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歌声が流れる。
掠れた低い声はしかし伸びやかで、うとうとと夢と現実の合間を漂っていた元就の耳に心地良く届く。
重い目蓋を押し上げて隣で歌う男を見やれば、視線に気付いたらしい首を傾げて此方を向いた。
「も、とちか」
「ん。悪ぃ、起こしちまったか?」
心配そうに声をかけてきた男の声で、歌は止まる。
勿体ないと思ったが口にはせずに、首を横に振った元就は破れた幌の合間から見える月を見上げた。
冴え冴えとした月は冷たささえも孕んで、這い登ってきた寒さに思わず首を竦める。
目敏くそれを見て取った元親が強くはないが決して弱くない力で元就の肩を自分の方に引き寄せた。
細い身体は容易く元親の腕に抱き込まれ、抵抗という抵抗もせずに元就は体重をその腕に預け大人しく耳を厚い胸板に押しつけた。
一定のリズムの鼓動が聞こえて尚のこと安心する。
先程の寒さなどは僅かにも感じない。
「……元親」
「うん?」
「…歌え」
「命令形かよ」
苦笑混じりの声は、否定を表さない。
やがて一つ大きく息を吸うと元親の唇から歌が滑り落ちた。
空気を震え伝う旋律は、人が禁じられてしまった奇跡の音。忘れられてしまった歌。
取り戻そうとしても歌を禁じられてしまった人間には二度と歌うことの出来ない奇跡。
世界はその音に触れて歓喜し奇跡を起こすとも、遙か原始の時よりの純粋な祈りに応えて奇跡を起こすとも言われている。
その声が、歌が、音が。
今は一人の為に歌われる。
「……、だ…」
ぽつりと、囁く程の小声で元就が何かを口にした。
何を言ったのかと問おうとしたが、歌が途切れてしまうと思い留まり、元親は腕の中に大人しく収まっている元就を見遣った。
目蓋を閉じてじっと歌を聞き入る表情は穏やかで。
嘗て見せた痛みを堪える表情が嘘のようだった。
暫く歌い続けると腕の中、小さく規則的な寝息が聞こえ始める。
眠りの中に落ちたのだと確認してから、緩やかに歌を止めた空間には余韻が残った。
見上げる月は冷たさを孕み、夜風も体温を奪う。
それなのに腕の中の温もりは温かくて、それだけで寒さなど吹き飛んでしまうかのようだった。
安らかに眠る元就を起こさないように抱き直して、元親は自分も瞳を閉じた。
>>逃げた~…の少し後。
ひとりきりの夜に別れを告げたのは、元就。
ひとりきりの夜から救い出してくれたのは、元親。
元就は光秀と一緒にいても、きっと二人とかではなくてふたりぼっちだったとか妄想。
少し糖度高め。こういうときは我に返ったら駄目なんだぜ(黙れ
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サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。
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