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声が聞こえた。夜の無い世界の夢だった。
嘗て歌だったものは何かの叫び声に変わり、切実な言葉だけが胸を支配した。これは何だろうと意識を巡らせたのに何も分からない。
白は全てを塗り潰し、黒は全てを飲み込んだ。
――ああ、そうだ。
何かを探していたのだと沈む世界に降る白い塩の雨を見上げた。
嘗て紅く染まっていた鉄塔にも薄ら塩は降り積もり、ひび割れた地面は既に覆われてしまっている。
無言の制裁と言うべき惨状に何も言えず、軈て此処は死に絶えるのだろうと自己完結する。
しかし強ち間違ってはいないようだ。人の気配どころか生き物の気配が希薄で、ともすればたぶん動くものは自分とそれ以外は有り得ない。
影が動く。無機質な生き物は引き込むように触手を伸ばしたが日光に晒されれば消えてしまう。呆気ない。
さらりと溶けていく濃い影を、逆に引き留めるように手を伸ばす。
酷く冷たい感触は白日の下で容赦なく解けていく。
何かを探していた。誰かを捜していた。
大切な何かだったのだと見上げた空はゆったりと厚い雲に覆われ、灰色ばかりの酷く曖昧な印象を与えるばかりか影の領域を広げていく。
遠く曇天の空を切り開くように先端が見えぬ紅い鉄塔は、塗装が半分剥がれ掛け錆に侵され赤茶に変色していた。
懐かしい色を探している。
目を細め鉄塔を見遣り思う。視界には白と黒と灰色ばかりが映り込む。単色に近い世界で唯一の色彩は赤。
流れる命の色。影のような生き物にも自分にも流れている錆び付いた味の液体は、奇妙なほど世界に映え、酷く綺麗な余韻を引く。
ぱたりと白い地面に咲いた赤を愛おしいと思った。探し物に何故か似ている気がして、目が離せなくなる。
呼ぶ意味も、対象も、何も存在しないので気にも留めていなかったが、名前というものが在っただろうかと思いつき、記憶を大分探ってみたが何も出てこない。
探しものの前に自分の名前も分からない。
ただ、探している。
大切だったに違いないのに、それ以上の言い難い感情が渦巻く胸中が今更呼吸を始めたように苦しい。
「……?」
名前。
名前を探している。
自分の? 違う。自分のではなく探している何かの名前だ。
白と黒と灰色が支配する此処ではない、烈火が地を舐める酷く鼻につく異臭が隅に蘇り、矢張り此処ではないとただ思う。
しかし探しものは、此処にしかない。
名前、強いては存在を探している。
存在を示す行為として名を呼ぶ事以外に持ち合わせないことへの自覚だけはあり、故に明確さを持たぬ感情のみの衝動で名を探す。
白と黒。昼と夜。
蠢いた闇が何かを翳め、背後に踊りかかった。瞬間鈍く上がった悲鳴に襲われたのが人の形をしていると確認する。
しかし妙だと動かなくなった生物が倒れ伏した場所からゆったりと這う鮮血に首を傾げた。
同じ色。酷く慣れた色。
なのに違和感を覚えた。分からないまま空を見上げ、残像の紅が空に映り込む。
「 」
瞬間、巻き戻し思い出した。それは何も知らず、何も分からず、呼ぶ事の出来なかった唯一の天使の名だった。
摂理を捻じ曲げ二つに分けた世界の狭間で呼ぶには相応しくない、確固たる存在を示した魂を分けた存在だった。
>>E路ED後NieR開始前のどこかあたり?某王子。
いつも探し回っているイメージしかない。ごめん。
今日は曇り空でマモノがたくさん出るのだろうと予測しながらいると、僕の横でいつもよりぼんやり歩いていたニーアさんが何を思ったのか首を傾げて言いました。
「なぁ、」
丁度良い高さの聞き障りのない声が僕かカイネさんのどちらか、或いはいつも一緒にあるシロに向かって投げかけられたので、少し前を歩いていたカイネさんが振り返ります。
しかしそれきり言葉はなく、結局痺れを切らす誰かがいるのだろうなと予測していると
「……どうして、みんなわからないことばをはなすんだろう?」
と謎の言葉だけが返されました。
――省略。
意味が分からず小一時間問い詰めたところで、全然趣旨の掴めなかったニーアの言葉を全員が理解するのには更に時間が掛かった。
簡単に言えばニーアは妹と生きるのに精一杯で勉強などと言うものをあんまりしてこなかった。だから文字が読めないということらしい。
しかし妹は本を読むことが好きだったと記憶していたので、識字率を考えても彼だけが少し特殊らしく、加えて昨日までは本当に何ともなかったので、カイネもエミールも首を傾げるばかりである。
「つまり」
「うん」
「ニーアさん、文字が読めないんですか」
正確に言うと会話に含まれる文字も読めない。簡単な文字は読めると言い返す彼に溜息を零すのは最早可哀想だった。
きっと一番切ないのは彼でしかない。
「でも待て。昨日までは普通に会話は成立していただろう?」
「……うん?」
「ニーアさん、いまのカイネさんのことば、どこまでわかりました?」
「えぇと”……までは、に? していただろう?”」
ここまで分からないなら寧ろいっそ清清しくて良いだろう。
「シロさん、あのですね、僕訊きたいことがあるんです」
「なんだ?」
「ニーアさん昨日、頭でもぶつけましたか?」
ふわふわと浮く本がくるくると回る様子は酷く滑稽だ。それを眺めて辛抱強く待つエミールに返ってきたのは一言。
「分からん」
「……あ、そうですか」
この喋る本のもったいぶった話し方は嫌いではないが時と場合によるらしい。今こそカイネにきっかり28頁ずつばらして貰おうかとも思ったが、事態は好転すると思えないので止めた。
何より少しでも話が出来そうな相手が残っている方が良い。
「それじゃ、ニーアさん? ぼくのことばはわかりますね?」
「わかる」
とりあえず本当に簡単な言葉なら読めるらしい。良かった。当面、意思疎通は出来る。
ただし非常に面倒であるのには変わりないのだが。
「……私は知らんぞ」
痺れを切らしたカイネを余所に首を傾げるばかりのニーアの様子は矢張り微妙に可哀想ではある。
「カイネさん、良いんですか?」
「昨日まで普通で、急にこうなったなら、明日には戻ってるんじゃないか?」
「明日になったら全く言葉が通じなくなってる可能性だってありますよ」
楽観的な感想を結論にして早々に面倒事から立ち去りたいカイネに、反対の可能性を示して引き留める。
流石に考え込む仕種で沈黙した黙っていれば美少女が、隣で意味も余り分かっていないのだろう首を傾げる青年を見遣り、見た目的には暢気な様子に苛ついたのか脛を思い切り蹴飛ばした。
痛さで声もなく蹲る彼の様子に純粋に可哀想とエミールは思ったが黙っておく。
完全な八つ当たりなので何か余計なことを言えば自分もされかねない。
「……では、どうするのだ?」
大分様子を見届けてから声を上げた喋る書物は、確かに現在の持ち主であるニーアの現状が宜しくないことを認識している。
このまま放って置いて良いとは決して言い難い。
「原因が分からない以上はどうしようもないだろうが、この」
カイネの形の良い薄い唇が罵詈雑言を吐き出す前にエミールが慌てて口を挟んだ。ここでまた喧嘩を始められても時間が無駄に過ぎるだけだと踏んだ咄嗟の判断だった。
「あ、待って下さい。あの、ポポルさんにお話を聞くのはどうですか?」
……
村に入るのは遠慮しろと言われた割りに適当な理由を付ければ案外すんなりと入れたので、早く用事を済ませようと訪れた図書館の一室で若い女性が首を傾げた。
僅かに眉を寄せたのを見逃さなかったが、今は構わないことにする。
「あら……、どうしたのかしら」
「あ、あの」
穏やかな口調に棘を含む女性の態度に背後でカイネが鼻を鳴らす音が聞こえ、エミールは首を僅かに縮める。
「ごめんなさい。村には入らない約束だったんですが、少し事情があって」
「ええ。分かってるわ。それで?」
笑顔が怖いので単刀直入、早く用事を済ませようと決心する。
説明は端的に、簡潔に、分かりやすく。
「ニーアさんが言葉を読めないと言って、会話もままならないんですが原因を知りませんか?」
呼ばれた名前に反応した青年が首を傾げたが、会話全てを理解出来なかったらしく口を挟むことはない。
突拍子もないエミールの質問に動じることなく赤毛の女性は、エミールとニーアを交互に見遣った。
そして「ああ」と合点がいったのか手を打つ。
背後の棚をまさぐり不透明な硝子の小瓶を取り上げ、あろう事か何も言わずエミールに差し出しながら女性は笑った。
「大丈夫よ」
器用に受け取った小瓶は思いの外重く微かに水音を立てた。
「ニーア? 矢張り無理をしたのね」
そして女性はぼんやりと黙って事の成り行きを見ていた青年の額に手を伸ばし、「駄目でしょう?」と付け足した。
「この子ね、熱が出るといつもこうなるのよ」
あっさりと答えを差し出して笑う女性と、頷いたのか首を傾げたのか分からない曖昧な仕種の青年を見遣りエミールとカイネは同時に溜息を吐いた。
ゆえに渡された小瓶は解熱剤だった。
>>漢字の読めない頭の弱いニーアさんのお話。
最初にこれを書くあたりどうしようもない(苦笑)
不思議な話なのだ。暖かさも何もなかったはずの存在に、寄り添う感覚だけが灯った温さで人間味を繋ぎ止める境界線を形成していた。寒かったというのか、暖かかったというのか。非常に曖昧な場所で手を伸ばせば脳髄に響く低音が酷く心地良かったのを覚えている。
声が名を呼ぶ。男は悲しいくらいに頭を振った。
見えぬ姿も距離を置いて響く声も何もかも夢と同じで男に現実味を与えてはくれない。
唯一、叩き切った頭蓋骨の、鈍い音と感触が間接的に命を伝える。尤もそれは他人の命が流れ出るという意味で。自分が生きているのか死んでいるのか、そんな主観的なものではなかった。
赤く染まった手はこびりついた血液が乾くのにつれて黒く変色していく。酸化していく目に見える変化は、自身がさび付くような錯覚を起こした。
ああ、何故視界は赤い? なのに何故欲しい赤は無い?
夢現のどちらに属する渇望か分からぬまま、男は天を仰いだ。気に入らないほど赤く染まった空だった。
――ああ、気に入らない。
>>ずっとあの赤を探している。そんなカイムさん。
時折書きたくなる、なんかそんな感じ。
伸ばされる手がないな、と思う。
呼ばれる声もないとそこで気付いた。ぼんやりと視点が定まらない視界で鐘の音だけが響くので煩いと思ったのに、何も出来ない。冷たい風が攫うのだ。
全て攫っていくのはいつだって当たり前に世界に存在する物。そして攫われていく物も然り。
「……、ああ」
もう言葉は要らないと気付く。
呼ばれることもなければ自ら言葉を紡ぐ必要もない。語りかけてくる相手がいない。語るのを望む相手もいない。
遠く聞こえる鐘の音は弔鐘だ。喪を示す黒が空にはためくから否応なしに気付いてしまう。
小さく水音が流れて捕まりそうになる寸前に宙に逃げた。そこで何かを言いたげな水馬を見る。
「すみません。私は行きます」
ここに居る意味はもう無いので。
居てくれと言った人はもう居ないので。
小さく「そうか」と返った言葉に感謝した。彼はあれでいて良く理解している。自分を閉じこめた檻はたった一人、あの男の手と言葉、その存在でしかない。失えばまた世界を回るだけ。
僅かに手を振る水馬は、本来ならきっと逃がすなと申し遣っていただろう。
見逃したのは存在の定義を知る故に。
特段、何もないのだけど。
あの低い温度の、妙に優しく羽に触れる手が無くなるのが寂しかった。
存在にまた巡り会ったとしてもその手は、
(たった一度きりだから)
>>もふ設定。
北の大国の暗黒王の死に際するならば。
僅か空気の震えるような澄んだ鳥の声が一つ。部屋に舞い込んだ緑白に手を差し伸ばせば声が返る。
「やぁ、ギルバート」
それは屈託のない少年の声。【漂う物】として世界を飛び回る存在の、それにしては何とも明るい声だ。
「ごめん。ちょっとだけ休ませて貰えないかな?」
永く錆を喰らい続けることに負担はないようだが、時折疲れを見せるとこうやって羽を休めに来る。
そっと手に舞い降りた鳥に笑いかけて「勿論」とギルバートは答える。
外はこの【漂う物】が苦手とする寒さを纏った冷たい風が吹いていて、タオルケットを一枚引っ掴むと暖炉の前に上手に丸めた。慣れた仕草でタオルケットの上に移動した【漂う物】が小さく鳴く。
「どういたしまして」
それが礼だと読み取って笑えば、器用に丸くなった鳥が僅かに羽を振るわせた。
普段人に触れ合う際には人の姿を極力崩さない彼が、こうやって鳥の姿であるのは限られている。
「そういえばね、ギル」
「うん?」
「ついこの間、花の国に行った時に凄く良いものを見つけたんだよ」
「良いもの?」
「そう。今度ここに来る時に持ってくるね」
「……オズ」
知識の妖精として生まれたギルバートが【漂う物】オズと出会ったのは永く前ではない。
精霊に昇華した今でもそうだが、ギルバートもその妹も妖精としては若い方だった。大空を舞った【漂う物】が大地に降り立つ瞬間、金糸に翡翠の瞳の、柔らかな笑みを湛えた少年に姿を変えたことを今でも良く覚えている。
それが時折羽を休めに来るオズとの出会い。
「……にしても寒いね」
「寒いのが苦手なんだから今時期暖かい国で休めば良いのに」
実際、オズは空を飛び回る時そうやって周回している。しかし言葉に鳥の姿の【漂う物】は首を振った。
「嫌だよ。休む場所には拘りがあるんだ」
微かな声で紡がれた言葉に、目を丸くしたギルバートがまんざらでもないように笑ったのを丸くなり半分眠りに落ち掛けていた【漂う物】は暈ける視界に映していた。
>>もふもふ設定のオズとギル。
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