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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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それは先刻のようであったな、と言う声は酷く酷く耳障りで、どうせなら目に映る全てを遮断してしまおうと少年は瞳を伏せた。
途端鋭くなる聴覚に具合が悪くなり選択を誤ったなと思う。どうだっていい話。
「ねぇねぇ」と囁く声は纏うので。
「何もないし買わないよ」と返した。

「まぁそれが妥当でしょうけど」

妙にはっきりした声が意識を浮上させる。
人買いばかりの街でこんなに潔い声を聞いたことは無かった。
こつんと僅かに金属と床のぶつかる音に視界を得る。艶やかな黒髪が宙を舞い真紅の瞳と視線が交わった。
「不用心ね」
華奢な、日本人形のような容姿の少女が笑う。
鈴を転がすような声は自然と耳に馴染み、もっと聞いていたいと思わせた。それよりも真紅の瞳が酷く印象的で、先程までの不快感は全て吹き飛んでしまっていた。


そうね、と彼女は言う。少女の名前はシノと言った。黒髪を一纏めにして邪魔にならないよう無造作に結んだ彼女は、実質治安の宜しくないこの街を不用心な体で、その実うまく躱して目的の場所まで辿り着いた。
不思議な雰囲気を纏う少女に道案内をしていた男は「ここだよ」と最後の役割を果たす。
「それじゃ、気をつけてな。ここは本当に危ないから」



途中まで文章

 

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肝心なことは何一つ現像を結ばないのだ。
そう、それは目配せ一つで終わるような些細なサインでしかなく、自分と相手を繋ぐ唯一の手掛かりでもあった。
夏の陽射しは大層厳しくアスファルトを焼く。
じりじりとした暑さに少年は額に浮かんだ汗を腕で拭った。
忌々しげに空を仰げば燦々と太陽は輝いている。
ぱしゃりと足元の膝下まで浸かった川面が跳ねた。
「あ、」
瞬間、水の中に突っ込んでいた片方の腕がするりと何かを掴みかけて、感触は逃げていく。
きらきらと水面は光を反射し、透明度のある川は清かな音を立てる。
少年はしまったと逃してしまった手を川面から引き上げた。きらりと水の名残のような残滓が指にまとわりついていた。
それは、矢張り不確かである筈の確かな繋がりであった。
少年は滔々と流れていく足元の川を眺めやりながら明日こそは、と思う。
約束ではなく、必然に似た、酷く焦がれる何か。恋というには何かを履き違えたような感覚を何故抱くのは少年は分からない。

答えるように遠く水面が先程のように音を立てた。
挨拶のような現象を麦藁帽に遮られた視界の端で捉えて少年は笑う。

また、明日。




>>雰囲気重視。何か昔っぽいような文章書いてみたい。

細い音を伴って柔らかに溶ける青がある。じっと見つめた一点に濃紺の服を纏った少女の域を抜けていない容姿の女が一人。極端に薄い色彩の髪を纏め上げてある、簪の飾りが華奢な音を立てて揺れた。視線を落とせば女の傍らに横たわるもう一人。

「姉さん」
「ああ…、静」

呼ばわった抑揚のない声に返される言葉は凛とした響きを持って、落としていた視線をあげて女は微笑んだ。泣きそうな笑顔に時が来たのだと声を掛けた静は納得する。するりと魂の声が、この蒼の海に沈み込んだ城にいつも絶えないその声が途絶えた。この時だけは誰も何も言う権利は認めぬと世界が定めたかのようにぱたりと音が止む。
一瞬、瞬きするのも忘れて静はその場に立ちつくした。

「……身罷られてしまいましたか」

とそこに静かに空気が落ちる。入り込んだ気配に静が口を開く前に姉である女が鋭く声を投げた。

「何用か? 精霊王。門は閉じていた筈だが」
「これは厳しい。私はただ、友人が亡くなったので最後の別れに来たまで」
「……精霊王」
「寂しいでしょう?」

呟かれた言葉は即座に否定で消される。

「莫迦なことを」

一歩と足を踏み出した女が幾分と自分より目線の高い相手に、恐れることなく視線を合わせた。

「嬉しいこととは言い難いですが、ご即位を祝福します。冥王」
「……受け取りにくい言葉だが受け取っておこう、精霊王」

毅然と返し魂の管理者である王になったばかりの女はふと一言も話さない弟に視線を向けた。
先程逝ったばかりの父譲りの白さと容姿の弟が何かを探すように視線を彷徨わせる。
魂の声は未だ聞こえず静寂でともすれば気が狂ってしまいそうだ。

「……静?」
「精霊王。……父から言伝です」

口を開いた静が目を伏せる。父親譲りの容姿の中、唯一とも言える母譲りの夜空を思わせる深い色の瞳が隠れた。

「何て? 漣はなんと?」
「…”責めてはいけないよ。世界も自分も、何もかも”」
「…そう。ありがとう」
「精霊王アシェア、今日はどうかお引き取り下さい。……明日には門を開きます。改めてお越し下さいませんか」

ゆっくりと礼の形を取った静に歩み寄った精霊王が一度と女を振り返った。

「いえ。もう良いです。ありがとう。………無粋な真似をした。許して下さい」

白い外套を翻して空気に溶けるようにいなくなった精霊王の姿を見送って女は小さく息を零した。
気遣うように視線を投げる弟に気付いて微かに笑いかければ、静も同じように微かに笑いかけて寄越す。
音を立てぬように姉に近づいた弟が寝台に横たわり眠る父の顔を窺うよう覗き込んだ。穏やかに眠りにつく顔はまだ若い。冥王は人の身として生まれながら人としての輪を外れ、全ての魂の輪廻を管理する世界の仕組みの中で唯一揺るがない立場を持つ。父の姿は先々代から名を継いだ時から長い間、一つも変わりない。
王の座を降りる時は輪廻に戻る時。
王の引き継ぎは先代の死を持って為される儀でもある。

「………静」
「怒らないでくれますか、姉さん。少しだけ力を使いました」
「…父様が望まれたことか」
「はい。そして僕も望んだことです」
「ならば責めようがない」

苦笑する女が労るように眠る父親の顔に掛かった髪を払う。
静寂と波の音、今はそれ以外の音の排除された城は二人には広すぎた。
泣くことは出来ない。定めであるから。予め知っていたことであったから。
黙って父の顔を見守る姉の手を弱くはない力で静は握った。一瞬驚いた女が支えをずらすように弟の肩により掛かる。海上に存在する魂の管理者の居城にこの日、終ぞ常響く魂の声が一つも上がらなかった。



>>久しぶりに100題の冥王さんち。冥王さんちは書きやすいのです。
   実は漣お父さんが一番性質が悪い人なのかもしれない(笑

色彩が回り分解される自己精神。叫び声は全て吸い込まれてしまい、結局はお手上げ状態でふわふわとした浮遊感は逆に気色悪さを含み、藻掻くように伸ばした手は虚空を切る。浮遊から落下へ。落ちる、墜ちる、感覚に反射的に目を瞑った。
瞬間。
今度は急に抵抗が生じて反動で衝撃が内蔵を圧迫する。気持ち悪いと小さく呟いて目を開ければ殺風景な天井が広がった。

「………引きずられすぎ、だ。瞳子」
「あ、」

自分の声とは思えぬ掠れた声に少女は一度二度と浅く呼吸を繰り返す。
悪い夢から覚醒した後のように全身冷や汗を掻いていた。

「……真紀さ、ん?」
「調子は?」
「ああ…、大丈夫…です。大丈夫」

ふるりと首を振れば鈍痛が走った。ふわりとした髪は腰近くまで伸びていて、それを邪魔そうに一つに結ぶと少女は深く息を吸う。呼吸が出来るのが嬉しい。

「随分強情だな」
「患者さん、ですか。……そうですね」
「戻ってない感覚はあるか?」
「いいえ。大丈夫です。途中で切ったので」

ゆっくりと横たわっていた寝台から降りると、カーテン越しにまだ寝台に寝ている男性に目を向けた。
懇々と眠る男の精神波を表すグラフは不安定に揺れている。

「後でもう一度潜ります」
「…大丈夫か? なんなら代わろうか?」
「大丈夫。ありがとう、真紀さん。でもやらせて欲しい。……この人は私の患者さんですから」

にこり。
先程奪われた感覚は徐々に戻っては来ているが、男性の意識は戻らず。
連れ戻そうとしたのに戻せなかった結果に少女は悔しさを噛み締めた。相手の精神に自分の精神を潜らせることは、相手にも自身にも相当の負担が掛かる。出来れば一回で終わらせたかったのだが。

「分かった。それじゃ、その時も声をかけて。サポートに入る」
「……助かります、ありがとう」

お辞儀をすればセーラー服の上に白衣を着込んだ同年代の少女、―真紀は「いや、礼には早い」と白衣の裾を翻して退室していく。ぱたりと乾いた音を立てて閉まった扉を暫く見遣ってから残された少女は寝台の脇に掛けておいた同じような白衣に袖を通した。
少女の名前は、宮野瞳子。都内の女子校に通いながらも特殊精神科医という資格を持った、歴とした医師である。


>>こっちが元々の主人公。
   宮野瞳子と飯田真紀は同学年で学校が違う、という設定。

空に映える色。
伸ばした腕。
さらりと色素の薄い髪が揺れて、逆に濃い色の服の裾がはためく。
寄せては返す波。その名前を人として与えられていた彼がふうと息を吐くのと同時、身を切るような切実な音が聞こえた気がして振り返った彼の前に人影はあった。

「こんばんは。今宵はいい夜だ」

そういってにこりと笑うそれに彼も笑いかける。

「珍しいね、アシェア」
「そう?」
「こういう日は来ないだろう?」

滅多に来ない知人がとぼけて見せるのでそういって見せると、知人は少しだけ首を傾げた。
少しだけ苦しそうに胸元をかき寄せてじっと虚空を見つめた瞳に何も言えることは無い。

「今日は、魂の声に少し落ち着きが無い。……こういうときは動くのも辛いだろうに」
「選んだのは私だからね」

だから甘んじて受けるしかないのだ、といいたそうにしながらその実何もいわないのだ。

「漣」
「……」
「私は、間違ったと……時折そういわれる夢を見た気がする」

曖昧な物言いをするのは本当に分からないからなのか、認めたくないからなのか。
世界を全て敵に回したあの日に、なんてことを、とたった一言で言えなかった。
それには漣は優しすぎて、そして色々なことを知りすぎていた。

「後悔を?」
「ううん。真逆」
「……では?」
「わからない。けど、見るたびに思うよ。ならば、これを最後まで、とね」
「……本当に辛い道ばかりを選ぶね、アシェア」
「ああ、うん。仕方ない。きっと、これは」


するりと気まぐれに消えていった知人の残像をその目に映す様に漣は闇をただ見つめた。
魂の啼く、その日は。
嘆きの声と、魂の声の安寧とともに、知人の痛みが少しでも和らいでいますようにと気休めを願う。




>>ファンタジー好きに100題。先代冥王漣と精霊王アシェア。
   うん。この二人好きなの。

   これも睦月と一緒に話の再開をしたいなとは思っている。
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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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