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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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滞りなく頁を捲っていた隆景がふと視線をあげる。紙媒体の文献を書庫の通路に直に座り読み耽っていた彼女の前に影が落ちたからだ。緩く波打つ白に近い銀髪が視界を掠める。
銀髪や白髪はあるが、その部類でも少しだけ変わった色合いの彼の髪は、その彼の血縁によく出る特徴なのだという。
白に近い銀髪は、水に濡れたり光を受けたりすると、個人差はあるがハレーションを起こすようで、それはそれは綺麗なのだ。一番似た容姿のニアも水に濡れると髪の色がほのかに光って綺麗で、良いなと思ったことがある。
「あれ、冬さん」
「こんなところで何してるの、景ちゃん」
見て分かるだろうと言いたかったが、問われたので隆景は読んでいた本を指し示した。
「読書」
「それは分かるけど、ここは通路だよ」
呆れた声が返る。
「机で読みなさい」
「面倒くさい。だって直ぐに読み終わって、また取りに来なくちゃいけないもの」
視線を落として読書を再開する隆景に溜息が落ちる。
「あのね、景ちゃん。女の子がね、こんな地べた座って無防備に本なんて読んでちゃ駄目なの。何かあったらどうするの」
「何もないもん」
「あるかもしれないでしょ」
「大丈夫だよ」
会話しつつ捲っていた本が最後の頁に差し掛かる。ぱたりと本を閉じて手を伸ばして、抜き取った場所に戻した。そしてその横の本に手を掛けようとして、白い腕がそれを遮る。
「冬さん」
「机で読まなきゃ駄目」
「……今日はどうにも食い下がるね」
折れそうにない相手に隆景はもう一度視線をあげた。左右色の違う瞳がじっと逸らされずに隆景の方を向いている。
悪意があるのでも意地悪でも何でもなく案じるが故の行為だとよく考えなくても分かる。
「分かったよ」
どうせそろそろ疲れてきたところだった。
よいしょと声を上げて立ち上がったところで、そういえばと首を傾げる。
「冬さん、僕にはそう言うけどさ」
「何?」
「ここより二個手前の本棚で同じように本読んでた人は注意しなくて良いの?」
今日はこの書庫の通路で読書に耽っていたのは隆景一人ではない。
隆景の先客だった人は片手を上げて挨拶を寄越して、その後どうぞと飴も幾つか寄越した。
「……ああ」
彼が来る前に書庫から立ち去ったろうか、とも思ったが違ったらしい。
少しだけ複雑そうな表情を浮かべたイヴェールが「うーん」と漏らす。
「いいよ、あの人は」
「何で?」
不思議なものだが、別に地べたで本を読む行為がいけないと言っているわけではないのだ。
問題は女性が無防備にそんな行動を取ることだと言ったイヴェールに問いかければ、また困ったように「うーん」と返ってくる。
「まず、あの人に敵う人を探す方が大変だからだよ」
「……は?」
「あの人は見かけによらず凄く強いの」
「そうなの…?」
「そうなんだよ。だから、別にあの人に関してはこういう心配はしなくていいの」
きっぱりと告げるイヴェールに隆景は頷くことしか出来なかった。
どうにも年齢不詳のきらいはあるが線が細く、強いという言葉とはかけ離れているのにと思いつつも、イヴェールと話題の彼女は親戚でよく知っているのだろうから真実なのだろうと思う。
後でローランサンにでも話を聞いてみるか、と思ったところで声が掛かった。
「おや、お帰りですか?」
「あ、はい。一頻り要るものは読んだので」
イヴェールの背後から掛かった声に、背伸びして手を振ることで答えれば、笑う声が聞こえる。
「そうですか。それじゃ、気をつけて帰って下さいネ」
にこりと笑った女性が本棚の影に消えていく。ひらりと振られた白い手が残像のように見えた。
それを見送って隆景は傍らのイヴェールに声を掛ける。
「冬さん?」
「……つ」
「つ?」
「……突っつかれた。気配もなしに、突っついてきた」
小さく漏らされた言葉を復唱すれば、小さな声が答えた。ぎゅっと手を握られて隆景が反応する前に引っ張られる。
半分引き摺られるような形で書庫を出る間際。
「エノア姉さんも早めに切り上げないと、レイムさんがここに来るんだから」
とまるで捨て台詞のように言い残すイヴェールに隆景は目を丸くした。


***

「エノア姉さんも早めに切り上げないと、レイムさんがここに来るんだから」
書庫から立ち去る足音二つ。振り返った気配と残された言葉に、言葉を投げつけられた本人は小さく笑った。
どうにも子供っぽいところも残っているようで、安心すると言えば聞こえが良いが。
「困りましたねぇ。そういうってことは後ででもレイムさんに教えるってことじゃないですか」
体を案じる夫は心配してきっと何かを言って寄越すだろう。本意ではないので読書は中断しようと本を棚に戻す。
立ち上がった際に少しだけ視界が揺れて本棚に手をついて寄りかかろうとしたところで、反対の方向に体が引っ張られた。
「……ザクス」
「あれぇ……? レイムさんじゃないですか」
呆れた自分を呼ぶ声に笑うと、眉を寄せた夫が溜息を落とした。
「全く」
「ええと」
「無理してまた倒れる気なのか?」
「……そんなコトはありませんけど」
「それじゃ、本を読む時はお前も机で読んでくれ」
もしかしたら先ほど言い捨てていった甥が夫を呼んだのかもしれないとも思ったが、その前から居たらしい。
「レイムさんって時々人が悪い」
「何か言ったか?」
「いいえ」
しっかり先ほど出て行った二人の会話を聞いた上での注意に肩を竦めた。



>>分類不可、博物館パロに仲間入りした記念にでも。
   短いのを書くつもりでちょっと長くなる不思議(苦笑

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そんなところです。

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