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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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引き絞られた殺意に本能的に竦みそうになる。
眼前に銃口。漆黒の瞳が逃さぬように見据えてくる。到底逃げる可能性も見出せない状況に笑うしかない。

―嗚呼、畜生。はめられた。

「……何か言うことは?」
感情を完全に隠してしまう瞳と、銃口を突きつけている状況とは裏腹に声は静かで穏やかだ。
口調も丁寧。それは平素崩したことがないのだから、今の状況で崩れるとは思わなかったのでいい。
「何も」
「何も?」
その声が、少しだけ笑いを含んだ。
こめかみに照準を合わせた銃口は動かない。
「ああ、何も」
だって今更どう言い逃れて足掻けというのか。お前の望み通りの結果だろう?
「…馬鹿」
呟かれた言葉は掠れ静かすぎる空気の中に溶け入る。その瞬間の表情を何と言おう。
どうしてお前が泣きそうな顔をするんだよ。
いつも本心を見せないお前がどうして何かを堪えるように笑おうするんだよ。
「…竜、」
一瞬の表情は呼びかけようとした僕の声ごと飲み込まれてしまった。
いとも容易く銃を構えていた腕を下ろして、空いた片方の手が代わりに襟元を掴み引き寄せられた。
至近距離。
全てを飲み込むような漆黒の瞳と視線がかち合ったと思った時には
「、竜崎」
「………馬鹿過ぎます」
「それじゃ、お前は?」
「私なんて大馬鹿者です」
触れ合った唇は甘かった。体温は低めで驚く寸前に簡単に離れて、そして紡がれる言葉と伏せられた瞳は彼を何より人間なのだと知らせた。
「…へぇ?」
「貴方を殺せないのなら、私は死ぬしかないのに」
世界を救うなんて大義名分は生憎持ち合わせてはいないと目の前の人間は言ったけれど、しかし彼ほど世界に貢献した存在もないのだろう。何処までも自分勝手で、それでいて何処までも献身的に。
「そうでもないよ」
彼は彼の信じる道しか歩めない。
そして僕も自分の信じる道を歩む為に捨てたものがある。
互いに退きようもない。存在を掛けて行われているのだから、だから決着はどちらかの身の破滅か破綻しかない。
「……僕はお前を殺さないよ、竜崎」
下ろされた銃口はもう僕には向かわない。
「嘘つき、ですね…月君」
その言葉に笑った彼が、まるで隠された真実を告げるように言う。


「でも、愛しています」

嗚呼、結局はどちらかの死でしか、完全な勝敗は着かないのに。



>>お前等どんだけ互いが好きなんだよ、と思うようなものを書いてみたいです
   命を賭けて騙し合って、それで惹かれて愛し合えばいい

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きっと此れは奇蹟なのだろう、と目の前の存在を見て思ったのだ。
人と言うには欠如している部分が多く、人と言うには秀でている部分が途方も無い。
ただ淡々と感情を移さない声が僅か間を置いて自分の偽名を呼ぶときの音が好きだったのだと言ったら馬鹿にされるだろうか。
本当の名を呼ばれたことはない。
だから事の顛末を迎えて別れの時が差し迫った時にふと今更気付いたことが何とも不思議だった。
「レスターにはお世話になりました」
真っ白な容姿に負けず劣らず真っ白なパジャマのような格好の少年にしか見えない青年は僅か頭を下げる。
視線を合わせないのは彼の癖で、真っ直ぐ視線を受け止めることは彼にとっては精神力を酷く消耗することであることも既に知っている。
「此方こそ、一緒に仕事が出来て光栄だったよ」
「何度も命を捨てた気になったのに?」
意地悪く聞いて寄越す声と少しだけ笑った表情。
「ああ、本当生きた心地はしなかった」
「…はい。私もあまりしていませんでした」
淡々と告げる言葉に偽りは無いだろう。
怖いから前に出ないと事ある毎に嘯いていた彼は、それでも全員の命を握って孤独とも言える心理戦の攻防を繰り返していた。
細く小さな、その身体にたくさんのものを背負っていた。
「それでは、」
「ニア」
「……はい」
「また、会えるだろうか」
若しくは彼をこう呼ぶのも最後かもしれないと思った。
彼の名もまた本当の名ではなく、そして世界から彼が次に与えられる名は既に決まっている。
「そうですね」
少し首を傾げた彼がふと視線を彷徨わせる。
「アメリカで、貴方が頑張っていたらまた何かの事件で一緒に捜査するかもしれません」
「ニア」
「……どうか、元気でいてください。レスター」
「…ありがとう、君の方こそ」
彼の方から差し出してきた手を握って祈るように言えば、彼の細い指が微かな力で握り返してきた。
「…、」
ふるりと何かを言いかけた彼が首を振って笑う。
普通の少年のような、自然な表情に目を奪われた瞬間握られたままの手に彼の唇が押し当てられた。
「では、また」

するりと離された手と去っていく背中を呆然と見送って、けれど彼が別れの言葉を使わなかったのに苦笑する。
出会いがあれば別れもあるなど必然のこと。
しかし意志が伴う限り、また会えるのだろう。だからさようならと言わなかったのだ。

「…ああ、また」

そう、だから自分もさようならなどは言わないのだ。




>>私がレスニアなんじゃないよ(…)
   もう何も言わない。むつきさんに捧げます。

   あー…、ニアってどう可愛く書くんだろう…。

だから如何ってことは無いんだ、と何時もの様に言うには少し勝手が違っていた。
執務として最後になる書簡に目を通してくるりと器用に丸め、控えていた女史に渡した月は小さく溜息を吐く。
その事さえ彼がこの事態に珍しく戸惑っているのを見て取れた。
「清美」
「…はい? 主上」
「ごめん。その主上っての、今は止めてくれないか…。なんかもうその呼び方さえ嫌いになりそうだ」
曲がりなりにも王という存在なのだからそんなことをいうこと自体意味が無いのは知っている。
弱音を吐いた月に清美と呼ばれた女史は内心苦笑しながらも気遣いの言葉を掛ける。
「…何か、ありましたか?」
「ああ…。別に些細なことだからいいんだ。大丈夫」
本当に大丈夫ならば、こんな風にはなってないだろうと清美は出かけた言葉を飲み込む。
明らかに、誰が如何見ても今の月は憔悴している。
「無理だけはなさらないでくださいね」
しかしこれ以上の言及は許されては居ないのを空気で察した清美はそれだけを口にして渡された書簡を持ち、房室を後にした。
退室間際、背中から溜息がもう一度聞こえて溜息を吐きたいのはこっちだと一人ごちる。
「……一体なんだと言うのかしら?」
首を傾げれば、向かいから歩いてくる女御の姿。
見知った顔に清美は軽く手を上げて挨拶をした。
「海砂」
「あれ? 清美? ……今もしかして月のところに行ってたの?」
「ええ、まぁ」
「……変だったでしょ」
「あれ、何時からなの?」
「確か半月ほど前から」
「……長いわね」
「長いよー…。もう本当、竜崎も頑固なんだから」
首を竦めてそういう海砂は王と台輔の身の回りの世話をしている女御である。
女御は何人もいるが、特に二人はこの見た目は派手そうな女性を信頼して傍に置いていた。そして清美もまた彼女が信頼に足りえる人間なのだと知っている。
「台輔? 矢張り台輔が絡んでるの?」
「間違いないと思うよ。…しかし海砂は口止めされているのでこれ以上言えません。月にも言う気はありません」
口元に手をやって片目を瞑り茶化して言う言葉は念のため、と清美と月に対して言われた。
この場にいるのは自分だけのはず、と清美が首を傾げる後ろから通りの良い涼やかな声が紡がれる。
「それは困るな、海砂」
「聞きたいならご自分で」
何時の間に背後に立っていたのだろう。
月が困ったように眉根を寄せる。
「聞きたくてもあいつが何も言わないんだ。僕に如何しろと」
「そんなこと私に言われても困ります。好い加減降参したら?」
「だから僕が何をしたって言うんだ」
「私に言わないでって言ってるでしょ。言うのなら直接竜崎に言ってね」
もう巻き込まれるのは懲り懲りなんだから。
そう言い捨ててさっさと清美と月の間をすり抜けていく小柄な女御の姿は、すぐに通路の角に消えた。
取り残された二人は違う意味での困った視線を彷徨わせ顔を見合わせる。
「参ったな」
「……はぁ」
「この事は、内密にしてくれ」
ひらりと手を振って歩いていく月の姿に清美は矢張り珍しいものを見たという印象でただ「はい」と返事をした。

 


「簡単ですよ、主上」
「粧裕、主上って呼び方止めてくれ」
「だって仕事中…」
「今、お前にまでそんな呼び方されたら僕は間違いなくへこむ」
「そんな大袈裟な」
「勅令で主上って呼ぶの禁止にしたっていいくらいに追い詰められる」
「………」
大きな溜息を吐いて方卓に突っ伏す月に向かいに座った粧裕が苦笑する。
仕事中とはいえ今日やるべき執務は終えてその帰りに月に呼び止められ捕まった形だ。特に時間に制限は無い。
粧裕はちらりと廊屋に視線を遣り付近に気配が無いのを確かめる。
「お兄ちゃん、あのね」
「…うん」
引き取られて暫く、月に懐いた粧裕は身分や何も関係なく月を兄と呼んだ。今も妹のように思ってくれる月はその呼び方をするのを許してくれている。ただ粧裕は自分が今、国府の地官として働いている自覚上私生活以外で月を兄と呼ぶのは避けていた。
それは自分の中での線引きとけじめとしてのことである。
「………竜崎さんに名前で呼んでもらえなくなったんだよね」
「…うん」
突っ伏した腕で月の表情は見えないがかなり落ち込んでいるのだろう。
粧裕が引き取られた頃にはもう麒麟である竜崎は月のことを名で呼んでいた。少なくとも主上、と役を示すような単語で呼んでいた記憶は無い。
「もう僕には何が何だかさっぱりだ」
「誕生日」
音を上げた月に粧裕がこれ以上無い手掛かりの一言を与える。
「誕生日?」
その言葉に月が顔を上げた。
思い当たるものを全て洗っているのか視線が虚空を彷徨う。
「……あ」
「分かった? とにかく竜崎さんはそれで拗ねてるんでしょ。お兄ちゃんが悪いんだから謝った方がいいよ」
粧裕の言葉に流石に反論も無く困った顔をする月に、粧裕はにこりと笑う。
「それじゃ、私はもう戻るね。ちゃんと今日中に仲直りするんだよ」
そして止めの一言。
努力するよ、と答えた月は軽やかに去っていく義妹の後姿を見送ってからまた一つ溜息を吐いて預けるように方卓に額を充てた。
まさかそんなことで名を呼ばなくなったか、と一蹴することは出来ない。
誕生日。
今年は在位として一つ区切りの良い年だ。王と麒麟の生まれた日を基準として祭典でもしようと言い出したのは月の方である。
言い出した時期が中途半端だったせいか年の区切りで言えば月の方が早い誕生日も、祝うには竜崎の方が早くなってしまった。
最初は気乗りしていなかった竜崎を説き伏せて、竜崎の誕生日を祝ったというのに最近は忙しかったせいか自分の誕生日のことなどすっかり忘れてしまっていた月である。
暦をふと逆算して、確かに彼が自分の名を呼ばず主上と頑なに呼び始めた頃と一致するのを確認する。
間違いなく今回の原因は自分の方にあると月は認めざるを得なかった。
「……まさか、そういうことだったなんてなぁ」
一人ぼやいた言葉に、これから謝りに行かなくてはと身構えたはずの相手の落ち着いた声が落ちる。
「何がそういうことなんですか?」
「…竜崎」
「勝手に入ってすみません、主上」
主上とその呼び名に僅かに眉を寄せた月は、しかし文句を言わず一つ息を吸った。
「…………悪かった」
「…はい?」
突然の詫びに目を丸くした竜崎が首を傾げる。
「僕が悪かった、って言ったんだ。お前…僕が、約束を破ったことを根に持ってるんだろう?」
「……根に持ってるって何ですか。人聞きの悪い」
「そうなんだろう?」
「別にそんなことはないですよ」
「竜崎」
「はい」
「なら、何で怒ってるのか理由を教えてくれ」
「怒ってなんていません」
「怒ってるだろう」
「怒ってませんったら」
「怒ってる」
「しつこいですよ」
「大概お前も頑固過ぎるだろう!」
「月君がそんなだからですよ!」
思わず声を荒げた月に言い返した竜崎がしまったと口元を押さえる。
久しぶりに聞く、音だった。
「竜崎」
「……しくじりました」
心底悔しそうに呟く竜崎が小さく息を吐き出す。そして観念したように口を開く。
「…私は、別に……怒ってなんていません。ただ」
「ただ?」
「何だか悔しくなっただけです。貴方は、私の誕生日は忙しくても覚えてるくせに自分のは忘れてしまうんだって」
「……別にそういうわけじゃ、」
「月君は何だかんだ言っても自分の事は蔑ろにしがちです」
私はそれが心配なんです。
そういって月の頬にそっと触れてきた指先は少し冷たい。
竜崎の指先に自身の手を重ねるようにして月は、その手を引き寄せる。
「気をつけるよ」
「…そうしてください」
「竜崎」
「はい?」
「名を、」
方卓を挟んで向かいに立つ自国の麒麟を見上げて月は逸らさずに言う。
「名を呼んでくれ、エル」
「月君」
「…うん」
落ち着きを持つ穏やかな声にもう一度と強請る。当たり前のように呼ばれる名に月は瞳を伏せた。
名を呼ばれないことがこんなにも堪えることだなんて知らなかった。

今までそんなことにも気付かなかった、二人の当たり前がとてつもなく愛しいと思えた日でもあった。




>>十二国記ですの。
   十二国パロの月は割と俺様だけど、可愛い性格な気がする。
   それだって俺様でいられるのはきっと麒麟たちが可愛いからだね、そうだよね…!
   とか最早もう開き直った ネタ です(そんな馬鹿な)

本気なのか、と必死な形相で問われてニアは結局溜息混じりに「そうです」と返すしかなかった。
全て独断の上。非難は承知の上での決定事項にそう問うたレスターが唸る。
ニアが切り出してきた夜神月の今後については、この場に居る誰しもがレスターと同じ意見らしくただじっとニアを見詰め続けていた。
それは控えめに後ろに立つロジャーも同じらしい。
「兎に角、そう決めました。言いたいことは大体分かる積もりです。それでも何か言いたいのならご自由に」
そこまで言い切ってしまえば誰も言い縋ることはしない。
現”L”の判断であるのなら、と事情を知りニアの顔を知る少数の人間は一応頷いた。
話は此処までと打ち切るとそれぞれが自分の仕事に戻っていく。
その中で一人だけ動かぬレスターにニアは声をかけるしかなかった。
「まだ、何か? レスター」
「どうかしている」
「…レスター」
その言葉に決して冷たく言い離すのではなく、寧ろ言い聞かせるようにニアは名を呼んだ。
「夜神月は、キラだ。それをワタリとして傍に置くなど」
「レスター…、私は」
「ニア、何を考えている?」
俯いていたレスターがニアを逃さぬように強い視線で見据えてくる。普段視線を合わせ会話をすることの無いニアは、その行為に酷く神経が磨り減るのを承知でしかし視線を受け止めた。
「言った通りです。夜神月はキラとしての能力を失った。今更無謀なことをするなんて馬鹿なこと、あのプライドの高さです。しないでしょう。…そして私は何よりあの才能をそのままにするのが惜しいと考えた。それだけです」
「それは分かる。分かるが…何故ワタリなんだ」
「適任でしょう? 最も彼は優秀すぎるのでパイプ役だけじゃなくて事件自体を任せたって良い塩梅でしょうがね」
「ニア」
「心配には及びません。……彼は、私をそう簡単に殺そうとはしませんよ」
「保証は無いじゃないか。…相手はキラなのに」
「はい。保証はありません。……けど、分かります。彼はしません」
言い切るニアの口調ははっきりとしている。
「私は心配なんだ」
「分かっています。…いつもレスターには心配を掛けてばかりですね」
すみません、とニアは小さく謝った。
その言葉に微かに首を振るレスターにニアはそれこそ微かに笑いかける。
「ロジャーはもう歳で辛いらしいですし、丁度良いんです」
「なら私がワタリの役を買っても…」
「駄目です」
言葉を遮るニアの声に迷いの色は無い。
「何故?」
「ワタリには私の代りに色々な所に赴いてもらう、そんな仕事が多い。……レスターに離れられたら困ります」

―だって私、飛行機だってまだ一人じゃ乗れませんから。

そう嘯くニアに思わずレスターは苦笑した。
世界の切り札として動くニアの僅かでも信頼を得られているという事実と、それを伝えるには余りにも子どものような言葉が、何よりニアの人間性を示している気がした。
「分かった。そこまで言うのなら。…ただ、何か私が出来ることがあるならいつでも言って欲しい」
「…はい」



>>前の話の後日談(?)
   なんかむつきさんがレスニアしか言ってこないのが気になる(苦笑)

   なぜだ?

幾重にも巡らされたセキュリティを通り抜ける。一つ、二つ、三つ…十五を過ぎたところで数えるのに意味を見出せずに諦めた。リノリウムの床に革靴が立てる硬質な足音が続く。
無機質な扉の前で立ち止まり、同行していた体格の良い男がセキュリティを解除する。
壁を埋め尽くすモニターが視界に入り込み、その中ただ一つ頼りない細い人影が振り向いた。
白い柔らかそうな髪が拍子に揺れる。
「来ましたね」
肩越しに投げかけられた声は淡々と感情の断片も浮かべず、またモニターに戻された視線は此方に向くことはない。
「レスター、ご苦労様でした。席を外して下さい」
「しかし」
「…大丈夫です、レスター」
心配そうに声を上げた男に再度言葉を重ねることで黙らせると、男が退室したのを見計らって今度は振り返った部屋の主の表情はモニターという光源から逆光の形で見えない。
「お久しぶりですね、夜神月」
「どういうつもりだ?」
「どういうつもり、とは?」
表情も考えも何も読ませぬ声音で相手が問い返す。
記憶よりも幾分身長の伸びた相手は元々器量は悪い方ではないのだろう、今まで浮かべたこともないような曖昧だが何処か諦観を含ませた微笑を浮かべた。
「まぁ、貴方相手にこんな会話は不毛ですね。時間の無駄ですし」
「分かってるんなら用件を言え。態々監禁したはずの施設から連れ出して、此処に連れてきた理由は?」
「二十八回」
「…?」
「貴方の自殺行為の回数です。報告に上がっているだけの数ですから、もしかしたらもう少しあるのかも知れませんね」
歌うように滔々と告げた声は何も含まない。真実だけを浚う真摯さで紡がれる。
「別に自殺しようとした訳じゃない」
「その度に治療しなければならない。無駄な手間を掛けさせないでくれますか」
「なら放っておけばいい」
「そうも行きません」
モニターには様々な情報が映る。言語も違うから世界中の情報が流れているのは容易に知れた。
溢れ返る情報量の中で決して溺れることなく全てを掌握する能力は嘗て世界の切り札と呼ばれた男よりも勝っているのだろう。今はその名を継ぎ、幾重のセキュリティの奥にいる珠玉の存在は。
「ニア」
「…はい」
素直に返事をした存在に、笑みを佩く。
「無駄です。私は、貴方に何も見出してはいませんから」
意図を読み取りそう言った声に微かに感情が交じった。諦観以外の何処かしら寂しそうな響きに、最後に会ったのは倉庫で身柄を拘束され様々な検査と尋問を受け大分落ち着いた後、存在を隠匿するように外部からの接触を断たれた施設に入れられて一週間経った頃だったと思い出す。
あの頃は年齢の割に未発達な小柄な身体と決して贖罪は与えぬと静かな怒りが見て取れた。
しかし今は其れがない。
「絶望したか?」
「何にですか?」
「世界に」
「いいえ」
緩く首を振るニアに偽りはないのだろう。
ただ事実を、物事全てを、結果の侭に受け入れ続けてきた。それしかないのだろう。
心も感情も全てを切り離しあるが侭を受け入れることは個人的な全てを排除するに等しい。そうまでして頑なに名を継ぐことに何を見出したのだろうか。
「それより、私は貴方の愚行の理由を訊いていたんですが?」
「ああ…そうだったな」
施設は外部と接触出来る術が悉く排除されていたが、それ以外であればある程度身体の自由は許されていた。
何をするでもなく無為に過ごす時間。
日の浮き沈みで一日の経過は分かるし、季節の移り変わりで一年も大体分かる。しかし流れる時間は自分にとって何の価値もなく、生きているというのに死に等しかった。
だから確認したのだ。麻痺していく精神で、自分が今生きているのかどうなのかを。
それだけの行為だ。だからこそ自殺行為ではない。少なくとも周りからそう評価されようが自分にとっては違う意味合いを持っていた。
「…死にたいのなら勝手にすればいい」
ふと、淡々と声が紡ぐ。
「先程余計な手間を掛けるなと言わなかったか?」
「言いました」
「矛盾してるな」
「正確には”無駄”な手間を掛けさせないで欲しいと言いました」
普段会話の相手とは視線を合わせないニアがかち合う位にしっかりと視線を向ける。
色素の薄い容姿の中で唯一深い色合いの瞳は底知れず年下だというのに幾分の年上の人間と相対している錯覚さえ与えられた。
「……生きている実感が欲しいですか? 夜神月」
「何?」
問いかけてきた言葉は、自分の行動の真意を全て掴んだ上での問いだ。
誰も理解しない中で目の前の相手だけは何も言わずとも真意を読み取ったらしい。
「ただ何もせずに生きているのは死んだも同じと思っているのでしょう? あれは自らの生存を確かめる為の行動にしては酷く幼稚で無意味です」
「何を言ってる?」
「……貴方にはもうキラとしての力はない」
ノートは燃やしてしまいましたから。
そう告げたニアには何一つ表情は浮かばない。ノートの所有権を放棄すれば使用した人間の記憶はノートに関してのみ消える筈だった。しかしどういう訳か所有権を放棄せずノートが消失した場合は記憶が消えないらしい。
ノートが消失したのは間違いない。自分に憑いていた死神が確かにそう言ったのだから変えようがない。
長い長い心理戦を制したのは不確定で不安要素を抱えたまま立ち向かってきたニアの方で、万端の準備で迎え撃ったはずの自分は膝をついた。
「私は貴方を死んでも許さない。…そして貴方を殺さない。しかし」
一歩も動かなかったニアが言葉を切り足音もなく手を伸ばした。触れるか触れないかの距離に伸ばされた指は矢張り白く、それでいて頼りないほどに細い。
「貴方の才能は、惜しい」
「……へぇ?」
「生きている実感が欲しいか? 夜神月」
「ニア。それは、お前が僕の存在を必要としているように聞こえるんだが?」
敢えて傲慢に言い放ってやれば僅かに不快を表して眉を寄せて、しかし声だけは何も映さず続ける。
「そう取っていただいても構いません。それと、質問しているの私の方です」
言い切ったニアの言葉に強いものが混じる。
「…さて、答えていただきましょうか」
「そうだな。一つ、訊こう。生きている実感と言うがお前は僕に何を与える気だ?」
「私の話を聞いていませんね? 質問しているのは私です。……良いでしょう」
一歩、無防備とも取れる動きでニアが近づく。成長したにしては矢張り細い体躯は世界の切り札という名を持つには酷く儚いものに見える。同じように細いのだとしても嘗ての”L”は儚さは感じさせなかった。少なくともこのように纏ってはいなかった。
「貴方には、私の…いいえ。”L”の手足として動いていただきます」
「確定事項みたいな言い方だ」
「だってそうでしょう? 貴方はいいえとは答えません」
言葉を紡ぎ出した唇がゆっくりと笑みの形を取る。
瞬間、目を奪われた。この外見で言えば酷く現実離れした夢のように白い人間に、まさか自分が。
「答えは? 夜神月」
今までの感情という感情一切を排した態度からは想像も付かないような、穏やかで儚い笑みを浮かべたニアが最終勧告だと言外に含ませて問う。
思い通りになるのが悔しいと思ったのに、だというのに自分の喉元から滑り落ちる言葉はもう決まっている。
既に死んだも同じならば改めて感覚を与えるというのならば。
「良いだろう、ニア。……お前が望む答えをくれてやる」
「捻くれた答え方ですね。素直にはいと言えないんですか」
「そんなことをいうのは、お前の望む僕ではないだろう? ニア」
「…そうですね。では、夜神月…貴方には」
するりと一度感情を落として、ニアは告げる。
「”L”の片腕として、その為の存在として、ワタリの名を与えます」
二代目を引き継いだ嘗ての老齢になるワイミーズハウス院長の代わりとして、その為の存在として与えられるものを想像して薄く笑う。甘いと言ったらいいのか。
「良いのか?」
「はい。…貴方は、―もうキラではない貴方は私を殺すのが無意味なことなど百も承知でしょうから」
素直に頷いたニアがしかし遮る暇もなく言葉を重ねた。
「いい加減ロジャーも歳で中々世界中を飛び回るのは辛いようです。私は行動力に欠けるし、優秀な人物が必要なんですよ。例えばそれが狂気的な大量殺人者であっても」

―私が貴方を憎んでいたとしても。

そう言って笑んだニアは、確かに嘗ての”L”とどことなく似ているのに、本質的には自分により似ているのだと認識する。
きっと個人として理解し認められずに、だからこそ切り捨てた今容認するのだ。
達観し諦観し、それでも”L”の名を継ぐことに価値を見出した一人の人間の苦しみさえ捨てた選択。
「分かった。…”L”の望む通りに」
執事が主にするように恭しく礼の形を取るとニアの個人としての微かな感情が浮かぶ。少しだけ、痛みを堪える表情に知らず笑った。


確かに生きる実感は、得られるだろう。
今までとは違った意味で。



>>なんという俺様ロードな月なんだろうか…^^^^
   ifな、もしもあの時月が死なないで負けていたのだとしたら…でお送りします。
   ネタはむつきさんから頂いたので、須くむつきさんに。

   しかしうちの月は本当にどうしてこうも可愛げ無いんだろうね^^^

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性別:
女性
自己紹介:
此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

ブログ内文章無断転載禁止ですよー。
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