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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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なんてことだ、と呟いたのは誰だったのか。視野的にも広すぎる講堂の中で呟かれた一言を耳が拾った。整った顔立ちの青年が眉根を寄せて呟いたようだった。
何が「なんてことだ」なのかと言いたくなるほど険しい顔つきだった。
だからこそ何も言わずに行動の真ん中で保護用の布を取り払われた学術品に視線を投げる。
それは滑らかな曲線美の彫像だった。たおやかな腕は誰かのために伸ばされて、そして途中で途切れてしまっている。
匠の手によって生み出されてから此処に至るまでの間、途方もない年月の間に失われてしまったらしい。
伸びゆく腕の角度はしかし失われた箇所からでも十分に推測出来る。
予め目を通しておいた資料にもそう書かれていた。
ただ優しげに微笑む女性の表情から誰のためにその手は伸ばされ、どのように”何か”に触れようとしたのかが見ることが叶わないのは勿体ない気がした。
―――”エウプロシュネー”、事前に寄越された”春の微笑”に関する全ての資料を。
接続されたデータベースが命令に従い、全ての資料を寄越す。元々データベースに頼らなくても記憶力は良い方だ。寸分違わず脳内で覚えている。
全ては確認のためだ。
先程、絶妙のタイミングで呟きを零した青年は首から入所許可証を提げている。
ただ未だに険しい顔で、講堂の真ん中で微笑みを浮かべ続ける彫像を見据えていた。
―――日本国の、官僚? 何でまた。
気になり検索を掛けたところで折り目正しく上部データベースから情報が与えられる。
脳に特別な施術を施し、データベースと直接接続する利点は此処にある。何も動くことなく頭で命令するだけで全てレスポンスが返ってくる。
データベースに記録することよりもニアにとっては此方の方がメリットを占めていた。
―――【簡単さ、あれが気になるんだってよ】
不意に。
通信を示す信号と同時に声が脳内で再生される。同部署内によるアクセスにニアは誰にも知られることなく口角を上げた。
―――でしょうね。でなければ、此処までわざわざ厳しいチェックをして入りますか? しかも
―――【気になる一言だよなぁ】
矢張り。
相手も中々耳敏い。あの小さな呟きを同じように漏らさず聞き取っていたらしい。
―――Mr.伊達、彼に心当たりは?
―――【ないな。同じ出身でも、俺は月での研究機関暮らしが長かったんだ】
―――そうですか。エウプロシュネーからのアクセスではこれ以上の情報は貰えませんし、仕方有りません。
―――【ニア?】
―――アポロンか、ガイア接続者に聞いてみますよ。彼が何故此処にいるのか…をね。
「それはまずい」と通信相手の政宗が言った気がしたが、ニアは構わず通信を一方的に切った。
それと同時にデータベースの接続を切る。独特の頭痛がした。最初はこれに慣れずに苦労したものだが、人間の順応とは恐ろしい。一瞬で静寂を取り戻したかのような思考にニアは小さく息を吐き出す。
講堂の真ん中で、失われた手などさして気にする様子もなく微笑み佇む彫像の名は”春の微笑”と言う。
一度脳裏に焼き付けるように上から下まで眺めたニアは、集まった学芸員や関係者たちの合間を擦り抜けて講堂を後にした。

 


どうして無くなってしまったんだ。
失われてしまったんだ。
あれは、あれは、あの時にはちゃんと微笑みを浮かべて見るものに優しく手を差し伸べていたはずだ。
首から提げていた許可証を煩わしげに取り払いながら月は閑散とした廊下を歩く。
音の反響さえ計算され尽くされたかのように規則正しい足音が反響され、脳内を埋め尽くす。
煩わしいと首を振ったところに、小さく何かが映り込んだ。
廊下の端。
完全にコンピューターによって制御されている人工惑星内の青空を眺める人影は細身で、そして何にも染まらぬような白を纏っている。
ふと思い出す落ち着き払った親友の言葉。
”博物館惑星アフロディーテには、私のいとこが居るんです。目立つので分かりますよ”
お前の容姿も大概、悪目立ち過ぎるとその時返したように思うが人影の目立ち方は少しそれとは異なっていた。
排他的と言えばいいのか。違う、全ての色を排他したような容姿の中で瞳だけが色を湛えているのだ。親友と似通った深い色。
”へぇ? お前にいとこ? 年上か?”
”いいえ、下ですよ。小さい頃に両親が亡くなって引き取っていたので、兄弟に近いかも知れませんね”
”で目立つ容姿って?”
”月くん好みかも知れないですね。真っ白なんですよ”
雪のように白くて、紛れてしまいそうだから雪の日に外を出歩く時には鮮やかなマフラーをさせたと親友が笑いながら話した。こんな穏やかな表情はあまり見たことがなかったので良く覚えている。
漆黒の髪を無造作に伸ばした親友とは違う、柔らかそうな白い髪。
「……此処から先は職員以外立ち入り禁止ですよ」
ふと、それが月に声を掛けて寄越した。
視線は未だ空に注がれてるが為に一瞬、自分へ向けられた言葉だと判断がつかない。
歩みを止めた月をちらりと見遣った相手は、矢張り白さが酷く目立つ容姿をしていた。肌も髪も、何故か合わせるように服装も白を基調としている相手が口を開く。
「夜神月さん」
「何故、僕の名前を?」
「さきほど講堂で見掛けました。”あれ”を見るためにわざわざアフロディーテまで上がってきたんですか?」
世界中の芸術、工芸、動植物…それらを集めた博物館として存在する人工惑星までは、どうしても移動時間が掛かる。
挙げ句まだ展示物として見せる物ではない、研究対象としての芸術品を見るために許可まで取ったとなると更に時間は掛かった。
全て含まれた物言いに月は笑うしかない。
「君は此処の学芸員?」
「ええ」
素直に頷き、やっと空から視線を外した瞳は真白な容姿に反した深い色。深淵を覗いた時に似た、色。
「従兄からお名前は聞いてます」
「それじゃやっぱり…」
「ニアと言います」
軽く会釈した学芸員は月に名乗ると僅かに口角を上げた。
月も知らず知らずのうちに笑みを浮かべる。確かに真白な容姿は浮世離れた感じがして自分好みだ。
挙げ句親友に劣らず頭の回転が良い印象を漂わせたニアは、そのアンバランスささえ見事に調和していた。
ついと深色の瞳が逸らされ、ニアが首を傾ける。そして白い指先が癖毛をくるくると弄り始めた。その仕草はどうにも自然すぎる、癖のようなものだろう。
「君は、何処の?」
「所属ですか? なら”あれ”を引き取る部署の人間です」
先刻見学を許された彫像を引き取るというならば、工芸、建築を司る部門に所属しているらしい。
ニアは視線を合わせることなく月に問う。
「さきほどの一言が気になりました。以前”あれ”を見たことが?」
「……君が”あれ”を研究するのか?」
「共同研究対象です。携わる可能性はあります」
妙にはっきりとした言葉で言い切ったニアがやっと視線を月に向けた。
じっと見詰めてくる視線は親友に、ニアの従兄に似ている。
「なら、ただ夢見がちの馬鹿の一人言とでも留めておいてくれ」
月は深い息を吐き出し言い捨て、歩みを再開しようとした。その腕が決して弱くない力で引っ張られ振り向く。
袖をニアが咄嗟に掴んでいた。
「何?」
「聞きたいことがあります。研究者としてではなく、あくまで芸術が好きな馬鹿の一人として」
好奇心は時に人に思いも寄らない行動力を与える。ニアの瞳がそれを物語っていた。

 


通された部屋はニアの研究室らしい。
個室を与えられているのか、と月は想像していたより殺風景な部屋をぐるりと見渡し、本棚に置かれている資料に近い本の表紙を物色し始めた。
横目でそれを無言で見詰めながらコーヒーを二人分淹れたニアは、今一度データベースに接続を開始する。
紙の資料でも電子資料でもニアにとってはあまり大差ない。
メールの着信記録がある。相手は従兄だった。
『私の親友が今頃、アフロディーテに滞在している頃です。目立つと思うので会えば分かります。妙に女性受けしそうな容姿に酷く頭の切れる人です。どうにも気になるものがあるらしい。もし見掛けて貴方が協力出来るなら、助力しては貰えませんか?』
ニアは小さく笑みを零す。
まさに、言われなくとも気になったし目に留まった。言われた通り協力出来る部分で協力することにもなりそうだ。
『ええ、Lの親友には会いました。貴方に言われなくとも興味が湧けば協力します。それではお元気で』
わざと現状は教えない。どうせ後ででも伝わることだ。
同時に通信を伝えるシグナルがなって溜息を吐く。用がなければ接続を切る行為は、接続学芸員となったニアの他の学芸員と違った癖の一つである。
変わり者が多い学芸員の中で、データベースに常に接続している人間は多いが極力接続したがらない人間は少ない。
身体的に負担が掛かる場合にはやむを得ず接続時間を制限してる者も存在しているが、ニアは違った。
純粋に接続時間を「煩わしい」という理由だけで短くしている。
―――【やっと繋がった。ちゃんと接続しておけよ】
聞き慣れた声にニアが眉根を寄せる。先程も通信を入れてきた同僚の政宗だ。
―――すみません。苦手なんです。
―――【それは分かってる。こっそり聞いておいたぜ?】
何だかんだと通信相手の政宗は面倒見が良い。全てにおいて割と無頓着なニアを端々で気に掛けてくれている。
―――ありがとうございます。
―――【どうってことはねぇ。…あ、それと】
―――はい?
送りつけられたファイルを開こうとしてニアは政宗の言葉に耳を傾けた。くつくつと笑い声が聞こえる。
―――【あれの研究、お前もメンバーに入るぞ】
―――そうですか。
―――【嬉しく無さそうだな?】
―――いえ…。そういうわけでは。
会話通信と同時に政宗が何か資料を送りつけてきたのを告げる電子音が鳴る。
先程政宗の言った「聞いておいた」という通信ログらしい。案外マメな行動にニアが小さく感嘆を零した。
―――【主任は明日のミーティングで決めるらしい。遅れるなよ】
最後に釘を刺すような言葉を残して通信が消える。
「Mr.夜神。先程、問われた質問ですが」
二人分のマグカップを持ち、ニアは未だに本棚に並ぶ表紙を興味深そうに眺める月に声をかけた。
すぐ反応し差し出されたマグカップを受け取りながら月が首を傾げる。
「私も”あれ”を研究することになるようです」
その言葉に月は目を丸くした。微かに驚いた表情を浮かべた月は存外幼い印象を与える。
自分の利き手に持ったままのマグカップに口をつけてニアはコーヒーを嚥下する。苦い液体が食道を通り直接落ちてくる感覚に、そういえば今日は昼を抜いたなとどうでもいいことを考えた。
ニアから受け取ったカップを両手で包み込むように持ったままの月が少しだけ眉根を寄せた。
「なら、言わない方が良いか」
微かな呟きにニアが今度は首を傾げる。
「何故です?」
「僕の言った世迷い言で、研究に支障が出る怖れは?」
「多分無いでしょうね。ロマンチストは多いですが、結局研究者ですよ? ここの人間達も」
幾ら世界中から集まる美術工芸品を扱おうと、学芸員の殆どはその対象を研究する側面を必ず持つ。
彼ならばこれだけを言えば多少は理解するに違いない。従兄の親友であると言うならば。
「なるほどね」
案の定、その言葉に月は笑った。そして受け取ったコーヒーに口をつける。半分くらい飲み下して彼は漸くほうと息を吐いた。
「アフロディーテに送られた資料がどうなってるのか僕は分からない。僕は芸術方面に関わる仕事はしていないからね」
「ええ。日本の…公的機関の方ですよね。研究ではなく」
「ああ、行政の方のね」
「引き上げられたのは日本の太平洋沖です。十数年海に沈んでいて殆ど損傷がないのは素晴らしい」
アフロディーテに引き取られた”あれ”。―”春の微笑”と呼ばれる彫像は数ヶ月前に太平洋側日本領海にぎりぎり触れるか触れないかの位置から引き上げられた。
沈没した貨物船の残骸の中、コンテナの一つに入っていたものだ。
世界大戦の折、ポーランドの美術館から紛失した彫像。名前を”春の微笑”といい、彫像家の名前は当時無名であった。そんな彫像家の名が有名になったのは戦争終結からまた数十年後である。
彼の彫像は現存するものも名前のみ資料であげられるものも含めて両手で数え上げられるほどしかない。
精巧な作りと見るものを魅了する柔らかな作風が芸術的に素晴らしいと評価されている。
その、彫像家の処女作なのだ。
「腕以外は」
月が言う。
確か送られてきた彫像は深海から引き上げられたのと同時に丁寧克つ精巧な洗浄処理がかけられている。
両腕の無かった講堂に鎮座する彫像を思い起こしてニアはもう一口とコーヒーを啜る。
参照で脳裏に呼び出された資料にも腕の破損断面から見て、海に沈んだ際に出来た可能性が高いと簡易的な検査結果が書き出されていた。しかし腕がどのような形であったのか…。
抑も”春の微笑”はポーランドの美術館にあった時も展示物としておかれてはいない。
当時の資料は紙媒体であったため喪われてしまった資料も多い。”春の微笑み”に関する記述のある資料は今のところ存在していなかった。
「確かに両腕はありません。貴方は見たと?」
「信じるか?」
「話を聞いてみないことには何とも」
美術館から紛失した後、闇に紛れ密かに売られ渡っていたのだろう。挙げ句の果て、海に沈んでしまったのは幸運なのか否か。
僅かに頭を振った月が視線を浮かせた。
「子供の頃だ。たぶん十歳にもなってない」
静かに思い起こすように、記憶の断片を引き出すと言うよりは記憶を再生するかのように月が話し出す。
(―”エウプロシュネー”、会話の記憶を)
脳内で出来るだけ記憶は出来る。けれど確実な方が良い、とニアはすぐさまデータベースに指示を出した。『REC』のサインが点灯し、これからニアが止めるまでの会話ログが音声データで残る。
「僕は”あれ”を船の中で見ている」
そう語り始めた月の声は本の一篇を読み上げるように淡々として、耳に残るには酷く触りが良かった。

 


音声データを聞き終えた政宗が「ふぅん」と品定めするように声を漏らす。
「まぁ、つまり。あのお綺麗な顔の官僚さんは、”これ”の乗っていた船の沈む直前に寄った港で、遊びで忍び込んで腕のあったこいつを見ていた、と」
こつん、と石膏軽く叩いて首を傾げた。
一晩経った後、午前中の工芸部門アテネでのミーティングで既に”春の微笑”の研究者は決定している。
「そうなりますか。彼の記憶力は素晴らしいです。”エウプロシュネー”に物体演算のホログラム機能が付いてないのが惜しいくらいです」
「要らないだろ? これだけ精巧にお前が図を作って寄越せば」
「一晩かけました」
主任は政宗で、担当する学芸員はニアの他に三人ほど。しかし全員が全員乗り気なわけではない。他に研究対象を抱えている人間もいるのだから仕方のないことだった。
ニアでさえゼンマイ仕掛けの美術品を他に抱えている。
「一晩? 良い出来だ」
口笛を吹いて称賛を示す政宗にニアが首を傾げる。
厳密に言えば一人でやった訳ではないのだ。話し終えた後、さらさらと机の上にあった不必要だった紙の裏を使い、図を書き始めたのは月だ。それは説明するための落書きでなければならないのに、彼は非常に器用だった。
気付いたら図面を書く製図用の紙を引っ張り出して来て、月の説明と大まかな図に専門知識を書き加えていく形でニアが仕上げていった。没頭しすぎて気付いたら窓の外は朝日が差し込む時間に及んでいた。
思わず笑ってしまったのは言うまでもない。
自分の従兄が天才ならば、彼もまた天才なのだとニアは思う。
学者としてさえ通じるのに彼の才能はそこには留まらないのだろう。
「あとは、捜索依頼を掛けた海域で腕の残骸でも出てくれたら良いんだがな」
「海域を割り込めたんですか?」
「上部のデータベースには素晴らしい演算機能がついてるだろ? 使わない手はないぜ」
にやりと不敵な笑みを浮かべた政宗の言葉に思い当たって溜息をつく。
たぶん間違いなく今は部門を変え研究に没頭している、だが接続先は一つ上のデータベースにつないでる彼の親友に頼んだのだ。
「全く……」
「とりあえず、あれだな。出てくるとは限らないと言うよりは、出てこない可能性が高いわけだし……。それ試しに作ってみることにするか」
「簡単に言いますね」
「体を動かすのが好きなヤツだっているしな。……それでぴったり枠にはまって、何かが読み取れるのであれば」
「”差しのばす手は、隔てなく誰にでも優しさを与えるようだった”」
「Why?」
「さっきの音声記録には残してませんが、彼が最後にそう言ってたんですよ。だから忘れられないって」
政宗がじっと部屋に運び込まれたまま物言わず微笑を浮かべる彫像に視線をくれる。
倣ってニアもまた視線を移した。
途中で途切れてしまった腕の、その元の形に等しい情報は与えられてはいても、そしてその通りに復元したとしても、たぶん元の様相にはならないだろう。
最初からあればこそ、後で容易につけられるものではないのだ。
そんな芸術品など幾らでも存在する。
一人の彫像家が何を思い生み出したのか。読み取るにしても、
「仕方ねぇ。作るのはとりあえず保留にして、砂漠から砂金を探すみたいな可能性にかけてみるか」
失われた腕はすでに海中のバクテリアや長年海水に晒されて形も残っていない可能性が高い。
だが容易ではないからこそ、ここの学芸員たちは日々頭を抱えつつも充実した毎日を送るのではないか。
「そうですね。そうしましょう。それまでは」
余り笑うことをしないニアが微か笑んで、机の上に広げた図面を器用にくるくると丸めていく。
全てがニアの手のひらに収まったところで小さく息を吐いたのはどちらだったか。
「色々調整が必要になりそうだ。アポロンにも手伝って貰わなきゃな」
「そこはお任せします」
「あのな、お前」
「主任は貴方ですから。頼りにしています」
そう言われて言葉を飲み込んだ政宗にニアはもう一度笑いかけた。

 

暗い自室に辿り着くなりベッドに倒れ込んだニアは、ふと思い出したかのようにデータベースに接続を繋ぐ。
そして今は違う場所にいてやはり研究に明け暮れているだろう従兄にメールを認め始めた。
『お久しぶりです、エル。
 先日お会いした貴方の友人ですが…』
それは用件のみをいつも伝えあう相手であるエルが少し驚く、長いメールであった。



>> ジャンルはデスノだけどごちゃごちゃなので本当は分類不可かな(苦笑)
    そんな博/物館惑/星パロネタ。
    途中で見失ったが、政宗さんは面倒見が良いと勝手に思っている。

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ねぇ、アロマちゃん。
そう言うのに何度躊躇った後に口にしただろう。
モニターから全然目を離さなかった姉が少しだけ視線を投げてきた。
研究に没頭しながらも、そう言う仕草の時はその続きを投げて良いと言うことになる。
「………」
しかし言葉は結局どうしようかと言い出せず、吐き出されたため息はアロマのものだ。
「あのね、何?」
話しかけたならいいなさいよ、と付け足して彼女は今度こそモニターから視線を外した。
くるりと椅子を回して性別以外は瓜二つと言っていい弟に向き合う。
「……、あの」
「うん?」
「アロマちゃんはさ、あの人のことどう思ってるわけ」
「誰のこと?」
そこで無意識に首を傾げたアロマにフェイズがため息をつく。
どうしてそこで分からないのだろう。
「だから、エイルマットのこと!」
「ああ…。別に? 何とも。というかどうしてそんなこと聞くの、フェイズ」
「だってアロマちゃんさ…」
言いかけてフェイズは口を噤んだ。
何を言えばいいと言うのだ。鈍い姉に何とも言えない感情を覚えて、「やっぱいい」と言い直した。
それにも首を傾げて「変なフェイズ」と言い置いて、アロマはモニターにまた向かい合ってしまう。
その背中を見つめて、「やっぱり」と呟いたフェイズの言葉は聞こえていないようだった。

 

「で? フェイズはイルたんが嫌いなのよ?」
話す相手を間違えた、と頭が痛くなっているフェイズを余所に、キャンバスにただ絵の具を塗ったくってるようにしか見えない天才は振り返る。
二つに結った髪が揺れて、感情を余り移さない少女が少しだけ笑った。
「別に、嫌いなんて言ってないでしょう?」
「言ってるのと一緒なのよ。あ、違うのよ。気に入らないだけなのよ」
この子は容姿は幼いくせに、酷く時折鋭い。
椅子に座りながらフェイズはキャンバスに絵を描き続ける少女を見つめた。
「気に入らないなんて」
「じゃあ、何なのよ。言ってみたらいいのよ」
そう問われて言葉に詰まる。その後ろを会話はどこからともなく聞いていたのだろう、二人の顔見知りである若い金髪の青年が笑って通っていく。
「違うよ、リムル。フェイズはさ、ただ悔しいだけなんだって」
「エッジさん?!」
驚いて振り返ったフェイズを余所に、どこ吹く風の笑顔がそこにあった。
「大事なお姉さんを取られた気分でね」
「ああ、そうなのよ? フェイズってば案外可愛いところあるのよ」


>> 博物/館惑星/パロ、SO4部分。
    メールでもえぶそくを訴え続けた冬さんの戦利品。
    私としては急拵えの何か(苦笑)

こつん、と乾いた音が響いた。気配はあった筈なのだが? と首を傾げたところでぼんやり考え事に没頭していたのだから何も言えたものではない。単純に見落としたのだ。
「珍しい来客です。どうなさいました?」
必要以上に光源の落とされた部屋で来訪者の姿は紛れてしまいそうだった。
「”ここ”ならば可能だと聞いた」
「はい? 何をでしょう?」
首を傾げれば来訪者は少しだけばつの悪い表情を浮かべて本題を切り出した。
元々お喋りな方ではないのだから至極当然のことだったが、彼の口から出た言葉に思わず笑みを浮かべてしまう。
何て言う、
「分かりました。手配させましょう」


*****

「なんなのよ、どうしたのよ?」
「別に何だって良いじゃないですか」
「……良くないのよ。自分が今どんな顔してるか、分かってるのよ?」
「そんなの知りませんよ。知ったことか」
「まず態度さえ崩れてるのよ。何があったのか知らないけど、溜め込むのは良くない癖なのよ」
「今回は違いますから」
「……?」
不思議そうに見詰めてきた少女に仏頂面の青年が応える。
本当は口に出したら、それこそ際限なく色んなものが口を突いて出てしまいそうだから何も言う気にはなれなかったのだ。
「抑えとかないと、色々出てしまいそうなんですよ」
「言っちゃえばいいのよ」
「嫌です」
「……はぁ、本当にフェイズって馬鹿なのよ」
溜息一つ落とした少女が肩を竦める。
随分と大人びた仕草をするようになったと片隅で思いながらも、盛大に溜息で応酬した。
少しだけ眉を顰めた少女が仕返しとばかりに青年の座っていた椅子の脚を蹴る。振動で倒れそうになるのをテーブルに手を突いたことで防いで青年は少女を睨み付けた。
「リムル」
「ふん、なのよ」
そっぽを向いた少女に青年が少しだけ笑みを零す。
つい、と揺れて背中に落ちついた髪の毛を悪戯に一束引っ張ってやれば、頬を膨らました彼女がもう一度椅子の脚を蹴った。
そして頭を動かす独特の歩き方でとてとてと部屋を出て行く寸前。
「あの、Pの野郎」
世にも珍しい、完全に崩れきった口調の青年の言葉を耳にした。
それは感情さえも抑えきれない声で、「Pって、イルたんのことなのよ?」とも聞けずに少女は扉を閉める。


*****

くすくす、と笑い声が聞こえた。
控えめに耳をくすぐる声は未開発惑星で使用不可の筈の小型の通信機器。耳の飾りに紛れるようにして装着するタイプのために誰にも分からない代物である。
そこから声が聞こえた。
「笑い事じゃないです」
『ええ、そうですね』
「あなたが協力したんでしょう。もう」
『だって仕方ないでしょう』
存外穏やかに話す声には芯の強さが含まれた。
心地良い低さの声が側で聞こえる。
「仕方なく何て無い」
『存外、子供ですね』
「悪かったですね」
『いいえ、悪くないですよ。ただ…そうですね、私は彼がわざわざ直接会いに来て、言い出しにくかっただろうに躊躇わず申し出た勇気に敬意を表したまでです』
「……今度あったら、ぶん殴ってやります」
『おやおや』
「なんですか?」
『彼だけ可哀想だな、と思っただけですよ。だって貴方だって幸せになったんですから、彼にだって幸せになる権利はあるでしょう?』

――未来は誰のものでもなく、その人達のものですから。

穏やかに告げられた言葉を敢えて聞こえない振りで、通信機器の電源を切った。
ふつりと途絶えた静寂に隣の部屋から聞こえた足音に、結局通信相手の言葉が真実そのものなのだと痛感して笑う。
なんとも悔しいことではあるけれど、それはきっととても幸せなことなのだ。



>>SO4、ED後捏造補正。
   睦月さんまでもえくれよっていうから、もえにもならない何か一つ投下。
   なんか掴みきれないな、やっぱり普通に何かをするのは止めておこうと思った私。

   しかしやらなきゃいけないことをせずに、違うことばっかりしている私です^q^

「少し出掛けます。リドナー、申し訳ありませんが車を出して下さい」
ニアがそう言って指定した場所に、その場にいたレスターとハルは少し驚きながらも頷くだけに留めた。
すぐに回された車の後部座席に大人しく座り込んだニアは防弾ガラス越しに空を眺める。偏光された空は本来の色を誤魔化して、灰色に近い色に見せる。
月と対峙した日は本当にどんよりとした空だった。季節も冬でいつも薄着のニアは特段平気な顔をしながら、それでも寒いと思っていた記憶がある。勿論、幼少を過ごした英国よりは寒くなかったからこそ出来たことだったが。
「……ニア」
黙って車を走らせていたハルが控えめに声を掛けた。気付けば車は停まっている。
「ああ、すみません」
いつもは直ぐに反応を示すニアが苦笑した。自分が指定した場所に着いたことに気付かぬほど思考を投げ出していることなど珍しい。
既に一台、黒い車が隣にあった。
「……ご苦労様です、ジェバンニ」
車から降りて声を掛ければ、車の側で立っていた男が「いいえ」とだけ返す。それにニアは緩く頷いて先程までステファンの見ていた方向に視線を向けた。小さな人影が一つ、其処にある。
「すみませんが、二人とも此処で暫く待っていて下さい」
それだけを言い置いて歩を進める。相変わらず閑散と、いやそれよりも寂しさばかりが積もるような場所だ。
風が癖のあるニアの髪を掠っていく。顔に掛かる前髪を押さえて、小さな人影を視界に捉える。
父親譲りの、亜麻色の癖のない髪が同様に風に攫われて揺れていた。じっと前を向いたまま動かない子供の眼前には一つの墓がある。
「母さん」
声をどう掛けようかと口を開いたところで、タイミングを計ったようにユイが振り向いた。
にこりと笑った表情をどう受け止めて良いのか分からず、ニアも曖昧に笑って返す。
「寒くないですか?」
季節は過去訪れた時とは違い冬ではないが、けれど吹き付ける風は体感温度を知らずに下げる。気遣う母親の言葉に子供は緩く首を振っただけだった。ゆっくりと沈黙が落ちる。
仕方ないことだと結論付けてニアはユイの側にまで歩み寄った。子供は拒む様子もなく目の前に来たニアの白い手に触れる。
幼い時のように手を繋ぐ。自主的な行為にニアも何も言わなかった。言えなかった。
「行っちゃったよ」
「そうですか」
誰が、とは言わないユイの言葉が誰に対して使われたものなのか理解している。ニアには見えていなかった。ユイには見えていた。―彼のことなのだ。
「笑ってた」
「……え?」
狡いよね、とユイは少しだけおどけて見せて笑おうとした。
「ユイ」
かち合った視線の先で泣くのを必至で堪える自分の子供の感情にさえ疎いニアではない。ただ普段通りに名前を呼んで、繋がれた手はそのままに姿勢だけを変え、そっとユイの肩を抱いた。聡い子供はきっと最初に有り得ない事象を受け入れた時から別れを覚悟していたに違いない。
見えないからこそ知らない、聞こえなかったからこそ知らない。
短い期間の中でユイと月が築いただろう関係は決して簡単にお終いだと言い切れるものではなく、幼い子供のように泣きじゃくるわけでもなく繋いだ手の力だけを強くしてユイは静かに涙を落とす。
笑ったから、ユイも笑って見送ると決めた。
居なくなったのか、自分が見ることが出来なくなったのか分からない別れ方だった。
輪郭が呆けるよう、結ばれた焦点が解けるように消えていく月はただ笑っていて、それ以外は何もなかった。不思議な感覚だがすとんと「ああ、時間なのだ」と納得してユイも笑い返した。
きっと間違っていない。
「母さん、」
「はい」
「僕、頑張ったよね」
「はい」
何を、と言わないユイの声は震えて嗚咽が混じった。本当に物心がつく前にあやしたようにニアは子どもの頭を撫でる。癖の無い髪がさらさらと指先を滑っては落ちていく。
簡単に数えられるほどの時間。一ヶ月にも満たない期間。その中で整理出来ないほどの思いや真実、全てをユイは受け取った。
今、出来る精一杯で理解出来るものは整理し、理解出来ないものは有りのままに受け入れた。
決して良いことばかりだったとは思わない。父親が世界を揺るがせ、恐怖にさえ陥れたと言って良い大量殺人犯であったことは矢張り子どもにとっては重過ぎる真実だった。
けれど最後に思ったのは本当に単純に”会えて良かった”だったのだ。
小さい頃から覚えの無い父親の姿も声も考えも、本来ならば触れられる筈も無かったもの全てに触れられたことが、切ない事だと理解しながらも嬉しかった。
嗚咽で震えていた呼吸を、少しずつ深呼吸をする事で押さえ込みながらユイは目を瞑る。
目を閉じればまだ笑っていなくなった月が目の前にいるような気さえした。
優しく何も言わず抱きしめるニアの体温は染み入るように温かく、ぼんやりとユイは先程言われた言葉を思い出す。
伝えなければならない。
今度は声が震えないよう、大きく息を吸って整えてから丁寧に言葉にした。
「簡単に死ぬなよ」
それは月を真似た口調で、まだ幼い声で。
一瞬ニアの頭を撫で続けていた手が止まる。それに合わせてユイが顔を上げた。
「伝言」
「……、そうですか。相変わらず勝手な人ですね」
見上げたニアが浮かべた表情は、今まで見たことが無い感情の混ざったもので、その後困ったように笑う。
「愛していたのか」と問えば「違う」と返って来るであろう感情の複雑さはユイにはまだ理解出来ない。もしかしたらこの先ずっと理解出来ないものなのかもしれない。でもそれで良い。全てを理解出来るはずが無いからこそ理解しようと努力しなければならないのだから。
ニアが浮かべた表情は月が最後に浮かべた表情に良く似ている。それが答えな気がした。
空いた方の手で目元を強引に拭うとユイは微かに笑う。無理に笑えば名残のように、涙が一筋零れた。
「……帰りましょうか。随分冷えてしまいました」
風に攫われそうな微かな声でニアが言う。頷いたユイは一度も自分から繋いだ手を離さなかった。
ニアもそれを咎めず二人でゆっくりと墓標から離れる。
「……さよなら、父さん」
肩越しに振り返って呟いた先、その墓標には”夜神 月”と名が彫られていた。


***


名を、どうしようか。
重いようで軽い腕の中の重みを見下ろしながら、ニアは思う。生まれたばかりの子どもはすやすやと寝息を立てていた。
片手でも抱えられる小ささと重みは、それでも一つの命で尊い唯一であると思えた。
子どもを生涯産みたくはないと思っていたはずだったのだが、思わぬ方向に捻れ今は存在している。それが可笑しいような気がしたし、温かい体温に当然かもしれないとも感じた。言い知れぬ不思議さでニアは子どもを見詰める。
たぶん外見は自分より父親に似るだろう。まだ断定は出来ない事だが顔立ちに面影が見えた。
「ニア?」
心配そうに声をかけてきた初老の男性にニアが「なんでもない」と首を振る。
じっと腕の中に視線を落としたまま、逸らさないニアの様子に言い辛そうに躊躇ってから初老の男性が声を掛けようとした。
「この子は私が育てます」
掛けられる言葉を予測していたのか、視線をゆっくりと男性に向けてニアが言う。無茶だと反射的に出かかった言葉を初老の男性は何とか飲み込んでニアを見詰めた。強い意志が込められていて、何を言っても無駄だと理屈ではなく本質で理解する。
「……子育ては楽ではないよ、ニア」
「そうですね」
遠回しに非難すれば、どこ吹く風の返答が戻ってくる。
「でも決めました」
きっぱりと告げたニアが笑う。今まで浮かべた事のないような笑顔で笑う。
数秒の沈黙の後、初老の男性は全てを理解したかのように頷いた。元々自分の生活さえ無頓着なニアのことだ。仕事面だけでなく生活面、子育ての面でもサポートしなければならないだろう。
それでも良いと思えた。腕にしっかりと生まれたばかりの赤ん坊を抱き、穏やかだが芯の通った笑みを浮かべるニアを見てしまっては、そんな思いは全て吹き飛んでしまう。
「分かった」
それだけを言ってニアの腕の中にいる赤ん坊を覗き込む。健やかな寝息を立てる表情は穏やかだった。
ふ、と子どもから視線を逸らしたニアの視界に、窓の外で本来の開花時期から少し遅れて咲く花が映り込んだ。風という言葉に由来する名前の花は微かに揺れて、何となく花の意味する言葉が頭に浮かべばもういない子どもの父親に似ている気がした。
「貴方は育てられないんです。名前くらい一部貰いますよ?」
病室を出る寸前だったロジャーが何事かと振り返る素振りを見せたが、声は認識出来たものの言葉は拾えず肩を竦めて部屋を後にする。
「――、貴方の名前ですよ」
ロジャーが出て行ったのを見届けてから、ニアは大切なものを教え込むように大人しく寝入る子どもに語りかけた。
それが、名だった。




>>パラレルif13話目。デスノが13巻なんでそれに奇しくもあって良い限り(苦笑)
   ユイの名前は漢字一文字で「月」。
   そして風に由来する花の名は「アネモネ」。
   花言葉は「期待」「はかない夢」「薄れゆく希望」「はかない恋」「真実」「君を愛す」。

   無事に終わらせられて良かった。一先ず幕を下ろします。

(なんでだろうなぁ。同じさ、野郎の髪なのにさ)
同じならパートナーの椿の艶やかな濡瞬の髪を褒めるべきと世間一般では絶対に言う。必ず言う。
確かに綺麗だと思う。しなやかに風に攫われて、女性の豊かなラインを持つ背中に落ちつく様は一種絵みたいだと、たぶん誰もが言う。自分だって綺麗だって思う。
けど、何故だろう。
「………なんだ、突然」
夕焼けを見上げて無防備な背中から後ろ髪を引っ張った。
予想に違わぬさらりとした感触が指を擦り抜ける。
気配を察してないわけではなかったはずだ。元来気配を隠すことに関しては不向きだ何だと言われてきた彼の気配が分かっていて容認したに過ぎない。
目の前の幾分も年上の男は。
「いや、何となく」
「相変わらず突拍子もない」
目を細めて窘めたのだか笑ったのか分からない表情をした男が肩越しに振り返った。
瞬間、肩で落ちついていた髪がさらりと揺れて落ちる。
同じの筈なんだ、とブラックスターは言い聞かせた。髪の色ならマカに似ている。髪の長さも同じくらいかも知れない。
しなやかさなら椿に似ている。尤も椿の方が長くて綺麗なのだろうけれど。
「…そうか」
出会った頃より身長は伸びた。
今はもう見下ろされることもない身長差にブラックスターがぼんやりと、こんなに近かったかと思う。
最初に会った時には命の危機を感じたのだ。穏やかに落日を見守るこの男に。
「さっきからなんだ?」
いつも賑やかしい様子が窺えぬ相手を不思議と思ったか問いが重なる。
身長は殆ど並んだ。男と決着をつけた折、全てが終わった後、彼は約束通りに此処に来たのだ。
幼い魔女の身の安全を保証して貰い、そして彼が指導について何年が経ったのか。
「なぁ、何年だ?」
「…お前、人の質問には答えず一体、」
「ミフネが此処に来てもう何年だ?」
男の言葉を遮ってブラックスターは覚えてる分の指を折る。両手には満たない。
ゆっくりと指で数えられていく様子を見ながら溜息一つ落とした男が、言った。
「丁度、あと一週間で五年になるか」
男にとって五年の月日は身体的に変わることはなく、いや寧ろ鍛錬を怠れば老いていくだけなのだが、少年期であったブラックスターが成長するのには充分だった。
元々毎日の鍛錬を怠らない鍛えられた身体は小柄であったが、今は身長も伸びている。
精悍な顔つきに、少年から青年に変わろうとしている表情に五年の長さを思い知る。
「そっか。五年か」
「ああ」
頷いた男が一歩と踏みだし隣に並んで夕陽を見詰めるブラックスターの横顔を見た。
夕陽が赤く赤く染めていく。赤は血の色、炎の色、揺らめく意志の色。
血塗れた手ならばと武を極められず堕ちていった魂が数多ある中で、少年の魂は揺らがない。
「…前に親父に似ているっていってたか?」
不意に空から目は逸らされず問われた言葉に男が首を傾げた。
「今は?」
聞きたかったのはこちらか。ふと口元が綻ぶ。
「お前は修羅でも武でもはなく、お前の道を行くのだろう?」
「そりゃ、俺さまは一番になる男だからな」
にっと子供らしい無邪気な笑みを浮かべて返される言葉に、男は今度こそ笑う。
「今のお前は父よりもずっと大きいな」
先へと行った。
と小さく付け加えた言葉にブラックスターが「当然」と返すのなんて想像しなくても分かっている。
「当然だ、俺は」
「神も超えるんだったな」
口癖を引き継いで笑う男にブラックスターも笑う。
本当はぎりぎりであったと思うのだ。意志も精神力も全てを凌ぎ削った最後の戦いで彼の命を取らなかったことは。
あの中で奇跡があったならば、たぶんそれだ。
「そうだ。さっきの、あれはなんだ?」
ふと何かを確かめるように伸ばした手の動きを止めるかのような声に、ブラックスターが我に返る。
此処にいると確かめるため触れようとした手は宙で止まり、風に攫われた男の長い髪が指先に少し触れた。
「あれって?」
「最初の”そうだ”、の言葉だ」
「いや、あれは」
どうして同じ性別で、特別整った容姿というわけではない筈の彼の、その髪が綺麗だと思うのか。
その答えは触れた瞬間に気付いた。単純すぎて、結局単純思考は変わらないとブラックスターは思った。
「綺麗だなって思ったって話だよ」
「……なにが?」
「まぁ、色々と」
誤魔化しにならない誤魔化しで肩を竦めたブラックスターが、尚も訝しげに見てくる男の髪を、指先に触れたそれを捕らえた。

綺麗だと思う。
椿の艶やかな黒髪も、マカの柔らかい髪も、リズとパティの日溜まりを集めたみたいな色も。たぶん綺麗だって思う。
けれど、綺麗だと思い触れたいと手を伸ばすのはこれだけなのだ。
夕陽に照らされて若干赤味を帯びた髪を引っ張られ、男が呆気にとられた表情でブラックスターを見詰める。
何も気付いたのは綺麗だと思う感情だけではない。だからこそ、宣戦布告する。
「覚悟しておけよ? ミフネ」



>>まさかのソウルイーターで(苦笑)
  アニメ版展開のブラックスターとミフネの数年後。
  こんなでもいんじゃね?とか思うわけです。ミフネすき。

  …ってこんなことしてないで早く書き途中のものをかけ、私^q^
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そんなところです。

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