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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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「政宗殿…!」

階段を下りきったところで、政宗の姿を見つけた少年とも青年とも取れる男が名を呼び駆け寄ってくる。
それに軽く手を挙げて答えてから、政宗が口を開いた。

「Oh,どうしたんだ? 幸村」
「……えっと、そ、の」

勢い良く名前を呼んでおいて言い淀む幸村に、政宗が少しだけ訝しげに首を傾げた。
拍子に政宗の髪がさらりと揺れる。

「………おッ…、幼馴染み殿は大丈夫でござるか?」

それだけを言うと肩で整わない苦しげな呼吸をしている幸村に、政宗が苦笑する。
政宗の笑みに困ったような表情をした幸村がすっと大きく息を吸って呼吸を整えた。
倣うように政宗も小さく息を吸い込んで、幸村の言葉を待つ。

「……えぇと、一応…ご報告でござる」
「…Why?」
「…あの…政宗殿の幼馴染の…」
「元親?」
「そう。元親殿がいた場所を…もう一度捜索したのでござる」
「……ああ」

幸村の言葉に頷いた政宗の脳裏には、元親が倒れていた場所の光景が蘇る。
政宗がこの町に住み着いた頃には既に無人となっていた、元は小さな村だったという場所。
今もまだ建物は残ってはいるが人の居なくなって久しいあの場所は荒れ放題荒れていた。
到底、普通の人が寄り付くとは思えなかった。
強い、自分にとって聞き間違えない様の無い声。音。紡がれた音に悪意も、害もないのもすぐに知れたが…ならば何故そんなに強い音を紡ぐのか、と政宗は訝しんだ。
深い慟哭があったわけでもない。不思議だが、ただ音が紡がれた…そんな感じだった。
だからこそ、その音の強さは不自然に思えたのだ。
気になって、自分の住んでいる町とさほど距離が無いことを知った政宗は夜だというのも構わず音を辿り、そして倒れていた元親を見つけた。

「……それで?」
「…うむ。それで…なのでござるが」

言葉を切って言い淀む幸村が、少しだけ不安定に肩を揺らした。

「……何も無かったでござる」
「本当に?」
「本当でござる。……元親殿が倒れられていた以外は…、何も代わった所は無かった。寧ろ…、全く人がいた気配も痕跡もござらん。何故、元親殿があそこに居たのか…その方が不自然なほどに」
「……ふぅん。……ま、不自然は…既に不自然なんだけどな」
「……? それはどういう?」
「いや、何でもねぇよ」

聞き返してきた幸村にひらりと掌を振って政宗は答えをはぐらかす。
それに不機嫌になることもなく、気遣わしげな視線を幸村は先程政宗が降りてきた階段の先に向けた。
視線の先には、元親が休んでいる部屋がある。

「とりあえずあいつに何か食わしてやらねぇと…」
「あ…! ずっと寝ていたからお腹が減ったでござるか?」
「たぶん減ってるだろうな」

溜息一つと一緒に言うなり政宗は歩き出す。
勿論、台所の方に向けて…だ。
何を考えたとしても今は分からず、当の本人が話す気が無いのなら…無理に探る必要もあるまい。
話す気になったのなら、話してくれるだろう。
元親は無理に隠し立てをするような性格ではない。
それはカナリアの聖地で一緒に過ごした年月で良く知っていることだった。

「幸村…、それよりもいいのか?」
「ん? 何でござるか」
「…お前の町に帰らなくて…、だよ。お前のお館さまとやらが心配すんじゃねぇのか?」
「お気遣いはご無用…! ちゃんと政宗殿のお手伝いに行く、と言ってきたでござる」
「…あ、そ」
「それに。謙信殿からも…頼まれたのでござる」
「…What?」

思わず訊き返した政宗に幸村が言い辛そうに視線を彷徨わせた。
謙信とは幸村がお世話になっているお館さま…と呼ばれる人物と恋仲の人物だ。
政宗と幸村は川を挟んで両岸にある町に住んでいる。
橋を渡ればすぐに相手側の町に入るし、互いの町の仲も悪くは無いので…言ってしまえば一つの町にだって勘違いされそうな所だ。
だからこそこうやって幸村とも交流があるともいえるのだが。

「謙信殿が…あそこで…あのように……カナリアが歌を歌うのは…おかしなこと、と」
「……なるほどな」
「政宗殿?」
「そりゃ、そうか。…んで、それ以外に何か言ってたか?」
「えぇと…。……特には何も」
「そうか」

辿り着いた台所の扉を開けてやれやれと大仰に政宗が肩を竦めて見せた。

「幸村。…お前、とりあえず今日はどうする?」
「政宗殿にちゃんとご報告したからそろそろ帰ろうかと」
「だったら…、謙信に伝えてくれないか」
「……謙信殿に? 何でござる?」
「…”あんたにとりあえず頼るカナリア一人連れて行くことになるかもしれん”ってな」
「……? 了解でござる」
「頼んだぜ」

頷いた幸村を見届けて政宗は迷うことなく廊下に幸村を取り残して台所の扉を閉めた。
幸村は料理が壊滅的であるので、台所に入れたら惨劇が起こるのは間違いない。
手ごろな鍋を火にかけて、政宗は息を吐き出した。
聖地で見かけた幼馴染の姿と違う…今の影を背負ったような表情が何だか引っ掛かる。
そうは思うのに訊くのは躊躇われて、結局自分は相手の行動待ちなのだ…と気付かされて振り切るようにもう一度溜息をついた。





>>創作カナリア設定話。
   なんか幸村って書きづらいな。参ったな…(苦笑)
   謙信様よりも実は信幸がキーパーソンって感じかも、ね(何

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夜風がはたりと裾をはためかせ、きちんと切り揃えられた色素の薄い茶の髪を弄う。
風が強く吹けば細いその身体はいとも容易く吹き飛ばされてしまいそうなほど頼りない。
一言も発せず黙したまま、自分の掌に視線を落とした元就の背後…、溜息一つを吐き立ち上がる気配があった。

「……だから言ったんですよ」

昏い色を含んだ声が少しだけ咎めるように掛けられる。
微かな月明かりを冴えるほど反射させる癖のない銀糸の髪は肩よりも下まで伸ばされている。
声と同様に昏い色を含んだ瞳が、けれども穏やかに細められた。
肩越しに振り返って一瞥した元就がまた自分の掌に視線を落とすのを見て、彼は大仰に溜息を吐いた。

「…分かっていたのだと思っていました」
「……分かっていた」
「では、どうしたっていうんです? その為体は」

さらりと問われて知らずに元就は唇を噛む。
何がどうしたというのだ。…いや、自分がおかしいことなどは知っている。
どうしてこうなったのかを考えて、さして理由は思い浮かばず首を振ろうと……いや、思い当たる。
振り返って視界に映り込んだ銀糸に、少し癖のある…それより明るい、けれど涼やかな銀髪が重なった。
深淵を連想させる彼の瞳と違い、晴れた日の穏やかな海の色を写し取ったような瞳と晴れやかな笑顔。
少し無遠慮に名を呼ぶ声。粗忽そうに見えて案外繊細で器用な手。
そして何より、音。

「………っ」

其処まで思い出して堪えきれなくなったか、小さく声にもならない声を上げそうになるのを寸前で飲み込んだ元就が俯く。
おやおや、と驚いたのかそうでないのか分からない声が頭上から降ってきた。
自分よりも幾分も背の高い彼がそっと俯いた元就の頭に触れてあやすように撫でる。

「…分かってたでしょうに」
「分かっている…ッ」
「それでは、何故近づいたのです?」
「…そ、れ…は」

呆然と問われた言葉に元就が顔を上げた。
琥珀の瞳が頼りなげに揺れたが、すっと息を吸った後には揺らぎは見えない。

「分からぬ」
「元就…、私は言ったはずです」
「…貴様に言われなくとも分かっている」
「分かってたら…どうして」

もう一度俯こうとした元就の顎を取って上向かせた男が、静かな声でもう一度どうして、と問うた。
そんなことは、知らぬ。
言いたくて、出掛かった言葉はしかし喉に引っ掛かる様にして結局飲み込まれる。

「私たちは、調律師なんですよ」
「……」
「今、この時間に、貴方と私…、たった二人しか居ない。カナリアの奇跡の音を唯一使役できる、カナリアよりも稀有な存在」

分かっている、と呟くよりも先に男が言葉を続ける。

「だからこそ、私たちは…カナリアに…疎まれて。音に触れることが出来るのに、それさえも許されない。ただ、疎まれるだけの存在だ」
「…光秀」
「ねぇ、知っていたでしょう? …カナリアである彼が…貴女が調律師だと知ったら…、もう傍にいられないのは」
「……光秀、我は…」
「だというのに」
「我は、正体が知れる前に…。……そうなるからこそ、そうなる前に……あやつの元を離れたのだ」

苦しそうに絞り出された声に、不思議そうに光秀は首を傾げた。

「おや? その様子ですから…てっきり」
「……何だ」
「…如何でもいいですが、一ついいですか?」

知らずに眉間に皺を寄せた元就に気付いて、眉間を軽く指でつつくと光秀が自分よりも幾分も身長の低い元就の表情を覗き込むように背を屈めた。

「そのカナリアが…、好きだったのですか?」
「そんなわけが無いだろう」
「もし…そうなる前に…と思って離れたというなら懸命です…と言ってあげたいところですが…」
「…………?」
「貴女、もう手遅れですよ」
「……なっ」
「…手遅れです」

真剣な様子で宣言のように告げると光秀が屈めていた姿勢を正した。
そうしてしまえば彼の顔は元就のそれよりも高い位置にある。
反論しかけて結局は口を閉ざした元就が、唇を噛む。
少し強く噛みすぎたか、鉄錆に似た血の味が口内に広がって眉の皺を更に深くした。
くるりと光秀に背を向ければ、夜闇の先に仄かに街明かりがちらちらと見える。
ぼんやりとその灯りを眺めてまた元就は自らの手に視線を落とした。


どうしてだろうか。
自分から振り切るように、一方的に別れを告げてきたというのに。
今までやろうともしなかった、使ってしまえば自分の存在が何であるか分かってしまうから…やれなかった音の使役までして、自ら彼の目の前から去ったというのに。
触れてきてくれた温もりと、声と、存在と…。

それがいつまでも経っても消えない。


「……我は、一体どうしたら良かったと言うのだ」

ぎゅっと掌を握りこんだ元就への答えは今は無かった。




>>創作カナリア設定話。
   光秀は、元就とは昔というか前からの知り合い。
   世界に同時に2人存在していたら多いといわれる調律師。
   元就と光秀が調律師。二人だけ、の調律師。
   そして光秀の方が元就よりも、年上な感じで。
   光秀出てきたので、そろそろ…捏造信幸出てくるかもしれません。

   あ。そして睦月さんの意見も考慮しつつ。元就も女の子です。

点々、と。
鮮やかな赤が廊下の奥へと続いている。それを辿っていけば死の臭いが色濃くなっていくのなど百も承知だった。
だから本当は何も知らなかったと、見なかったと引き返すのが一番だ。
であるのに足は自然と其方に向く。
見なかったことにして引き返せ、と小さく頭の中で警鐘が鳴った気がした。
ぽつぽつと今し方汚されたばかりの廊下は、見慣れている風景の中に非道く不釣り合いだ。
つんと鼻をつく独特の血の臭いに顔を顰めた。
直後、部屋でがくりと膝を付いた後ろ姿が見える。
声にならない悲鳴が上がる。
仮にも軍を統べる大将とあろう者がなんと情けない、と片隅で思ったがどうでも良かった。
それよりももっと大事なのは――。

「小十郎……っ」

名を呼べば、脂汗を流しながら膝を付いた小十郎が肩越しに振り返る。
何処を怪我したのだろうか。
いつも羽織っている上着は既にしとどに血に濡れていて怪我をした箇所でさえ分からない。

「……政…む、ね様」
「良い。小十郎、喋るな」

しかし制止の声を緩く頭を振ることで拒んだ小十郎が血に濡れた手で、政宗の肩を掴む。

「い、いいえ…。政宗、さま」
「小十郎」

愕然と呟いたのに薄く笑った男に、政宗は絶望を覚える。
焦点が……、合っていない。

「…この小十郎、不覚を取られました…」
「……誰に、やられた」

低い問いに小十郎が緩く頷く。

「……政宗様」
「…なんだ」
「どうやら、ご一緒出来るのは…、ここ…ま、でのようです」

力ない男の呟きに、肩を掴まれたままに、その腕に爪を立てるようにして政宗が腕を取る。
痛みは既に感じないのか、光の薄い瞳が子供をあやすような顔で政宗を見た。

「馬鹿…、言うんじゃねぇ…。馬鹿、言うんじゃねぇよ…小十郎!」


 ―馬鹿言うな。


もう一度呟いて俯いた政宗に、小十郎は幼い頃の姿を見た気がして微笑む。
昔からやんちゃで本当に悪戯好きで…、いつも手を焼かされた。

「…聞き分けの、悪い…ことを言いなさいますな」
「小十郎」
「…良いですか。…一つ、この…小十郎と約束してください」
「なんだ? 言ってみな」
「……天下を」

 ―この戦国と呼ばれる乱世を平らげて、天下を。

「……………ああ」
「政宗、様…。この…片倉小十郎景綱……、あなたに仕えられて、倖せでした」



「……小十郎?」

するりと。
肩を強く掴んでいた手が落ちる。その腕を支えていた政宗の腕も共に落ちた。
強か床にぶつかり腕が訴えた痛みを、政宗はさほど感じていなかった。
それよりも、目の前の……唯一背中を任せてきた男の突然の死に、心に空白が出来たようで、痛みを感じることさえ忘れる。
着物が汚れるのも構わず、政宗は声も無く逝ってしまった小十郎の自分よりも大きい身体を掻き抱く。
既に動かぬ小十郎の体は未だ温かい。
だからまた名を呼んだら、返してくれるのではないのかと錯覚を覚えた。
それは決してないのを知っていて、政宗は涙を流すでもなく、もう一度 小十郎、と呟く。
涙は流れない。
痛みも感じない。
まるでそれら全て持っていかれたようで、政宗は小さく笑うしかなかった。


「俺も、お前が傍にいてくれて…幸せだったぜ」






>>小政(?) 初めて書く二人で死にネタをやらかす大罪人です。
   あれ、でも実は死にネタってある意味もえる(最低
   戦国に関して言えば、死が常に…と考えると、色々感慨深いんだけど
   それは私だけかなぁ。
   無類の信頼を置いていたからこそ、その存在が大きすぎて泣けない。
   そんな感じ、で。

目を開ける。ずきりと、何故か体が軋むような痛みをあげて声にならない悲鳴を上げた。

「………っ」

何がどうなったのかと思い起こす前にひりつく喉が現状を訴えかける。
自然と喉元に手をやって元親は全身の痛みに眉根を寄せるしかない。
痛みだけはやけにはっきりとしているのに思考は霞が掛かったようでもどかしい。
ふと此処は何処だろう、と強張った身体で辺りを見渡した。
ベッドに寝かされていて、どうやら誰かが自分を此処まで運んでくれたようだった。

「Hey, 気付いたか?」

ぐるりと視線を巡らせると窓の傍に立つすらりとした影が声をかけてくる。
かつんと一歩足を踏み出したことで逆行になっていた姿に光が当たった。
短く揃えた黒髪と、意志の強そうな隻眼が覗いた。

「……、政宗?」
「Stop! …まだあんまり喋らない方がいいぜ? 辛いだろ?」

掠れた声で名前を呼ぶと片手を挙げて制される。
ベッドの傍に在った椅子に腰掛けて政宗は足を組んだ。
大人しく黙った元親が寄越してくる視線ににやりと笑んで返す。

「とりあえず、此処はどこだ? って言いたそうな顔だ」

話さない方がいいと言われたので頷くに留める。
元親の素直な態度に満足したのか小さく笑って政宗が答えた。

「此処は…まぁ、俺が住んでる家だ」
「…おまえの?」
「…ああ。って話すなっつーのに」

思わず訊き返した元親に政宗が苦笑する。
器用に組んだ足を反対に組み直して政宗がすっと視線を窓に向けた。
光が差し込んでくる窓から、今はまだ昼を少し過ぎたところだろうと元親は憶測をつける。

「倒れてたから…放っておけなかったんだよ。…同郷の馴染みで…な」

組んだ足の上に頬杖を付いて政宗がぽつりと言う。
同郷。
カナリアの聖地で育った同じ存在。年頃が同じだったから自然と気が合って、一緒に遊びまわった仲だ。
カナリアとしての知識を全て見につけた二人は、聖地に残る選択をせずに外に行くことを望んだ。
そして政宗は今、ある町で過ごしている。
元々活発な性格であるから、あちこちに足を運んでいるようだし、聖地にも偶に帰っているようだった。
時々、聖地に帰るとそんな話を聞いたと元親は思う。

「……俺は」
「まぁ、運が良かったんだぜ? 俺が住んでる近くだったから…。お前の音が聞こえたから、辿っていけた」
「俺の、音…」
「ったく」

呆然と呟いた元親に溜息一つ落とすと政宗は立ち上がる。

「でも近いって言ってもそこまでじゃない。……お前の音が強かったから、辿れたんだ」
「……」
「お前、何であんなとこに居た? どうしてあんなに強く音を紡いだ? もう…人も居やしない打ち捨てられた村なんかで」
「…そ…うだ。………政宗、俺の他に人は居なかったか?」

ゆっくりと思い出して元親は政宗に尋ねる。
質問に答えない挙句、見当違いとも取れる質問をしてくる元親に、それでも政宗は表情一つ変えずに返した。

「俺がお前を見つけたときには居なかったな」
「…そっか」

政宗の言葉に元親が俯く。
脳裏に切なそうに笑った影が映る。無意識に唇を噛んだ。
それに素早く気づいた政宗が、元親の肩に触れて諭すように首を横に振る。

「……何があったかは…聞く気はないけどな」
「政宗」
「…話したくなったら話せよ」
「ありがとな」
「別に礼なんかいらねぇぜ」

肩を竦めてそう言うと、政宗が笑う。
そして迷うことなく部屋を横断した。

「腹、減ってんだろ? 少し待ってろ。食べれそうなものを持って来る」

その言葉を残して扉を閉めた政宗の…彼女の後姿を見送ってから、元親は視線を自分の手に落とした。
分からない。
確かに一緒に居たはず。けれど ”さよなら” と言った。
そして自分の意思に反して紡がれた音。寧ろ紡がされた音。そして…聞こえた歌。

「…元就」

あまりにも一方的過ぎた。
だからこそ何故別れを告げられたのか分からずに、元親は頭を振る。
自分の音を使ったのだ。いつも自分に関わるな、お前はカナリアだろう?と言っていた言葉をやっとの事で理解出来た。
奇跡の音を紡ぐことのできるカナリア。
その数は決して多くは無い。
そしてそれよりも稀有なカナリアの奇跡の音を使役できる存在。
調律師といわれる存在は、世界に同時に1人か2人存在していれば良い存在だ。
その数から言って外に出たカナリアが調律師に接触する可能性はとてつもなく低い。
けれど、もし出会ってしまったら…関係性も何も絶つのがカナリアでの教えだった。

「…まさか、調律師だったなんて」

呟いた声が酷く掠れる。
最後に触れられた喉元に、その温もりを辿るように触れた。
何故笑ったんだろうか。
あの時、無理だと…苦しそうに呟いて…そして。

「………俺は」



―どうしたら、良いんだろうか。






>>創作カナリア設定、親就話その2。
   ひっそりと書くのが楽しい(笑)
   もうパラレル捏造もイイトコなので、好き勝手しまくってます。
   政宗、カナリアで女性です。スタイル抜群の姐御ですぜ(殴)
   さて、これから追いかけてもらわないとね(笑
無理だ、と呟いた。その顔には苦渋の色だけが広がっていて、伸ばした手を受け入れずに身を引いた元就が緩く頭を振る。
すまぬ、と言葉が小さく空間に落ちた。
何故謝られたのか分からずに首を傾げると、困ったように視線を彷徨わせた元就の視線と一瞬絡む。
けれどすぐに断ち切られるように俯いた元就の唇が、そっと何事かを呟いた。
途端に。
自分の喉が震えたのを呆然と感じる。
音。声。―歌声。
世界が禁じた歌。歌えるのは限られた…、人でありながら一世と制限を受けたカナリアのみ。
人から生まれて、人ではもう決して歌えない音を紡ぐ。世界から取り上げられた歌は、原始に生まれたときより主旨はかわらない。祈りという最も純粋な思いを伝える方法でもある。
それゆえに、時に歌は強い力を持ちえた。
その声に、音に応える様に、世界は奇跡を引き起こす。

「も……と、なり…っ」

勝手に搾り出される歌声の合間に名を呼ぶ。
自分よりも幾分も低い位置にある元就の表情は俯いていて完全に見えなかった。
けれど泣いている様に見えた。

「…元親」

凛と。
奇跡の音が紡がれているのに、その中で決して混じりきらない静謐を宿したような声が名前を呼ぶ。
顔を上げた元就は泣いてはいなかった。
けれどもそれよりも強い悲しみの色を瞳に宿していた。
つと、白く細い指が自己の意思に関係なく歌紡ぐ喉元に突きつけられる。
カナリアである自分が歌に引きずられるかのように歌うのは有り得ない事だった。
カナリアは聖地で育つ限りは歌の使い方を教えられる。
そしてその術を習得した時に一人前として、外の世界に出ることを許されるからだ。
しかし今の元親は自分の意思とは関係なく音を紡いでいる。奇跡と呼ばれる歌を歌っている。
これじゃ名前が呼べない、と思った。
今時分が紡いでいる歌は悪い歌ではない。何かに害を為す歌ではない。だから気にしてなかったとも言えた。

「………さよなら、だ」

がくん、と途端に音が途切れる。
すっと突きつけられていた指が離れた。突然開放されたような感覚に膝が頽れる。
思わず向かい合っていた元就を見上げると、困ったように…けれども元就は笑った。
それは何故だか切なくて、けれど優しい笑顔だと感じて手を伸ばそうとする。
手は元就には触れなかった。
代わりに虚しいくらいに宙を掴む。
意識が自分の意思に反して沈んで行っていると、感じた。目を閉じてはいけない、と思った。


なのに、小さく。
歌声が、珍しい歌声が聞こえた気がして、認識した瞬間に意識が沈んでいく。




―嗚呼、これは………子守唄だ。



意識が途絶える瞬間、元親はそう思った。







>>創作カナリア設定、親就。遊びすぎかな(笑
   カナリアが元親で、調律師が元就。
   調律師は音を操れるだけだけれど、少し捻って元就は歌も
   紡ぐことが出来る存在だったりね。
   気まぐれに続くかもしれない(え
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プロフィール
HN:
くまがい
HP:
性別:
女性
自己紹介:
此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

ブログ内文章無断転載禁止ですよー。
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