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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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何でまたあれなのかと穏やかに正直に問うてきた言葉は、四国の国主長曾我部元親を困らせるのに十分足るものだった。
一口二口、決して行儀の良くない音を立てて茶を啜った元親は頬を掻く。
座した縁側は程良く陽が当たり心地良い。
隣に座り言葉を待つ相手を見て、観念したように元親は口を開いた。

「……ああ。だってなあ」
「なんだ、元親。珍しく歯切れが悪ぃな」
「お前がなんだってそう変な質問してくるからだろうが。家康」

忌々しそうに言った言葉に家康はからからと笑う。
勝手に笑いたければ笑うが良いと元親は苦い顔をしながら茶を流し込んだ。
程良い渋みのそれは季節柄珍しい品であったが、今の元親に味わう余裕はない。

「んで、結局どうしてだ?」
「どうして気になるんだよ」
「そりゃ、おめぇ…どう見たって想像がつかねぇからよ」
「………ああ」
「毛利殿と元親、見てくれからして正反対だしなぁ。性格も略そんな感じだろう?」
「…だろうなぁ」
「じゃ、なんでまた」
「そんなの俺だって知らねぇさ。…ただ」

素直な相手に下手な誤魔化しは出来ず、元親は結局口を割らせられる羽目となる。
毛利殿、と家康の呼んだ相手は瀬戸内海を挟んで向かい合う中国の覇者。
肩書きに似合わず華奢な体付きの男は、けれど覇者たる威圧感を備えていた。
誰も彼も頼らぬ姿勢であれだけの土地を治める器量は並大抵のものではない。

「気になっただけだろうな」
「元親が?」

何故其処で不思議そうに聞き返すのか、と元親は思いながら頷く。
此方彼方と対峙した時、最初に抱いたのは不快感。打ち合う合間に抱いたのは疑問。
華奢な腕で変わった武器を振るう彼の人は理解できるものは自身以外要らぬと吐き捨て、元親はそれに寂しいと返した。
其れ程までに考えが違っていた。
分かり合えぬ平行線は、どうしてか、交わった。
その時に元親は彼の人が、他と同じように温かく生きた人間だと知った。
作り物めいた白皙の面の下に幾度も味わった喪失故の諦観を見つけ出した。
馴れ合いは必要が無いと払われた手を、そのまま伸ばした時の表情を何と言えば良いのか分からない。
泣きそうになりながら必死で耐えるような、それでいて凛と前を見据えていた姿勢を。
否定する気にはなれず、ただ冷たさの中で耐えかねぬなら少しの温もりを与えてやりたいと思ったのは勝手でしかない。
だからこそ彼の人は「身勝手すぎる」と言った。
震える手で袖を掴み「生き様は今更、変えられぬ」と告げた声だけは震う事は無く、「分かった」と容認とも取れる言葉を漏らした元親の腕の中で声もなく泣いた彼の人は――。


「……あいつは、ちゃんと人だぜ。家康」


感情を吐き捨てた冷酷な人の血も通わぬと噂される中国の覇者をぽつりそう評価した元親に家康は何も言わなかった。
空を見上げた元親の、その先に見えるものが見えるはずも無いと家康は内心苦笑する。


「ああ、そうか。何だか無粋なこと、聞いちまったようだな」

 

ただ、互い。
決して相容れない中で、混じ合う絆があっても良いのでは、と思えただけで。
二人の間にそれ以上の言葉はなかった。




>>英雄外伝の元親外伝の組み合わせが可愛かったなと思いながら。

   考えがずっと交わらず、でも互いを支えるような
   半分依存に近いような、それでいて互いがなくなったとしても
   後追いはしないような瀬戸内が もえ です(黙れ

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