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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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無理だ、と呟いた。その顔には苦渋の色だけが広がっていて、伸ばした手を受け入れずに身を引いた元就が緩く頭を振る。
すまぬ、と言葉が小さく空間に落ちた。
何故謝られたのか分からずに首を傾げると、困ったように視線を彷徨わせた元就の視線と一瞬絡む。
けれどすぐに断ち切られるように俯いた元就の唇が、そっと何事かを呟いた。
途端に。
自分の喉が震えたのを呆然と感じる。
音。声。―歌声。
世界が禁じた歌。歌えるのは限られた…、人でありながら一世と制限を受けたカナリアのみ。
人から生まれて、人ではもう決して歌えない音を紡ぐ。世界から取り上げられた歌は、原始に生まれたときより主旨はかわらない。祈りという最も純粋な思いを伝える方法でもある。
それゆえに、時に歌は強い力を持ちえた。
その声に、音に応える様に、世界は奇跡を引き起こす。

「も……と、なり…っ」

勝手に搾り出される歌声の合間に名を呼ぶ。
自分よりも幾分も低い位置にある元就の表情は俯いていて完全に見えなかった。
けれど泣いている様に見えた。

「…元親」

凛と。
奇跡の音が紡がれているのに、その中で決して混じりきらない静謐を宿したような声が名前を呼ぶ。
顔を上げた元就は泣いてはいなかった。
けれどもそれよりも強い悲しみの色を瞳に宿していた。
つと、白く細い指が自己の意思に関係なく歌紡ぐ喉元に突きつけられる。
カナリアである自分が歌に引きずられるかのように歌うのは有り得ない事だった。
カナリアは聖地で育つ限りは歌の使い方を教えられる。
そしてその術を習得した時に一人前として、外の世界に出ることを許されるからだ。
しかし今の元親は自分の意思とは関係なく音を紡いでいる。奇跡と呼ばれる歌を歌っている。
これじゃ名前が呼べない、と思った。
今時分が紡いでいる歌は悪い歌ではない。何かに害を為す歌ではない。だから気にしてなかったとも言えた。

「………さよなら、だ」

がくん、と途端に音が途切れる。
すっと突きつけられていた指が離れた。突然開放されたような感覚に膝が頽れる。
思わず向かい合っていた元就を見上げると、困ったように…けれども元就は笑った。
それは何故だか切なくて、けれど優しい笑顔だと感じて手を伸ばそうとする。
手は元就には触れなかった。
代わりに虚しいくらいに宙を掴む。
意識が自分の意思に反して沈んで行っていると、感じた。目を閉じてはいけない、と思った。


なのに、小さく。
歌声が、珍しい歌声が聞こえた気がして、認識した瞬間に意識が沈んでいく。




―嗚呼、これは………子守唄だ。



意識が途絶える瞬間、元親はそう思った。







>>創作カナリア設定、親就。遊びすぎかな(笑
   カナリアが元親で、調律師が元就。
   調律師は音を操れるだけだけれど、少し捻って元就は歌も
   紡ぐことが出来る存在だったりね。
   気まぐれに続くかもしれない(え
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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
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そんなところです。

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