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シークレットサインコード。
綿密に変えられた暗号文のメールに隆景は眉を顰めた。最近はこの手のメールは全く貰っていなかったはずなのだが。
(―あんま、良い内容じゃ無さそうだなぁ)
ガイアの学習プログラムをオフにして、ガイアの回線から一応別データベースのムネーモシュネーを経由してメールを開く。もちろん擬似回線を作ったので通信履歴は残らない。
本来ならばアフロディーテに帰属するサーバーを使わない方が好ましかった。

『 拝啓 暑さの厳しい折、変わらずお過ごしでしょうか ――?
  ………………

  ところで、まだ青い翼はご健在?
  飛ぶことが可能ならば少しだけお願いしたいことが御座います。
  時間が空きましたら連絡を下さい 』

一通り目を通して隆景は立ち上がる。
机の引き出しから一本のメモリースティックを取り出し無造作にポケットにつっこむと、ついでに擬似回線を消去しガイアとの接続も切断した。
一度大きく伸びをして首を回す。向かう先は一般人の生活ブロックにあるネットカフェだった。

***

久しぶりに打つキイはなんだかんだと慣れてしまっていて、最近の音声入力よりある意味無機的で良いと思う。
幾つも開いた窓が一度に色々なプログラム言語を映し出しては流れていく。
全部に目を通しながら隆景は傍らに置いたマグカップに手を伸ばした。大して上手くもない苦いコーヒーを喉に流し込んで背もたれに寄りかかる。
それは慣れた仕草で一回だけエンターキイを押して黒い画面に文字が映るのを、無表情で眺めるだけだ。
(……ん? 何この変な配列)
繰り返し流れていくプログラムの中に不自然な一点を見つける。つっつくようにすれば急に平行して防御プログラムが展開した。出来は悪くない。……が。
「あんまり面白くもないかなぁ」
思わず声に出して漏らして隆景は指を滑らせた。
途端展開した防御プログラムが崩れる。一瞬にしてプログラムを壊した隆景は、その先――防御されていたファイルを、自分が持ってきたメモリースティックに落とし込む指示を出す。
ダウンロード開始。
ゆっくり落ちていくバーを眺めて、「遅い」と呟いた。
たぶん相手側がハッキングに気付くまでにはもう少し時間が掛かる。防御プログラムが壊されたにも拘わらず時間があるのは、偏に壊す際にアラームを鳴らす経路を麻痺させたからだ。
けれど完全に相手を封じたわけではない。出来るだけ知られるのを遅くしたのであって、未だアクセスしている状態では相手がハッキングに気付く可能性の方が高かった。
自分で一から作り上げた端末ならともかく、公衆の場の端末で過ぎた処理速度は望めない。
何とか青いバーが伸びきったのを見届けて瞬時にアクセスを切った。画面から窓が消える。
残ったのは”ダウンロード完了”のダイヤログのみ。

(――間に合った)

ファイルを確認するために開くと、画面いっぱいに設計図のようなものが飛び込んでくる。
依頼を受けたとはいえ、これは。
「……訳分かんないな」
余り良いものじゃないのだけは分かるけれど、専門外だ。
「軍事用衛星の設計図ですヨ、それ」
画面を見て唸った隆景の肩にするりと白い手が乗る。正直肝が冷えた。
「……?!」
「オヤ? そんなに驚かなくても」
隆景が振り払うように、椅子を反転させるとくすりと笑みを零した女性と目が合う。白い容姿に深紅の瞳。
気配がなかった。
「ザクス、さん」
「はい」
「……どうしてこんなところに」
「見知った顔が珍しいところで真剣な顔つきで、何かをやっていたので。興味本位デス」
区切られたブースの端にあった予備の椅子に腰掛けた女性が、すっと目を細める。
「ところで」
落とされた声音に隆景は体を縮ませた。
「違法行為ですヨ? 良いんですか?」
「良くないです」
「しかも一国の軍事機密にアクセスなんて……正気の沙汰じゃないですヨ」
「……どこから見てたんですか」
「設計図だけですケド?」
不思議なことを訊く、と言いたげに首を傾げた相手に隆景は数度瞬きを繰り返した。
そういえば前に彼女の前職は軍人だったと聞いたことがある気もする。自分には全く分からない図面だが、彼女にとっては見覚えのあったものなのだろう。
「あの」
「ファイルの内容が分からないってコトは、貴女が特段欲しくてハッキングした訳じゃないですね? どこに渡すんです?」
完全に全てを読まれてしまっている。
「日本の或る開発局です」
「……日本?」
「とは言っても、実体は下請けですから……。正確には米国になりますけど」
思わず敬語なのは、どうにも後ろめたいからだ。腕を組んで考え込んでしまった相手をちらりと盗み見ると僅かに眉間に皺が寄っている。
「抑止力にはなるか」
小さく呟かれた声が存外無機質であったので知らずに隆景は体を強張らせた。
それに気付いたか女性がすぐに笑みを作る。
「まぁ、今回は見逃してあげますヨ」
「……え?」
「個人的には小国あたりに流されると厄介だなと思っただけで、貴女のソースに間違いはないでしょう?」
「ああ、米国ってこと? それは大丈夫です。身分を明かされてないのは癪に障ったんでハッキングした成果ですから」
さらっと言ってのけた言葉に、今度は女性が瞬きを数度繰り返す。
「隆景君、確か得意分野はプログラムだったと聞いたケド」
「似たようなものです。尤も、これからは一応足を洗ったんだけど」
ちらりと画面を見遣って今更気付いたかのように隆景はモニターの電源を落とした。
ブラックアウトする画面に二人の姿が反転して映る。
「賢明です。決して良い事じゃないですカラ」
「分かってますよ」
そのまま全ての履歴を画面を映し出さずショートカットで消去して電源を落とす。回るファンの音が途端に静かになり、数秒おいてからメモリースティックも引き抜いた。
「……リ、イヴェールは知ってますか?」
「え?」
ポケットにしまったメモリースティックを確認する隆景に問いが投げられる。
「貴女が優秀なハッカーだってこと」
「”だった”です。……たぶん知ってると思います」
「それだけの腕だ。固有名詞持ってたんじゃないですか?」
その問いには「うーん」と笑って首を傾げた。
確かに優秀な腕のハッカーには、不思議と名前がいつの間にかついて回る。隆景にも確かに名はある。
けれど何故その名がつけられたのかは分からないのだ。
「持ってます。今も、たぶん……生きてる」
「……足は洗ったんですヨネ?」
「勿論。今回は特別だっただけで、アフロディーテに来てからはやってないですよ」
――まぁ、そりゃ私用で少しくらいハッキングしたり、仕事をさぼるための偽造工作に使わないこともないが。
報酬を貰う裏家業としては全くしていない。二度とやる気もなかった。
「名は、訊かない方が止さそうデスネ」
「え?」
「とりあえず、こんな場所でやるのは止めなさい。誰に見られてるかも分かったもんじゃないですから」
それを言うとゆっくりと立ち上がって女性が笑んだ。
つられるように立ち上がった隆景に「そういえば」と言い添える。
「この近くに美味しいジェラード屋さんがあるんです。ご一緒しませんか」

――ハッピーブルーバードさん。


最後の言葉に、隆景は全く敵わないと今度は苦笑するしかなかった。



>>分類不可。昔取った杵柄っていう二人。

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