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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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隣を歩いていた桃色の髪がふわりと揺れて、微かに薄く色づいた唇が唄を紡いだ。
それは控えめのハミングだったが優しい声と相まって、不思議と耳に馴染む。けれど少女は少しだけ困ったように歌を止める為に動かなくてはならなかった。
今日は絶対に電話には出ない。そう決めている。
「……リタ?」
「ごめん。エステル」
小首を傾げる仕種が非常に可愛らしい彼女の携帯は、心得たように頷いて歌を止める。
そして手を差し出して、戸惑うリタの手を笑って引いた。
「良いんですか?」
「良いのよ。今日は絶対に出ないんだから」
着信の相手は分かっている。家を出る際に口喧嘩して別れた姉だ。
たぶん謝る気もないのだろうから、電話の一声は知れている。屹度いつも通りさらりとした口調で弱いところを付いてくるのだ。
「どうしてです? もうこれで十件目です」
エステルが着信履歴を表示する。確かに学校が終わってから一度目の着信の後、定期的に着信履歴が残っている。
いつもより回数が多い、とはリタも思った。
それだけ姉の機嫌を損ねたかとリタは結論付けたが、ぎゅっと手を握ってきた温度は違うと言いたげだ。
「エステル」
「ね、もう一回。もう一回、電話が来たら出ませんか?」
差し出がましいのは分かっています、と付け足すエステルの表情が曇るのをリタは余り好まない。
握られた手とエステルの顔を交互に見遣って、確かに既に下校時刻からは大分経ってしまっているし、日はとっくに落ちきっているし、お腹も減ったし、……諸々仕方ないという理由をつけて頷く。
「分かったわよ。今度来たら」
「はい! そうして下さい」
「でも……来るとは限らないわよ? もう十回無視したし、いくら何でも」
「いいえ、絶対に掛かってきますよ」
自信満々に言い切るエステルが、にこりと笑う。
夕食の時間に差し掛かり人気が減ってきた通りの中、時間潰しに向かうはずだった本屋への足を止めてリタは首を傾げる。
つられて笑顔のエステルも首を傾げた。
先日買ったばかりの、白いコットンレースのリボンの髪飾りが桃色の髪の間で優しく揺れる。
「ねぇ、どうして」
「直に分かります」
歩みを再開し本屋に差し掛かる寸前で、エステルの唇が歌を紡ぐ。
着信は姉。リタが無いと思っていた、エステルがあると確信していた十一回目の着信。
静かな店内に入り込んで通話をするのが憚られて、書店の軒、一番端に寄って立ち止まり通話の指示を出す。
すぐに落ち着いた姉の通りの良い声が聞こえてきた。
『ああ、リタ? 電話に出ないから心配したわ』
余り感情を読み取らせない、けれど女性の柔らかさを十分に含んだ声が、今朝の喧嘩別れを感じさせない口調で切り出す。
いつも切欠は些細なことで特段どちらかが引いて有耶無耶になる口喧嘩は、今日に限って譲らなかった姉によって望まぬ結果に発展した。
もう帰ってこないわよ、と言い切って学校に出て行った際に扉の向こうに遮られた姉の表情は見ていない。
「……なに?」
自然無愛想になる語尾に内心舌を打つ。何も、また喧嘩がしたい訳じゃないのに、これでは。
『あのね、今朝のことだけど』
余り回りくどいことを好まない姉らしく、すぐに核心を突いてくる会話の流れに息が苦しくなる。
自然エステルと繋いだ手を強く握りしめてしまったが、その手を握り返されて見上げた表情は優しい。
『私が言いすぎたわ。ごめんなさい』
姉の言葉がすとりと落ちる。
え、と戸惑う声を上げようにもよく分からず謝罪の言葉を質問で返してしまったリタは、姉の言葉を待つしかなかった。
『……それで、今日は何時に帰って来るの?』
「えっと」
『ご飯もう出来てるわ。待ってるから』
ぷつり、と。
リタの言葉に何も返さず姉からの通話が切れる。どうしようと視線を彷徨わせた先でエステルが笑った。
「帰りますか? リタ」
朝の口喧嘩が再開されなかったことと、一方的に謝られた事に戸惑いながらリタは頷く。
「……うん。そうする。お腹空いたし」
「そうですね」
素直じゃないリタの物言いにくすりとエステルが笑う。
結局来た道を目的の本屋に入ることなく戻る事にして、リタは隣を大人しく歩くエステルを見た。
ふわふわと肩で切り揃えられた桃色の髪があわせて揺れるのを見ながら、リタは呟く。
「ねぇ、何でさっきあんなこと言ったの?」
小さい声に、エステルは視線を移した。
真っ直ぐに見詰めてくる柔らかな色の瞳が細く笑みを浮かべるのを、リタは不思議そうに見詰める。
「簡単ですよ?」
ぎゅ、と。
鞄を持たない手の方を握ってエステルは言う。それはこれから言う言葉に対してリタが逃げられないように。

「だって今日は、リタのお誕生日ですもの」

え、と不思議そうな声と同時に。
今日はなるべく寄り道も何も無しに帰ってきて欲しいと喧嘩の切欠になった姉の言葉を思い出したリタは、僅かに顔を逸らした。
その後の姉の、いつも帰りが遅くなってばかりで信用できないって言葉は余計だが、姉自体は単にリタの誕生日を祝うために聞いただけだったのだ。悪意も何もあったものじゃなかった。何より自分の誕生日がすっかり頭から抜け落ちていたのが悪い。
どうしようと呟く声にエステルは「大丈夫」とだけ返して、歌うように言う。
「お誕生日おめでとうございます。リタ」
「……謝らなきゃ」
「わたしも一緒に謝ります。大丈夫ですよ」
小さな言葉に帰った答えに、リタは手を握り返す。
すっかり日が落ちた路地の中、駆け出した少女二人の足音が、向こうに消えるのは時間が掛からなかった。


>>携帯擬人化。持ち主リタ。携帯エステル。
   きっと二人は可愛い。

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俄に降り出してきた雨に営業に出ていた部下がばたばたと戻ってきた。
折角新しいスーツを下ろしたばかりなのにと毒付く横を付いて歩いてきた黒髪の青年が、すっかり濡れて毛先からぱたぱたと零れる水滴を見遣りながら溜息を吐く。
騒々しく給湯室に向かったレイヴンが頭にタオルを引っかけ、そしてもう一枚手にしていたタオルを佇む青年に被せた。
「ユーリ、濡れちゃったわね、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だぜ」
「今、拭くからね。少し屈んで」
部下よりも身長の高い青年は大人しく僅かに腰を折る。うん、と頷いたレイヴンが腕を伸ばした。
「なぁ、あんた。フレンどうした?」
濡れた髪をレイヴンが持ってきたタオルで拭かれながら、不思議そうに掛けられた声にアレクセイは首を傾げる。
つられたのか青年もまた首を傾げ、振り返ったレイヴンもまた首を傾げた。
数秒の沈黙。窓を強かに打つ雨だけが五月蝿い。
「……あ」
「あ?」
「外に忘れてきた」
いつも大人しいので忘れていた、と言うと言葉を失った青年が口をぱくぱくと動かす。
反射的に姿勢を正してしまったので、頭に被っていたタオルはレイヴンの手に引かれて落ちてしまった。
「はあああ?」
素っ頓狂な声を上げる、その仕種は珍しい。
何かを言いたげに視線を雨が強か打ちつける窓に向けて、それから眉間を寄せた。
「外って?」
低く詰問する声にアレクセイは、記憶を辿ることにした。
いつも通り連れて帰ってきたと思っていたのだが、どうやら本当に置き忘れてきたらしい。
仕事中は本当に、いやプライベートでもアレクセイの携帯はプログラムされた擬似人格も手伝ってか、大人しかった。
だから置き忘れた事に気付かなかったのだろうか。
おいで、と言わなければ付いてこない訳でもなかったから、油断していた。
窓の外は土砂降りにも近い雨模様だ。置き忘れたのなら昼食を取った屋外ということになる。間違いなくずぶ濡れだ。
「……少し出てくる」
背もたれに掛けていた背広に腕を通し、傘を二本掴む。出て行く間際に背中に声が掛かった。
「早く行ってやれよ? 幾ら防水機能付いてるつったって機械なんだから」
水気にはどうやったって弱い、と言う部下の携帯に頷く。
バタリと無様な音を立て閉まった扉は、自分で閉めたはずなのに存外勢いが良くて驚いたが、気にする暇もなくアレクセイは走った。


**

傘を差しているというのに肩やズボンの裾が濡れるほど雨足は強い。
オフィスで食事を取るのは閉塞感を感じ居心地が悪いので、天気が良く時間の取れた日は屋外で昼食を済ますのがアレクセイの習慣だった。
当然デスクを離れる為に携帯を持っていくのは当たり前なのだが。
戻る際に忘れてしまうとは想定外だった。
「フレン」
ぼんやりと、傘を差し急ぎ足で通りを行き来する人々を眺める人影に目を留める。
すっかり雨に濡れてしまったベンチに大人しく座ったままの様子にアレクセイはなんとも言えない罪悪感を覚えた。
跳ね癖のある髪は今は濡れてぺたりと張り付いてしまっている。
アレクセイがもう一度名前を呼ぼうとした時、首を巡らせて「あ」と小さく声を上げた金髪の青年が笑った。
「大丈夫か?」
「……え?」
手に持っていた傘を開き差し掛けてやる。これだけ濡れていればはっきり言って傘が意味がないのは知っていたが、これ以上濡れさせてしまうのは忍びない。
「大丈夫、です。防水機能がついていますから。室内に戻ったら拭けば」
「すまなかった」
濡れた手で傘を受け取ったフレンに、持ち主は頭を下げる。
きょとんと目を丸くしたフレンが何か言いかける前に、アレクセイがもう一度謝った。
「いえ」
まだ頭を下げ続けたままのアレクセイに手を伸ばしかけて、濡れてしまうと思いとどまった青年の姿をした携帯は僅かに首を振る。
水気を含んだ髪が水滴を撒き、傘の裏側に滴が落ちた。
「戻ってくると思ってました」
顔を上げたアレクセイに笑ったフレンが、濡れた手を気休め程度に拭いて懐の中から何か取り出す。
傘を傾けて雨が当たらないように配慮しながらアレクセイに差し出されたのは、見慣れた財布だった。
携帯どころか財布まで忘れていたらしい。
「……フレン? お前」
いつもなら何も言わずとも帰る際には黙って付いてくるのを思い返してアレクセイは問う。
受け取った財布はこの土砂降りの中殆ど濡れてはいない。
「はい」
「これがあったから此処に残ったのか」
「はい。直ぐに戻ってくるのかと思いまして」
部下の持つ携帯ならきっと置き忘れの財布を見つけたらすぐに呼び止めるだろう。
同じような機能を備えていても判断が違ったのは、偏に人格プログラムの差分か、それとも持ち主の性格の差分か。
「……忘れたんだ」
「なにか有るのかと思いました」
溜息混じりに返した答えに、フレンがさらっと言う。どうやらどちらも要因だったらしい。
「いや……。すまない」
「僕の方こそすみませんでした。あなたでもこういうことがあるんですね。今後は気をつけます」
頭を下げた拍子に傘を持つ手が不安定に揺れたのが見え、アレクセイはその手を掴む。
僅かに身を引こうとしたフレンが困ったように笑った。
「濡れますよ」
「私のせいだろう。お前に壊れられても困る。……直ぐに帰ろう」
「はい」
腕を引かれ歩きながら、小さく頷いたフレンがもう一度笑ったのを持ち主は知らない。



>>携帯擬人化。持ち主アレクセイ。携帯フレン。
   少し趣向を変えて、フレンが可愛いとは何ぞや?っていうやつ

これは何だ。
暗闇に沈んでも判別出来るほど、いや視界が闇に制限されたからこそ敏感に感じ取れる、咽るような濃厚な血の臭いに目眩を覚える。
生臭く吹きぬける風が生温く頬を撫でた。
路地の向こう佇んでいる人影には見覚えがある。見覚えがある、ではない。良く知っている。
一つ道を隔てても尚、濃厚な血の臭いは薄まらない。
僅かに雲間から覗いた月光が石畳を照らし、流れたというよりは溜まった血を照らした。ゆるりと石畳の上を這う血を、ユーリは視線だけで追う。
不思議と体が冷えて指先の感覚が無い。
呼吸は乱れてこそいないが、仕方を忘れたように肺が軋んだ。
心臓が打つ音も早い。
気付かれるのはまずい、そう思うのに足が地面に縫い付けられたように動かなかった。
気配に、視線に気付いて振り向かれたらお終いだ。
だから何も知らなかった事にして、何も見なかった事にして、出来れば忘れてしまうのが一番だと分かっている。
けれど、
「……なに、を」
意に反して震える声が喉を突いて出た。自分でも情けなくなるほど掠れた声音。
僅かに揺れた頭、肩越しに振り返る人影の表情はよく見えない。
「……ああ、ユーリか。見られちゃったね」
けれど、月影に陽光を溶かしたような淡い髪色は目立ちすぎた。上手く声が出ない、とユーリは妙に渇いた喉を鳴らす。
穏やかな声音は数刻前分かれたときと何も変わらない。完全に振り返って向けた表情も決して見覚えが無いものではなかった。
だからこそ、ユーリは得体の知れない恐怖を覚える。
「フレン、お前……何を、やって」
声が閊えて先が続かない。寧ろ投げかけた問いに、まさかと抱いた予感に肯定を返されるのが怖い。
「何を?」
ふと、不思議そうにフレンが首を傾げる。
まだ袖を通したばかりだろう、新しい隊服と真白の鎧は見慣れないが仕種は良く知るもので。
利き腕が握る剣の、向きだしの刀身から滴るものが何か知れてユーリは眉を顰めるしかない。
「……ねぇ、ユーリ」
一歩。足を踏み出したフレンの姿が漸く完全に雲から顔を出した月の光に照らされる。
「君こそ、こんな時間に出歩くなんてどうしたんだい?」
白と青を基調とした真新しい鎧が、残滓を拾う。赤い、と気付いた瞬間ユーリは言葉を失った。
今は月影を淡く宿す金髪も、新しくまだ見慣れない鎧も、赤く色付いていた。酸化して少しずつ鮮やかさを失い黒味を帯びる、それが何であるかユーリは知っている。
「フレン」
名前を呼ばれたことにフレンが笑む。
「君も、こうする気だったんだろう? だったらそんな顔をする必要ないじゃないか」
おかしいね、と付け足したフレンの笑顔に何も見出せない。
こうする気だったといわれた言葉でユーリはフレンの向こう、無残に石畳に崩れ落ちる影に目を留める。
見たことのある上等な布が使われた服。何かを訴えたかったのか伸ばされた腕は抵抗の際に切り落とされたのか、先が無かった。
「……、」
「ねぇ、ユーリ」
呼ばれた名前に反射的に肩を震わせたユーリに、フレンが笑いながら首を傾げた。
「君も、同じだよ?」

――僕と君は同じだね。

嘗て、何かの際に意図の読めぬタイミングで言われたことを思い出して、ユーリはまさかと顔を上げた。
ゆるゆると向けた視線の先で変わらず、穏やかとも言える笑みを浮かべた友人が手を伸ばす。
動けないユーリにくすりと笑みを零すと近づき返り血に塗れた手で、風に乱れ頬に張り付いたユーリの髪を優しく払った。
「忘れたの? ユーリ。君も僕も、既に汚れてしまっている」
だから、ね。
と耳元に落とされた言葉にユーリは絶望さえ覚えた。
フレンはこんなことを言う人間だったろうかと自分の中で答えを探るのに見つからない。
「どうしたの?」
「………、何でも……ない」
踵を返し、先程躊躇いもなく切り捨てただろう人間を見下ろしながら、表情を変えない友人は「そうだよね」と優しく言う。
既に事切れた執政官の最期に、ユーリは何も言えなかった。


>>ヤンデレフレンの考察。
   ラゴウをやったのはフレンだったらどうなるのかなっていう。
雨が降る。じっとりと余分な湿気を含んだ風がまとわりつく感覚は不快すぎて眩暈さえ起こしそうだ。
汗と雨で僅かに湿ったシャツが貼り付く感覚も頂けない。握りしめた拳に汗が滲んで、また気持ち悪かった。
隣を黙って付いて歩いてきていたユーリが先日買ったばかりのシンプルな革製の結い紐で緩く髪を纏め、僅かに水気を含んだ毛先を恨めしそうに見る。
彼にとって水気は余り良いものではない。
「ユーリ、大丈夫かい?」
答えを分かっていて聞けば、声は返らず僅かに首を傾げるだけ。
そういえばこれから向かう先を考えてマナーモードに切り替えて貰った、と思い当たってフレンは苦笑する。
自分が先程したことが頭から抜けてしまうほど余裕がない状況は何だかとても悔しくもあり、しかし認めるしかない現状だった。
住宅街の真昼間、余り人気がないのは雨模様という今日の天気のせいだろう。
自然と重くなる足取りに合わせるように雨足もまた強くなる。傘をユーリに傾けてフレンは傘を傾けたのと逆の肩が強か濡れるのに顔色一つ変えない。
何気ないフレンの様子にもユーリは気付いたらしい。無言で傘越しにフレンを見る。少しだけ眉根を寄せて、しかし何も言葉を発せずに首を振った。
「なんてことないよ」
言葉はなくても何が言いたいのかは分かる。元々機械なのだから水気には弱いのは分かっている。ケアするのは持ち主として当たり前の行動だ。
けれどユーリは傾けられた傘を押し返した。反動で傘を滑った水滴が漆黒の髪に降り落ちていく。
「ユーリ」
「……、」
だいじょうぶなんだ。
そう音のない声が言い、笑った。ゆっくりと歩いていたはずが、いつの間にか見慣れた建物に行き着いていた事に気付いてフレンは視線を動かす。
閑静な住宅街の中でも目を引く立派な門構えの家に、余り良い思い出はない。
大学進学を機に一人暮らしを許されてからは寄りつかなくなったフレンの生家だった。
母親は身体が弱く、フレンが中学の頃に亡くなったが、いとこ同士であったという父親は今も健在である。
夫婦仲は良かったらしいが、フレンにとって複雑な家庭事情には変わりなかった。
端的に言えばフレンは両親の血を全く継いでいない、他人だ。
母親が若い頃に惚れ、家出をし同棲していた男の連れ子だったらしい。男が亡くなり、家に戻った際に不憫で彼女が連れて帰った。
そして父親は母親の真摯な願いを聞き入れ、フレンを養子として迎え入れた経緯を考えても、父親とフレンとの間に埋められない溝があるのは明確である。
母親がいる内はまだ良かったんだけど、と昨晩漏らした弱音をユーリは聞き逃さなかった。
特段何か嫌がらせがあったわけでもない、という。ただ窒息しそうで、いつか自己を殺す恐怖と毎日向き合っていたと告げるフレンの表情は全くなかった。
今もまた無表情で門を見詰めるフレンはきつく拳を握っただけで動かない。
音を出すことを許されていないのはこういう時不便だなと良く出来た擬似人格プログラムが弾き出したところで、ユーリはフレンのきつく握られた拳に触れた。
「……どうした、」
でんわ、と一文字ずつ区切って伝える。声は出ない。フレンは誰からとは聞かなかった。
僅かに門に寄り傘を傾ける。雨を凌ぐ為なのだとユーリが思ったのと同じタイミングで「おいで」と手が伸ばされた。
傘で遮られた僅かな空間に身を滑らせるようにユーリはフレンに身を寄せる。
門に背を預け、人気のない往来から人目を避けるように傘を差したフレンは心得たように大人しい携帯に口を寄せる。
「もしもし?」
誰の、と聞かなかったのは余りにもタイミングが良かったせいだ。
予想していた通りの声が聞こえてフレンは自嘲を浮かべ、一言二言必要最低限の言葉を交わした。沈黙は三回、それで切れた通話にユーリが首を傾げる。
疑問と言うよりは「大丈夫か?」と問う仕種に、傘の合間を降り落ちた雨に濡れた漆黒の髪の、それをまとめ上げていた結い紐が解け掛かっていることに気付いて手を伸ばした。
濡れてしまった革は結び直し難いことこの上なかったが、何とか結び終え、フレンは笑う。
門から身を離し傘を持つ手ではなく空いた手で自身の携帯の手首を掴み歩き出した。来た道を、戻っていく。
「あ、そうだ、ユーリ。もういいよ」
傘をユーリに差し出しながら言われた言葉に首を傾げれば、
「マナー、解除して。君が話さないと新鮮だけど、割と不便だ」
寄越された言葉にユーリは眉を顰めた。一体どういう意味だ、とは聞かず差し出された傘を受け取って歩き出す。
「フレン」
呼んだ声に頷いたフレンが手首を掴んでいた手を離した。そして何を思ったか手を握り直して、しれっと言う。
「帰ろうか」
「……ん、」
まぁ、いいかと繋がれた手を見下ろた後、ユーリは傘の合間から空を見上げた。漸く雨は上がりそうだった。


>>前に書いた携帯擬人化フレユリと同じ設定で。
   なんというか、ユーリが健気に見える不思議。


かちりとライターが火を起こす、その細い明かりに目を細めて白い煙を吸い込んでやっと一心地がついた。
詰まり滞っていた呼吸を正常に戻せたような感覚にきちりと締めたネクタイが急に息苦しく感じて抜き取る。途端今度は夜に差し掛かった風の冷たさが首元を襲った。
風を孕んでスーツの上着がはたはたと揺れる。紫煙は風に攫われて色を失くす。
ビルの隙間に切り取られて見える夕日は酷く狭い箱に入れられた滑稽な飾り物のようだとアレクセイは思った。
それはまるで自分にも当てはまるようで、窮屈だと自覚さえしてしまえばもう何とも言えたものではない。
ビルの側面を這うように屋上へと続く非常階段は、風当たりは強いが喫煙をするには絶好の場所でもある。
階下を行き交う人は週末をなんだかんだと楽しんでいるようで、少しだけ週末特有の浮ついた雰囲気が通りを見下ろすアレクセイにも伝わってきた。
言い表し難い疎外感だと思った。吸い終った吸殻を携帯灰皿に押し込んで、また一本と取り出したタバコに火をつける。
夕日が空を染めていく。ビルの窓が併せて橙や赤に染まる奇妙な一体感は気怠い。
この一本が吸い終わったらデスクに戻ろう。折角自由にした首元にまたネクタイを締めて、大した手当も付かないまま残業をする。
帰る頃にはとっぷり日も暮れて人気も少なくなっていることだろう。
それは何度も繰り返した日常の一つだ。本当に気怠い。
「週末を恨んでる、って顔してますね」
さらり、と声が掛かった。
「そうか? 別に休養は必要だ。恨むも何もない」
「今すぐこんな詰まらない世界なんて壊れてしまえばいいのにって顔してる、ってことです」
アレクセイは振り返らない。声の主のことは良く知っていたし、相手もまたそんなアレクセイの様子を良く知っている。
鉄製の手すりに寄りかかって一服する隣まで歩み寄り、通りと夕焼け空を眺めやった後輩は、紫煙を払うように手を翳しながら「ま、でも無理はないけど」とだけ言った。
長めに揃えられた前髪で相手の表情はいまいち見えない。
少しだけ緩められたネクタイと脇に抱えた鞄で、帰路につくところだったのだなと推測した。
「お前こそ、詰まらなさそうだな」
「そんなことは無いですよ。今日は偶々予定がないけど」
「偶々?」
「いつもなら、これから可愛い女の子とデートです」
にっと笑って視線を寄越した、後輩の瞳の色は落ち着いた翠。細められた瞳の、僅かな表情に彼もまた日々を過ごすことに摩耗はしているのだろうなと気付いてしまって無碍にする言葉をつい保留にしてしまった。
浮ついたことは好きではないと敢えて突っぱねるところだったのに、と思っても遅い。
答えが返らないことに目を丸くした後輩が笑う。
「……どうにもいけませんね」
「何が」
「帰りません?」
アレクセイの口に咥えたタバコを奪い取り、手の中にあった携帯灰皿に無理に押し込み後輩は腕を引いた。
ちょっと待てと制止の声を上げようとしたアレクセイに視線だけを寄越し、後輩は笑ったまま、非常階段からビル内部に続く扉を開ける。
「こら、シュヴァーン」
「一杯引っかけませんか? そんな疲れた顔して仕事したってちっとも捗りやしませんよ」
だから帰りましょう? と。さらりと何てことはないと言ってのけた後輩にアレクセイは頷いた。


**

大体は愚痴で終わる同僚の飲み会でのアレクセイの立場は聞き役ばかりなのは、抑も愚痴がないわけではなく酒の力を借りたとしても他人に心裡を明かすのが好きではないと言うことに起因していた。
挙げ句弱みを握られたような気分にもなるので、結局すっきりするどころか逆に気分が悪くなるのである。
だから後輩が持ち掛けてきた飲み会も、彼が見せる笑顔に少しだけ見える疲れを感じ取って愚痴を聞くだけに留める心積もりだった。
ひょいひょいと軽い足取りで人混みをかき分けていくシュヴァーンの後ろ姿を少し距離を開けて見失わないようにしながら、アレクセイはショーウィンドウに映った自分の疲れ切った顔に驚いた。
確かにこれでは気を遣われて当然だ。
眉間に寄った皺を片手で揉みながら、人混みの向こうで立ち止まったシュヴァーンの姿を認めて歩を早める。
通りの一つ向こう。細い路地を見詰めながら首を傾げる姿に声を掛けた。
「どうした?」
「……え? ああ、いやね。少し」
「何」
路地の向こうを瞳を細めてじっと見る後輩が小さく唸る。もしかしたら飲みに行きたい店というのが無くなってしまったのだろうか。
余り人は来ないが料理は美味しくて気兼ねない感じが良いと先程話していたのを見ると、大分気に入っていたのだろう。
「シュヴァーン?」
「お店、ここら辺だったんですけどね」
矢張りか。
シュヴァーンは肩を竦めると路地を覗き込みながら、振り返る。
「待ってて下さい。ちょっと見てきて、駄目なら違うところにします」
「いや……、私も行こう」
人混みの中流れに逆らいながら待つのと、余り足を踏み入れた覚えがない路地を歩くのでは後者の方が良い。
目を丸くしたシュヴァーンが、しかしくつくつと笑いを零して定型句のように足下に気をつけてと言った。
大通りの街灯の明るさはビルの隙間に伸びる路地には十分に届かず、薄暗さを伴っていて確かに足下が覚束ない。
慣れたように移動していく後ろ姿を追って角を曲がったところで、立ち止まっていたらしい背中にぶつかる。
「……駄目ですね」
「は?」
へらりと笑って振り返った顔は少しだけ眉尻を下げ、心底残念そうに見えた。すっと指で指し示した先にあった看板には既に名前がない。
味気ない電飾が付かない看板は最近名前を取り外されてしまったらしい名残が見え、後輩が肩を竦める。
「違うところ、行きましょうか」
「そうだな」
大通りに戻って違う店に向かうだろうと踵を返せば、空いた腕を掴まれて路地の奥へと続く道を後輩は進んでいく。
余り自分には馴染みのない光景に、アレクセイは人気がないのも良いことにして腕を掴まれたまま大人しく従った。
時折気遣うようにわざわざ振り仰ぐ仕種を見せながら歩くシュヴァーンの表情は街灯が殆ど届かないこの場所ではよく見えない。
所々、嫌に派手な看板の明かりが辺りを照らしては逆に空虚な雰囲気を浮き上がらせ、アレクセイは何とも不思議な心地を覚える。
暫くそんな風に歩き続けてシュヴァーンが立ち止まったのは特段派手な明かりも何もない、ただ他の建物と比べれば少しだけ新しいビルの前だった。
紫紺に白抜きで洒落た名前が書いてる看板は余り目立たないが、逆に夜闇に落ちた路地との格差がなく自然と馴染んでいる。
からりとベルの音を鳴りドアが開く。
「……こんばんは、青年」
中から覗いたのは漆黒の髪を後ろで丁寧に纏めた、まだ幼さを残すような顔立ちの青年だ。
僅かに首を傾げてシュヴァーンの影に隠れていたアレクセイをも見遣ると、薄く開けただけだった扉を開けてくれる。
「いらっしゃい」
さらっと告げられた言葉は低く、店員にしては些か無愛想な響きだった。
「あれ、今日は誰も居ないの?」
「ああ。おっさんこそ、今日は女の子連れてねぇのな」
「……うん。振られちゃったのよね」
此方も彼にとっては馴染みの店らしい。間接照明が柔らかく室内を照らし、手狭ながらアイボリーの壁紙と木製のテーブルが丁度良く纏まって感じが良い。小洒落ている感じは確かに女性と来るのに良い店なのだろう。
とん、と水の入ったグラスが二つ、カウンターに置かれた。
「注文は?」
カウンターに収まった青年がそう問う。
何とも矢張り愛想は良い方にはならないだろう。大人しく腰掛けた後輩の横に腰掛けてアレクセイは首を捻った。
「本当はね、二つ手前のお店で飲もうと思ってたんだけどね」
「……ああ。あそこ、ちょっと前に店辞めたんだぜ」
「そうみたい。知らなかった」
肩を竦める後輩の口調は自分が普段聞くのとは印象が違い、固い印象の話口調は砕け少し胡散臭くも感じるが親しみやすさのあるものだ。
お通しとしてなのだろう、小皿の中に入った菠薐草の和え物がグラスの横に置かれる。
「そりゃ、残念だったな。おっさん、あそこの味好きだったろうに」
「そうなのよね。気兼ねなく野郎と飲みに行くのには、あそこって決めてたのよね」
後輩の聞き慣れない口調と、常連らしい馴染みの対応の青年をぼんやりと眺めながら感じる疎外感と手持ち無沙汰な感覚を持て余していると、ちらりとカウンターの青年がアレクセイを見て僅かに相好を崩す。
「おっさん、注文。隣のお連れさん、困ってるぜ?」
気付いたように後輩は苦笑して、そうね、と相槌を打つ。
そしてメニューから適当にあたりを付けて注文をして、アレクセイに笑いかけた。
「すみません。適当で良かったですかね?」
「……ああ、構わない」
頷けば、心得たようにアルコールの入ったボトルを差し出されて反射的にアレクセイはいつの間にか用意されていたグラスを傾けた。


**

もう一本、と声が上がりそうになるのを止めて、ぐたりと半分潰れた状態の後輩の上がった腕を下ろさせる。
カウンターの向こうにいる青年が困ったように肩を竦めて「今日はもう終いだよ、おっさん」と言って笑った。
自分も久しぶりに飲み過ぎたというのもあるが後輩に限っては、記憶していたよりもペースが速く酔い潰れてしまったらしい。
洒落た雰囲気がある割りに自分の年代にもやけに馴染んだ味の料理は美味しく、無愛想な青年は決して此方に余分に干渉をしないので居心地は良かった。
空いたボトルの一つが倒れ、転げ落ちそうになるのをカウンター越しに伸びてきた腕が止める。
「……帰れそうか?」
じっとその手元を見ていたら声を掛けられた。
アレクセイが顔を上げると青年が困ったように視線をシュヴァーンに投げつける。ああ、とアレクセイは頷いた。
「会計は」
「ああ……、後でで良いよ。おっさんに付けておくから、後でおっさんにでも払ったらいい」
とんとんと酔い潰れた後輩の肩を叩けば苦しそうな呻き声が上がる。のろりと頭を上げたシュヴァーンが一言、頭が痛いと言ったのでやれやれと溜息を吐いた。
肩を貸して何とか立ち上がらせ、二人分の荷物を引っ掴む。
「それじゃ、ご馳走様」
「いいえ。今後とも御贔屓に」
カウンターを出て扉を開けてくれた青年がひらりと手を振る。路地の暗さはアルコールを摂取した後だと尚更覚束ない。
振り返れば未だ心配してるのか青年が店内に戻らず様子を窺っているようだったので、アレクセイは軽く頭を下げて、よろよろとした足取りの後輩を半ば引き摺るように路地を移動する。
からんと何かが当たった。シュヴァーンの覚束ない足が空いたビール缶を蹴った音だと気付き、俯いたままの彼を見遣る。
体格は小柄な方だが、矢張り大の男一人を引き摺って帰るのには骨が折れそうだ。
「シュヴァーン」
余り大きな声では頭に響くだろうと小さな声で呼ぶ。思ったよりも明瞭に「はい」と声が返った。
「大丈夫そうか」
「……明日は、二日、酔いかな」
「だろうな」
アレクセイは頷く。抑も飲み慣れた風体なのだから、自分の許容量くらいは心得ているだろう。
何故こんな為体になったのかを問い質したいと思い至ったところで、僅かだが後輩の足取りがしっかりしてきているのを感じた。
「先輩は、どうです?」
「お前、」
「少しは羽目を外せました?」
顔を上げ長い前髪の隙間から覗く翠目を見てアレクセイは内心唸った。そうだな、と酒で少しだけ外れた理性を思い返す。
愚痴を聞いてやる筈だった。そのつもりでいた。ところが愚痴ではない他愛もない話で後輩は酒を飲み続けた。空いたグラスを見れば直ぐに注いで、そうして自分が酒の力を借りて、ぽつぽつと漏らした柄でもない愚痴を気付いた風もなく何も言わず聞いていたのか。
「酔ってないな?」
「嫌だな。酔ってますよ」
にこっと笑む顔に悪意はないのだが確信はある。思わず零れた溜息に後輩は楽しそうに笑った。
路地の狭い壁に遮られた向こう、街灯が煌めき車のテールランプが行き来する。
喧噪は昼間ほどは無いが、それでも人の気配は多く路地を抜けかけた場所で大人しく半ば引き摺られていた後輩が立ち止まった。
急なことで体勢を崩しかけたのを壁に手をついてやり過ごし、文句の一つを言おうと口を開き掛けたところで抱えていた荷物の片方が抜き取られる。
「シュヴァーン」
「帰る前にコンビニ寄って良いですか。……水」
急に動いたからか僅かに蹌踉けた姿勢を壁に預けてシュヴァーンが笑う。くつくつと笑って、そして大通りを行き交うタクシーに視線を投げた。
つられて車道を走る車の群れに視線を投げながらアレクセイは問う。
「近くにあったか?」
「駅の近くまで行けば」
「少しあるな」
「大事ないでしょ」
さらっと言う割りには矢張り多少は酔っている足取りは不安定だ。
大通りに踏み出して、それでも壁際を歩くのはそのせいだろう。ふらりと後輩の身体が傾いだのをアレクセイは腕を掴んで留めた。
「……先輩?」
「送っていく。私の方が酔ってない」
「遠回りになりますよ?」
「構わん。それに」
店に寄ってからタクシーを拾えば問題はないだろう。確かに少し遠回りになるが大して変わるわけでもない。
「借りばかりを作るのは好きではないんだ」
然様ですか、と少し大仰な言い方で笑った後輩と目的地まで向かう。
ふらふらとした足取りはまるで下手なダンスを踏むようで、相手が女なら良いのにと小さく漏らした声にアレクセイは確かにと笑った。
腕に掛けていた時計にふと視線を落とすと丁度日付が変わった頃合いだった。思ったよりも時間が経ったようで経っていないような感覚は決して気味が悪いものではなく、寧ろ心地良い。
「そういや」
「……何だ?」
「先輩の話は、別に借りなんて作ってもらうほどのもんじゃなかったです」
普通の、愚痴でも何でもない世間話でしたよ、と付け足し、にやりと笑う後輩に何か言いかけたところで、「コンビニ寄ってきます」と差し掛かった店の入口から店内にするりと逃げ込まれる。
ふらふらとする姿を硝子越しに眺めてアレクセイは小さく笑った。
ペットボトルを二つ。後は何か食べ物を適当にかごに詰めてレジに持ち込み店員と談笑する後輩は、手短に会計を済ませると何事もなかったように店から出てくる。
そして袋からペットボトルの一つを取り出し投げて寄越した。
「どうぞ」
受け取ったは良いものの蓋を開けない様子に苦笑を零し、
「なに、毒なんて入ってないでしょ」
と言う。別にそういうわけではないと言い返そうとして、既にペットボトルを開け水を喉に流し込んでいた後輩の姿に意地悪な提案を思いつく。
「そうだな」
「……先輩? タクシー拾うんじゃ?」
「気が変わった。歩いて帰るぞ」
踵を返したアレクセイの背中に、非難がましい声が上がった。
時計は午前0時半を回ったところだ。家にたどり着くのは多分2時は過ぎるだろう。
「ちょっと、いくらなんでも」
「お前が誘ったんだ。最後まで責任を持て」
「それでここから遠足ですか?」

「悪くないだろう?」

アレクセイがしれっと言った質問に目を丸くしてシュヴァーンが、頭を掻いた。
他愛もないことだ。どうせまた週が開ければ色々溜め込んで、淡々と仕事を片付ける日々を過ごす。
良い事なんて無い。見つけられない。無感動になりかけた自分をきっと酷く滑稽に思って笑えないのだろう。夕方階段の踊り場で通りを見下ろした時のように。
大小関係ない問題が精神を摩耗させるだけの単純な構造は、だからこそ気付けば陥っている。
誰でも陥る。本当に単純だから。見越した上でさらりとガス抜きを敢行した後輩は、目に見えるくらいがくりと肩を落とした。
「……今回だけですから。次はタクシーが良いです」
「覚えていたらな」
次と言った後輩の言葉に、今度は自分が後輩を誘ってやろうと思いアレクセイはゆったりとした足取りで付いてくるシュヴァーンの腕を掴んで歩き出した。

こんな週末も偶には悪くない。



>>現代パロ。おっさんたちの飲み会。
   リスペクトはワー/ルズエ/ンドダンスホ/ールだったとかそんな馬鹿な。
   「続き」に少しのおまけ。

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