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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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古い、所々不鮮明な映像がスクリーンに映し出されている。色はなくモノクロの中で少女が一人踊っていた。
白で表現される洋服が本来どの色であったのかは知れない。モノクロ映像の中では白、灰色、黒でしか表現されず全てが本来ならば鮮明に色を持っていたのは事実だが伝える術はなく色は失われてしまった。
けれど。少女が部屋の中くるりと回って踊るその映像美は素晴らしく、しばし呼吸さえ忘れるように食い入っていた元就の頭の中に不躾な電子音が鳴り響く。眉間に深い皺を寄せて映像を止めた元就がすっと細い指を壁に埋め込まれたパネルに這わせた。

―――『おぉい、元就』
―――………。
―――『元就?』
―――元親。
―――『あ、良かった。ちゃんと反応があった。あのな…』
―――今すぐ首を吊って死んでしまえ。

凡そ人にぶつける言葉では無い言葉を吐き捨てて通信を切ろうとすれば、アクセス制御不可の赤い文字と相手側の上位権限にて通信がまだ続けられているという文字が浮き出た。
舌打ちを一つ零して元就はさらに眉間に皺を寄せる。
くるりくるりと通信のサインが回っているのさえ忌々しい。

―――『あちゃー…、もしかしてお前…今超機嫌悪いとか』
―――分かっているなら口を慎め。
―――『そうは言ってもなぁ。こっちも仕事だからよぉ』
―――………………それで?
―――『あれ。話聞いてくれるってのか?』

元就の言葉に明るい声を出した通信相手はすぐさまに資料を送りつけてくる。
ファイルを開いて確認するとそれはライブラリのリストのようだ。

―――元親? これは何だ。
―――『ムネーモシュネーに検索して貰ったヤツなんだがな。というかまず事の発端から話さねぇと駄目か』
―――いや、必要ない。
―――『いいのか?』
―――二日前にアポロンの人間が来て外部研究機関がどうのこうのと話していたものだろう?
―――『察しの良いことで』

指先でパネルを操作して映像を映し出していた装置を完全に止めると元就は小さく息を吐いた。
先程見ていた映像は昨日アフロディーテに搬入されてきたフィルムだ。
古過ぎて電子化出来ないデータは直接見て内容を確かめるしかない。段ボール箱に30という数を数人の学芸員で分けて判別をしていたところである。
なるべく早めに終わらせてしまいたかったが早速違う仕事を振られてしまった。

―――ライブラリの閲覧権限はアポロンの人間にも勿論降りていたと思うが。
―――『ああ。でも俺らじゃ分からんものもあるのよ。彼処の中には電子化されてないものもあるしな』
―――成る程。…であるならばライブラリの担当者がいたろう?
―――『それが休暇取ってんだよ。こっちは急ぎだってのにな。…それで頼みの綱が』
―――良い迷惑だな。
―――『そう言うなって。頼むよ。…何でも奢るぜ?』

通信越し両手を合わせて謝る元親の姿が容易に想像出来て元就は薄っすらと笑みをはいた。
もう一度パネルを操作すれば部屋全体の灯りが落ち、全ての機械が完全停止したのを確認して元就は部屋を後にする。

(―アグライア。映像室の使用許可時間延長の申請を)

直接繋がったデータベースに指示を出すと数秒もしない内に申請完了の旨が届いた。
地球の衛星軌道上に浮かぶ人口惑星アフロディーテ。
此処は全世界のあらゆる芸術や動植物を所蔵する最大規模の博物館である。
元就はその中で音楽・文芸を担当しているミューズに所属する学芸員だ。先程通信をしてきたのはミューズよりも上位にある総括部門アポロンの職員で、つい最近ミューズで保存している映像メディアに外部研究機関から資料照会があってその作業の助っ人を頼んできた。
面倒なことだと思いながらライブラリの入り口で手持ち無沙汰に突っ立っている男を見つけて歩み寄る。
首からはアポロンのIDをぶら下げ、半袖のTシャツに作業ズボンという出で立ちである。

「悪いな」

元就の姿を見つけるなり申し訳無さそうに言った男は先程通信をしていた元親だ。
統括部門所属の元親は元就よりも博物館内の権限が上でライブラリにも自由に出入りできたはずだが律儀に待っていたらしい。

「……それで、リストは確認したがそのうちどれ程要るのだ?」
「実際は3つ。出来れば早く欲しいって催促受けたらしい。いや…俺も参った」
「だろうな。今日は本当ならばアテナにいた筈だろう?」

ライブラリに入り込み灯りをつける。ずらりと整頓された棚に電子化されていない映像資料が所狭しと並べられていて、それを見た元親が大きく息を吐いた。無理も無い。闇雲に探せば見つけるのに何日掛かるか分からない量である。
データベースである程度管理しているとはいえ、完全な電子化のされていない資料は大体の位置しか分からない。

「アテナの仕事はしょうがないから違うやつに任せてきた」
「此方を違う人間に任せればよかったろう?」
「泣き付かれたんだよ。ライブラリ管理者がいない。資料がどこにあるか大体でも分かる方知りませんか? ってな」
「それで何故、我になる」
「お前、記憶力良いからなぁ」

からからと笑った元親に元就は不機嫌そうに眉を顰めた。
知覚化されたリストをデータベースと照合して大体の場所は掴めている。
迷うことなく目的の資料が並んでいる棚にまで行き着いて元就がゆっくりとディスクカバーに書かれている走り書きを眺め始めれば、倣うように元親も走り書きを見ながら目的の資料を探していく。

「……お前のせいで我は自分の仕事が出来ぬ」
「悪かったよ。聞いたら昨日届いた資料の判別してたんだってな」
「ああ」
「いいのあったか?」
「………そう、だな」
「そうか」

一つ見つけて元親に手渡した元就がふと先程まで見ていた映像を思い出した。
少女が部屋の中を踊る映像は何の変哲も無いようだが空間を最大限に利用したある種の映像美であった。
音も無い資料は、それでも音を伝えるようで元就はあの時呼吸を忘れたのだ。

「元就?」
「……いや、なんでもない。これで最後だ」

ふと思考に沈んだ元就の名を呼んだ元親が最後のメディアを受け取る。
十分も掛からず終わった仕事に満足したらしい。丁寧にメディアボックスに入れると、元就の頭に手を置いて些か乱暴に撫でた。

「……元親」
「ありがとな。んで、元就さん」
「……ん?」
「今晩は何が食べてぇんだ?」
「そうだな」

仕事を助ける代わりに何でも奢ってくれる約束だったか。
きっちりと守ってくれる気らしい元親に元就は思案する。外食も良いのだが―。

「………お前の手料理、第五映像室に出前しろ」

その言葉に目を丸くした元親が数秒後心得たと承知する。
ふんと視線を逸らせた元就が応えるように微かに笑むのを視界の端で見留めた元親が釣られて笑った。




>>博物館惑星パロでちかなり
   元就も元親も妙に書きづらいような気がする…。あれ?(苦笑

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