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――唄う、ってどういうことなの。

そう聞かれてきょとんとしたのはニアだった。カップに注がれたコーヒーに口をつけて、はてと首を傾げる。
「何故、そんなことを聞くんですか?」
「だって……。きっと僕にはない感覚だろうから、聞いてみるのが手っ取り早いかなぁって」
「ならイヴェールに聞けばいいのに」
「嫌だよ。だって返ってくる答えなんていつも同じだもん。”僕は何時だって詩を詠うよ。それが生きるって事なの”って」
「……それが全てじゃないんですか?」
「だから聞いてみたくなったの。他の人はどうなの? って」
ヴェルフォードの王家に連なる人間は一様に音に、歌に取り憑かれてしまうような時があるから。
「で、私に聞くんですか」
「うん」
「……そうですね」
考える。実はニア自身、あまりよく分からないのだ。歌を気付いたら歌ってしまっている時は、どうにも感覚がふわりと浮いてしまうようでもあって、深く潜っていくようでもある。
ただそうなった時には自然と――。
「人は呼吸をする時、意識をしますか?」
「え? しないんじゃない?」
「はい、しません。自発的だけれど意識してやるものでもない」
「それがどうしたの?」
「……それに似てると思います」
そう、気付いたら歌ってしまっているのだから。
そして口をついて出る音律は、それが”終わる”までするする出てきて止める術も無い。
違う。呼吸と同じで意識的に止めてしまえば苦しくて仕方なくなるのだ。

「……呼吸」
す、っと小さく息を吸う音が聞こえた。
この答えでは満足しないのかも知れないが、ニアにとって一番しっくり来る言葉だったのでもう少し突き止めたければ他を当たればいいだろう。
「そうかぁ。……ありがとう」
にこりと笑って、席を立った少女が踵を返す。
駆け出す直前振り返って「またね」と言い残す背中を見送って、ニアは苦笑した。



>>むつきさんのネタを受けての、小話。
   唄うことは呼吸に似ているよ。

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