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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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「…のう、長曾我部」

語りかける。闇に。濃い潮の香りに。ゆるりと細い手を上げて手招くようにしながら、けれどその腕は途中で力なくぱたりと落ちた。喉から絞り出すような笑い声が漏れる。聞いていて決して心地良いものではない其れは、悲痛な色さえ含んでいるように思えた。

「そなた、本当に無責任な男よな」

喪う悲しさはもう味わいたくないと、ならばそう思わないよう、氷の面を被った元就を否定し、いとも容易く氷の面を溶かした男は今はもう居ないという。
簡潔な書状で四国の国主長曾我部元親の訃報は知らされた。
呆気ないものだ、と思った。
勿論涙はない。流す涙など、幼い頃に母が死に、父が死に、兄とその子が死に、自分の弟を手に掛けたときには尽きていた。
そして淡々と思ったのだ。
嗚呼。そうだ。何も思わないように振る舞えば喪失の痛みなど。

「だというのに。……本当に、だというのに」

涙はない。流す涙はない。
けれど若干掠れた声は泣いているようだった。
馬鹿なことと思う。風景の、見る端々に銀色の髪を靡かせた底抜けに明るい鬼の姿が、残像のように掠めていく。
声も、そうだ。沈黙を好く元就の耳には鬼の声が良く残っていた。


「莫迦者。戻ってこい、と我は言ったぞ」

居ないとは俄に信じられぬ。
けれど居ないのだと信じられないくらいに残酷に世界は告げる。
だからこそ元就は泣けず、喪ったのも半分認知しないまま、曖昧な日を送る。



>>元親死にネタ。瀬戸内。
   信じていたからこそ、信じられない。
   認めていたからこそ、認められない。

   きっとそういうことではないだろうか、と。

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ゆるりと情事の後の火照った身体を冷ますために褥を抜け出した元就が、夜風に髪を掠われるままにして縁側の柱に寄りかかった。遠くからは潮騒が聞こえ、風は潮の香りを運んだ。
時間が停滞したのではと錯覚を覚えるほど緩やかな時間。
さやさやと葉末の音は心地良い。
雲に隠れていた月が途切れた合間から控えめな光を地上に降らせた。
振り返ると褥で眠る男の髪が柔らかに月影を弾いている。少しだけ身動いだ男が、小さく何事かを漏らすのを感慨も無しに眺めて元就はまた視線を庭へと向けた。
遠く闇の濃い部分に目を向ければ、これが天気の良い晴れた昼であるのならば海が見えるだろうに、とどうでも良いことを思う。
澄んだ青は先程まで睦言を交わしていた男の瞳によく似ていた。

「何を考えてんだ?」

控えめに声がかけられる。
褥で横になりながら、男が問うてきた声だ。

「…何も」

そう答えればきしりと張り板が音を立てる。
だらしなく乱れた夜着をおざなり程度に整えながら、元就の隣にまで移動してきて得心したというように「ああ」と呟く。
男の声にゆるゆると顔を向けると、月影の中で男の瞳がじっと闇の中に紛れた海を向いた。

「元親」

名を呼ぶ。何だ、と視線を元就に向けた男が首を傾げた。
元就よりも頭一つ分は優に高い上背の男は、海を挟んで向かい四国を一代で平定してみせた長曾我部元親という。
彼とこのような関係になったのは何時のことだったか、と思い返して元就は小さく息を吐いた。
切り結んだ時の、彼の声が、その言葉が、不要なものは切り捨て、切り捨てられなかったものは深く閉じこめてしまえとばかりに心を閉ざした元就の、厚かったはずの壁を、氷の面を簡単にすり抜けて心を揺さぶった。
苛立ちばかりが募ったのに、暫くすれば其れが痼りのように残り得も言われぬ気持ちにさせられた。
失くした時の気持ちなど思い出させないでくれ、と小さく呟いて、既に氷の面が剥がれかけているのに気付いて自嘲する。
そして意図的に無理にもう一度面を被る。
繰り返すその愚行に、たった一言。
「俺も寂しいなぁ」と鬼はたった一言で、中国の覇者の面を剥がした。
自然と滑り落ちた涙を止められず呆然とする元就の横で、原因を作った鬼は戸惑いながらおろおろと所在無げにある。
その姿があまりにも立派な体躯と似つかなかったので元就は笑った。
泣きながら、それでも笑った。
捨てたと思っていた感情は、確かに残っていて。
簡単とはいかぬがさらりと風が氷を溶かすように、元親は元就の氷の面を溶かしてしまった。
それが幸いとは思わない。
元就は酷く其れを怖がったし、元親も自衛本能から来る無意識下での行動だと理解していた。
今も未だ元就は氷の面を被る。
昔よりは薄くなってしまった其れを。
元親は、元就の素顔に触れてから彼の其れを全て否定することはしなくなった。
捨て駒と臣下を言い切るときでさえ、昔のように純粋な嫌悪感を覚えることはなくなった。
勿論、簡単に臣下を切り捨てる策を弄する元就の全てを許容できるかと言ったら否と答えるだろう。
理解は時に苦しみをも生む。
二人は分かっていながら結局、どちらともどちらを拒むことを選択しなかった。
否既に出来なかったのかも知れない。
曖昧に、けれども確実に、相手を相手と認識し、互いを互いとして求める。
だからこそ身体を重ねるのに大した時間は掛からなかった。

「魚は…」
「…うん?」
「……忘れてしまっただろうか」
「何を?」
「海、を」

何を言っているのか、と数度瞬きを繰り返した元親の顔を見てくすりと元就が笑む。

「何でもない」

そう言って再び視線を庭へと投げた元就に、なんと答えたらいいのかと元親は頬を掻いた。
魚は海に棲まう、水に棲まう生き物だ。
海を忘れてしまうことなど本来有り得ない。
だというのに元就は問うた。とすれば、それは一般的な考えではなく何かの喩えであるのだろう。

「忘れねぇよ」

思いついたままに元親は言ってやる。
言葉が欲しいのだ。こういう謎かけ染みた問いを元就がするときは。
はっと顔を上げた元就に視線を合わせて笑えば、少しだけ眉を寄せて不機嫌そうに顔を逸らされる。

「…忘れるかも知れぬ」
「忘れるもんか」
「…何故?」
「魚は海に生きるが、魚の中にも海があるからさ」
「………」
「俺たちが此処にあるみたいに、俺たちの中に此処があるみたいに。そして、どんなに離れてしまっても」


「完全に忘れることは無い。………そうだろう? 元就」

海から遠く離れた魚は海を忘れるだろうか。
その頃の本能は必ず残り、何処かで生かされていくのだろう。
切り捨てられず閉じ込めた感情と、切り捨ててしまった感情と思いと、元就はそれの所在を問うたに過ぎない。
だからこそ元親は答えてやり、逆に問うた。
暫く思案した元就が観念したというように長い、長い、息を吐き出す。

「そうだな。…その通りだ」

言って微かに笑った元就が、ついと向けた視線の先。
薄っすらと空の色を変えて日輪が上ってくる様が見えた。





>>どんなに何をしても、結局は捨てられないものもあると思うって話。
   それを大事に抱える人と、どうしていいのか分からない人。

   アニキは色んな意味で強くて、其れで弱いといい。
   元就は色んな意味で弱くて、其れで強いといい。

キラキラと日差しが海水に反射して水面の下にある砂に光の模様をつける。
青空は果てを知らず、何処まででも続いているようだった。浅瀬で海水に腰まで浸かったまま空を仰いだ男が眩しそうに目を細めた。
柔らかな明るい海の色を切り取ったような瞳が青を映す。
ふと視線を地上に戻して、砂浜に立っている人影を見つけて男は手を振った。
元々日焼けしない体質の男はがたいは良いものの、毎日海に接しているとは思えない肌の白さだ。

「もーとーなーりー」
「うるさい」

名を呼べば不機嫌に一言返される。
眉間に皺の寄った不機嫌顔で、薄い緑色の日傘を差した人物は小さく溜息を吐いてみせた。
真夏の日差しは容赦なく照りつけて、汗はしとどに流れ落ちる。
見ている分には涼しげな白の綿パンを穿いた元就はうんざりとした様子で空を見上げた。
太陽は好きだったが、此処まで徹底的に照らなくても良いと思う。
ただの我が侭だとは思ったが、そう思わせる位の本日の暑さである。

「そういえばよぉ」

顔を水につけずにゆったりと泳ぎながら男が砂浜の元就に話しかける。
それに小さく相槌を打って返したものの、きっと水音に消されて聞こえてはないだろう。
けれど男は話を続けた。

「昨日だったか、カイムが此処で水遊びしてたらしいぜ」
「…ほう? それは珍しい」

首を傾げるのも当然のこと。
足を付いて泳ぐのを止めた男も「だよな」と言った。
近所に住むあの一種の暗闇を引き連れた男が、炎天下の中海に入るなど珍しい以外の何ものでもない。
海にいるその人物を想像して、全くと言って良い程情景と似合わぬミスマッチぶりに元就が小さく笑いを零した。

「なんでも、あの噂を」
「…噂? ああ…あれか。馬鹿馬鹿しい」

そう言い捨てた元就に男が笑う。
言うと思った、と言いながら浜に戻ってくる男の片手は固く握られている。

「アンヘルもきっと同じ事言っただろうなぁ」
「だろうな」
「んで、きっと自分を笑ったに違いないぜ?」
「…何?」
「だってよぉ。ほら」

握られたままの手が元就に突き出される。意味が分からず掌を差し出すところりと水気を含んだ何かが掌を転がった。
半透明のそれ。
丸みを帯びて、太陽光が入れば微かにプリズムを生む。

「成程…」

指先を動かし巧く掌の上えで転がしながら元就が笑った。
日の光を浴びて柔らかに光る虹の石。それを見つけられたならば幸せが訪れると、まことしやかに広まった噂。
白詰草の四葉とそう対して変わらないのだろう、その信憑性。

「其れがないと思ってしまえば、在ったとして存在しないものと同じ」
「逆に信じれば、本当は無かったとしても在るっていう可能性が生まれる…ってか?」
「…ああ。実に馬鹿らしい事よな」
「そう言うなよ」
「これとて、ただの硝子の破片が石のように研磨されただけのものだと言うに」
「でも、綺麗だろ」


さらりと屈託無く述べた男に、元就が一瞬呆気にとられる。
視線を掌に落とすとプリズムを生むその様は確かにがらくたとは言え、綺麗と表現するのに相応しかった。

「悔しいが」

小さく俯いたまま呟いた元就が、ゆっくりと顔を上げる。


「今回は我の負けのようだ。元親」

 

別に勝負なんてしてねぇけどな。

笑って海に戻る男の背中とその男が受け渡していった硝子の破片を交互に見詰めて元就が小さく苦笑を漏らす。
そんな暑い夏の昼下がり。

 

>>一つ前に書いたカイアンの対になるような話。
   アニキとオクラとカイムとアンヘルは割と近所のイメージ。
   元就とアンヘルは何となく似てるけどやっぱり違うから、仲良しだといい(笑
   うっかりパラレルです^^^^

じとじとと暑い日差しを浴びながら、何を馬鹿なと少女はこめかみを押さえた。
拍子に鮮やかな髪がさらさらと小さな背中に滑り落ちる。
目深に被った帽子は日焼け防止のはずだったが、正直少女はあんまり気にも留めていなかった。
それよりも。
暗い闇の髪を無造作に伸ばしたTシャツにジーパン姿の男が、一心にしていることの方が気になった。
日陰も生まぬ、海岸。
空の青を映す海。
遠くには入道雲。
ある意味絵に描いたような夏の景色。
その中で男は遠浅の海に膝までジーパンが濡れるのも気に留めず入りながら、何かを探しているようだった。
屈んで、悪戯に水面を揺らしてはまた顔を上げる。
暑さで流れる汗をTシャツの袖で拭う。
長すぎる前髪を払えば、夜の海を思わせる色の瞳が覗いた。

「…カイム」

気は乗らないと思いつつも少女は声を掛ける。
じっと窺うように動きを止めた男に、少女が盛大に溜息を吐いてみせた。

「そんなところで何をしておる」
「探し物」
「見れば分かる馬鹿者」
「…お前が言ったんだ」
「あれは、絵空事だ。…真に受けるな」
「あるかもしれないだろう?」
「…あるわけがない」

純粋なわけでもあるまいに、男はそんな風に言う。
日の光を受けて柔らかに、光る虹のような石がこの海岸にあるなど誰が言い始めたのか。
そしてそれを見つけられたら幸せになる、などと。
無いからこそ、見つけたら幸せになれるといわれるのだ。
そういった少女に男は不器用に笑った。
言葉はなく、その直後男は何かを見つけたように身を屈め、手を水面に入れる。
小さな水音。


「前に言ったな。アンヘル」
「……うん?」
「信じなければ、在ると認識しなければ、其れは在っても無いのと同じだと」
「ああ」
「ならば、これも同じだ」

そう言って投げて寄越したものを両手で受け取って少女は息を呑む。
掌で虹色を微かに反射で見せる半透明の石。
太陽光が当たり反射することによってプリズムを作り出す石。


「………我が馬鹿者だったようだな」


掌で石を転がしながら少女が笑った。
釣られて男も笑った。





>>夏っぽいように。現代パラレルカイアン。
   へたれな暗黒王子とツンデレで少女な天使な彼女が好きです。
よくもまぁ、飽きぬものだ。
小さく呟かれた言葉に男は反応せずにもくもくと地面を掘り起こす。
不器用なその行動に溜息一つをついて、少女が首の根元でゆるく髪を結んだ。
腰まで届く癖の無い鮮やかな色の髪は微かな風にさえも反応して、さらさらと揺れる。
スコップをざくりと男が不器用に入れたのと同時に少女は、弁を開けて水が溢れ出したホースの口を男と、男がこさえた穴に降りかかるように向けた。

「?!」

咄嗟に反応した男が、からんとスコップを投げ出して一歩下がる。
それでも水の方が早く彼のシャツの半分は濡れてしまった。

「アンヘル」

避難がましく名前を呼ばれる。
ホースの口を上に向けたまま、セーラーの夏服を着た少女は笑った。
青空と、対を成す赤。
余りの眩しさに男が目を細めると少女がスカートのポケットから包みを取り出し、中身を全てぶちまける様に穴の上で振った。
小さな種がぱらりぱらりと、落ちていく。
水分を吸って黒に変色した土の上では種は何処にあるのか良く分からなかった。

「……雑すぎる」
「これ位で丁度良い」

文句を言ったつもりがさらりと言い返されて、男が返答に詰まると少女がまた笑った。


「…にしても、どういう風の吹き回しだ?」
「何?」
「お主が……、植物とはいえ…一から命を育む行為を進んで行うなど」

ああ。
確かに嘗ては奪うことだけに快感を得た記憶がある。
遠い遠い遙か昔に。
温もりも絆も忘れかけてしまいそうになった時に、

”― 馬鹿者”

そう、諭した声があった。
それが何よりもかけがえないと気付いたのはいつだったのかなどもう思い出せない。

「…カイム?」
「ああ。そうだな…。……気まぐれだ」

何の運命の巡り会わせか。
姿は違えど魂の同一、に会えたそれは本当になんて…。
だからこそまた温もりも絆も信じられることが出来るようになったのだ。男の、輪廻の中にあっても深く傷つき癒されることの無かった魂は。


「……気紛れで育てるなど、馬鹿のすることだ。馬鹿者。……最後までちゃんと面倒を見てやらねば」
「ああ」
「…分かってるのか?」
「知ってるさ」

男の長い前髪に隠れてしまった表情を読み取るように、覗き込んできた少女に男が微かに笑う。
一瞬呆気に取られた少女が、矢張り同じように笑った。





>>カテゴリー追加してしまった。
   DODパラレルカイアン。

   本当、アンヘルと元就の口調って似てるよね。
   書いてて殊更に思った。
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プロフィール
HN:
くまがい
HP:
性別:
女性
自己紹介:
此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

ブログ内文章無断転載禁止ですよー。
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