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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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細い音を伴って柔らかに溶ける青がある。じっと見つめた一点に濃紺の服を纏った少女の域を抜けていない容姿の女が一人。極端に薄い色彩の髪を纏め上げてある、簪の飾りが華奢な音を立てて揺れた。視線を落とせば女の傍らに横たわるもう一人。

「姉さん」
「ああ…、静」

呼ばわった抑揚のない声に返される言葉は凛とした響きを持って、落としていた視線をあげて女は微笑んだ。泣きそうな笑顔に時が来たのだと声を掛けた静は納得する。するりと魂の声が、この蒼の海に沈み込んだ城にいつも絶えないその声が途絶えた。この時だけは誰も何も言う権利は認めぬと世界が定めたかのようにぱたりと音が止む。
一瞬、瞬きするのも忘れて静はその場に立ちつくした。

「……身罷られてしまいましたか」

とそこに静かに空気が落ちる。入り込んだ気配に静が口を開く前に姉である女が鋭く声を投げた。

「何用か? 精霊王。門は閉じていた筈だが」
「これは厳しい。私はただ、友人が亡くなったので最後の別れに来たまで」
「……精霊王」
「寂しいでしょう?」

呟かれた言葉は即座に否定で消される。

「莫迦なことを」

一歩と足を踏み出した女が幾分と自分より目線の高い相手に、恐れることなく視線を合わせた。

「嬉しいこととは言い難いですが、ご即位を祝福します。冥王」
「……受け取りにくい言葉だが受け取っておこう、精霊王」

毅然と返し魂の管理者である王になったばかりの女はふと一言も話さない弟に視線を向けた。
先程逝ったばかりの父譲りの白さと容姿の弟が何かを探すように視線を彷徨わせる。
魂の声は未だ聞こえず静寂でともすれば気が狂ってしまいそうだ。

「……静?」
「精霊王。……父から言伝です」

口を開いた静が目を伏せる。父親譲りの容姿の中、唯一とも言える母譲りの夜空を思わせる深い色の瞳が隠れた。

「何て? 漣はなんと?」
「…”責めてはいけないよ。世界も自分も、何もかも”」
「…そう。ありがとう」
「精霊王アシェア、今日はどうかお引き取り下さい。……明日には門を開きます。改めてお越し下さいませんか」

ゆっくりと礼の形を取った静に歩み寄った精霊王が一度と女を振り返った。

「いえ。もう良いです。ありがとう。………無粋な真似をした。許して下さい」

白い外套を翻して空気に溶けるようにいなくなった精霊王の姿を見送って女は小さく息を零した。
気遣うように視線を投げる弟に気付いて微かに笑いかければ、静も同じように微かに笑いかけて寄越す。
音を立てぬように姉に近づいた弟が寝台に横たわり眠る父の顔を窺うよう覗き込んだ。穏やかに眠りにつく顔はまだ若い。冥王は人の身として生まれながら人としての輪を外れ、全ての魂の輪廻を管理する世界の仕組みの中で唯一揺るがない立場を持つ。父の姿は先々代から名を継いだ時から長い間、一つも変わりない。
王の座を降りる時は輪廻に戻る時。
王の引き継ぎは先代の死を持って為される儀でもある。

「………静」
「怒らないでくれますか、姉さん。少しだけ力を使いました」
「…父様が望まれたことか」
「はい。そして僕も望んだことです」
「ならば責めようがない」

苦笑する女が労るように眠る父親の顔に掛かった髪を払う。
静寂と波の音、今はそれ以外の音の排除された城は二人には広すぎた。
泣くことは出来ない。定めであるから。予め知っていたことであったから。
黙って父の顔を見守る姉の手を弱くはない力で静は握った。一瞬驚いた女が支えをずらすように弟の肩により掛かる。海上に存在する魂の管理者の居城にこの日、終ぞ常響く魂の声が一つも上がらなかった。



>>久しぶりに100題の冥王さんち。冥王さんちは書きやすいのです。
   実は漣お父さんが一番性質が悪い人なのかもしれない(笑

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色彩が回り分解される自己精神。叫び声は全て吸い込まれてしまい、結局はお手上げ状態でふわふわとした浮遊感は逆に気色悪さを含み、藻掻くように伸ばした手は虚空を切る。浮遊から落下へ。落ちる、墜ちる、感覚に反射的に目を瞑った。
瞬間。
今度は急に抵抗が生じて反動で衝撃が内蔵を圧迫する。気持ち悪いと小さく呟いて目を開ければ殺風景な天井が広がった。

「………引きずられすぎ、だ。瞳子」
「あ、」

自分の声とは思えぬ掠れた声に少女は一度二度と浅く呼吸を繰り返す。
悪い夢から覚醒した後のように全身冷や汗を掻いていた。

「……真紀さ、ん?」
「調子は?」
「ああ…、大丈夫…です。大丈夫」

ふるりと首を振れば鈍痛が走った。ふわりとした髪は腰近くまで伸びていて、それを邪魔そうに一つに結ぶと少女は深く息を吸う。呼吸が出来るのが嬉しい。

「随分強情だな」
「患者さん、ですか。……そうですね」
「戻ってない感覚はあるか?」
「いいえ。大丈夫です。途中で切ったので」

ゆっくりと横たわっていた寝台から降りると、カーテン越しにまだ寝台に寝ている男性に目を向けた。
懇々と眠る男の精神波を表すグラフは不安定に揺れている。

「後でもう一度潜ります」
「…大丈夫か? なんなら代わろうか?」
「大丈夫。ありがとう、真紀さん。でもやらせて欲しい。……この人は私の患者さんですから」

にこり。
先程奪われた感覚は徐々に戻っては来ているが、男性の意識は戻らず。
連れ戻そうとしたのに戻せなかった結果に少女は悔しさを噛み締めた。相手の精神に自分の精神を潜らせることは、相手にも自身にも相当の負担が掛かる。出来れば一回で終わらせたかったのだが。

「分かった。それじゃ、その時も声をかけて。サポートに入る」
「……助かります、ありがとう」

お辞儀をすればセーラー服の上に白衣を着込んだ同年代の少女、―真紀は「いや、礼には早い」と白衣の裾を翻して退室していく。ぱたりと乾いた音を立てて閉まった扉を暫く見遣ってから残された少女は寝台の脇に掛けておいた同じような白衣に袖を通した。
少女の名前は、宮野瞳子。都内の女子校に通いながらも特殊精神科医という資格を持った、歴とした医師である。


>>こっちが元々の主人公。
   宮野瞳子と飯田真紀は同学年で学校が違う、という設定。

―知ってるか?

とそれはそれは大層勿体ぶって言うものだから内容も聞かず、知らんと答えた。


―まぁまぁ、せっかちだな。話は最後まで聞いてくれ。


そういって笑うので、とりあえず話を聞いてやることにする。
訥々と話し始めた声はいつもの明るい調子ではなく抑揚の無い平淡な、言うなれば無機質さを含んでいた。
このように話すのは今まで見たことが無い、と話を聞いてやることにする。
曰く。


―ほら。3階の一番端の部屋があるだろう?
―308号室なんだが。
―そこにはどうやら出るらしい。
―何がって? そりゃ出るって言ったら一つしかねぇだろ。

面白げに目を細めて笑った男がつき立てた人差し指をくるりと回した。
その先を追って視線を上げると天井。方角は一つ上の階の、今話題になっている部屋を指している。


―幽霊、さ。


馬鹿馬鹿しい。そんな在り来りな話信じると思うか?
そう返せば言うと思ったと男は笑う。屈託無く笑う。いつもの、彼と違う笑顔に一瞬違和感を覚えた。

―でもよ、元就。

そっと導くように手を取られ男の左胸、丁度心臓の鼓動を直接感じる場所に移動させてもう一度男は笑った。
温かい手とは裏腹に伝わってくるはずの音は無い。


―な?


笑う。笑う。
嗚呼、笑ってなどいられない。いつも通りの冗談だろうとは言えない。冷たさは無い。
現実味を帯びた酷く非現実的な出来事に呆然と、男の左胸に当てた手に鼓動は伝わらない。


―俺、


言わなくて良い。
遮った言葉に一瞬目を丸くした男が穏やかに笑う。今日は本当透明な印象で笑うものだ。
手を伸ばして触れられないもののように笑うような男ではないはずなのに。

 

―死んでるんだわ

 

すとん。
魔法の言葉のようであったので矢張り呆然とするしかなかった。
導いた手の温もりは手の甲に、左胸から伝わった温かさは手の平に、残されたまま音も無く重力に逆らわず落ちる。
支えをなくしていた。

 


「………莫迦」

 

笑うしか、無かった。

 

 


最後も男は笑ったから。




>>幽霊ネタはすとんと書きやすい。

アラームがけたたましく鳴る。時間は惑星基準時間で午前9時半。普通であれば疾うに出勤している時間である。
半分寝ぼけたまま手探りでアラームを止めれば、今度は丁寧にデータベース側から呼び出し音が鳴る。

「………んん」

まだ眠い、と通信拒否をしようとして。

「………………9時半?」

表示された時間にあり得ないと声を上げて完全に覚醒した。
真っ白になった思考回路に呼び出し音が鳴る。ああ五月蠅いと突っぱねるわけにもいかず寝癖の付いた髪を撫でながら通信に応じることにした。

―――〔春?〕
―――ああ。シャイタンか。良かった。
―――〔良くはない。今日は会議の日で。……春に同席願いが出でいたハズだった〕
―――………あ。

忘れていた。すっかり忘れていた。盛大な遅刻に加えて依頼まですっぽかしてしまったらしい。

―――〔ソノ様子だと、忘れて居たナ? まだ間に合うから……〕
―――なぁ、シャイタン。……管理部に連絡する前に俺に直接連絡してるんだな? 今。
―――〔うん? そうだが?〕
―――悪い。たぶん今から急いでも30分は掛かる。
―――〔春……?〕

通信を行いながらも既にベッドから起き上がり着替えを開始している。ちらりと鏡に映った自分の寝癖があり得なくて通信先に漏れないように「ああ、信じられない」と呟いた。
確かに昨日は色々と立て込んでいて仕事を終わって帰宅したのは深夜12時を回った頃だった。夕飯を今更食べる気にはならず風呂にだけ入り髪も乾かさずに寝てしまったのが、この盛大な寝癖の原因だろう。

―――〔春? 聞いているのか?〕
―――ああ。聞こえてる。……全く堂々と言えることじゃないんだが、俺…今日遅刻なんだ。
―――〔……もしかして家に居るのか?〕
―――……ん。

素直に打ち明ければ忍び笑いが回線越しに聞こえてくる。失態を笑われていい気はしないが完全に自分のミスだ。とりあえず黙っておくことにする。着替えは粗方終えたが本当に寝癖はどうしようもないなと鏡を見ながら思う。

―――〔それなら春。10分後に出られるだろうか?〕
―――家からってことか?
―――〔そうだ〕
―――それなら、急げば5分後にでも。
―――〔なら10分後。拾うカラ〕
―――拾う? え?
―――〔10分後、家の前に居てくれ〕
―――おい、シャイタン?

一方的に通信は切られてしまったらしい。10分後に迎えにくると言うことだろうか。

「………寝癖、直せそうだなぁ」

とりあえず出かけるまでに盛大に付いてしまった寝癖と格闘しようと元春は浴室に向かった。

 

 

 


「……おい」
「ウン?」
「…………普通これは無いと思う」
「仕方ない。不可抗力だ」
「だったら迎えにこなくても」
「いや。どうせ会議室でするものでもないし。変更になったし。迎えに行かなきゃと思っていたし」

だからってなんでまた軽トラで住宅ブロック走るかな。しかも法定速度を優に超えて。

「シャイタン。………農道じゃないんだから気をつけろよ」
「分かっている。任せてくれ」

隣でハンドルを握る男の上背はかなりある。豊かな赤髪を後ろで一纏めにして運転する男をぼんやりと眺めながら寝癖を何とか直し終えた自分の頭がサイドミラーに映り視線をそちらに向けた。

「そういえば」
「何?」
「寝癖直ったみたいダナ」
「………あれ?」
「聞こえていた」
「………あっそ」

忍び笑う男の声に素っ気なく返すと謝罪の言葉が返る。
そう言えば、初めて会ったときより男の公用語は上手くなっている。今でも少し片言のような違和感があるが、最初の頃なんて本当全てが片言のようであった。
自国の言葉であれば流れるように流麗に話すのだ。そのギャップが面白くて笑ってしまったこともあった。

「思えば」
「うん?」
「此処でいったら古い付き合いだよなぁ」

ぽつんと呟いた言葉に一瞬目を丸くした男は嬉しそうに笑う。
体格で見れば大男にさえ例えられ、黙っていたら威圧感さえ与えるのに妙に人の良い笑みを浮かべる、そのギャップも面白いと最初思ったものだ。なんだ最初から興味の範疇か。
元春は自分の考えに結論づけて小さく笑った。



>>掴めないなーと思って、二番目の子たち。
   博物館惑星のパロは良くも悪くも勉強が必要だなと思う。
   芸術の造詣、後は私には難しいSFっぽい知識ね(苦笑

一体僕をなんだと思ってるんだい。
と言うか何? 何で何食わぬ顔で戻ってこれるかなぁ。
しかも寛いでるし。僕のお茶菓子しっかり食べてるし。って聞いてるの? 元就

「……うん? ああ、聞いておるぞ。うん」
「聞いてないような台詞だけど」
「聞いている。つまりはあれだろう? あれだけの逃走劇を繰り広げた後、主に迷惑を掛けたお前に良くもまぁおめおめと顔を見せに来れたものだな。どういう神経してるんだ? とそういうことだろう」
「そこまで僕言ってないよ」
「同じことだろうに」

お茶請けに入った菓子を指で摘んで内装を剥がす元就に反省の欠片も感じられない。
半日。アポロンの職員を結局は十数名駆り出しての捜索作業は元就の勝利で終わってしまった。
一体何処に隠れていたのやら。

「それで?」
「ああ。うん。問題なしのようだ」
「そうか。良かったな」
「全く。あんな騒ぎ起こさなくても嫌なら嫌って言えば良かったじゃないか」
「嫌と言って断らせてくれたか? 重治」
「断らせなかったね」
「ならば無用な行為はしたくはないな」
「だからって当日ボイコットは無いだろう!」
「……有って然り」

音も少なく茶を啜って元就はふうと息を吐く。足を組んですっかり寛いでいる風の元就の様子に溜息を禁じ得ない。
盛大に溜息を吐いた半兵衛に、何を思ったか元就は薄らと笑みさえ浮かべて見せた。

「随分と心労が溜まったと見える」
「誰のせいかな。誰の」
「我であろう?」
「元就、君…」

にっこりと不敵な笑みを浮かべた元就に言葉を失うと、満足したらしいもう一口とお茶を啜って幸せそうに目を細めた。そしてまた一つお茶菓子を摘む。

「とりあえず、どうしてあんな頑なに逃走劇を繰り広げたのか…その訳くらい聞いても良いかな?」
「………なに、簡単な」

―――『そうそう、簡単なことだ。こいつ、これでいてすげぇ照れ屋だからよお』

二人の生身の会話に通信で割り入った声。
元就がボイコットを敢行した際に我関せずの態度を取り、いつの間にか自身さえも身を隠していたもう一人の逃走者。

「「元親」」

見事に重なった声は違う響きをもって。

―――《君ね、知ってたんだろう? 元就が何処にいたか。挙げ句君まで行方を暗まして…! 共犯も……》
―――《ふん。お前などこってりアポロンで絞り取られているが似合いだろう》

通信会話に切り替え銘々に好き勝手に言い放った二人に元親は苦笑した。
とりあえず不満があって愚痴を続けたいのは半兵衛の方らしいが、相手が元就では無理だろう。
後で機嫌を伺いに行かねば罪もないアポロンの同僚たちが半ば八つ当たり的に被害を被るのは考えずとも分かることで、元就の言葉の通りこってりと絞られた後の元親ははぁと一つ息を吐いた。




>>前日の博物館パロ話の後日談。
  後日というより当日だろうけど。
  さり気に一番の被害者は重治だったりするんだ…(苦笑

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プロフィール
HN:
くまがい
HP:
性別:
女性
自己紹介:
此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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