忍者ブログ
謂わばネタ掃き溜め保管場所
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

滑り落ちているのは、水の音。
後は時の音。
悲しみも何もかも落ちて流れていくのは、幸いなことか不幸なことか。

「…………何かを守るためには何かを切り捨てなければならない、か」

それは大局的に見れば。
国を背負うのであれば、必ず守るために何かを捨てなければならないのだ。
覚悟はあった。分かっていたはずだった。
なのにいざとなったらこんなにも自分には覚悟がなく、こんなにも臆病だった。
ぐしゃりと肩まで伸ばした髪を掴む。
視界の端の髪は薄い金色。誰かが日溜りの色だといった。
けれど、血に良く染まる色だな、と自嘲気味に今は思う。
この手は見えなくとも血に汚れて、この身は流される血の犠牲によって生きながらえているに等しかった。
分かっていたはずだった。
理解しているはずだった。
皇帝という地位が如何に血によって、犠牲によって、築き上げられているのかを。
けれど実際は分かってはいなかったのだ。

「………陛下」

篭ったはずの部屋に、声が落ちた。
静かに柔らかくそれを呼ばれてのろのろと顔を上げる。
自分とは対照的な冴えた銀色の髪がふわりと揺れて、淀みない足音が自分の目の前で止まった。
空の色というよりは雪国の海の色に似ている瞳が覗く。

「アスラン、か」
「……会議の時間でしょう?」
「……出たくない」
「陛下」
「…おれ、は…もう」
「…ピオニー」

嗜めるように名を呼ばれる。
目の前にある雪国の海を模したような瞳が静かに瞬いた。

「…貴方は、大切なことを忘れてませんか?」
「何?」
「貴方がいたからこそ救われたものがいるんです。…そうでしょう?」

分からない。
そう呟いた声に、小さく息が零される。
何も分からないと言えば、今度はそっと笑った彼が言い聞かせるように言葉を紡いだ。

「…貴方が最初に此処を臨んだ時の覚悟はそんなことで、折れるようなものでしたか?」

静かに問われて、首を横に振った。
わからないと思ったけれど、それは違うと思ったからだ。

「なら、貴方が今出来ることをやっていただかないと」
「…アスラン?」
「私も困ってしまいます」

そういって彼は驚くほど穏やかに笑った。
良く分からないと結論も、割り切りも出来ないままで、全てを後悔しそうな中で、その表情だけが違うもののように見えて、悲しいことばかりの中に一つだけ違うものが混ざった。
だからこそ、まだ歩いていけるのかもしれないとぼんやりと思えたことは幸運なことだったのだろうか。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
08 2024/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
プロフィール
HN:
くまがい
HP:
性別:
女性
自己紹介:
此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

ブログ内文章無断転載禁止ですよー。
忍者ブログ [PR]