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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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―私、夜神粧裕には秘密があります。


深夜。
寝静まった家の中を足音を忍ばせて歩く少女の姿があった。二階の一室は兄のもので内側から鍵が掛かるようになっていて勝手に入ることは出来ない。一度だけ入った時には酷く驚かれ「お兄ちゃんにだって秘密はあるんだから勝手に入ったら困る」と怒りを滲ませながらも、優しく諭されたものだ。
だから言えなかった。
「ね、居るんでしょう?」
小さな声で誰もいない廊下に話し掛ける。
端から見れば頭のおかしい行動にさえ見えるそれは少女にとっては酷く重要だった。
廊下の端凝った闇からうっすらと上背のある影がぬっと現れる。それに内心肝を冷やしながらも少女は決して悲鳴をあげなかった。
「ククッ、なんだ? 呼んだか?」
面白そうに声を上げる異形に少女は気丈に笑ってみせる。
そして背中に持っていた林檎をそっと差し出した。

 


お前は変わっている、と其れは言う。
なら、貴方も変わっているんじゃないの、と粧裕は言った。
平行線の会話は不思議と接点を持ち交わるので粧裕はいつも目の前の相手が人間ではないのだなと改めて知るのだ。
其れと出会ったのは全くの偶然であった。まさかの展開だと兄が知ったら驚き言うだろう。
「ねぇ、何故林檎がそんなに好きなの?」
「知らねぇなぁ。でも美味い」
「ふぅん。……楽園を追放された禁断の味だから…かしらね」
「何だそれ?」
「創世記よ。神に作られた一対の人間は楽園に住んでいた。老いることはなく苦行もなく…けれど誘惑されてしまったの」
「へぇ?」
「この木の実を食べてご覧…って。それが林檎だって言われてる。その実は知恵の実。絶対に食べてはいけないと神に言われていた木の実。約束を破った二人は楽園を追放され、命には限りが出来た」
「人間って、面白いこと考えるんだなぁ。こんな林檎に」
「赤い色は命の色」
「お?」
「だから惹かれるのかな?」
粧裕はにこりと笑う。死神と初めて出会った時から比べれば随分と綺麗な女性に育ったものだ。
兄はとっくに家を出て一人の女性と同棲している。
「俺にはよくわかんね」
「良いんじゃない? それで」
そしてこの目の前の存在は兄と共に居るので粧裕に会うには意図的に自分で彼女を訪れなければならないのだ。
死神などという存在をあっさりと粧裕は受け入れたわけではない。
しかし存在を賭けて否定するほど柔軟性に欠けていたわけでもなかった。
結果、彼女は子供特有の好奇心でその存在に近づいたのだ。偶然の出会い。兄としては絶対に避けたかった事態。
彼女は既にLがついに掴めなかったキラの全てを知っていると言っていい。
「そろそろ戻らないとお兄ちゃんが心配するよ」
「だいじょうぶ。俺はいつもふらふらしてるんだ」
「心配されない…か」
「ある程度はな」
「………ねぇ、リューク」
「なんだ?」
「命は一つっていうカウントで良いのかな?」
「…ん?」
「悪人も善人も、命は一つ。存在は一つ。…死神にはどう映るの?」
「粧裕…?」
「言い方変えようか。……私の魂はあなたにとってどれくらいの価値かな? って訊いたの」
「あー…、」
死神は問いに言葉を失う。
粧裕は問いの答えに確信を持つ。
そうなのだ。命は死神にとって平等で、そして人にとって死とは例外なく平等。無でしかない。
人の傲慢な思想で選り分けること自体が抑も間違いであるのだ。であるならば。
「……お兄ちゃんの死は、如何ほどのものかな」
つと言葉が口をついて出、それに死神が珍しく驚いた表情をする。大丈夫と粧裕は笑った。
しかし矢張り確信してしまった。
魂の価値を選り分ける間違いを犯した人間の死に際は穏やかなものではない。
死ねば無に行くのなら、死ぬ瞬間に途方もない絶望を味わうに違いないのだ。それは罪と罰の帳尻合わせ。そして、
「やっぱりリュークは死神なんだね」
手を下すのは目の前の異形なのであろう。
粧裕は笑う。その笑顔は穏やかすぎる程で、罪がないのは何て残酷なのかしらと思う粧裕の心を兄である存在は一生知らない。死んでも知らない。




>>さり気に、粧裕とリュークの組み合わせが好き。捏造です。
   知って尚、ずっと隠し通したのであれば彼女がある意味最強。

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そんなところです。

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