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まぁ。それはそうとどうしてそうなって、そうなったのか。
検索機能を使いながらユーリは隣で深刻な顔で黙り込むフレンを見詰める。
主に命じられるままに弾き出したのは数件の花屋だ。その後からだんまりを続けるフレンの傍らでユーリは暇そうに欠伸を噛み殺した。
冬に差し掛かったとは言え、長閑な昼下がり。
葉を落として寂しくなってしまった枝の合間から射し込む陽光は穏やかで温かい。
その、夏に比べたら控えめな光がフレンの金糸を染めて、とろりと溶けるような蜜色に変化させていた。
傍らで光の波紋がゆらりと動いては、残滓を弾く髪を眺めてユーリが「ん?」と声を僅かに漏らす。
「……どうした、」
「フレン。メール」
つい、と腕を引いてメールの着信を告げる。
髪を結わえていたシンプルだが気の利いた革製の結い紐を揺らしてユーリがメールの確認を促す。
「フレン」
「……ん、おいで」
差し出される手を迷わず取って、ユーリがフレンにメールを差し出した。
擬人プログラムが内包されている最新の携帯事情に置いて、人格を優先されるのは珍しいことではないが、ことフレンに関して言えば、機種を変える際にもプログラムを移行させると言い切るほどの尊重っぷりだ。
優しく手を引かれて、返信をお願いしたいと耳元で囁かれてユーリは小さく笑った。
「それよりさ」
「……うん?」
「早く買う花でも決めて、生身で会いに行ったら?」
その方が喜ぶ、と付け足せば。
困ったね、本当に。と優しく笑った、持ち主が僅かに冬風に晒されて乱れたユーリの髪を手で梳いた。
>検索機能とメール機能。
携帯:ユーリ、持ち主:フレン。
きゃっきゃと声を上げてはしゃぎながら駆け回る子供を尻目に、のんびりとした昼下がりの様子をユーリは眺めた。
水道魔導器がさやかな音を作り上げる噴水に腰掛けて温かな光景に目を細める。
遠くで子供の名を呼ぶ、一対の声が聞こえた。
弾かれたように振り返った子供が路地の向こうに手を振って、そして踵を返し勢い良く走っていく。
ユーリの手前に差し掛かった時、石畳の僅かな段差に蹴躓いた子供の姿勢がぐらりと前のめりに倒れた。
慌てて腕を差し出したユーリに子供の体重がかかる。
どさり。
利き手に下げていた剣が同時にからりと固い音を立てた。
「……大丈夫か?」
転び掛けたことにも、突然横から差し出された腕にも、そして直後に上がった音にも驚いたのだろう。きょとんと目を丸くしていた子供が、自分とユーリを交互に見て放心気味にこくこくと頷く。
路地の方から足音が駆けてきていた。
子供を先に立たせ、自分の僅かに汚れてしまった服の裾を払ってユーリは子供がまだ若いといえる年回りの男女の元へ掛けていくのを見守る。
ここからでは聞こえないが、指を差しながら何かを言う子供の頭を撫で、二人は同時に頭を下げた。
それに手を振って応え、ユーリは自然と詰めていた息を吐き出す。
手元から僅かに離れた愛剣の鞘を引っ張り、引き寄せ立ち上がろうとして横から差し出された手に苦笑した。
「いつからいたんだよ」
躊躇わず手を取って立ち上がると、案の定見慣れた金髪が揺れる。
「子供が転びそうになったのを助けたあたりから」
「……あのね」
普段着込んでいる甲冑や騎士服ではなく、ラフな平装に身を包んだフレンは僅かに笑んだ。
騎士団の仕事に忙殺されながら、こうやって外に出てくるのは容易ではない筈なのに何でもないことのようにやってのける。
腕を引き促され、噴水にまた腰掛けながらユーリは先程の親子が歩いていく路地を見遣る。
「なに?」
じっと視線を定めたままのユーリの様子にフレンは問う。それに曖昧に相槌を打って、先程子供を庇った手を看ていたフレンに視線を移した。
気遣わしげに傷が無いかを確かめる手を、指先で軽く叩く。
上げられた視線を絡めて、そういえばこの瞳の色は父親譲りの色だと思い出す。
「大丈夫。怪我してねぇから、お前も座って」
「でも怪我が残ったら。君は一応女の子なんだし」
「大丈夫だから」
念を押されて観念したのか、ゆっくり手を離したフレンが隣に腰掛けた。
二人が押し黙る沈黙は路地のそこかしこの談笑に埋もれていく。
「なぁ、フレン」
「……ん?」
「思い出したんだけどさ」
「何を?」
「オレ、お前のとこの両親好きだったなぁって」
そうなの、と聞き返すフレンにユーリは笑う。
幼い頃から両親の居ないユーリにとって、フレンの両親は憧れそのものだった。
騎士だった頼りがいのある父と優しくて暖かい母。フレンの家に遊びに行った時、二人はよく寄り添って優しく笑い合っていた。
なんて温かいのだろうと幼心に思っていたものだ。
「良いなぁって。いつかオレもあんな風に家族を作れるかなって考えたことがあったよ」
しみじみと言うユーリの視線が、真ん中の子供を手を引き歩いていく男女二人に止まる。
遠くなっていく背中をどこか憧憬に似た響きで語る幼馴染みの顔をフレンはまじまじと見詰めた。
男勝りな性格と口の悪さが相まって、どちらかというと印象では薄れがちだがユーリは綺麗だ。
日に焼けても白い印象の肌と引き立てる漆黒の髪、整った顔立ちは黙っていれば通りすがった異性が気にして目に留めるほどには。
「ねぇ、ユーリ」
うん? とぼんやりとした声に、ユーリの利き腕を引く。
咄嗟のことに姿勢を崩したユーリを抱き留めて、次にユーリが口を開いて文句を言う前にフレンは耳元で囁いた。
「だったら、僕と目指してみる?」
何を言われたのか理解が追い付かず瞬きを繰り返したユーリが俯く。
馬鹿、と小さく呟き、くすくすと笑みを含む声にフレンはユーリを抱き締めた腕に力を込めた。
>>11月22日はいいふうふの日!ってことで書いたふれにょゆり。
私の技量では男でも女でも変わらないユーリちゃん涙目。くそぅ。
突然の寒さに動くのも億劫なのか、暖を取る為に出した毛布の中に丸まってしまった姿は見えない。
ただ拾ってきた時よりは大きくなったユーリの、尻尾の先だけがゆらりと横に振られるのが見えた。
「ユーリ、温いミルク持ってきたから」
常温では寒いだろうと少しだけ暖めたミルク皿を、毛布の固まりの脇に置くともぞりと動いた。
艶やかな漆黒の毛並みの子猫が耳を立てて顔を出す。
首を傾げて鼻先をミルクに近づける様子を見て、思わず笑みを零した。
そういえば温かいミルクはまだあげたことがなかった。
余り熱いのは飲めないだろうと踏んで、少しだけ暖めたのだが、それでも猫の舌には熱く感じられるのあろうか。
「ユーリ?」
そろりとミルクに口を付ける様子を見守れば杞憂だったらしい。
温度は大丈夫だったらしく、最初の臆病な様子はどこへやら上機嫌にミルクを飲む子猫がそこにいる。
子猫を拾ったのは季節がまだ春に差し掛かる少し前。丁度寒さが和らぎ始めた頃だった。
建物の影で警戒していた小さな猫がとてもじゃないが気になった。
本来なら飼うことは躊躇われるはずのそれを全く躊躇なく家へと連れて帰ったのは、手を伸ばした時僅かに怯えながらも寄ってきた温度がとても暖かかったからかも知れない。
季節はそろそろ冬に差し掛かる。
まだ白いものが空から降っては来ないが、あと一月もすればちらつくことだろう。
がたがたと窓枠を風が揺らした。
そっと毛布にくるまれた背を撫でてやれば、小さく喉を鳴らすユーリが言う。
「……ふれん」
名を呼んで言う。
「さむい」
ふるふると肩だけじゃなく、体を震わす子猫に苦笑した。
確かにまだ夜の帳は落ちたばかりで、この調子だと夜中はもっと冷え込むだろう。
自分も突然訪れたこの寒さに体が慣れず、寒い。
なら。
「それじゃ、今日は一緒に寝ようか」
―きっと一人よりは暖かいだろうから。
>>ツイッタでお世話になってるHさんに捧げたこにゃんこ小話。
……難しい^q^
詩がある。声がある。音がある。――全てが、そこで合う。
瞬間息を吸い込む、あの独特の緊張は嫌いではなかった。変に本番に強い方だったし、何より歌が好きだったから。
気付いたら光の洪水かと錯覚するようなステージの上にいて、おかしいと内心笑ってしまったことだってある。
ただ自分の好きなことをやってきただけ。そういう言い方は良くは思われないかも知れないが、それで気付いたらユーリは”歌姫”の座を手に入れていた。
(面倒臭いの、な)
目深に被った帽子に遮られた視界で、街中を眺める。
一番最初に目に留まったショーウィンドーにはすっかり秋めいた今年流行のワンピースを着たマネキンがいた。
流石にサングラス着用とまでは行かないが顔が極力隠れるようにした今の格好は不本意だ。
何分全てに置いて自然体が信条である。
ごそりと色々詰め込んだトートバックに手を突っ込んで、手帳を引っ張り出す。
次の予定まで3時間。ふらふら買い物をして時間を潰すのには丁度良い。
そういえば見ておきたかったとカントリー風の雑貨が並ぶ店に入った。
店内をぐるりと見渡し、そろそろ誕生日の近い友人へのプレゼントに丁度良いかと木目の柔らかな風合いのアクセサリーケースを手に取った時、ふと店内を流れていた音楽が変わる。
聞き覚えのあるイントロに自然と顔を上げた。
不思議な話。
自分の歌がそこかしこ街で流れるのは未だに慣れない。
「あ、この曲好き、いいよね」
「新しい曲? 初めて聞いた。良いね」
店内で買い物をしていた女子高生が一人、歌に気付いてそう言う。隣を歩いていたもう一人が相槌を打った。
視線を下げて手元に視線を落としながらユーリは少女達が後ろを通り過ぎる、その会話をこそばゆく聞く。
なんか恋愛してるって感じ、と言われて少しだけ笑ってしまう。
そうじゃないんだけど、とは独り言でも言えない。
恋愛の歌じゃなかった。単に友愛を歌ったのだけど、それでも聞く人が聞けばそう取れるらしい。
アクセサリーケースをレジに持っていき放送されるのを待ちながら思い出す。
ついこの間、作詞をしている際に言われたことがあった。
とてもとても不本意だが。
――ユーリちゃんさ、恋したことある? 一目惚れとか。いや……どちらかというとされるタイプなのは分かってるけど。
(もっときらきらしてても良い、か。……おっさんの言うことよく分からないんだよな)
自分のマネージングをする中年の男が言った台詞はとてもじゃないが容姿とはかけ離れていて、その時は笑ってしまったのだが。
確かに恋なんてしたことない。いや憧れた先輩とかは居たこともある。でも、一目惚れなんて経験はない。
(つーか、抑も今時一目惚れなんてあるか?)
綺麗に包装された箱を受け取って、ユーリは店の扉を開け。
――考えに耽っていたのがいけなかった。
「……え?」
ごつん、と鈍い音と感触が手に伝わり思わず声を上げる。
扉を見て、その先で動いた金色に思わず目を留めた。
痛いと小さく上がった声は学校の制服を折り目正しく着込んだ、いかにも優等生と言った様相の男子学生のもので。
声を掛けようとした瞬間、その学生が顔を上げる。
綺麗な色がそこにあった。
空というよりは空の色を映した海の青。髪は陽光を織り上げたような柔らかな金色。
眼鏡をかけてはいるが嫌味な感じを一つも与えず、真っ直ぐに見詰めてきた瞳にユーリは声を飲み込む。
「……あ、」
「大丈夫ですか?」
耳通りの良い声、と思う。間違いなく自分の不注意で扉をぶつけられた方の学生は気遣わしげに、動かないユーリを首を傾げて覗き込んだ。
「あの、」
「ぅ、だ、大丈夫ですっ。……というより、あんたこそ、大丈夫か?」
近づいてきたおかげで分かる。癖毛の前髪に隠れた額が仄かに赤く染まっている。
間違いなくぶつかってしまったと伸ばしかけた手が、金色の前髪に触れた瞬間我に返った。
全然知らない人間に不用意に、こんなこと。
「ごめ、」
「大丈夫ですよ。少しぶつかっただけで、怪我もしてませんから」
慌てて手を引くユーリに、男子学生は笑う。
にこりと柔らかな笑みに何故か理由も分からないまま、心臓が跳ね上がった。
店の出入り口で立ち往生するわけにも行かず何とかその場から退いて、ユーリは深々と頭を下げる。
「本当、ごめん……! 少し考え事をしてて」
「いえ。本当に大丈夫ですから。それより貴女の方こそ大丈夫ですか?」
問いにユーリが今度は首を傾げた。
何も心配されるような事はなかった。顔を上げると純粋に心配する表情を浮かべる学生と視線が合う。
「怪我とかは」
「してない……、です。全然平気」
緩く首を振ったユーリに「良かった」と告げた学生が、ふと気付いたように時計へと視線を移す。
そして一度困ったように視線を巡らせてから、ユーリに視線を戻した。
「あまり考えに耽ると危ないですから、気をつけて」
それだけを言って、踵を返した背中に声をかけようとして思い留まる。
先ほど彼が視線を移した時計に目を向けると、自分もまた時間が少しずつ迫っていて、半ば駆け足でこの場を去った学生を追いかける事は躊躇われた。
彼の髪にほんの少しだけ触れた、指先を見下ろす。
跳ね癖のあった髪は色に似て柔らかかった。
(あれ、なんだ、この気持ち)
自然と頬に集まる熱は、時差を伴ったらしい。
(まさか。……そんなこと)
指先を軽く握ってユーリは目を瞑る。もしかしなくてもそんな馬鹿なこととも思えず。
そして多分間違いなく、次に書く歌は恋の歌なのだと知った。
>>ツイッタでお世話になってるKさんちの歌姫パロふれゆり。
典型的な少女マンガ風を目指して撃沈したorzorz
石を削り出して出来た階段を上る。一段二段。肩に担いだ重い荷物はその度に肩に食い込んで痛い。
それでもユーリは気を取り直して一段二段と上った。登り切ったら角を左。突き当たりの家の奥さんは決まって野菜を数種類買ってくれる。
その足で三件隣の旦那さんに顔を見せれば、細々とした生活用品の買い足しを言い付かることがあった。
今日はその前にいつもは声を掛けられたことがない家で用命があったし、良い按配だ。
ふうと階段を上りきって息を吐く。
随分と風変わりなこの街に来た頃は、言葉も違う、何も違う、その環境で挫けそうになったが慣れてしまえば悪くはなかった。
確かにこうやって物を毎日売り歩くのは結構骨が折れる。
加えて、この街は掟が全てで、土地番を持たぬよそ者は言葉を発することが出来ない。
体も未発達で力もまだ無い子供のユーリが、言葉も話せないのは随分なハンデだったが、物覚えの悪い方でなかったのが助かって何とか日々のノルマをこなしていた。
一度に重い荷物を運べないなら何度も足を運べばいい。
持ち前の前向きさで、そう考えたユーリは確かに正しい。
とんとん、目的の家の扉をノックしてユーリは中から声が聞こえてくるのを待った。
抑も、ユーリにとってこの街は生まれた場所でもなければ、話す言葉も違う、謂わば異文化だった。
砂漠地帯にあることも相まって乾いた風は砂を含み、ざらざらと感触を伴うようだし、街を行き交う言葉もどこか遠くのお伽話のようだった。
擦れ違った女が着ていた服の裾の刺繍に括り付けられた鈴が、涼やかな音を立てる。
振り返ってユーリは首を傾げた。街の住人達は全員仮面を付けている。
それが掟だそうで、この街に奉公に出されたユーリもまた例に漏れず、街に初めて足を踏み入れた際に仮面を付けたのだ。
最初は制限される視界に戸惑ったし、人の判別は付きにくいしで、困ってばかりだったが慣れた今となっては何てこともない。
毎日与えられる仕事をこなす。
話せない、体も小さい、力もない、言葉も分からない。様々なハンデを抱えてユーリはこの街で半年を過ごした。
今では行き交う言葉の殆どが理解出来るようになり、生活にも慣れ、言葉の話せない状態での意思疎通も出来る。
「やあ」
やっとのことで階段を上ったというのに、目当ての家での売り込みが終わり、また階段を下り始めた小さなユーリの背中に声が掛かった。
誰か物入りで呼び止めたのか、と以前のユーリなら思っただろう。
でも分かる。違う。
声を掛けてきた人物をユーリは、それこそこの街に初めて足を踏み入れた時から知っている。
「仕事、終わりそう?」
階段の上、仮面を付けた自分よりも幾分か背の高い少年が問う。僅かに仮面をずらしてみせる少年にユーリは首を振った。
まだ籠には少し果物が残っている。それを見て取ったのか、軽い足取りで籠を覗き込んだ少年が笑ったようだった。
「僕の好物ばっかりだね。買うよ」
そう言ってまだ肯とも反応を示す前にユーリの手に代金を支払って、少年は自らが持ち歩いていた袋の中に果物を詰めてしまう。
じっとその様子を見てユーリはひっそりと溜息を吐いた。
この相手と言ったら物腰は柔らかな癖に、時に酷く強引だ。
全部を詰め終わるのを見守って、立ち上がった少年がユーリの手を引く。
「行こう、ユーリ」
そして腕を引かれるが侭にして、ユーリはすっかり軽くなった籠を手にしたまま階段を駆け上る羽目になった。
「最近、母さんの具合が悪くてね」
砂の海に太陽が引っ掛かり、全て金色に染まる景色を見下ろせる高台にまで歩いてきて、漸く少年はユーリの手を離した。
首を傾げたユーリに少年が笑う。
「これだって僕より母さんの好物なんだ」
先程果物を詰めた袋を持ち上げ、少年はユーリを手招きする。
初めてユーリがこの街に来た時、まさか言葉を発してはいけないと知らず声を上げ雇い主の男を怒らせてしまったことがあった。
よく分からないまま自分はもしかして捨てられるかも知れないと愕然としていた時、助けてくれたのが目の前の少年だ。
この国の言葉ではなく、ユーリの生まれた時より知っていた言葉を片言ながら使って少年はユーリが言葉を話してはいけないことを教えてくれた。
その後も、分からないことがあったら教えると言った通り様々なことを教えてくれた少年は、仕事途中のユーリを見つけては度々この場所へ連れてきた。
街も外の砂漠も一望出来る見晴らしの良い場所は少年のお気に入りらしい。
身軽に塀に上り腰掛けた少年は、けれど今日ばかりはユーリの目に寂しげに映る。
胸まである塀に肘をついてユーリは少年の手を突いた。
ん、と声だけが上がり、少年は顔をユーリには向けない。
話すことが許されてないユーリが意思疎通を図るには身振り手振りで言葉を伝えるほか無いのを知ってるのに、少年は此方を見向きもしなかった。
本当は、声を掛けられたらいいと思う。
こんな時、名前を呼べたら良いのだろう。
別に喉が潰れた訳ではないから声は出る。でも出せない。それがこんなにももどかしい。
「ユーリ?」
そっと塀に付いた少年の手にユーリは両手を重ねた。それだけで何も出来ない。
落ち込んだ声で母の調子が悪いと言ったからには、本当に具合は良くないのだろう。前々から病を患って居たのは知っている。
家族思いの彼が気に病んで落ち込むのは仕方の無いことだ。
ぎゅっと手を握ったユーリを不思議そうに見返した少年が、ユーリの意図に気付いたらしく気の抜けた小さな笑いを零した。
僅かに震えた指先を握って、ユーリは此処に来て一番悔しいと思った。
多少強引さはあるけどいつでも助けてくれた少年の為に、自分が出来ることはない。
ただ名前を呼んで元気づけることさえ出来ないなんて。
項垂れて塀に額を付ける前に、当たり前だが仮面がぶつかる乾いた音がした。
「……ユーリ、ありがとう」
頭上から消え入るような声が届き、身動いだユーリの頭に少年の手が触れた。数度撫でられてユーリは泣きそうになるのを堪える。
必死で堪えて、誰にも聞こえないよう、隣の少年にも聞こえないよう、少年の名前とこの国の言葉で礼を呟いた。
>>NieR仮面の王とフィーアパロフレユリ。
誰得なのか最早分からない代物^q^;; 一応リクに答えた形(笑
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