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うるさい

そう呟いた。誰がではなくて、他でもない”彼女”が呟いたが故に闇がざわめく。
凝った闇が、収縮しつつ広がっていく。
相反する行動に誰もが現実から遠ざかった感覚を覚えるだろう。当たり前だ。
ここは終焉を待つ土地だ。場所だ。何より彼女が終焉を見守る存在であるが故の歪とも言えた。
黒いシンプルなドレスに身を包んだ”彼女”が堪えたというように耳を塞ぐ。
音は無い。
在る筈の無い音。
けれど”彼女”には聞こえていた。
細く、けれど強い、柔らかなようで絶対なまでの孤独を感じるような、その――。


歌声。


歌っているのが誰かなど明白だった。
けれど”彼女”は止めろと言う言葉を舌に乗せない。
ただ酷い耳鳴りにも似た、歌の中。
両耳を庇っていた腕をゆっくりと下ろして嫣然と微笑んだ。
赤い、血の色というよりは、純粋な焔の色に近い瞳が細められる。


「出来るのならば、それがやれるというのならば、やってみなさい。”冬の天秤”」

恋人に囁くように一種の甘さを持った声で彼女の口から言葉が落ちる。
”彼女”に終焉を止める力は無い。与えられたのは全てを見届ける役割のみ。
そして歌を紡ぐ”冬の天秤”は、相反する全ての事象の狭間で歌と言う名の焔を灯し続ける。
唯一、自分に出来る償いのように。


凛と立った”彼女”を取り巻くようだった歌に、少しだけ悲しみの色が滲んだように感じられたのは気のせいではなかった。
歌い手もまた、逃れられぬ運命の中で彼女の役割と自身の役割を知っているが故に。



だからこそ、感情の無い”彼女”でさえも、ぽつんと感じるくらいの哀しさがあった。






Title by 少年の唄。

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