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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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曖昧だな、と思った。身勝手だとも。
相手もならばきっと自分も負けず劣らずそうなのだと気付いて嘲う。
空が明けるにはまだ時間がありすぎて、少しだけ纏わりつく外気は寒い。
ふるりと一回首を振って外を見やった。
嗚呼、成る程。
通りで寒いわけだと苦笑する。庭木には薄っすらと雪が積もっている。
室内では身を切るほどの寒さはないが、普段よりも間違いなく寒い。
季節的にはまだ早い六花の降る様を眺めて元就は小さく息を吐いた。
吐いた息が白く染まるのを視界の端でぼんやりと眺めて、きっと雪は日輪が昇ったら消えてしまうのだと考える。
幾ら寒くなったとはいえ、まだ雪の降る季節には早い。
加えてこの地は寒さで言うならば厳しくはない土地だった。
だから、きっと。
陽が昇ったら、薄っすらと世界を白で覆った雪があっけなく消えてしまうのだろう。
何も残すことは無く、綺麗さっぱりと。
業の深い自分ではきっとそのように消えることは叶わぬなと思って、ふと彼を思い出した。
別室で休息を取っている同じように寒さに厳しくない土地に生まれた彼もまたこの寒さに驚いているかもしれないと思った。
そして次に馬鹿馬鹿しいと思った。
何故、考えるというのだろうか。
独りで良いと決めたのは自分だったはずなのに、気づけば自分の領域に入れてしまっていた男は日溜りのように暖かい。
だからこそ錯覚を覚えそうになって、踏み留まるのだ。
いつか。失うかもしれないのなら、それを大切と思うのは不要だ。
簡単に人というものは逝ってしまうのを元就は痛いほどに理解していた。
父も母も幼い頃に。兄も。幸松丸も、あっという間に。
気付けば大切だと思っていた人間は、自分の手をすり抜けていなくなってしまうのだから。

「……そう思うことさえ、もう手遅れやも知れぬな」

何も感じることの無いようにと幾重にも巡らせた壁はあの男には通用しなかった。
看破された挙句、尤も触れられて弱い所に簡単に触れてきた。

「…何が、だ?」

ぽつりと呟いた言葉に掠れた低い声が返って来る。
気配に気付かなかったと振り向けば、起きたばかりなのか少し寝崩れた夜着の襟元を合わせながら元親が足音も少なく近寄ってきた。
まるで図ったようなタイミングにうっかり呆けた元就が我に返って若干身を引く。
大して気にしてる風でもなく、それを見て苦笑した元親が次に開け放された障子戸から覗く景色に「通りで」と呟いた。
寒さに訝って起きたのかもしれない。

「雪か。…なんだ、冬はもう少し先だと思ってたがなぁ」
「……少し、ずれたのであろう」
「一足早いってヤツか」

一人頷いて元親が、少しの距離をとって同じように外を眺める元就に視線を向けた。

「…まだ日輪が上るには早い時間なんじゃねぇか?」
「そなたこそ。…いつもはまだ寝ている時間だろう?」

問いに問いで返す。
そうすれば「そりゃそうだ」と納得したように笑った元親が、ついと無防備だった元就の腕を掴んで引いた。
元々小柄な元就は油断していたこともあって、簡単に引き寄せられてしまう。
抵抗する間もなかった。

「   」

そして耳元近くで呼ばれた名に眉を顰めて、幾分も上にある元親の顔を睨み据えた。

「その名は呼ぶなと申したはずだが?」

呼ばれるのを厭う名は元就が決して公の場で呼ばれることの無い名。
その名を彼が知ったのは偶然に偶然を重ねたようなものであった。
しかし、元就ですら呼ばれ慣れぬその名は確かに、元就がこの世に生を受けたときに貰った名でもあった。

「いいじゃねぇか」

元就の冷たい口調に怯むことなく元親が笑う。

「これだってお前の名前の一つだろ」
「……我に、その名は必要ない」

言い捨てる。そう、必要ない。
だからこそ、元就は松寿丸と言う名で”男”として育てられたのだから。

「似合うと思うけどな」
「…今度そのようなことを口に出してみろ。…只では済まさぬ」


「弥生」

落ちた元就の声にも構わずに、元親が歌うように名を呼んだ。
だから、と反論しようと顔を上げた元就を迎えたのは満面の笑顔。

嗚呼。矢張り、手遅れか。



たぶん。きっと何もかも。






>>俺様設定(またか)親就。
   元就が本当は女子設定で、その女子の名が弥生だとか言う話。
   あの時代に女子が名を貰うのは半々だったんだっけかな?
   いや…少ないか。
   なんだかんだの諸事情で松寿丸の名で男として育てられたとか。
   まぁ適当にそんなところで(?)

   誕生月にちなんで弥生なんで何とも単純だけど。
   妙に似合ってる気がしてならない。
   名前が柔らかい割りに妙に硬い感じなとことか(え)

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滑り落ちているのは、水の音。
後は時の音。
悲しみも何もかも落ちて流れていくのは、幸いなことか不幸なことか。

「…………何かを守るためには何かを切り捨てなければならない、か」

それは大局的に見れば。
国を背負うのであれば、必ず守るために何かを捨てなければならないのだ。
覚悟はあった。分かっていたはずだった。
なのにいざとなったらこんなにも自分には覚悟がなく、こんなにも臆病だった。
ぐしゃりと肩まで伸ばした髪を掴む。
視界の端の髪は薄い金色。誰かが日溜りの色だといった。
けれど、血に良く染まる色だな、と自嘲気味に今は思う。
この手は見えなくとも血に汚れて、この身は流される血の犠牲によって生きながらえているに等しかった。
分かっていたはずだった。
理解しているはずだった。
皇帝という地位が如何に血によって、犠牲によって、築き上げられているのかを。
けれど実際は分かってはいなかったのだ。

「………陛下」

篭ったはずの部屋に、声が落ちた。
静かに柔らかくそれを呼ばれてのろのろと顔を上げる。
自分とは対照的な冴えた銀色の髪がふわりと揺れて、淀みない足音が自分の目の前で止まった。
空の色というよりは雪国の海の色に似ている瞳が覗く。

「アスラン、か」
「……会議の時間でしょう?」
「……出たくない」
「陛下」
「…おれ、は…もう」
「…ピオニー」

嗜めるように名を呼ばれる。
目の前にある雪国の海を模したような瞳が静かに瞬いた。

「…貴方は、大切なことを忘れてませんか?」
「何?」
「貴方がいたからこそ救われたものがいるんです。…そうでしょう?」

分からない。
そう呟いた声に、小さく息が零される。
何も分からないと言えば、今度はそっと笑った彼が言い聞かせるように言葉を紡いだ。

「…貴方が最初に此処を臨んだ時の覚悟はそんなことで、折れるようなものでしたか?」

静かに問われて、首を横に振った。
わからないと思ったけれど、それは違うと思ったからだ。

「なら、貴方が今出来ることをやっていただかないと」
「…アスラン?」
「私も困ってしまいます」

そういって彼は驚くほど穏やかに笑った。
良く分からないと結論も、割り切りも出来ないままで、全てを後悔しそうな中で、その表情だけが違うもののように見えて、悲しいことばかりの中に一つだけ違うものが混ざった。
だからこそ、まだ歩いていけるのかもしれないとぼんやりと思えたことは幸運なことだったのだろうか。
ああ、また客か。
ぼさぼさの頭を面倒臭そうに掻きながら、男が溜息をつく。
拍子に銜えていた煙草を落としそうになった。
慌てて噛み直すがぱらぱらと灰が男のしわしわのズボンの上に振り落ちた。
どうやら焼けて穴が開いたりはしなかったようだ。
良かった。折角の一張羅だ。
男はほっと胸を撫で下ろすと、事務所の入り口付近で躊躇う人の気配に目を向ける。
曇りガラスの向こうの人影の顔は良く見えない。
けれど、背格好からして女性だと知れた。
これで美人ならば面倒な仕事も悪くはない。
いつまでたっても開けられない扉を開けに男は立ち上がる。
ドアノブに触れようとした瞬間、静かにノブは回った。

「…おっと、いらっしゃい」
「あなたが…この事務所の探偵ですか?」

するりと静かな声が耳を打った。
扉を開けた女性が見上げる形で問うたのだ、と男が認識したのは数秒経ってからの事だった。
色白の女性の澄んだ色の瞳が少しだけ細められる。

「ああ。俺が……まぁ、一応探偵だな」

彼女の言葉に答えてなかったと人の良い笑みを浮かべると女性が微笑む。

「それは良かった。…少し、依頼したいことがございます」

静かな声でそう告げた女性のために男は身体を退けた。
大柄な自分が事務所の出入り口を半分塞いだ形だったからだった。
決して広くはない事務所に女性が一歩足を踏み出す。
雑然と書類が積み上げられている机の前に応対用の机とソファがあった。
顎をしゃくって示せば、一つ頷いて女性がソファに向かって歩き出す。
その後姿を見ながら、男は開けた扉を閉めた。

「さ、て。この事務所にいらっしゃったということは、どうやら普通の探偵では手に負えないことがおありのようだ。
悪魔との契約の調査ですか?それとも…」



つらつらと言葉を紡ぎ始めた男が後ろ手で閉めた扉の表には、”吉崎オカルト探偵事務所”と書かれてあった。




title by ロメア ( http://rei.hanagumori.com/ )


>>架空職業タイトルより拝借
鳴り響いた銃声。
数瞬遅れて倒れこむ人影。それを見下ろした瞳は硝子玉のようでなんの意志も見当たらない。
否。すっかり抜け落ちてしまったようだ。
倒れこんだ女性の柔らかな桜色の髪に真紅の色が混じる。
それでさえ少しずつ酸化して彩度を落としていく。
突然の襲撃に何回か春の青空に似た瞳を瞬かせて、覚悟したように瞳を閉じた彼女は潔かった。
後は引鉄が引かれるまで彼女は微動だにしなかった。
あまつさえ笑みさえ浮かべて見せたのだ。

「…………どうして」

口から吐いて出た言葉は揺れていた。
自分の声ではないようで、焦る。望んだのは自分だろう。
彼女に死を与えたのは自分のこの両腕だろう。
どうしてなどと言葉が出てくるのはおかしい。あってはならない矛盾のはず。
なのに言葉は止まることがなくどうして、ともう一度口から言葉が滑り落ちる。
流れるのは彼女の生きた証か。
それとも自分の凍らせてしまった感情か。

”――貴方が、望むのなら…わたくしは受け入れましょう。
 それで、貴方が戻ってきてくださるのなら”

静かな声が耳に甦る。
何の感情も灯さなかった瞳が不意に、揺れた。
悲しみと後悔の色に。途方もない絶望の色に。


「…ラクス…?」

名前を呼んだ声は力なく、倒れ込んで動かない彼女の傍らに落ちた。
そこで漸く状況を理解した。
嗚呼。自分はこの手で、彼女を殺めてしまった。
靄のかかった自分の判断力と意志のないままに彼女の命を摘んでしまった。
唯一の。
世界にとってもかけがえのない歌姫の存在を。

「……っ」

声にならない嗚咽が漏れた。
苦しいのか悲しいのか憤っているのか既に分からないままで、溢れ出た感情が止まらない。
ただ涙だけがしとどに頬を濡らして、その感触だけが全てだった。

「ごめん。……ごめん」

嘗て、守ると言ったのは自分だ。
ならばわたくしも貴方を守りましょう、と言ったのは彼女だ。
彼女は約束を守り、自分は守れなかった。
感情と意志を奪われた自分を彼女は自分の命を賭して守ったのだ。

「……ごめんね…ラクス」

それ以上の言葉を持ち得ないまま涙と言葉を零す。
冷たくなり始めた彼女の手に触れて、ただ愛しかったのだと知った。


だから。
彼女が忘れないでくださいね、といった言葉が何に掛かったのか、もう自分には知れなかった。
一度ただその言葉に答えるように忘れない、と落とされた声は直後の銃弾に呆気なく掻き消される。




何を望んだのか、わからないまま。
辿り着けぬ地に、二人は逝く。







>>なんかこれ最低だ(お前
   キララク死にネタ。突発的なので、特に設定はないとか…ね…(苦笑)
ふ、と。
何かが横切ったような感覚に眉根を寄せることになった毛利元就は、その原因を知って端正な顔を歪めた。
晴れた青空を極彩色の鳥が飛んでいる。珍しい鳥だ。
自生しているわけではない。あの鳥は遠き地から此処に来た鳥。
青空に極彩色は酷く映えた。
目に残像を残して飛び去っていく鳥を暫く眺めた元就が忌々しく舌打ちをする。
同時。

「元就様」

本陣に縺れる様に走りこんできた兵が敵軍の襲撃を告げる。
端正な顔に貼り付けた面を崩すことなく元就はすっと立ち上がった。
細い体躯は凡そ武将と呼ぶには頼りなく見える。けれど、正した姿勢はあまりにも隙が無く、彼が武将と呼ばれる存在だと言外に告げていた。
何の感情も浮かばない瞳でぐるりと自分の様子を窺う臣下の顔を見回した後、口を開いた。

「当初の指示の通りに。我の策を崩すものは誰であっても許さぬ。……行け」

告げた。
誰にも理解されぬ切り捨てる、その冷酷な采配。判断。
凍りつかせた感情は何も抱かない。
元就の言葉に誰もが一瞬恐怖の色を浮かべてすぐに立ち上がり出て行った。
臣下が誰も居なくなった本陣で小さく溜息を吐く。
だがすぐにらしくないと首を緩やかに左右に振った。
そうだ。らしくない。兵など所詮捨て駒。自分もまた毛利家のための駒の一つなれば…。
考え事に捕われていた元就の後ろに気配が生まれる。一瞬反応が遅れた。

「また、そんな顔してやがんのか」

空の青にあってなお存在を侵されぬ銀が見えた。

「……貴様には関係の無いことだ」
「へぇ?」
「何の用だ」

あの鳥。
空を飛ぶそれを見たときにこの男が近くに居るのだろうとは思っていた。
けれど、まさか会いに来るとは思ってなかった。何時でもこの男は自分の想像外の行動をすると元就は煩わしげに思う。
行動が掴めない。
分からない。

「いや少し様子を見に、な」
「…ふん。此方はいくさに臨むところだというのに呑気なものよ」
「だから今来たんだよ」
「…………?」
「お前が、一番…能面を被る時だからな」
「…………」

その言葉に心底、体の熱が冷え切っていく感覚を覚えて元就はきつく男を睨みあげた。
瀬戸内海を挟んだ四国の国主、―長曾我部元親を。

「貴様、矢張り莫迦だろう」
「何だって?」
「…今、攻め込まれているのは毛利領だが…国主不在となれば、四国に攻め込むやも知れぬぞ」
「…ああ。そんなのは、大丈夫だ」

自信有り気な笑みを浮かべて元親が笑う。
それよりも、といった声の調子は少し落ちた。
だからだろうか。元就は自分よりも幾分も上にある元親の顔を見上げて、その表情を盗み見た。
隻眼の瞳の色彩は薄く、珍しい色をしている。
空のような海のような青。その瞳がすっと細められた。


「……お前、無駄に切り捨てんなよ」

何に対していったのか。
全てか。
元親の言葉に元就は少しだけ眉根を寄せるに留めた。
くるりと元親に背を向けた元就が一歩、足を踏み出す。
その小さな背中を見守って元親が盛大に溜息を吐いた。空を旋回していた鮮やかな鳥が元親の肩に降ってくる。


「…やれやれ」

肩を竦めた元親を肩越しにちらりと見遣った元就が少しだけ困ったような色を瞳に映したのを、元親は目敏く見つけた。
だからこそまだ希望はあるのだと諦めきれない思いだけが自分の中にある。
厄介だな、と思ったがどうしようもないと思う。


肝心な何かを埋もれさせたまま。
戦場に向かう背中だけが何故か心配だった。




title by  Ab ovo usque ad mala
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HN:
くまがい
HP:
性別:
女性
自己紹介:
此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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