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コツン。
窓を叩く音に顔を上げると窓から白い手が覗いていた。ひらりひらりと振られる。
大体相手が想像つくので窓の鍵を開けると、案の定見知った顔がにこりと笑った。
「エノア姉さん」
「ああ、ちゃんと居ましたね。さっきドアから入ろうと思ったら盛大な張り紙があったんで、どうしたものかと思ってたんですヨ」
「……え?」
「”研究の鬼と化します。取扱注意。開けるな危険!”ってネ」
「誰だ。そんな馬鹿な張り紙かいたの」
「さぁ? じゃ、ちょっとお邪魔しますネェ」
その言葉に窓から数歩離れると、顔の高さにある窓枠に手を掛けてザークシーズはいとも簡単に部屋へ進入する。
手には発泡スチロールの小さな箱。
おや、と首を傾げればその箱を押しつけられた。
「なにこれ?」
「差し入れデスヨー。評判のお店のジェラードです。アイスは好きでしょ?」
「ありがとう。エノア姉さん」
後で戴くことにして、備え付けの冷凍庫に入れると、その脇をすり抜けてザークシーズがソファに腰掛けた。
お茶請けに入っていた飴をちゃっかり一つ摘んでいる。
「で、どうしたの?」
「イエ、ちょっと確認したいことがあって」
「僕から? なんだろう」
おいでおいでと手招きをされたので向かい側の椅子に座ると、足を組んで背もたれに体重を預けたザークシーズが口を開いた。
「前に貴方、ハッキングを受けて負けたことがありましたね」
「……ああ」
「青い鳥だったんでしたか」
「そうです。……どうしてそんなことを? まさか突き止めたとか」
「あのネ、貴方が突き止められないのに私が分かるわけないでしょ? ただの確認デス」
「情けないな。今でも情けないって思う。……大事な”詩”だったのに」
「あまり思い詰めても良いことはないですヨ」
小さく笑みを零して足を組み直したザークシーズが、「でも」と付け足した。
思わず耳をそばだてれば悪戯気に笑う。
「青い鳥って上手い暗喩ですヨネ」
「暗喩じゃなくてプログラムでしょ。本当なんだけど」
「メーテルリンクですよ。チルチルミチル」
「……何、それがなんだって」
「探し物でしょう? 案外身近なところにあるかもしれないって話」
そこまで言い終えて立ち上がると、彼女は「それじゃ」とひらりと手を振った。
その瞬間に確信する。何かを掴んでいるのは間違いないと手を伸ばせば、するりと身を躱された。
「それじゃ、また」
「姉さん…! 本当は何か知って、」
「幸せは自分から見つけなきゃ駄目なんですヨ? 知ってるでしょう?」
人をからかう笑顔で来た時と同じように身軽に窓を飛び降りたザークシーズが言い残す。
彼女の着ていた上着がひらりと舞った。そのまま手を振って去っていく姿を窓から身を乗り出して見詰めながら、言葉に引っかかる感覚に目を細める。
「……幸せの青い鳥」
幸せの象徴の青い鳥を追いかける兄妹の、その幸せは身近にあった話。
「まさか」
――そんな、まさかね。
だってそれじゃ、お伽話みたいだ。
>>一つ前の話のおまけ。
鳥を追いかける詩歌いさんと、詩に惹かれる小鳥。
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サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。
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