忍者ブログ
謂わばネタ掃き溜め保管場所
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「そうだねぇ、」
ふ、と相槌を打った少女が短く切りそろえた髪を揺らして視線を彷徨わせた。
隣を歩いていた長い黒髪の女性が釣られるようにして視線をあげたが何も見えない。
「あの時の僕は、大馬鹿者としか言えなかったろうね」
くすくす。
少女が笑う。
理由が分からず、しかし表情には出さずに困ったことを沈黙で示した女性に少女が笑いかけた。
「殺して欲しかったなんて、馬鹿すぎるでしょう? 終わらせて欲しかったなんて…、その為に自分を殺してくれる人間が出てくるまで殺し続けるなんて」
さらりと言ってのける少女の言葉はしかし陰惨な事実を含む。
それでも表情を変えない女がつと視線を少女に向けた。
「では、今は?」
「………生憎、続く記憶はあるんだけどもね」
少女には苦痛とも言えるある一点がある。
彼女の魂が世界から存在してから、幾ら死に生まれてもその前の記憶を持つ。
言い換えれば輪廻転生を繰り返して尚、彼女は彼女の魂がこの世に存在してから、彼女が生きてきた全ての記憶を持つのだ。
今の少女は齢十五。
しかし彼女の人間的に積まれた経験は途方もない。ただリセットされず蓄積し続ける。
「人間、生きてる限り修行で。生まれ変わる度に…少しずつ業を昇華していく…って何処かの宗教であるじゃない?」
「はい?」
「僕は一体、どれほど深い業を持ったのだろうね。………ずっと消えない記憶なんて」
「あの、」
「大丈夫。永い時の間、見失ったものがあるけど見つけたものもあって………結局今は前回のようには思わないから」
死を望み、その為に他者を殺める狂った精神は。
「…本当はあの時、僕は自分で絶つべきだったんだ。待たず、狂ってしまったのなら自らで終えるべきだった。付き合わせてしまった…。君の片割れ…。もし、また…会えるのなら謝りたいなぁ」
「無駄です」
「うん。分かってるよ。君たち”人形”は人間を愛し、愛される為に生まれてくる。謝っても仕方ない」
無表情に告げた女性に少女が手を伸ばす。
そっと滑らかな頬を滑り落ち、指先は上質な絹糸のような長く伸ばされた黒髪を梳いた。

「だから、ただの僕のエゴだよ」


嘗て人形を従え、恐怖の意味で女王と呼ばれた記憶を持つ少女は、その事実を微塵も感じさせない表情でくるりと身体を返す。
小柄な背中を負うように無表情な女性もまた少女の一つ後ろを続いて歩いた。



>>むつきさんちのジャンルごちゃ混ぜ設定の小ネタ。
   景ちゃんとクロニカ。

PR

「いつものようにジェバンニを迎えに回しましょうか? …一人で大丈夫ですか?」
『うん。大丈夫。母さんが家に着くまでにはちゃんと帰ってるから』
「………分かりました」
『それじゃ、また後でね』
ツーツーと通話の切れた音が受話器から流れるのを聞きながら、一拍置いてニアは通話終了のボタンを押した。
床に放り出せば少しだけ鈍い音で床に敷かれていた絨毯が受話器を受け止める。全体重を座っていた椅子にもたれ掛けると背中から小さく笑い声が聞こえた。
「何です?」
「…いいえ、振られてしまったわね」
そっと肩に置かれた手は丁寧にマニキュアの塗られた女性の手だ。見事な金髪で長身の女性はニアが”L”の名を継ぐ前から捜査員としてニアの下で働いてくれている。年を重ねても衰えることのない美貌を持つ彼女はニアが無類の信頼を置く人間の一人だ。
「子供は難しいですね」
「あら? ニアにも難しいと思うことが?」
素直に弱音を吐いたニアに女性、―ハルが少しおどけた様子で問い返す。見上げて視線の合った先でニアがふっと力を抜くように笑んだ。
「私は人間性が人より無いらしいですからね。難しいことだらけですよ」
幾ら難解な問題を苦労することなく解けようが、人より優れた思考回路を持ち合わせていたとしてもニアには社交性の薄さという欠点があった。加えてこれは元よりなのか、自己の感情を表すことも他に比べて希薄である。だから誤解されるのだ。無機質で人間ではないようだと心無い人間が心無い言葉を浴びせる。
しかしニアも人間である以上決して感情がないわけでも人間らしさを損なったわけでもない。人よりも表に出ないだけ、それだけのこと。言い換えれば強く傾向が現れた個性の一つである。
ニアを良く知るハルにしてみれば、ニアの言葉に異論を覚えて当たり前だった。
「それは卑屈ね」
「……事実ですよ。良く言われるんです」
くすりと微かに笑ったニアが肩に置かれたハルの手に自身の白い指先で触れた。
ハルの爪に塗られた赤のマニキュアとニアの肌の色は幻覚を見たかのように良く映える。
「…本当、難しいですね。……母親というのは難しい」
「……ニア」
「私は、あの子に………辛い思いばかりをさせているんじゃないか…。そう考えると、いつもどうしていいか分からなくなる」
表情には困った様子などおくびにも出さずそう言ったニアに、ハルが年下の姉妹をあやす仕種で頭を引き寄せて優しく撫でた。極端に人との接触を嫌うニアはそれでも拒絶を表さない。
一つ、態度で確認出来る信頼の証でもあった。ふわりとした癖毛の感触を指で感じながらハルが呟く。
「そうね…。親子の問題は難しいわ。一人だけの問題じゃない」
「…はい」
ハルの言葉に頷いてニアは瞳を伏せる。
如何なるロジックを組み上げられる天才的な頭脳を持つニアは時折途方もないとそれを持て余すのだ。
親子の何たるかを客観的に見ることは出来ても主観的にどうしていいのか分からない。……ニアは親から貰った愛情を倣って子に与えられる程、親の愛情を十分に貰ってはいない。
「……感謝してます。リドナー」
「…えっ?」
「貴女たちには本当に感謝している」
家族を良く知らないニアが子供一人、しかも世界の切り札としての役目を果たしながらこれまで育てられてきたのにはハル達の存在が大きい。
言外に含ませた意味を誤ることなく受け取ったハルがにこりと笑う。
「どういたしまして」
言葉と共に引き寄せていたままだった頭を抱き締めて大丈夫よ、と言ったハルをニアが不思議そうに見上げる。
「………リドナー?」
「大丈夫よ、ニア」
軽く片目を閉じて静かだが自信たっぷりに言うハルにニアは否定の言葉ではなく微かに笑って「そうでしょうか」と言うだけだった。


***


月がユイの前に現れてから既に二週間が経った。
学校に行く際も時折ついてくる月は今日もユイと共に学校で一日を過ごした。
大丈夫なのか、と背後から掛かる声に答えず肩からずれ落ちてきた鞄をかけ直してユイは足早に道を歩く。
母が帰宅する時間が何時になるのか、具体的な時間は分からない。
だからなるべく早く用事は済ませねばならない。
「おい」
「………」
「聞いてるのか?」
一本路地裏に入ったところでユイが振り向く。そして溜息一つ、
「あのね、僕が誰もいないのにぶつぶつ会話してたら変な人に思われるでしょ」
「……お前本当に可愛くないな」
「貴方の子供なんだから仕方ないんじゃない?」
やれやれと肩を竦める月にユイもまた眉間に皺を寄せることで不機嫌を表して踵を返した。
特別な養育施設ではなく、普通の子供と同じ学校にユイが通うのは何より母親たっての希望だった。
才覚があるのならその分必要なことは学校でなくても教えられるとさらりと言ってのけた母親が、ただ普通の子供と同じ学校にと思ったのは、ユイの特別な家庭環境と母の自分のコミュニケーション能力の低さを危惧してのことだったのかも知れない。
確かに父と母の才能を多少なりとも継いだユイにとっては、通っている学校の学習プログラムは低レベルだ。
母の知り合いや、ネットを通じて特別に講義を受けたりもするのだが、その知識は既に大学レベルであったから、学校には寧ろ友人達に会いに行ってるようなものだった。
「……学校、楽しいか?」
ふと月が迷わず路地を歩いていくユイの背中に声を掛けた。
その声は神妙だった。だから月が今どんな表情をしているか知りたくなってユイは振り返る。
「楽しいよ」
「馬鹿ばかりだろう?」
「…それ、学力の話? それなら確かに僕の方がずっとずっと上だけどね」
月の表情は真剣だ。ただユイに真剣に問うている。
「人間って学力とか、頭の良さだけではかるものじゃないでしょ? 馬鹿だけど凄くいいやつとか、いるでしょ」
「退屈だろう?」
「退屈? しないよ? 確かに学校で同じレベルで話せる友達はいないけど…、面白いこといっぱい知ってるよ。僕の目に映る世界はきっと、その子達と同じなのに少し違うように見えるんだって思ったら面白いよ」
「……お前、変わってる。その考えはニアとも僕とも似てない」
ふるりと力無く月が首を横に振った。
声音には不思議と寂しさとも悲しみとも取れる何かが滲んでいる。
「父さん?」
「………僕は、退屈だった」
ぽつり。
何か大切に埋もれていた真実を掘り起こしたような言葉だった。言うなれば告白だ。
そしてその言葉が何を指しているのかユイは簡単に思い至る。初めて学校に着いてきた時から、月は観察するよう感情を余り浮かべずユイのことを眺めていた。何故? と思ったが理由は今の月の一言で十分理解出来る。
月は自分とユイとを量ったのだ。若しくは同じような思いをしてるのではないか。
学校の中、社会の中、誰とも寄り添えず、本当の意味で理解されず出来ず、孤独と退屈を持て余していた月と同じ思いはしていないかと。
俯いてしまった月が泣いているかも知れないと不思議と確信に似た思いで手を伸ばす。月が望まなければ触れられないことは承知だったので、きっと宙を掴むだけだと思ったが、ユイは父親の自分によく似た顔に指先を届かせた。
「きっと、僕も。………一人だったら退屈だって思ってたよ」
そして、指は月に触れた。
ユイの手を月が拒まなかった確かな証拠に内心ユイは安堵する。
「理解してくれる、……そんな人がいなかったらそう思ってたよ」
同じレベルで話せないと壁を作る前に、きっともっと幼い頃に、月には物分かりが良いから分かるだろうと突き放されてきた事実があるのだ。幸いなことに頭の出来が良いからと言って心まではそうはいかないと今の”L”であり母であるニアはユイを突き放さなかった。そして、色々と手の回らないニアの不慣れな全てを助け支えてくれた存在があるのをユイは知っている。
「参ったな」
「……え、何?」
「あいつ…、ちゃんと子供を育てられるじゃないか」

―こんなに良い子に。

最後の一言は掠れて、片手で顔を覆い隠してしまった月の表情は見えなかった。
僅か鼓膜を震わす程でしかない小さな声は手を伸ばしたユイには届き、ただ黙って今度こそ泣いてしまった父親に笑いかける。
暫くして指の隙間から顔を覗かせた月もまた、ユイに少しだけ不器用に笑いかけた。
初めてユイが見る不器用で優しい笑顔だった。
だからこそ母に感知されないよう少しずつ調べて見えてきた事実に心を痛める。
目の前にいある彼、父親である存在である月が何者であったのか。
(……、本当にそうなの、父さん)
幾ら巧妙に隠匿されていても真実があるのなら見つけ出す術はある。母親が昔言った言葉だったか。
そしてユイは一つ、母が隠し通そうとしていた父親の存在を紐解く鍵を当の父親本人から与えられている。
―名前。日本人にしては珍しい、響きのその…。
(父さんがあの”キラ”なの?)
月に触れた指先が感じた微かな温かさを確かめるように、指先に視線を落としながら声には出来なかった問いは、ユイの心に痛みを伝えただけだった。



>>4話目。
   落としどころを決めているのに、そこにいけない。
   なんか…非常に先行き不安な気になってきましたあれれれれ…(汗

とんとんとんとん。
何かを叩く音が聞こえ、最初は無視し続けたが余りのしつこさにニアは顔を上げた。窓を叩くと言うよりは指先で弄う仕種だけ、正確に言えば指先だけが見えて知らずに溜息が零れる。
椅子に腰掛け読んでいた本を閉じて窓に近づく。
「何をしてるんですか? ライト」
そして自身の主であるレスターの弟である少年を脱したばかりの年頃の青年の名を呼んだ。
陽光に透けて飴色に変化する癖のない髪が揺れて窓の下に腰掛けていたライトが顔を上げる。
「やあ」
「やあ、じゃ…ありません。何してるんです?」
「ニアって昔から辛抱強いね。もう少し早く出てきてくれると思った」
咎めるニアの口調もお構いなしに、くすくすとライトが悪気無く笑う。二年という間、他国の騎士侯と旅をして帰ってきてからと言うもの何処か人間的に図太くなったようだ。
それは父親である総一郎からすれば精神的に何処か脆く家の中で妾腹の子という負い目を感じていたライトの変化は喜ばしいことであったろう。幼い頃からライトを知っているニアとしてもそれは良いことのように思えた、が。
「用事あるなら、こんなまどろっこしいやり方しなきゃいいじゃないですか」
「別に。………ちゃんとした用事がある訳じゃないから」
「私、別に怒りませんよ」
窓から身を乗り出したニアのふわりとした純白の髪が陽光を浴びてきらきらと光った。
白磁の華奢な手が窓枠に掛かり身を乗り出す形になっているニアが呆れ顔を浮かべると、壁に背を預け座り込みニアを見上げていたライトが笑った。
「ニアが怒らなくても、ね」
「………はい?」
「だってニアは兄さんのものだからね」
滑らかな動きで首を傾げたニアはライトの腹違いの兄の為に作られた人形。
人に最も近く人形でありながら心を持ち、そして何より自ら主人を選ぶことの出来る人形とはいえ、特別な人形だ。
そしてニアはライトの兄が幼い頃に彼の為にオーダーされ、そして彼を主人と選んだ。
自然とライトとも旧知の仲である。
「………まぁ、質問の深い意味は聞かないでおきましょう。それで何の用ですか?」
「うん。…これ、直し方知らない?」
肩を竦めて自分の膝の上にある小箱を指し示したライトにニアが微かに笑む。
それはライトがまだ子供の頃に妹の誕生日に送ったオルゴールではなかったか。
「壊れたって言うから直してやるって言ったんだけど…。音が鳴らないんだよ」
「……貸して下さい」
困ったと首を振るライトの手から小箱を受け取ったニアが、小さな出っ張りを引いて箱の蓋を外す。
螺旋を巻いていた部分が歪み上手く仕掛けが回らなくなっていたようだった。
白い手を窓の外に目もくれず差し出すと掌にライトの持ち出してきた工具が乗せられる。
僅かな時間ニアが細かい作業をする微かな音が響き、ついで少しだけ古びた可愛らしい音が続いた。
「……直ったの?」
「はい。直りました。これで大丈夫ですよ」
窓越しにニアの手元を覗き込んでいたライトがぱっと顔を上げて「ありがとう」と笑うので「どういたしまして」とニアも微笑む。
工具とオルゴールを月に返してニアはするりと廊下に続く扉に視線を向けた。
窓から離れ庭を歩いていったライトに背を向ける形となりニアは後ろ手で窓を閉める。

「帰ってきていたんですね」
「何をしてるのかと思っていただけだ」
「……違うでしょう? ライトに気を遣ったんでしょう? レスター」
にこりと笑い、自然と差し伸ばしてきた主人の大きな手にニアは歩み寄り自分の手を乗せた。
その手を引かれ腕の中に収まる形になり僅かに苦笑したニアが囁く。
「お帰りなさい、レスター」



>>むつきさんのお遊びパラレルの設定をお借りして。
   というわけでむつきさんに捧げます。

   デスノ以外だと書けそうにないので、分類不可ではなくデスノカテゴリーで。
   エルも書いてみたいな気がするけど上手くいかない気がするので、やめておく。
   何か思ったけど私はどうやら月ニアが割と好きなようだよ。。。

―また、夢を見ている。
また、いつもの夢を見ている。鬨の声。上がる旗。時代劇でしか見ない風景。刀と刀が切り結ぶ音。
そして不敵に笑うあの男。
強すぎて他の者では太刀打ち出来ぬそれに軽やかな足取りで向かっていく自分の、次の運命はいつも決まっている。
負けてしまうのだ。
夢だと最初から認識のある夢だからか痛みはなく、ただ最期に「すまねぇ」と泣く掠れた声で夢は終わる。
その声が誰のだか、知っている。競り負けた筈の相手に泣かれるのだ。敵同士な筈なのにまるで大切な人間を失ったかのようにそれは泣くのだ。
ぽたりと水滴が落ちるのは男の涙で、それに苦笑して「良い」という自分がいて。
何故殺されるのにそんな穏やかな気持ちでいれるのか? と自身不思議に思い目が覚めればいつも泣いている。

……そして今日もそれをやってしまった。

「盛大だったなぁ、毛利さん」
「五月蠅い」

とんとんと肩を叩いて笑う男に元就はうんざりと言った様子で切って捨てる。
不覚も不覚。夢を見るのが悪いとは思わないが授業中に居眠りをしてしまった挙げ句、例の夢を見て泣いてしまうなど元就にとって自己嫌悪甚だしいことでしかない。
意識が覚醒した瞬間、隣の席だった政宗が少しだけ気遣わしげな視線を寄越して、教師に気付かれぬよう机を軽く叩き「大丈夫か?」と口の動きだけで訊ねてきたのに、同じように声には出さず「大事ない」と答えた。
ただ平素感情の起伏が表情に表れない元就にしては珍しい出来事に政宗なりに心配しているようだ。
授業中に居眠りをすること自体珍しく、本来なら涙を流したことに言葉を掛けたいはずの政宗は心得ているとばかりに敢えて触れず居眠りをしたことに対して言葉を投げる。

「最近疲れてるのか?」
「……いや、普通だな」
「でも俺、あんたが授業中に船漕ぎする姿なんて初めて見たぜ?」

その言葉には苦笑するしかない。

「ああ、確かに初めてだな」
「うーん。無理しすぎてんじゃねぇ? 倒れないくらいには休めよ」
「…そうする」

掛け値無しの心配に僅かに笑ってそう答えた元就に満足したのか。政宗が「よし」と笑って頷いて、しかし次の瞬間には神妙な顔つきで元就に顔を寄せた。
突然の事に状態を逸らすことで避けながら、元就は眉根を寄せる。

「…で?」
「何だ」
「どんな夢を見てたんだよ」
「何故、そのようなことを?」

そう切り返せば、盛大な溜息が政宗の口から零れ出た。
理由なんて言われた方が癪だろうと暗に告げているようだ。

「………時折、見る…夢だ」

だから元就は正直に言葉を口にする。夢を見ている間は鮮明な内容も映像も、醒めてしまえば途端に手の中を滑り落ちる砂のように掴み所も鮮明さもなくなってしまう。
何時の頃からか見るようになった夢だというのは分かる。リフレインする。
繰り返す。繰り返し「すまねぇ」と落とされる言葉だけに何か違う言葉を返したいと思うのだ。

「ふぅん?」
「古い…そう、歴史の授業に出てくるような風景で、戦が起こっている」
「…戦?」
「そこで誰かと戦っている」
「分からないのか」
「……夢を見ている時は覚えているのに、起きると忘れるのだ」
「ああ、良くあるパターンだな」

夢を見ている時は内容をしっかりと受け止め覚えているのに、起きた瞬間に薄れてしまうのはよくあることだ。
頷いた政宗に矢張りそうかとぼんやりと思って元就は指先で頬に触れた。
先程無意識で滑り落ちた涙は、何の理由があってのことか。

「いつもこの夢を見て起きると、泣いている。……それも良く分からんのだがな」
「タイミング悪く授業中の居眠りでそれをやったって言うのは、しかし…あれだぜ?」
「五月蠅い」
「俺はいいけど、たぶん噂は広まるだろうな。鉄面皮の毛利が泣いたって」
「…五月蠅い」
「とりあえず、それ出任せだってことにしといてやる。だから、今日の朝の分のチャラにしてくれ」
「結局それか」
「頼む。…今日のは不可抗力で、な」

朝のHR滑り込みの政宗の出欠の確認をしているのは元就だ。
そして未だ担任には報告しに行ってはいない。頼む、と両手を眼前で合わせて拝むクラスメートに今度こそ苦笑する。

「分かった」
「Thanks! 恩に着るぜ」
「いや…、お互い様だ。本当に他言だぞ?」
「嘘はつかねぇよ」

にっと不敵に笑って政宗がひらりと手を振ったのと同時に、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。
教師の来る僅かな間に生徒全員が慌ただしく自分の席に戻っていくのを、椅子に座りぼんやりと見遣りながら元就は思う。
いつも見る夢の、その相手の顔は起きた瞬間には忘れてしまう。
名前は夢の中で一度も言わないので誰なのかも分からない。
けれど繰り返される夢で呼びかけられる声だけは鮮明で。鮮明過ぎて不思議と忘れられないのだ。
がらりと教室の扉が開いて次の授業の教師が入ってくる。その後ろに続いて年若い男が数歩遅れて入り、今の時節、教育実習で来た大学生かと予測をつけて元就は教師の在り来たりな紹介を聞き流す。

「どうも、」

しかし、次の瞬間元就は詰まらなさそうに窓の外に投げていた視線を戻した。
明瞭で明るい響きを含んだ掠れた声。
教師の説明が終わり、それまで隣で大人しくしていた男が自己紹介の為に一歩前に出て口を開いた瞬間、曖昧な夢の境界が途端に鮮明になる。
嗚呼、あの……、声。

「長曾我部元親と言います。名字は堅苦しいけど、本人はそんなこと無いので仲良くして下さい。二週間宜しく」

人好きする笑みを浮かべて頭を下げた教育実習生をじっと見詰め、元就は一度だけ何かを振り払うようにふるりと頭を振った。
夢が現像を結ぶようなそんな感覚に少しだけ胸が苦しくなる。
不思議な、出会いだった。



>>夢と現実の境界線。夢と現実の交点。
   元就の方が年上、といつも思ってるけど偶には年下もいいかな…とか。

   丁度今時期から教育実習生ってくるよね…と思いついた現代パラレル。

どうにかして、触れようとした。どうにかして、手に入れようとした。
それを今手に取った瞬間の冷たさに驚いて、最後何か確信するように力尽きたお前は正しいときつく結んだネクタイを緩めて自重する。
捕まれたシャツの、その強さは思ったよりも弱くて。
だから目を閉じた数秒さえ、長いと思ったんだ。ああ、どうかしてる。
『月君は私の初めてのお友達ですから』
しれっと言われた動揺する為の手段だったはずの言葉を今更思い出すなんてどうかしてる。
底知れぬ漆黒の瞳がいつも隙を見逃さぬよう見詰めていた、その視線を払拭出来ないのもどうかしている。
これではまるで悼んでいるようだ。
「………、私と、月君は…、同類みたいなものですから、ね」
ぽつり。
密葬の済んだ墓の前には誰もいない。
置かれた花束は白を基調とした故人への餞。志半ばにして倒れた人へ、その意志を継ぐことの現れ。
嘗て言われた言葉を思い出して口に乗せれば直後、「嫌ですね。変な顔しないでください」と笑ったその顔を思い出した。後悔する。

いいか。お前は僕に負けて、僕はお前に勝って。
お前は誰も知らないままにこうやって冷たい土の中に眠ったんだ。
どうして、それなのにどうして僕が、負けたような気がしてなきゃいけないんだ。


「嗚呼、糞。もう、本当に………そうだよ。僕だってお前と同じだ」
感情の理由を知っていて蓋をする行為に馬鹿らしくなって吐き出した。隣で真っ黒な死神が笑う。
「お前を、愛してたんだよ………。馬鹿」



>>うちの月とLでは、いつもLが「あいしてる」としか言わないので
   偶に逆なんてのも、いいかなぁ…なんてね、

カレンダー
08 2024/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
プロフィール
HN:
くまがい
HP:
性別:
女性
自己紹介:
此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

ブログ内文章無断転載禁止ですよー。
忍者ブログ [PR]