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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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ふ、と。
何かが横切ったような感覚に眉根を寄せることになった毛利元就は、その原因を知って端正な顔を歪めた。
晴れた青空を極彩色の鳥が飛んでいる。珍しい鳥だ。
自生しているわけではない。あの鳥は遠き地から此処に来た鳥。
青空に極彩色は酷く映えた。
目に残像を残して飛び去っていく鳥を暫く眺めた元就が忌々しく舌打ちをする。
同時。

「元就様」

本陣に縺れる様に走りこんできた兵が敵軍の襲撃を告げる。
端正な顔に貼り付けた面を崩すことなく元就はすっと立ち上がった。
細い体躯は凡そ武将と呼ぶには頼りなく見える。けれど、正した姿勢はあまりにも隙が無く、彼が武将と呼ばれる存在だと言外に告げていた。
何の感情も浮かばない瞳でぐるりと自分の様子を窺う臣下の顔を見回した後、口を開いた。

「当初の指示の通りに。我の策を崩すものは誰であっても許さぬ。……行け」

告げた。
誰にも理解されぬ切り捨てる、その冷酷な采配。判断。
凍りつかせた感情は何も抱かない。
元就の言葉に誰もが一瞬恐怖の色を浮かべてすぐに立ち上がり出て行った。
臣下が誰も居なくなった本陣で小さく溜息を吐く。
だがすぐにらしくないと首を緩やかに左右に振った。
そうだ。らしくない。兵など所詮捨て駒。自分もまた毛利家のための駒の一つなれば…。
考え事に捕われていた元就の後ろに気配が生まれる。一瞬反応が遅れた。

「また、そんな顔してやがんのか」

空の青にあってなお存在を侵されぬ銀が見えた。

「……貴様には関係の無いことだ」
「へぇ?」
「何の用だ」

あの鳥。
空を飛ぶそれを見たときにこの男が近くに居るのだろうとは思っていた。
けれど、まさか会いに来るとは思ってなかった。何時でもこの男は自分の想像外の行動をすると元就は煩わしげに思う。
行動が掴めない。
分からない。

「いや少し様子を見に、な」
「…ふん。此方はいくさに臨むところだというのに呑気なものよ」
「だから今来たんだよ」
「…………?」
「お前が、一番…能面を被る時だからな」
「…………」

その言葉に心底、体の熱が冷え切っていく感覚を覚えて元就はきつく男を睨みあげた。
瀬戸内海を挟んだ四国の国主、―長曾我部元親を。

「貴様、矢張り莫迦だろう」
「何だって?」
「…今、攻め込まれているのは毛利領だが…国主不在となれば、四国に攻め込むやも知れぬぞ」
「…ああ。そんなのは、大丈夫だ」

自信有り気な笑みを浮かべて元親が笑う。
それよりも、といった声の調子は少し落ちた。
だからだろうか。元就は自分よりも幾分も上にある元親の顔を見上げて、その表情を盗み見た。
隻眼の瞳の色彩は薄く、珍しい色をしている。
空のような海のような青。その瞳がすっと細められた。


「……お前、無駄に切り捨てんなよ」

何に対していったのか。
全てか。
元親の言葉に元就は少しだけ眉根を寄せるに留めた。
くるりと元親に背を向けた元就が一歩、足を踏み出す。
その小さな背中を見守って元親が盛大に溜息を吐いた。空を旋回していた鮮やかな鳥が元親の肩に降ってくる。


「…やれやれ」

肩を竦めた元親を肩越しにちらりと見遣った元就が少しだけ困ったような色を瞳に映したのを、元親は目敏く見つけた。
だからこそまだ希望はあるのだと諦めきれない思いだけが自分の中にある。
厄介だな、と思ったがどうしようもないと思う。


肝心な何かを埋もれさせたまま。
戦場に向かう背中だけが何故か心配だった。




title by  Ab ovo usque ad mala
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