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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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大体において理解し難いものだ、と悪態を吐く。
不思議なほど正反対の持論と結論に至った二人が、顔を合わせる度に意見がぶつかるのなど考えなくても分かるはずではないか。
だというのに懲りずに繰り返すのもどうかしている。
どうかしているのは相手であって自分でもある、と元就は思った。
きっとそれは相手も強く思っているのだろうと考えが行き着けば自然と眉間に寄せた皺は深くなる。
苛々と筆を滑らせる所作に淀みはないが、纏う雰囲気に棘が増した。
元々気難しいと思われがちな性格でもあるし、容姿でもある。
家臣達は誰もそんな元就からの不興を態と買うような真似はしない。虫の居所が悪ければ首とて繋がらぬかも知れぬ。
知らず緊張の糸が張り詰める中、元就に掛かる声はあった。

「あのさぁ……、気になるんだったら話に行けば?」

その場に酷く不釣り合いなほどに明るい声。
明朗な響きを持つ声は、ふらりと偶に立ち寄るあの四国の国主と雰囲気が似ていた。
それよりも響きは柔らかく朗々としてはいるが元就に苛つく原因を思い出させるに充分すぎる。

「貴様には関係のないことであろう。前田」
「そうは言ってもねぇ…。そんなんじゃお互い困るんじゃないかなと思ってさぁ」
「…何を」
「元親だってきっとあっちで同じようにしてるんだろうよ、ってことさ」

つと長く節だった指先が離れの室を指差す。
折角会いに来たのに可哀想だろうと言いた気な視線に元就は思わず視線を逸らした。
別に好きで言い争いがしたいわけではない。ただ自然と顔を突き合わせればそうなってしまうだけだ。
結局どっちの意見も互いから受け入れられることはなく勝手にしろと結論が出る。則ち、歩み寄りは無いと言うことでもあった。

「…ったく。あんたも元親も強情だねぇ」

くすくすと苦笑混じりの声が軽やかに紡がれる。元就の臣下には怖いもの知らずと取られるやもしれぬ言動であったが、元就は何も言うことはない。
それどころか前田家の風来坊である男のその言葉に一理あるとさえ思った。
どちらにせよ強情なのだ。だから妥協はない。

「まぁ、俺にはどっちでもいいんだけど」

しかしふ、と。
前田の風来坊慶次は声の調子を落とした。落ち着きのある声は注意深く聞き取らねばすぐに沈んでしまいそうな響きを含んでいた。

「でも、偶には素直になった方が良いよ。…こんなご時世だからさ、明日自分がどうなっているかなんて誰にも分からないからね」


声は悲しみさえも含んでいるかのようで、視線を上げた元就の視界に庭を眺めやる慶次の横顔が映り込んだ。
真っ直ぐに庭の深緑を映す瞳に感情は無い。


「………そうだな」

その表情に、覚えがあると元就は分からぬよう僅かに苦笑を漏らした。
大切な何かを喪ったことがあるが故に、切り取られたような無表情。ならば彼もまた――。

「肝に銘じておこう」


大切だと思った瞬間にするりとまるで無かったかのように喪うのならば、矢張りいつまであるか分からない時間のあり方が存在するうちに、後悔はないようにしなければなるまい。
ただ喪うだけの、そんな非力な自分では無いのだから。

「ああ、その方が良いと思うよ」


元就の答えに満足したか、慶次が穏やかに笑った。





>> 互いに大事なものを喪ったことがある故に通じる感情
    きっと余りにも強すぎた感情を言葉で表すのは難しく
    そして同じ思いを抱いた人間に悟られるのは容易い

    だから慶次も元就もお互い様

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気付けば春は遠い。
秋の様相は薄れ冬の気配は色濃くなる。全ての生命が眠りにつく季節。
寒さは否応なしに自身が生きていることを自覚させてくれたし、凛と張り詰めた空気は嫌いではなかった。
けれど、こればかりはどうしようもないと元就は独りごちる。
する、と襖が音もなく開くので元就は気配の主を悟って、彼にしては穏やかな声音で名を呼んだ。

「隆元か」
「はい。父上」
「…して」
「隆景からの書状によりますれば、どうやらご無事のようです」
「ふん、しぶといものだな」
「ご安心なさったのでは?」
「……いや。ではまだ四国は切り取れぬ、と思うたまでのこと」
「ええ。長曾我部殿がご存命とあれば、同盟を破棄するのは先送りにした方が宜しいかと」
「分かっておる」
「はい」

父親によく似た顔立ちの隆元が苦笑を零す。
少しだけ眉を顰めて抗議の様相を示したが、結局元就は何も言わず差し出された書状を受け取った。
丁寧に書かれた書状には、先日行われた四国での戦について書かれてある。無言で一通り目を通すと視線を上げた元就はじっと父の様子を覗う隆元の視線とかち合う。
容姿をとれば瓜二つと言えるだろう二人の、しかし纏う雰囲気は異なっていた。
元就に言わせれば、容姿は自分のものであったとしても嫡男の性格や内面性は妻のそれによく似ている。
穏やかでありながら芯は強く、肝心なところで折れぬ頑固さも持ち合わせているあたりなどそうだ。

「何だ?」
「いえ。宜しかったですね」
「隆元、別に我は…」

にこりと笑んだ息子が言葉を続けようとする元就を制す。
そしてもう一つ、傍らに置いていた書状を手渡すともう一度笑んだ。

「別に宜しいのではないのかと思います」
「隆元?」
「あの方とおられる父上は、…楽しそうですから」
「何を…」
「父上の中にあった冷たいものを、溶かせるのはあの方以外にはないのでしょう」
「隆元」
「……お喋りが過ぎました。失礼致します」

するりと父の言及が掛かる前に隆元は部屋から音も無く辞する。とんと軽い音で閉まってしまった襖を見詰め、短く息を吐き出してから元就は今程渡された書状に目を落とした。
表書きは自らの三男の字に間違いは無い。
乾いた音を立てて開けば、はらりともう一枚の書が現れる。
それは元就のどの息子の字でも家臣のものでもなかった。
見かけと海賊のような部下に慕われているには存外繊細そうな字が並んでいる。
少しだけ震えているように見える筆跡に、そっと冷たい指先を這わせた。

「…、無事で良かった」


誰にとも無く、呟けば。


「そうでしょうとも」

と若干幼さを残す声が襖から帰って、元就は自分でも馬鹿と思えるくらいにびくりと体を震わせた。
襖向こうの相手は気配を読んだか小さく苦笑する。

「……無礼ぞ」
「申し訳ありませぬ。けれど、無理を聞いて届けた書状で父上に安心して頂けたのならば、多少の無茶も報われます」

淡々と答える言葉に淀みは無く、幽かに乾いた音を立て開いた襖には元就の三男。
未だ四国の動向を探るために動いていたはずだったが…、どうやら戻ってきたらしい。

「戻ってきていたのなら、隆元と一緒に来れば良かろうに」
「……早馬で戻って参りました故、今少し間に合いませんでした」
「帰ってきたばかりか」
「はい」
「何か変わったことが」
「お会いしたいと申しておりました。余りにもしつこいので」
「…………待て」

にこりと笑った隆景の言葉に制止をかけるも、気に留めた風も無く息子は告げる。

「直にお着きになります。それを伝えに参りました」
「…小早川の当主とあろう者が、伝達兵と同じ役割をするとは…」
「私の馬が一番早うございました。…だからのこと」

動じることなく告げた隆景が、矢張り先程長兄が言ってのけたように父に言うのだ。
「宜しかったですね」と。
意味が分からぬと不平を漏らせば苦笑が返り、少し悔しいですが喜ばしいことだと言う。
元就は用件だけを告げ下がった息子の姿を見送ってから、そっと立ち上がり溜息を吐いた。
本当は意味など理屈ではなく知っているのだ。
そんな父親の性質全てを見越して、息子達は笑って寄越した。
父親の頑な過ぎる冷たさに暖かさを取り戻させた、その存在に対しての気持ちを読んだ上で。

 

「…………分からぬ、な」

暫くすれば訪れるだろう騒がしい男を思い浮かべて、元就は眉間に皺を寄せる。
けれどそれは不快からではなかった。





>> 思えば、息子は元就よりも精神的に出来ているような気がするなの話(え
    なんかよく伝え辛い感じの話です。あいた …!

うつらうつら、と意識がたゆたう心地良さに重くなる目蓋を咎めるように、そっと指が頤を掬う。
眠いと意思表示をするようにふるりと首を振るったが、関係ないと言いたげに指が唇をなぞった。

「………眠い」

漸く声を上げれば満足そうに男が笑う。
海での生活を主とする割に、この男は日焼けをしない。体質なのだ、と前に話していた気がする。
脱色されたような白に近い銀髪は癖であちらこちらに向き収まり悪く、けれど指先で触れれば柔らかで心地良い。
無造作に伸ばした指先がその髪を掴む。一房とつい、と引けば応えるように男が身を屈めた。

「眠い。寝かせろ」

それだけを告げて眠ってしまおうとする元就を、男は尚も引き止めるように触れてくる。
さらりと真っ直ぐな髪を梳いて首筋にそのまま掌を宛がう。性別にしては細い首は、男の大きな手であれば簡単に絞められるだろう。その危うさであるというのに元就は気にせず寝てしまおうと目蓋を閉じる。

「…おい」

不機嫌そうに元就に声が掛けられる。珍しいくらいに険を含んだ声に薄ら目を開けた元就は、笑って見せた。
眠さで何故笑うなんて行為に出たのかは分からない。
ただそうすればいいという本能にも近い直感で笑った元就を、驚いて目を丸くした男が覗き込んだ。

「おい。…元就」
「…ん」
「てめぇ、それ分かってやってんのか。卑怯だぞ」
「…な、」

問おうとした声は半分以上が、急に口吻けしてきた男の口腔に飲み込まれる。
突然の行為に一瞬抵抗も忘れた元就だったが、執拗に口吻けを求める男の隙を突いて鳩尾に拳をめり込ませた。
声にならない悲鳴を上げて床に沈んだ男を気のない視線で見遣りながら、小さく息を吐く。


「長曾我部、我は眠いと申したのだ」
「……も…っ、何も急所……」
「日輪が登る頃になったら、また話でも聞いてやる故。……今は寝かせろ」

尚も言葉を発する男には一瞥もくれず、元就は瞳を閉じる。
全くもって不本意ながら、五月蝿いと感じるこの男の声は耳に心地良いのだ。
出来るなれば文句ではない言葉であれば良かったのだがな、と少し我が侭なことを思った元就の、その意識が眠りの海に沈むまで時間は掛からなかった。



>>元就はやかましいと思いながら、元親の声が嫌いじゃないと良い。
   その声を聞くと安心してしまうと良い。
   そんな妄想^q^(またか

凝った闇があるのだ。
其処に何が在るのかを知るなど無粋過ぎる。だからこそ静寂を好み、規則的に呼吸をする音に併せる足音を愛しく思ったのだ。するりと音もなく襖は開き、闇夜の微かな明かりに過剰に光の残滓を残す髪の手触りを思い出し、掌に視線を落とした。
この手は確かにその感覚を知っている。
疎ましい、と思ったこともあるのに今は思いもしないのだ。一体どんな心境の変化なのかと訊かれれば自分でも分からぬ、と毛利元就は答えるだろう。
風のように実体がなく何処までも自由なようで居て、触れようと手を伸ばせば確かに其処にある存在を表現しようとも如何ともし難い。
大切だと思った人たちは全て手をすり抜けて遠くに逝ってしまった。だからこそ手を伸ばすことさえしなくなった元就の、其の手を取って空も海も、何処までも続く蒼の世界に手を翳すことが怖ろしくはないのだと、いとも容易く教えた存在は非道く鬱陶しく、また非道く眩しかった。
崇拝する日輪と同じような曇りのない目映さを持つ存在は、時に静かで逆に怖いとも思ったのだ。
日輪のように眩しく、そして海のように広くおおらかで、それでいて時に嵐の海のような。
嗚呼、そう。喩えずとも海と似ている。

「よう」

掠れた低い声が短い挨拶をする。
視線を上げれば海の色そのものが元就の姿を映し出していた。暗闇にあっても尚、鮮やかな、蒼。
知らずついと手を伸ばせば、口角を少し上げて西海の鬼と畏れられる男は笑った。そして元就の指先を取って恭しく口付ける。ただ押し当てられただけの暖かさに元就が反応しきれないで居るともう一度と口付けてきた鬼が徐に元就の腕を引いた。
為すがまま、鬼の腕の中に収まった元就が小さく頭を振る。
その髪にも口付けて一度強く抱き締めると、僅かに身動いだ元就を慮ってか腕の力を緩めた。

「…来るときくらい連絡を寄越さぬか」
「分かるだろ?」
「………分からぬ」

感覚が狂うのだ、と小さく付け足して元就は押し黙る。沈黙を是とも非とも取らず曖昧に「そうか」とだけ呟いて元就の髪を飽きずに手で梳き始めた手つきは優しく、人に触られることを極力厭う元就であったが抵抗の素振りも見せず享受した。
穏やかで曖昧に全てが幾重にも薄い膜を重ねたように暈ける時間は、元就の知謀の元である思考力を奪う。
毛利の家を守る為だけに動く其れを、緩やかに停止させてしまうような存在は目の前の鬼以外にはない。

「なぁ。元就」

名を呼んだ掠れた声に顔を上げれば顎を掴まれて些か強引とも言える接吻が施される。
反射的に目を瞑った元就の、その睫の縁をなぞるように優しく触れる温度は温かすぎて。
喪うのが怖いのだ、と身を引いた嘗ての元就を掴み寄せた手と同じであった。
だからこそ触れた暖かさに、満たされるのと同時に、過去幾度と繰り返した喪失の痛みに心の底で怯える自分を見つけて元就は自嘲する。


触れて満たされるのには、あとほんの少し喪っても尚残るものへの確信が足りない。




>>きっとその確信でさえ、優しく当たり前のようにくれる人。

   喪ってばかり過ぎて、それが怖くて、それが嫌で、あんな風に元就はなったのなら
   元親の存在はきっと、こんな感じな気がする。

強く握り合った手の温もりを覚えている。
さらりと指を通した滑りの良い髪の感覚を覚えている。
怜悧な刃物のような視線が時に、何かを求めて頼りなく宙に浮く様も躊躇って呼ばれた声も全部。
鮮明すぎて怖かった。いつか薄れて消えてしまうのなら尚更。
ただ毛利元就という人間が自分は好きだったのだと、すとんと気持ちに整理を付けることも、さらりと笑って言える過去になることも怖くて仕方なかった。
小さな背中が背負っていた全てのものを代わりに背負うことは出来なくとも、蹌踉けたときに支えてあげられれば良いと思っていた。

「会いてぇなぁ」

だからこそ。
あの時、不意に見せた脆さに手を伸ばすのを躊躇った自分を今更に愚かだと思うのだ。
この時世、いつ誰が突然死ぬやも分からないというのに彼だけは別だと思っていたのか。
凛として其処にある姿はいつだって儚いくらいではなかったか。
笑うのにも理由が居ると言いたげな瞳は、いつだってそれでも眩しそうに世界を見ていた。
守るのは此だけでよいと呟いた唇は、それでも時には穏やかに自分の名を呼んだ。

「嗚呼、可笑しいとは思わねぇか。毛利」

もう居ないはずの名を呼ぶこと程滑稽なことはない。沈黙ではなく虚無に投げかけられた問いに答え得る声は無いはずであった。微かに揺れた空気は開け放った障子戸から入る風であったか。
さらりと衣擦れの音が耳に滑り込む。
それさえも幻覚だろうと自嘲して言葉を絞り出す。

「俺は今になって、本当に…お前が好きだったって思うんだ」

少しずつ思い出になり痛みは褪せるはず。
喪失感は薄れて少しずつ踏み込めない思い出となり得るはずなのに、幾程の時が経ってもふと探す人影に喪失感は薄れない。
鮮明すぎる残像はいつまで経っても元親に痛みを与え続けた。
望みはんなんだと聞いたことがある。
寂しくはないのかと問うたことがある。
最初はその度に怒っていた気がしたが、ふと或る日寂しそうに落とされた言葉があった。
自身の幸せよりも毛利を選んだと言ったその言葉が不器用なくらいに真っ直ぐで、反射的に抱き締めてしまって困らせた。
家を、国を背負うのはその家に生まれたものとしては当たり前のことだ。けれど全てをその為に自分の全てを捨ててしまうような生き方が余りにも不器用すぎて、自分のことなどそれでいいと告げる彼を思って泣けば、おずおずと背中に回った手があやすようでもあった。
そうして嗚呼、そうだ。彼もまた自分と同じ血の通った人間なのだと元親は思った。
思い出せと言われれば際限なく、本当に些細なことまでもが思い出されるのである。
喪いたくないから守りたいとは冗談でも言える関係ではなかった。
彼を庇護するなどという選択肢は元親は持ち合わせてなかったし、対等な立場だからこそ得られた関係でもあったからだ。
ふらりと立ち寄って、他愛の無い話をし、そしてまた去っていく。
寄せては返す波のように。
けれど海無くば生きられぬように元親の中で毛利元就という存在は大きくなり過ぎた。

「……出来るならばもう一度、会いてぇなぁ」

呟いた言葉は本心だ。
また、と言った言葉に少しだけ穏やかに笑って頷いた彼は、一月もしないうちにこの世を去った。
呆気ないと言えば呆気なく、当然と言えば当然であったのかも知れない。
何か予感めいたものが彼にはあって、だからこそ最後に会ったときに少しだけ戸惑いがちに元親の言葉を受け入れた。
あの時にどうして―。

「喧しい。お前がそうやってぼやく度に我は起こされて、…静かに眠るのさえ適わぬ」
「…毛利」

とん、と襖の開く音と共に呆れた声が耳朶を打つ。
振り返った先に陽光を受けて溶けるような柔らかな髪の色と細身の影。逆行で顔はよく見えなくともそれが誰かなど元親には一目瞭然であった。
声も間違えようがない。
思いすぎて幻覚でも見ているかのような心持ちで動けない元親に更に呆れた声が続けた。

「久しぶりに見る顔は矢張りどうしようもなく阿呆面よな。元親」

姓ではなく、名で読んだその声は非道く懐かしい。

「本当に?」
「仕方あるまい? お前が五月蝿すぎてほとほと困っていた頃合いでもあったし、誰もがお前を迎えに行けというのだから」
「……迎え?」

とん、ともう一度軽い音で襖が閉められる。
少しだけ俯いた彼が、

「…そうだ。不本意だが仕方ない。もう少し…長生きをして貰いたかったのだがな」

笑う。
そうして優しく告げる言葉に妙に納得して元親も笑った。
たくさんの見知った顔が彼岸の住人となっていた。にも関わらず迎えに来たのは彼らしい。
言葉もなく伸ばされた手が、そっと元親に差し伸べられた。

「悪ぃな」
「全くだ。もう少ししぶとく生きてくれるものと思っていた」

その、男にしては細い手を掴んで立ち上がった元親は自身の足下にもう一人の自分を見る。
眠ったままの自分の顔などこれ限り見ることはないだろうとぼんやりと思うと、掴んだ手に僅かに力が込められた。

「……元親」

諭すような声音に「大丈夫だ」と首を振った。
今更、生が惜しいと暴れ回るには少し気概がなさ過ぎたし、何よりも迎えに来たのが彼であればこそ、この手を離すのが惜しい。
そんな元親の気持ちを読み取ったか、小さく呟かれた言葉は余りにもらしくなく笑ってしまう。
思わず握られた手を引いて小柄な彼をすっぽりと自身の腕に収めると久しぶりの感覚に元親は屈託無く声を上げて笑った。
咎める声が返るのかと思ったら小さい溜息が一つ聞こえただけで、躊躇いがちに顔を覗き込んで元親は言葉を失う。
なんて顔をするのか。
慌てて俯いた彼が器用に元親の腕の中から逃れると、微かに手を引いて歩くようにと促した。
手を引かれる形で数歩、彼の後を歩く元親がゆるりと振り返れば布団の中で眠る自分の姿。
もしかしたら今、手を振り払ってあそこにいけば戻れるのかも知れない。
けれど戻る気はもう無かった。

 

 

申し訳なさそうに、泣きそうな顔で笑った彼が此処にあったから。






>>おむかえです。 とまぁ、そういうこと。
   何だか死にネタが多いなぁ。逆に元親がお迎えにくるパターンも
   考えていたりします。

   ありきたり…!(馬鹿

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プロフィール
HN:
くまがい
HP:
性別:
女性
自己紹介:
此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

ブログ内文章無断転載禁止ですよー。
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