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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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夜風がはたりと裾をはためかせ、きちんと切り揃えられた色素の薄い茶の髪を弄う。
風が強く吹けば細いその身体はいとも容易く吹き飛ばされてしまいそうなほど頼りない。
一言も発せず黙したまま、自分の掌に視線を落とした元就の背後…、溜息一つを吐き立ち上がる気配があった。

「……だから言ったんですよ」

昏い色を含んだ声が少しだけ咎めるように掛けられる。
微かな月明かりを冴えるほど反射させる癖のない銀糸の髪は肩よりも下まで伸ばされている。
声と同様に昏い色を含んだ瞳が、けれども穏やかに細められた。
肩越しに振り返って一瞥した元就がまた自分の掌に視線を落とすのを見て、彼は大仰に溜息を吐いた。

「…分かっていたのだと思っていました」
「……分かっていた」
「では、どうしたっていうんです? その為体は」

さらりと問われて知らずに元就は唇を噛む。
何がどうしたというのだ。…いや、自分がおかしいことなどは知っている。
どうしてこうなったのかを考えて、さして理由は思い浮かばず首を振ろうと……いや、思い当たる。
振り返って視界に映り込んだ銀糸に、少し癖のある…それより明るい、けれど涼やかな銀髪が重なった。
深淵を連想させる彼の瞳と違い、晴れた日の穏やかな海の色を写し取ったような瞳と晴れやかな笑顔。
少し無遠慮に名を呼ぶ声。粗忽そうに見えて案外繊細で器用な手。
そして何より、音。

「………っ」

其処まで思い出して堪えきれなくなったか、小さく声にもならない声を上げそうになるのを寸前で飲み込んだ元就が俯く。
おやおや、と驚いたのかそうでないのか分からない声が頭上から降ってきた。
自分よりも幾分も背の高い彼がそっと俯いた元就の頭に触れてあやすように撫でる。

「…分かってたでしょうに」
「分かっている…ッ」
「それでは、何故近づいたのです?」
「…そ、れ…は」

呆然と問われた言葉に元就が顔を上げた。
琥珀の瞳が頼りなげに揺れたが、すっと息を吸った後には揺らぎは見えない。

「分からぬ」
「元就…、私は言ったはずです」
「…貴様に言われなくとも分かっている」
「分かってたら…どうして」

もう一度俯こうとした元就の顎を取って上向かせた男が、静かな声でもう一度どうして、と問うた。
そんなことは、知らぬ。
言いたくて、出掛かった言葉はしかし喉に引っ掛かる様にして結局飲み込まれる。

「私たちは、調律師なんですよ」
「……」
「今、この時間に、貴方と私…、たった二人しか居ない。カナリアの奇跡の音を唯一使役できる、カナリアよりも稀有な存在」

分かっている、と呟くよりも先に男が言葉を続ける。

「だからこそ、私たちは…カナリアに…疎まれて。音に触れることが出来るのに、それさえも許されない。ただ、疎まれるだけの存在だ」
「…光秀」
「ねぇ、知っていたでしょう? …カナリアである彼が…貴女が調律師だと知ったら…、もう傍にいられないのは」
「……光秀、我は…」
「だというのに」
「我は、正体が知れる前に…。……そうなるからこそ、そうなる前に……あやつの元を離れたのだ」

苦しそうに絞り出された声に、不思議そうに光秀は首を傾げた。

「おや? その様子ですから…てっきり」
「……何だ」
「…如何でもいいですが、一ついいですか?」

知らずに眉間に皺を寄せた元就に気付いて、眉間を軽く指でつつくと光秀が自分よりも幾分も身長の低い元就の表情を覗き込むように背を屈めた。

「そのカナリアが…、好きだったのですか?」
「そんなわけが無いだろう」
「もし…そうなる前に…と思って離れたというなら懸命です…と言ってあげたいところですが…」
「…………?」
「貴女、もう手遅れですよ」
「……なっ」
「…手遅れです」

真剣な様子で宣言のように告げると光秀が屈めていた姿勢を正した。
そうしてしまえば彼の顔は元就のそれよりも高い位置にある。
反論しかけて結局は口を閉ざした元就が、唇を噛む。
少し強く噛みすぎたか、鉄錆に似た血の味が口内に広がって眉の皺を更に深くした。
くるりと光秀に背を向ければ、夜闇の先に仄かに街明かりがちらちらと見える。
ぼんやりとその灯りを眺めてまた元就は自らの手に視線を落とした。


どうしてだろうか。
自分から振り切るように、一方的に別れを告げてきたというのに。
今までやろうともしなかった、使ってしまえば自分の存在が何であるか分かってしまうから…やれなかった音の使役までして、自ら彼の目の前から去ったというのに。
触れてきてくれた温もりと、声と、存在と…。

それがいつまでも経っても消えない。


「……我は、一体どうしたら良かったと言うのだ」

ぎゅっと掌を握りこんだ元就への答えは今は無かった。




>>創作カナリア設定話。
   光秀は、元就とは昔というか前からの知り合い。
   世界に同時に2人存在していたら多いといわれる調律師。
   元就と光秀が調律師。二人だけ、の調律師。
   そして光秀の方が元就よりも、年上な感じで。
   光秀出てきたので、そろそろ…捏造信幸出てくるかもしれません。

   あ。そして睦月さんの意見も考慮しつつ。元就も女の子です。

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そんなところです。

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