政宗は絶望を覚える。
焦点が……、合っていない。

「…この小十郎、不覚を取られました…」
「……誰に、やられた」

低い問いに小十郎が緩く頷く。

「……政宗様」
「…なんだ」
「どうやら、ご一緒出来るのは…、ここ…ま、でのようです」

力ない男の呟きに、肩を掴まれたままに、その腕に爪を立てるようにして政宗が腕を取る。
痛みは既に感じないのか、光の薄い瞳が子供をあやすような顔で政宗を見た。

「馬鹿…、言うんじゃねぇ…。馬鹿、言うんじゃねぇよ…小十郎!」


 ―馬鹿言うな。


もう一度呟いて俯いた政宗に、小十郎は幼い頃の姿を見た気がして微笑む。
昔からやんちゃで本当に悪戯好きで…、いつも手を焼かされた。

「…聞き分けの、悪い…ことを言いなさいますな」
「小十郎」
「…良いですか。…一つ、この…小十郎と約束してください」
「なんだ? 言ってみな」
「……天下を」

 ―この戦国と呼ばれる乱世を平らげて、天下を。

「……………ああ」
「政宗、様…。この…片倉小十郎景綱……、あなたに仕えられて、倖せでした」



「……小十郎?」

するりと。
肩を強く掴んでいた手が落ちる。その腕を支えていた政宗の腕も共に落ちた。
強か床にぶつかり腕が訴えた痛みを、政宗はさほど感じていなかった。
それよりも、目の前の……唯一背中を任せてきた男の突然の死に、心に空白が出来たようで、痛みを感じることさえ忘れる。
着物が汚れるのも構わず、政宗は声も無く逝ってしまった小十郎の自分よりも大きい身体を掻き抱く。
既に動かぬ小十郎の体は未だ温かい。
だからまた名を呼んだら、返してくれるのではないのかと錯覚を覚えた。
それは決してないのを知っていて、政宗は涙を流すでもなく、もう一度 小十郎、と呟く。
涙は流れない。
痛みも感じない。
まるでそれら全て持っていかれたようで、政宗は小さく笑うしかなかった。


「俺も、お前が傍にいてくれて…幸せだったぜ」






>>小政(?) 初めて書く二人で死にネタをやらかす大罪人です。
   あれ、でも実は死にネタってある意味もえる(最低
   戦国に関して言えば、死が常に…と考えると、色々感慨深いんだけど
   それは私だけかなぁ。
   無類の信頼を置いていたからこそ、その存在が大きすぎて泣けない。
   そんな感じ、で。

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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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