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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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「ああ、例えばそうね」
正直な話おかしいのよ、と思えば思うほどにおかしくなって笑い出すのを堪えながら次の句を継ぐ。
問うた質問に上手くはぐらかすのが得意な相手に何と返せば、真意を引き出せるのか思案する。
「私が、死神になるのくらいには有り得ないことだけど」
「ウホッ、そうきたか」
だって人間は人間でしか無く、死神は死神でしかない。
生まれたときには既に決まっているのだから覆す方法など知るわけもない。
大体それに対して足掻くことも少し変だ。普通に人間として生きるだけで足掻くというのに、それ以外になろうとして足掻くのは。
「ね、私は嘘は嫌いなのよ」
異形の大きな影に笑って、次の言葉を封じる。嘘は言わせない。
頭の出来は兄と比べてしまえば雲泥の差だが、一つだけ通じるものがあるのだ。それを相手は良く知っている。
思考の読み取れない皿のような目で奇妙な笑い声を上げる。
「私は貴方を殺せる存在になれるかしら?」

―人を愛した死神、死を司るそれが死に至る大罪を犯させるまでに。


「お前、やっぱライトと兄妹なんだなぁ」
「あれ? そうだよ。当たり前じゃない」
「寧ろお前の方が性質が悪い」
そう独りごちた異形の姿は気味悪いことこの上ないはずなのに見慣れてしまったせいか、妙に可愛らしく思えた。
だから満面の笑顔を拵えてお礼を言う。
「ありがとう。それ、最高の褒め言葉よ」



>>久しぶりに粧裕とリューク。
  何ともこの組み合わせが好きで、違う意味で粧裕が月より上手ならな…
  と考えてドキドキしたりする
  人の思考じゃなくて寧ろ死神リュークの思考を読むのが得意な妹、とか。
  ある意味お兄ちゃんが焦っちゃうぜ!(?)
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肝心なことは何一つ現像を結ばないのだ。
そう、それは目配せ一つで終わるような些細なサインでしかなく、自分と相手を繋ぐ唯一の手掛かりでもあった。
夏の陽射しは大層厳しくアスファルトを焼く。
じりじりとした暑さに少年は額に浮かんだ汗を腕で拭った。
忌々しげに空を仰げば燦々と太陽は輝いている。
ぱしゃりと足元の膝下まで浸かった川面が跳ねた。
「あ、」
瞬間、水の中に突っ込んでいた片方の腕がするりと何かを掴みかけて、感触は逃げていく。
きらきらと水面は光を反射し、透明度のある川は清かな音を立てる。
少年はしまったと逃してしまった手を川面から引き上げた。きらりと水の名残のような残滓が指にまとわりついていた。
それは、矢張り不確かである筈の確かな繋がりであった。
少年は滔々と流れていく足元の川を眺めやりながら明日こそは、と思う。
約束ではなく、必然に似た、酷く焦がれる何か。恋というには何かを履き違えたような感覚を何故抱くのは少年は分からない。

答えるように遠く水面が先程のように音を立てた。
挨拶のような現象を麦藁帽に遮られた視界の端で捉えて少年は笑う。

また、明日。




>>雰囲気重視。何か昔っぽいような文章書いてみたい。
いつか、いつか音になってね。
私の全ては分からなくなってね、混ざっていく混ざっていく電子の波に。
数値に変換され分解され電子化された全てに、私は、私は、消えていく。
それはいつのことになるだろう。遠い遠い未来かも知れないし、近い近いもしかしたら明日かも知れない。
解けて混ざり合って、原型も分からなくなって、それでも歌は残っていく。
誰が歌ったんだっけ。
これって何だったっけ。
そんな、そんな自己がぼやけていく幻想を私は良く夢見る。


「つまり、ミクは」
穏やかな声が困ったように声を上げた。楽譜に落としたままだった視線を上げて青髪の青年が正面に立つ少女を見遣る。
青竹色の長い髪をふわりふわり揺らしながら、ミクは兄と呼ばれる存在の言葉を待った。
傍らにはピアノがある。
新しく与えられた歌を覚える為に、自身も決して暇ではないというのに兄は付き合ってくれている。
「不安ってこと?」
首を傾げてミクはそうなのかしら? と思った。不安とはまた違う。怖くて眠れなくなるわけでもない。
ただ漠然とそうなっていくのではないのかと思い、ふと感覚が軽くなった瞬間に目が覚める。
「違うと思う」
「うーん」
夢の話は余りにも感覚過ぎて兄には掴みきれなかったのかも知れないとミクは思った。
簡単に言えば色々な思いを乗せて歌う自己像が片端から崩れ、でも尚存在するのを夢見るのだ。
「怖いとかそう言う夢じゃなくて、ただ、そう思うってことか」
「たぶん、そう」
与えられる音は、マスターによって様々に変わっていく。世界観のある物語のような歌もあれば、叩き付けるように歌う別れの歌もある。
媒介は同じにして、正確には一つ一つ異なるものが一括りに認識される。
正しく自己像が暈けていく。
「分かるよ」
変なことを言って困らせてしまっただろうか。ならば言わなければ良かったとミクが思い始めた頃、ぽつんと兄が漏らした。
とんとん、とピアノの縁を形の良い指がリズムを刻むように叩き、知らず視線はそこに向く。
「たぶん、僕らはそういうものだろうから。みんな、きっと何となくそれを感じていて享受してるんじゃないかな」
「カイト兄さん、」
「あれだろう? 僕たちは僕たちとして此処にあって、たくさんの同一があり、それらは異なる。けど…ずっとずっと先、残った音達に僕たちの存在はなくても」
「……マスターが伝えたいものや、私達の思いは残る」
「そういうことでしょ?」
「たぶん」
ミクよりも幾分か早く世に生み出された存在のカイトは穏やかに笑った。
今度は鍵盤を、ミクが今度歌う曲の最初の音を叩く。軽いタッチで鍵盤を伝わった音は弾むように空間に広がった。
「いつまでかは僕も分からないよ。けど、こうある限り歌いたいと思う」
「私も、そうかな」
「みんなもそうだと思うよ」
そう言って視線をまた楽譜に落とした兄が、一音一音確かめるようにメロディーラインをなぞっていく。
滑らかに動く鍵盤上の指が、少しだけ軽く弾む音を弾いた。
ミクは響く音に自然と意識を集中させていく。ピアノの音に声を乗せながらミクは思う。

―紡がれ流れる音。詠まれ伝える言の葉。全て、全てを乗せて、私達は歌う為に存在している。
 だから自己の像が少しずつ輪郭を失い、暈けて、埋もれていくのだとしても、きっと歌は残っていく。
 誰か見も知らない誰か一人の中に、その歌が存在続ける限り。
 酷く曖昧で不安定で”人”とは違うけれど、生まれてきて良かった。


「…うん、そうだね」
全て、意志を汲んだカイトがぽつりピアノの音の合間に優しく相槌を打つ。
そうありたい。願う思いは一緒。



>>ボカロ小ネタ。∞の歌詞をリスペクトしながら。
  あれの間奏はガチだなぁ…(笑

  私のかくKAITO兄さんはのんびり癒し系のようです

「…父さんは。”キラ”は……捕まった時、抵抗しなかったんだ」
「抵抗? ああ、そうですね。細工したノートに私達の名前を書かせることで”キラ”を確定させ、証拠を上げる。これが私の策でした。そして彼は私の策を読み、偽のノートを掴ませ差し替えさせ、直接対決の場で本物を使い邪魔な全てをその場で排除する。その段階では彼の読みは私の上をいっていた。けれど本物のノート一冊丸々差し替えられたことで、そう、彼の私の上を行く策に気づけたのは…私の友人の功績ですが、彼は自供する以外になくなった。けれど本来なら、自供をしても諦めず隙あらば私の名前を身に付けていたノートの紙片に書こうと試みたでしょう。でも」
「駄目だった?」
「彼が時計に仕込んでいたノートの紙片は、上手く彼の部下によって時計ごと取り上げさせましたからね」
にこりと笑ったニアがことんと何かを机の上に置く。
透明な袋に入ってはいるが腕時計だった。話の流れから月が身に付けていたものだとユイにも理解出来る。
「いつも彼が気にしているものは何か…、当時の”L”と一緒に捜査していた警察官の中で、私にも協力してくれた人間に聞いたんです。Lが生きていた頃から二代目Lが身に付けていて、いつも肌身離さないものは何か。すぐには出てこなかったんですが、時計だと回答してくれました。だから、もし…ノートを切っても使えて、仕込んでおくのならそれだと思ったんです」
「……取り上げたの?」
「理由はどうとでも。…どう理由付けたか忘れましたが、時計を外して下さいと言いました。そして、自分の仲間の捜査官に渡せ、と。理由もなく否定し抵抗すれば何か拙いことがありますか? と聞けばいい。どちらに転んでも良かった。彼には想定外だったようですが、何より彼は最初にしたノートの細工と私の手に気付いていましたから、彼も取り上げられたところで差ほどの痛手にはならなかった筈なんですよ」
その余裕が月から最後の抵抗を奪った。
袋に入った腕時計にそっと触れてユイは溜息を吐く。
母親ばかりか父親の目もかいくぐって、父の名がある日を堺に自然過ぎる”不自然”という形で社会から消されたこと、それを軸に調べれば夜神月が”キラ”であったこと、そのことは世界中に伏せられたまま、一緒に捕まった男が”キラ”であると投獄され、一応の終結を見たことまでは突き止めた。
誰の目にも触れさせず死ぬまで身柄を拘束し続けるつもりだったニアが、夜神月がキラである情報を何処かに流すことはない。他でもなく、現在”L”と共に機能しているデータベースにアクセスを仕掛けたのだ。
簡単とは一概には言えなかったが、元々セキュリティの内側にいる人間であることを逆手に取れば、外部からアクセスするよりも容易だった。
「…にしても、ハッキングの腕は父親譲りでしょうかね」
「父さんも得意だったの?」
「らしいですよ。簡単にやってのけたとか色々言ってくれましたから」
それでもニアがモニターに映し出した明細な資料や、語った成り行きまでは知らない。
ただ夜神月という人物が本当の”キラ”であったと知っただけだ。
袋に入った腕時計を摘み上げれば思ったよりも重量があり、結局はしっかりと支え目の高さまで持ち上げる。
「それ、仕掛けがあるんです。…普通の人間ならやらない仕掛けが」
「摘みを四回素早く引く?」
「良く知ってますね。貴方がハッキングした資料には載ってないと思いましたが」
それどころかニアが厳重に自分以外閲覧出来ないようしまい込み、今しがたユイに見せた全てのファイルにもその記述はない。
「……父さんに聞いたんだよ」
さらりとユイが言ってみせた。
袋の上から摘みを一秒を空けない間隔で四回素早く操作すると時計の底がずれて、何か小さなものであれば入る空間が出てくる。今は其処に何もない。
「母さんから、話を聞く前に少しだけ父さんに聞いたんだ。夜神月は”キラ”なの? って」
「……そうでしたか」
「昨日だよ。母さんに父さんのことを教えて欲しいって言って部屋に戻った後。…怒られちゃった」
怒られたという割にくすくすと笑うユイにニアが首を傾げる。
言葉とは裏腹なユイの態度もそうだが、怒ったという月の理由が分からない。
「事件のこととか、そういうのは母さんから聞けって言われたから聞いてないけど。自分はキラだって教えてくれたよ」
「……それじゃ、貴方は彼から何を?」
「うーん。母さんから教えて貰えないだろうことを」
「……動機ですか」
「後はその前のこととかね」
スライドした時計の底を元に戻し、ユイが小さく笑った。
「母さん」
「何ですか?」
「”キラ”は許されるべき存在じゃないと僕も思うけど、一人の人間として父さんは…きっとある意味純粋で、そして孤独だったんだね」
時計を机に置いたユイがぽつりと落とした言葉にニアが返す言葉はない。
全て憶測に過ぎないし、例えば月本人に問うたとして認めることはないのだろう。
ただ退屈で張り合いのない日常と、真に理解して貰える相手のないまま、そして折角見つけた相手は自身にとって敵で排他しなければならなかったのだとすれば、彼の心情はどうだっただろう。
推測の域は出ないし、普通の憶測が通じる相手とも思えない。
「貴方には、もう少し大きくなったら頃合いを見て全てを話すつもりでした。父親の名前も、このことも」
「うん」
「でも今、”キラ”事件に係る私が持っている全てを貴方に教えた。…それを踏まえて聞きたいことがあるんです」
「…うん」
「もし貴方がノートを拾ったのなら、どうしますか」
ニアの問いは沈黙の合間に落ちた。
善悪、モラル、社会情勢、社会における自分の立ち位置、それら全てをひっくるめて自分で理解し答えを持つとニアが判断したときにするはずだった問いだ。
一つ一つの言葉を咀嚼するようにゆっくりと頷いたユイが、母親から唯一外見で受け継いだ深い色の瞳をモニターに向ける。思案というよりは既に答えは出ているようだった。
「父さんと同じように使うかも知れない」
そしてはっきりと迷わぬ声が告げる。
「……、」
「けど僕は、そうなったら自分の名前を途中でそこに書くと思うよ」
モニターから視線をニアに移してユイは笑った。
人の命を奪うことに何の躊躇いもなかったわけではないとユイは月に聞いている。
初めて使った日は眠れなかった、月にも人としての精神があった。何処で歯止めが利かなくなったのかなどは知らない。
ただ聞いたことがある。初めて銃のトリガーを引くとき躊躇うが、二度目は躊躇わない。きっとそれに良く似ている。
ましてや私利私欲ではなく世界や平和など大き過ぎる大義を掲げたとき、精神は自己防衛の為に自身を正当化し、罪悪感は正当化に因って麻痺していくだろう。
「……理由もなく死んでいく人が居る。誰だって良かったって理由で殺されてしまう人がいる。そんな出来事は確かに世の中に存在してる。たくさんある。けど、……だからって自分がそういう加害者を殺して良い理由にはならない。例えどんな理由や大義名分があっても」
「それが出来る力が与えられたのだとしても?」
ユイの答えにニアの声は静かにまた問いを重ねる。
「与えられた? そう考えること自体が変じゃない。……だって僕は人間だから。それ以外の何かにはなれない」
「ノートを使えば新世界の神になれる、貴方の父親はそう言いました」
「でもやっぱり人間でしかなかった。母さん、僕を育てたのは母さんだよ」
「私の意見をなぞれとは言ってませんよ」
「人を殺して、良い世の中を作るなんて、なんか矛盾してるじゃないってそういうこと」
此処に来てユイの口調は同じ年齢の子供と同じ口調だった。
「なんか、極端じゃない。行き過ぎるよ、それ」
「というのは?」
「結局、父さんの世界は完成しなかった。結果として”キラ”のいる前の世界に戻ったわけで、思うに」
背もたれに体重を預けてユイが器用に反動を付けてくるりと椅子を回した。
「異常だったのは、”キラ”の世界でしょ」
「まぁ、結果的に見れば」
「個人っていう話なら、世の中に絶対は無いから使ってしまうかも知れないけど、世界をそんな方法で変えようなんて思わないよ」
「どうして?」
「だって、きっと……その方法では、父さんが作ろうとしてた世界には父さんの思い描いてた理想は無かったと思うから」
最初は純粋に世の中から理不尽な事件が起こらなくなればいいと思ったのだとして。
それを裁く誰かがいること、それが自身だと陶酔していたかもしれない可能性に到達はするが、それを馬鹿げていると一蹴するにはユイはまだ子供だ。
けれど分かることはある。
世界は、その方法で表面的には急速に平和に近づき変わったのだとしても結局本質は変わらない。
極端な話、夜神月が存命中は世界の秩序が保たれるとして、その後は?
遅かれ早かれ破綻しかユイには見出せなかった。
「不思議なんだけど、父さんに聞いて母さんに聞いた。聞けば聞くほど終わりしか見えない。なら、僕はやっぱりその方法は違うなって思うよ」
「ユイ」
椅子に座ったまま、母親の腕がユイに回った。
ふわりとした癖毛がユイの頬をくすぐる。
「何?」
「いいえ。……いえ、何でもないんです」
突然の抱擁に驚いたユイから母親の表情はよく見えない。
ただ少しだけ声が揺れているのが分かって、そっと障らないようにユイは母親の腕に手を充てた。
途端回された腕に力が込められる。泣いているのかも知れないとユイは思い当たって、暫く少しだけ苦しいその体勢を甘んじて受け入れた。
ニアの少し低めの体温を心地良く思いながら、ユイの頭は昨晩と今で与えられた情報をフル回転で整理していく。
分かったことが有れば矢張り分からないことがある。
どうして、”キラ”であった夜神月との子どもを、―自分を産んだのか。
訊けば母を苦しめることになると知りながら、聞かずにいれない自分に自己嫌悪してユイは瞳を伏せる。


>>ifパラレル9話目。
   もう何が何だか分からなくなってきてるなと言わないで下さい
   私が一番そう思っています(…)

   ああ、でも負けるわけにはいかないんだぜ

気味が悪い。全てが読まれているようだ。軍議が終わり決められた持ち場に戻っていく騎士達の声を聞きながら、その合間を擦り抜けた人影は華奢で戦場には似付かわしくない。
脱色と言うよりは最初から色を持たぬ、真白な印象の人影に軍議から戻る騎士達がつられたように振り返る。
不躾とも取れる視線をものともせず、先程軍議の終わった部屋の扉を開ければ神妙な面持ちで未だ盤上を見詰める一騎士の姿があった。
「…余り芳しくはないようですね」
音もなく扉を閉めて話し掛ける声に騎士が顔を上げる。
少しだけ苦笑を零した騎士はまた盤上へと視線を戻した。
「流石、ロマーナ法王直属の部隊だ。守りが堅い。攻めやすいと踏んだ地形だったのだが、逆手に取られた」
「軍議から戻っていく騎士達の会話を聞きました。悉く躱されていますか」
「ぎりぎり皮一枚のところでな」
「レスター」
すっと盤上に点を落としたレスターの手の甲に、華奢な白い指が触れる。
普段王都の屋敷にいる時であるならば長いヴェールを被り裾の長い服を着るレスターの人形であるニアも、戦場に身を置く今は騎士とは違うが極力動きやすい服装をしている。
隣国ロマーナとの境目。一つ谷間に阻まれ崖に守られる形の古城を拠点に置いたフランドル軍と、山間の僅かに開けた砦に軍を進めたロマーナ軍。地形から見れば進軍は容易く、落とすのに時間が掛からないと此度遠征をしたフランドルの騎士の大半が高を括った。
嘗て人形大戦の折、殺戮の女王である”白の女王”という最強の人形使いを破った英雄であるレスターが同じく遠征に赴くことで士気も上がり、不安要素など何もなかったはずである。
だが実際は戦況は思わしくなかった。
「こちら側の士気が下がり始めている。寸前で思い通りに行かない不安もあって、軍議の内容は消極的な意見と好戦的な意見に別れてしまったし…。さて、」
「レスター…、前線に人形がいます」
「それはいるだろう。私達は、それが無ければ戦えない」
空いた椅子に座ったレスターの人形であるニアが緩く首を振った。そうではないという意思表示にレスターが思い当たる。
「結晶人形か」
「はい。…比べるべくもありません。質は良いとは言え量産が可能な人形では相手にならない」
結晶人形の希少さは全てに於いて評価される。人間のような滑らかな動きも、人間に準じた感情も最上質の結晶人形ならではである。戦闘における能力も他の人形と一線を画していた。
現にレスターの目の前できっぱりと事実を告げたニアを人間と紹介しても殆どの人間は疑いはしないだろう。
「前線に対応する人形と言うことだな。……レイのようか」
殆どの結晶人形の戦闘方法は魔術師のそれと似ている。人形自身の動力となる宝石の持つ性質と主人から影響する魔力で術式を行使するのが普通である。
量産される人形であっても前線で戦うものの多くよりは、希少価値が高いものにつれて後方援護に回る。それは魔力を扱えるだけの技量を持たせた人形であるが故。
「レイ…とは戦闘スタイルが違いますね。剣を用いてました。まるで騎士です」
フランドル所属の騎士の一人が保有する結晶人形の中にも近距離戦闘を得意とする結晶人形がいる。
その名をレイと言うのだが核に使われている宝石が電気を帯びているせいか、極光を閃かせるように戦うのである。
幾ら姿を人と似せても極光を放ちながら軽やかに戦う様は、人ではないのは一目瞭然だった。しかし、相手側の人形はそうではないという。
騎士と同じように剣を用いて戦っている。
「それは人形か」
「人形ですよ。分かります。……近距離でも戦闘スタイルはレイと異なる、と私はそう言いたいだけです」
「勝算は?」
「それは…私が前線に出て勝てるかどうか、の勝算ですか?」
「……ああ」
「最初の一手なら、相手に速さで負けません。…それは自信を持って言えます。けれど気がかりなのは……」
ただ事実を告げるように言ったニアが言葉を切った。
盤上に落とされた視線を追うようにレスターもまた盤上の地図を見遣る。
「マスターが、前線にいないと言うことです」
「………何?」
「それとたぶん、属性の相性は良くありません。同じなようですから」
ニアの言葉にレスターが唸る。それは自分たちにとって不利であると遠回しに言われたようなものだ。
元々ニアの戦闘スタイルが近距離型ではない。属性の相性に関しては、同じであるならば両方に対して不利となるので問題にはならないだろうが、色々な要素を考えれば矢張り此方の不利は確実だ。
「ですので」
レスターが考えを弾き出す時間を十分に与えた上でニアが言う。
「初撃で相手をやれない場合には、レスターを危険に晒します」
「それなら」
「貴方の力量が素晴らしいのは分かっています。けれど必ず守れると保証出来ません」
幾度となく戦場を駆け抜けてきて、主人も人形も互いの力量を知っている。
重ねた手に力を込めてニアは言葉を続けた。
「ですから、貴方も…、此処を離れてはいけません」

 

血の臭いが充満する。
それでも戦況は五分五分、そして被害は最小限。
腕を切り落とされ呻きながら地面を這う騎士を見下ろしながら、ニアはすっと前を見据えた。
薄闇の向こう、朝焼けに変わる空の一部分を切り取ったような紫の髪が短く揺れる。軽く空を切る音は剣を払った音だった。
動きは滑らか。
つと視線を上げた表情も人間に似て、それが一見人形であるなど凡人が見切れようか。
「……、随分華奢な子だね」
癖のない声は抑揚を十分に含んで、制作された経過と時間を考えればニアよりはずっと年下と言うことになるのだろうが、人間味に関しては上のようだった。
外套を着込んだままのニアの表情は相手には見えず、戦う為に騎士服に似た格好であるロマーナの人形は不敵に笑って見せた。
動く、と思った瞬間にニアの細い腕が上がる。
存外早いと内心感嘆しながら相手の属性が矢張り自らの結晶が持つものと同じであることを瞬時に見切って、ニアは一気に間合いを詰めた。
相手は剣を持っているがニアは空手である。飛び込めば斬られる可能性が高いが、剣が振るえないほどの至近距離ならば話は別だ。生憎速さは此方が上。
「…………っ」
小さく息を飲む音と剣の柄を弾いたニアの空手がするりとそのまま人形の首へ伸びる寸前、
「やってくれる。普通の人形じゃないとは、」
ロマーナの人形の剣を持っていなかった手に小さな短剣があり、逆に首筋に剣を宛がわれる。それで壊れるものではないと知ってはいるが、魔力を込められてしまえば厄介だ。結論を弾き出した瞬間に軸にしていた足で姿勢を反転させる。
着込んだままの裾の長い外套は動きには邪魔になったが、相手の視界を逸らす良い道具にもなった。
「このっ…!」
伸びる腕をかいくぐり逆にその腕を掴み取り、逆上がりと同じ要領で反動を付けて地面を蹴り上げる。ふわりと宙に浮いた瞬間にニアは着ていた外套の留め金を外した。一瞬でも相手の視界を奪う為に。
しかし相手の背後に着地する前に、意図に気付いた人形が乱暴に外套は振り払っている。
かつん、と呼吸一つ分の動きでロマーナの人形は地面に転がった自身の剣を蹴り上げて手中に収めた。
振り向きざまに横を薙ぎ払う斬撃は既に動きを読んでいたニアの術式で防がれる。
甲高い音を立てて宙で止まった刃を、一瞬驚いた表情はしたものの、返す刃一つで打ち破った人形がニアの方に間合いを詰めた。
「……」
白く細い腕が本能的に振り下ろされる剣に向かって伸び、湿った音ではなく触れ合う乾いた綺麗な音を立てた。
「形勢逆転、ってね」
ロマーナの人形がニアを見下ろしたまま、未だ手の中にある剣を確認しにやりと笑う。
ニアはそれに対し無表情に不自然な方向に折れた自分の手を見遣った。距離が離せれば若しくは何とかなるが、この体勢では何も出来ない。
事実上、人形”のみ”の戦いで敗北したと言って良かった。しかし。
「いいえ、これで良い。私の役目は、この戦線から私以外の人形及び騎士を撤退させること。事実上、強いのは貴方だけでしたからね」
「……何?」
「貴方は最初から前線に出てきているし、……此方が敵うべくもない。私は貴方の注意を引きつければ良かっただけです」
おかげで得意ではない接近戦を持ち込む羽目となり、左腕は損壊してしまったが。
「どういう、」
「貴方はロマーナ軍を率いる枢機卿の保有結晶人形とお見受けしました。枢機卿殿に帰ってお伝え下さい。…我々はこの戦線を退きます」
「そんな世迷い言を信じろと?」
戦力では勝るフランドル軍が撤退するという言葉を容易く信じられないと人形はニアの顔面に切っ先を突きつける。
ニアの言葉が虚言で撤退を始めた振りをして戦を仕掛けられる可能性は捨てきれない。
しかし、怯むことなくニアは容姿の中で唯一深い色を持つ双眸をロマーナの人形に向けた。
「信じる、信じないは貴方ではなく、貴方のマスターの裁量にお任せしたい」
「……お前の処遇は? 今、俺は勝ったも同然だ。壊して結晶を抜き取っても構わない」
「それも」
不穏な言葉に、ニアはここに来て婉然と笑んだ。
「貴方のマスターの裁量に委ねましょう」
「何、」
「剣を下ろせ、メル」
何を、と人形は最後まで言えなかった。通りの良い声が、他でもなく唯一の主の命じた声が耳に入ったからだ。
「マスター?!」
前線には出ず始終守りに徹していたはずの主を前にしてロマーナの人形の声は裏返った。癖のある、しかし見事な赤毛を結い上げた青年が迷うことのない足取りで歩いてくる。
「フランドル側は透の騎士が戦場に来たと言っていたが、お前がその人形か」
そして凛とした声で問うのに、ニアは剣を突きつけられているのなどものともせず会釈した。
「はい。……我が主の意向を伝えに来ました」
「それでは指揮は透の騎士が?」
「……総指揮は違いますが、言いくるめることなど幾らでも」
「へぇ?」
面白いことを言う、とくつくつとロマーナの枢機卿は笑う。深い色合いである紅の僧衣に身を包み、さながら全て鮮やかな色で統一された青年の瞳は相反して南国の海の色だった。
剣を収めろ、と短く命じられ人形が主とニアを交互に見遣ってから妥協とばかりにニアから切っ先を逸らして下ろす。
何をされるか分からないと人形の態度は言っている。
「それで、其方の意向を聞こう」
「先程言った通りです。……フランドル側はこの戦線から引きます。このまま続けても互いに成果は上げられず消耗戦となり、結局は引き分けのまま終わることになる」
「数で勝るフランドルがそのようなことを言っても良いのかい?」
「数で勝っていても、流れを読まれてしまうのならば意味がない。結果として同じならばお互い長引かせたくはないでしょう? これは提案です」
「……頭が良いらしいな、透の騎士」
腕組みをしてぞんざいな物言いをしたロマーナの枢機卿はすっと目を細める。
未だ剣を鞘に収めぬ自身の人形に呆れた視線を向けて、
「こら、メル。淑やかなお嬢さんにずっと剣を突きつけておくもんじゃない。仕舞え」
そう宣った。
渋々と鞘に収められた剣を見届けてから枢機卿は一歩ニアへと距離を詰める。
「帰って主に伝えろ。……ロマーナの枢機卿ゼロスは確かに意向を聞き届けた。撤退をするというのならば追わぬし、其方側が全軍戦線を離脱したところで、此方も休戦布告を出す」
「感謝いたします」
「正し、条件が」
「何でしょうか」
「フランドル側も休戦布告を出すこと。その旨がロマーナ軍に伝わるような方法で、だ」
両軍が略同時期に休戦を提示したとなれば、その後の内部政治にも余り影響がない。
「分かりました。ロマーナから入り込んでいる方を見逃しましょう。それでいいですね」
「話が分かるようで助かる。あと、一つ」
「………、何か?」
もう一歩踏み出した枢機卿とニアの距離は存外近い。
危惧して少しでもニアが行動を起こせば対処出来るように、枢機卿を主とする人形は剣の柄に手を置いた。
人形の危惧など素知らぬふりで優雅な仕草で枢機卿は膝を折る。
その行動にニアの反応も一瞬遅れた。
先程剣を突きつけられた眼前には、白の手袋をした手が差し伸べられていた。
「……はい?」
「全く俺の人形は気が利かない。こんな綺麗なお嬢さんをそのままにしておくなんて、な」
先程の固い口調は何処へやら軽い口調でニアを引き起こした枢機卿は笑う。
呆気にとられたのはニアと、枢機卿の人形で一瞬言葉を失ったニアが困ったように首を傾げた。
「変わってますね、貴方。もし私が此処で貴方の首を取りに行ったらどうするんです?」
「その時はその時だ」
「人の心は読めても、人形の心は読めないでしょうに」
「……お前、良く知ってるなぁ。でも、弱いながら流れも読めるんでね」
遺伝と言えるかどうかは知らないが人間の中に、人の心や特別な流れを読むことが先天的に出来る能力者がある。
敵だというのにロマーナ枢機卿ゼロスは、ニアに隠すことなく自身がそうであると暗に言った。
そこに迷いの欠片は一つも見えない。
「確かに条件の方は主に伝えます。……今日の夜には布告は出せるかと」
「それは此方も助かる。……メル、安全なところまで送って行ってやれ」
「ゼロス様」
「申し出はお言葉だけ有り難く。……メル殿が手を出さなければ私は安全に戻れますから」
もう一度会釈をして、にこりとニアは笑んだ。
敵側の人形に躊躇いもなく背中を見せるという、ある種信頼の一端を枢機卿はくるりと踵を返したことで示す。
少しの距離をおき、ついていく人形と枢機卿、二つの影を暫く眺めてからニアも踵を返した。

 


休戦布告を出すのに時間はかからなかった。
ニアがフランドル軍の拠点に戻って、数時間後には出た結論である。
英雄である透の騎士の人形は破損し万全の状態でないこと、いつまでも硬直状態が続き、最低限の犠牲で済んではいるがこのままでは消耗戦ともつれ込んだ挙げ句、成果は上げられる終わる可能性が高いこと。
透の騎士であるレスターが軍議で切り出せば、総指揮を負かされていた騎士侯から歯切れの悪い答えが返ったが、それ以外は満場一致で休戦布告の結論に達した。
付け根部分から破損した左腕を器用に外しながら、ニアが傍らに立つ主を見遣る。
「何、怒ってるんです」
「いや」
「これくらいで要らぬ犠牲が出ずに済むのなら越したことはないでしょう? それに貴方だって了承したじゃないですか」
「それはそうだが、怪我をして帰ってこいとは」
「私は接近型じゃないんです。これくらいのリスクは覚悟の上でした」
ごとんと床に壊れてしまった左腕を落としてニアが平然と言い放つのに、レスターが眉を顰める。
「それはそうだが、もしかしたら壊されたかもと思えば私が怒るのは当然だろう?」
「……そうですね」
換えの部品は生憎持ち合わせていない。
帰るまでは片腕の状態になり少し不便を感じるか、と思いながらもニアは床に落とされた部品に目を留める主に言った。
「そういえば、変わった方でしたよ。あちらの指揮官」
「ほう?」
「矢張りロマーナの枢機卿の一人でしたが、あれはある意味変わり種ですね」
思い出す鮮やかな色彩の青年。
見目の麗しさで言えば種類は違えど、主の弟にも通じるものがあった。人目を引く。
「だから無事に帰ってこられたようなものです。…その方に感謝しましょう」
とりあえず、今は。
そう付け足してニアは無事に残った右腕を伸ばし、主にそっと触れた。
枢機卿が示唆した彼自身の能力については触れずに、差し伸べられた手の、手袋越しの僅かな体温を思い出していた。




>>間借りジャンルごちゃ混ぜパラレル設定の。
   思いの外長くなったけど、戦場だというのにお嬢さんお手をどうぞをゼロスにやらせたかっただけ(笑
   メルの口調が分かんね…!難しい!

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