謂わばネタ掃き溜め保管場所
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秀吉、と。
微かに風に乗って息の上がった声が名を呼ぶので条件反射的に振り返った秀吉は、とてとてというのが一番相応しい表現だろう、で駆け寄ってくるふわりとした銀髪を持った人物を待った。
肩で息をして苦しそうに膝を折りながら、これ、と一通の封筒を差し出す。
「……?」
「慶次君からだよ」
宛名の無い封筒を訝しげに見れば、そう封筒を差し出した人間が言う。
「…慶次から。珍しいことよ」
「そうでしょう? 僕もそう思ってね、それで受け取って一生懸命秀吉を探してたんだよ」
笑ってそういった途端咳き込むので、その背中に手を回して撫でて呼吸を助けてやると「大丈夫」とだけ返って来る。
呼吸器が昔から弱い彼は、一度体調を崩したら中々治らない。
謂わば病弱という部類の人間だった。
「探すのは良いが、半兵衛…」
「うん?」
「…ゆっくりにしたら良かったろう」
「嫌だよ。だって手紙なんて慶次君がくれるの珍しいじゃない。しかも嬉しい頼りみたいだし、僕だって早く読みたいと思ったんだから」
だったら一人で読んだ後に、自分に知らせてくれたらいいのに。
内心苦笑して秀吉は自分よりも幾分も低い半兵衛の頭を撫でた。
幼い子供のように扱われて少しだけ不機嫌そうに眉間に皺を寄せたものの、半兵衛はそれ以上何も言わない。
もう片方の手にある先程自らが手渡した封筒を取り返すと、ひらりとそれを示す。
「ね。読もう?」
「そうだな」
半兵衛宛の手紙に秀吉の了承は要らないのだが、秀吉がそういうと嬉しそうに半兵衛が笑って封筒の封緘を解いた。
慶次は大柄で細かい所にはあまり拘らない所があるが、あれでいて繊細な部分があったりする。
勢いは良いが達筆とも読める字で、近況が綴ってあった。
半兵衛を両膝の合間に座らせて背後から秀吉が覗き込む形で、手紙は読み進められていった。
「政宗と元親に会ったんだ…。いいなあ」
ふと手紙のある一行を読んで、ぽつりと半兵衛が呟く。
政宗と元親。手紙の差出人の慶次と受取人の半兵衛、四人は年の頃が近かったからか、聖地の中ではいつも仲が良かった。
体の弱い半兵衛以外の三人は、聖地の外に出ることを望んでしまったため、里帰りを三人がする以外に半兵衛が彼らに会うことは無い。
それでも偶に帰ってくれば必ず半兵衛の所に立ち寄って、土産だと珍しいものを置いていったり、話を聞かせたりしていた。
「元気そうだな」
「うん。そうだね。元気なのはいいことだよ」
笑って言う半兵衛は心底嬉しそうだ。
空気の清浄な場所でなければ、少なからずとも負担が掛かってしまう身体では行動が制限されることが多い。
時折、用事があって聖地を降りることがあったが、その時でさえ半兵衛は注意をしなければならなかった。
本当なら自分も彼らと同じように色んな場所で、色々なものを見て、そうやって生きたいのではないのだろうか。
カナリアではなく、この聖地で技師として生きる秀吉は、聖地が如何に隔絶された場所かを知っている。
ひっそりと守られるように、隠れるように存在するカナリアたちの村。
「……え」
何か珍しいものがある訳でもなく、ただ日々を安穏と過ごす。
良い生活といえたが、その選択肢しか持ち得なかった人間には些か酷ではないのだろうか、と考え込んでいた秀吉の耳に驚いた半兵衛の声が届く。
珍しい。
彼が此処まで驚きを示すということもそうだが、その後何も言わずじっと文面に目を落として反応も薄い様も。
「何が書かれてあったのだ?」
タイミングを計ったように、半兵衛が文から視線を外すと同時に秀吉は声をかける。
掛けられた声で我に返ったのか、肩越しに振り返った半兵衛が「ああ、うん」と曖昧に返す。
それさえも珍しいなと思っていたら、半兵衛がさらりと言葉を口にした。
「元親に恋人が出来たんだって」
「……ほう?」
半兵衛と似た髪色の。しかし受ける印象は全く違う、その人物を思い起こす。
性格は良い。屹度恋人が出来たとしても元親なら大切に出来よう。
「…それがね」
くす、と笑った半兵衛が軽く手招きをする。
身を屈めて耳を近づけると、手招いた手を口元に持っていって人差し指を立てる。
「これは、秘密だよ」
「なんだ?」
「その相手っていうのが」
”調律師なんだって”
意外と言うよりは、ある意味カナリアにとって禁忌ではなかったのか、と問いたくなった秀吉がじっと半兵衛を見ると本当に楽しそうに笑っている。
手紙を丁寧に封筒に戻して、もう一度視線を落とした半兵衛が呟く声に納得した。
「いいじゃない。好きの対象に、カナリアも調律師も、普通の人間も無い。そうでしょう?」
その通りだな、と秀吉も笑う。
確かに、カナリアも調律師も人間も、好きと言う感情に関係は無いだろう。
結局はみな、同じように感情を抱くのだから。
>>創作カナリア設定話。
大人しめな半兵衛さんと秀吉。
どうでもいい設定としては、幼馴染の三人は半兵衛のことを重治と呼ぶんだぜイエア…!
一応、「逃げた調律師の行方」って題打ったカナリア設定話は此処でおしまい。
続きとか、この設定でちらほら話は書くと思う。
ただとりあえず元就と元親のトムとジェリー(追走劇)が終わったって事です。
微かに風に乗って息の上がった声が名を呼ぶので条件反射的に振り返った秀吉は、とてとてというのが一番相応しい表現だろう、で駆け寄ってくるふわりとした銀髪を持った人物を待った。
肩で息をして苦しそうに膝を折りながら、これ、と一通の封筒を差し出す。
「……?」
「慶次君からだよ」
宛名の無い封筒を訝しげに見れば、そう封筒を差し出した人間が言う。
「…慶次から。珍しいことよ」
「そうでしょう? 僕もそう思ってね、それで受け取って一生懸命秀吉を探してたんだよ」
笑ってそういった途端咳き込むので、その背中に手を回して撫でて呼吸を助けてやると「大丈夫」とだけ返って来る。
呼吸器が昔から弱い彼は、一度体調を崩したら中々治らない。
謂わば病弱という部類の人間だった。
「探すのは良いが、半兵衛…」
「うん?」
「…ゆっくりにしたら良かったろう」
「嫌だよ。だって手紙なんて慶次君がくれるの珍しいじゃない。しかも嬉しい頼りみたいだし、僕だって早く読みたいと思ったんだから」
だったら一人で読んだ後に、自分に知らせてくれたらいいのに。
内心苦笑して秀吉は自分よりも幾分も低い半兵衛の頭を撫でた。
幼い子供のように扱われて少しだけ不機嫌そうに眉間に皺を寄せたものの、半兵衛はそれ以上何も言わない。
もう片方の手にある先程自らが手渡した封筒を取り返すと、ひらりとそれを示す。
「ね。読もう?」
「そうだな」
半兵衛宛の手紙に秀吉の了承は要らないのだが、秀吉がそういうと嬉しそうに半兵衛が笑って封筒の封緘を解いた。
慶次は大柄で細かい所にはあまり拘らない所があるが、あれでいて繊細な部分があったりする。
勢いは良いが達筆とも読める字で、近況が綴ってあった。
半兵衛を両膝の合間に座らせて背後から秀吉が覗き込む形で、手紙は読み進められていった。
「政宗と元親に会ったんだ…。いいなあ」
ふと手紙のある一行を読んで、ぽつりと半兵衛が呟く。
政宗と元親。手紙の差出人の慶次と受取人の半兵衛、四人は年の頃が近かったからか、聖地の中ではいつも仲が良かった。
体の弱い半兵衛以外の三人は、聖地の外に出ることを望んでしまったため、里帰りを三人がする以外に半兵衛が彼らに会うことは無い。
それでも偶に帰ってくれば必ず半兵衛の所に立ち寄って、土産だと珍しいものを置いていったり、話を聞かせたりしていた。
「元気そうだな」
「うん。そうだね。元気なのはいいことだよ」
笑って言う半兵衛は心底嬉しそうだ。
空気の清浄な場所でなければ、少なからずとも負担が掛かってしまう身体では行動が制限されることが多い。
時折、用事があって聖地を降りることがあったが、その時でさえ半兵衛は注意をしなければならなかった。
本当なら自分も彼らと同じように色んな場所で、色々なものを見て、そうやって生きたいのではないのだろうか。
カナリアではなく、この聖地で技師として生きる秀吉は、聖地が如何に隔絶された場所かを知っている。
ひっそりと守られるように、隠れるように存在するカナリアたちの村。
「……え」
何か珍しいものがある訳でもなく、ただ日々を安穏と過ごす。
良い生活といえたが、その選択肢しか持ち得なかった人間には些か酷ではないのだろうか、と考え込んでいた秀吉の耳に驚いた半兵衛の声が届く。
珍しい。
彼が此処まで驚きを示すということもそうだが、その後何も言わずじっと文面に目を落として反応も薄い様も。
「何が書かれてあったのだ?」
タイミングを計ったように、半兵衛が文から視線を外すと同時に秀吉は声をかける。
掛けられた声で我に返ったのか、肩越しに振り返った半兵衛が「ああ、うん」と曖昧に返す。
それさえも珍しいなと思っていたら、半兵衛がさらりと言葉を口にした。
「元親に恋人が出来たんだって」
「……ほう?」
半兵衛と似た髪色の。しかし受ける印象は全く違う、その人物を思い起こす。
性格は良い。屹度恋人が出来たとしても元親なら大切に出来よう。
「…それがね」
くす、と笑った半兵衛が軽く手招きをする。
身を屈めて耳を近づけると、手招いた手を口元に持っていって人差し指を立てる。
「これは、秘密だよ」
「なんだ?」
「その相手っていうのが」
”調律師なんだって”
意外と言うよりは、ある意味カナリアにとって禁忌ではなかったのか、と問いたくなった秀吉がじっと半兵衛を見ると本当に楽しそうに笑っている。
手紙を丁寧に封筒に戻して、もう一度視線を落とした半兵衛が呟く声に納得した。
「いいじゃない。好きの対象に、カナリアも調律師も、普通の人間も無い。そうでしょう?」
その通りだな、と秀吉も笑う。
確かに、カナリアも調律師も人間も、好きと言う感情に関係は無いだろう。
結局はみな、同じように感情を抱くのだから。
>>創作カナリア設定話。
大人しめな半兵衛さんと秀吉。
どうでもいい設定としては、幼馴染の三人は半兵衛のことを重治と呼ぶんだぜイエア…!
一応、「逃げた調律師の行方」って題打ったカナリア設定話は此処でおしまい。
続きとか、この設定でちらほら話は書くと思う。
ただとりあえず元就と元親のトムとジェリー(追走劇)が終わったって事です。
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くまがい
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性別:
女性
自己紹介:
此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。
ブログ内文章無断転載禁止ですよー。
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