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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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やけにのったりとした、それは気持ち悪さを含むよりも何よりもこう哀れにも思えて、水面に浮かぶ純白に溜息を吐いた水蛇の巫女は不自然に出来た水溜まりを覗き込む。
やけに透明度が高く、それでいて拒むように冷たい。
僅かに触れた手を引っ込めてもう一度溜息を吐いて、彷徨わせた指先を純白に伸ばした。
ぐいと引きながら言う。
「あのなぁ」
「なんだ。ユーリか、元気か」
「分かってて此処に来たんだろうが。お前の国じゃないぞ、此処は」
水気を十分に含み純白の髪が貼り付くのも構わずひょこりと顔を出した水棲の精霊は、白ばかりの容姿の中で目立つ真紅の瞳を細める。
不健康に白さが目立つ腕が伸び頬に触れる寸前、冷たさを予感して身を引いた巫女に笑った。
「どうしてだろう。此処は居心地が良いんだ」
嘗て精霊の第一位である三体が生まれ落ちた地である故に精霊である水馬にとっては心地良いのか。はたまた都の地下で相互協力の関係を築いているのが同じく水棲の同族だと言える影響で錯覚するのかは分からない。
ただ不自然に出来上がった水溜まりに何も知らない人間が落ちてしまっては余りにも悲惨だと思うのだ。
元々水馬は生き物を水の中に引き込む凶悪さを兼ね備えている。
水馬の力で出来上がった丁度大人がすっぽり落ちるような落とし穴と同じ大きさの水溜まりに底はない。運が悪ければ何処までも沈んでいくだけだ。
「デューク」
「……なんだ?」
「いじけに来ても良いから、廊下にこうやってくるのだけは止めてくれ」
本当に。
誰かが落ちれば洒落にならない。命を落とされても困る。
するりと水溜まりの中に沈んでいた水馬が体重を感じさせない動きで巫女の漆黒の髪に触れた。濡れた手は想像よりも冷たく血の通わない無機物よりも質が悪いと本能で感じた。これでは引き込まれてしまっても無理はない。
「お前は良いな。……本性を理解した上でそう接することが出来るのは優れた巫女の特権だ」
水気を含む長い髪が床に下ろされていた腕に僅かに触れて冷たい。
真っ直ぐに深紅の瞳を受け止めて巫女は笑う。人外の底知れぬ瞳を真っ向から受け止め自我を保つ難しさを感じさせない仕種は確かに水馬の言うよう、優れた巫女の証明の一つでもあった。
「そんなの、褒められても嬉しくねぇよ」



>>水蛇の巫女と水馬。もふ設定。
   不思議と水馬のデュークは雰囲気が出るなと思う。個人的に。
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それは何とも言えないほどの、恐怖だった。
分からない。分からない、それが手を伸ばすのが怖くて目を逸らすことも出来ず凝視する。
顔が見えない。のったりとした影は酷く緩慢な動きで近づき手を伸ばす。逃げたいと思ったのに動けなかった。
「……おい」
そこに少しだけ掠れた子供の声が掛かる。
「……おい、大丈夫か? 聞こえてるか?」
僅かに陽光の差し込む路地に立つ身長の低い影。逆行になって顔が見えないが暗い路地裏にも臆することなく歩み寄ってくる。
「お前、貴族の坊ちゃんかなんかだろ? こんな下町で迷子なんて洒落になんねぇぞ」
乱暴な言葉遣いと、簡素な服の上を滑り落ちた漆黒の髪、差し伸べられた手。
「君は」
怖いと見詰めていたはずの恐怖をいとも簡単に押しのけた年回りの近い、女の子なのだろうか。漆黒の髪を無造作に伸ばした子供が笑う。
「オレ? オレはユーリ。ほら」
差し伸ばした手を振った子供の一人称、に同性なのかと納得して手を取る。
立ち上がった先で普通の人間には見えない黒い影が所在なく蠢いているのを見て、身体が竦んだ。
姉はあれを生きている人間と変わらずに見、自分は初めて認識した時が悪かったらしく襲われそうになったために恐怖を感じる。
思わず動けない自分の隣で首を傾げた子供がその影にも手を伸ばした。
「そっから出たいんだろ。お前もおいで」
見えているのか。
接してきた中でこの類が見えたのは姉と後は何人かだけだ。子供は怯まず伸びてきた影を掴むと日の当たる路地へと歩き出す。
日の光が十分に差し込んだ路地に出た瞬間、ふと軽くなった気配に思わず自分の手を握る子供の反対側を見遣った。
まるで溶けていくように消えるそれに息を呑むと、空になった手を振った子供と目が合う。
「いっちゃったぜ?」
だからもう怖くないよな、と簡単に自分の恐怖を看破して見せて笑った、その笑顔が印象的だった。
「……フレン」
「ん?」
「僕はフレンっていうんだ。ありがとう、ユーリ」
先ほど名乗られた名前を口にすると、きょとんと目を丸くして「どういたしまして、フレン」と返して笑った。
それが自分とユーリの出会いだった。


>>こんな感じかなぁっていう掴み。

伸ばされる手がないな、と思う。
呼ばれる声もないとそこで気付いた。ぼんやりと視点が定まらない視界で鐘の音だけが響くので煩いと思ったのに、何も出来ない。冷たい風が攫うのだ。
全て攫っていくのはいつだって当たり前に世界に存在する物。そして攫われていく物も然り。
「……、ああ」
もう言葉は要らないと気付く。
呼ばれることもなければ自ら言葉を紡ぐ必要もない。語りかけてくる相手がいない。語るのを望む相手もいない。
遠く聞こえる鐘の音は弔鐘だ。喪を示す黒が空にはためくから否応なしに気付いてしまう。
小さく水音が流れて捕まりそうになる寸前に宙に逃げた。そこで何かを言いたげな水馬を見る。
「すみません。私は行きます」
ここに居る意味はもう無いので。
居てくれと言った人はもう居ないので。
小さく「そうか」と返った言葉に感謝した。彼はあれでいて良く理解している。自分を閉じこめた檻はたった一人、あの男の手と言葉、その存在でしかない。失えばまた世界を回るだけ。
僅かに手を振る水馬は、本来ならきっと逃がすなと申し遣っていただろう。
見逃したのは存在の定義を知る故に。

特段、何もないのだけど。
あの低い温度の、妙に優しく羽に触れる手が無くなるのが寂しかった。
存在にまた巡り会ったとしてもその手は、


(たった一度きりだから)


>>もふ設定。
   北の大国の暗黒王の死に際するならば。

こつん。窓を突く乾いた音にギルバートは振り返った。読み途中の本に栞を挟み込みすぐに窓を開ける。
僅か空気の震えるような澄んだ鳥の声が一つ。部屋に舞い込んだ緑白に手を差し伸ばせば声が返る。
「やぁ、ギルバート」
それは屈託のない少年の声。【漂う物】として世界を飛び回る存在の、それにしては何とも明るい声だ。
「ごめん。ちょっとだけ休ませて貰えないかな?」
永く錆を喰らい続けることに負担はないようだが、時折疲れを見せるとこうやって羽を休めに来る。
そっと手に舞い降りた鳥に笑いかけて「勿論」とギルバートは答える。
外はこの【漂う物】が苦手とする寒さを纏った冷たい風が吹いていて、タオルケットを一枚引っ掴むと暖炉の前に上手に丸めた。慣れた仕草でタオルケットの上に移動した【漂う物】が小さく鳴く。
「どういたしまして」
それが礼だと読み取って笑えば、器用に丸くなった鳥が僅かに羽を振るわせた。
普段人に触れ合う際には人の姿を極力崩さない彼が、こうやって鳥の姿であるのは限られている。
「そういえばね、ギル」
「うん?」
「ついこの間、花の国に行った時に凄く良いものを見つけたんだよ」
「良いもの?」
「そう。今度ここに来る時に持ってくるね」
「……オズ」
知識の妖精として生まれたギルバートが【漂う物】オズと出会ったのは永く前ではない。
精霊に昇華した今でもそうだが、ギルバートもその妹も妖精としては若い方だった。大空を舞った【漂う物】が大地に降り立つ瞬間、金糸に翡翠の瞳の、柔らかな笑みを湛えた少年に姿を変えたことを今でも良く覚えている。
それが時折羽を休めに来るオズとの出会い。
「……にしても寒いね」
「寒いのが苦手なんだから今時期暖かい国で休めば良いのに」
実際、オズは空を飛び回る時そうやって周回している。しかし言葉に鳥の姿の【漂う物】は首を振った。
「嫌だよ。休む場所には拘りがあるんだ」
微かな声で紡がれた言葉に、目を丸くしたギルバートがまんざらでもないように笑ったのを丸くなり半分眠りに落ち掛けていた【漂う物】は暈ける視界に映していた。


>>もふもふ設定のオズとギル。
ふわりと髪を揺らす拍子に薄紫の、その上品とさえ言える色の羽がはらと宙を舞う。
首を傾げ、屋外への吹き抜けになっている階段の踊り場の、その水溜まりを覗き込む姿は落ち着いた雰囲気と裏腹に妙に幼かった。
「……あの、」
小さく声が上がる。
水溜まりに向かって話しかける姿は変なことこの上ないが、この際それは除外された。
僅かな自らゆったりと白い影が浮かんでくる。
「何か御用ですか?」
「別に」
ぺたりと絡み付いた髪をそのままに水溜まりから顔を出した水馬は素っ気なくそう答える。
その様子からして何かしらあるとしか思えないのだが、相手は気にはしていないらしい。
視線を合わすように屈み込んで水気を含む真紅の瞳を覗き込む。
「嘘吐きですね。水馬さんは嘘は苦手なはずでしょう?」
「別に特段用事はないから、そう答えたまでだが」
「では用事じゃない御用はなんですか?」
その言葉に水馬は一端音もなく水の中に沈み、首を傾げて答えを待つ相手に突然抱きついた。
水気を存分に含んだままの行動に冷たいとふるふると頭を振れば小さな羽がはらはらと落ち、とんとんと訴えるように背中を叩かれる。
「何を、するんです」
「なんとなく」
ふるりと身体を震わせた女性が小さく「もう」と呟く。
途端姿は消え毛並みの美しい鳥が空を舞った。水馬の伸びてきた手をかい括り上階に降り立つと澄んだ音で鳴く。
彼女然り、大体の【漂う物】は冷たい水を厭う。
水馬にとって澄んだ水であれば温度などは関係ないので自然と身体が冷え切っても当人は気にも留めない。
抱きつけば冷たくて仕方ないのだ。
手すりの上で濡れてしまった身体を何度か震わせた鳥は、それを階下で眺める水馬を一別すると一度弧を描き飛んで奥へと行ってしまった。
それを眺めて水馬は暢気に思う。
そうだ。今度虐められたら抱き込んで水の中にでも飛び込もう。
自分がいれば溺れることもないから構うまい、と。


>>鳥と水馬。
   いつも虐められている仕返し。
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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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