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謂わばネタ掃き溜め保管場所
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毎年季節の折に開かれる祭りの中でも、一等大きな祭りの後はどうにも特有の倦怠感が残るものだ。
書類を摘み上げながら、レオンはその日何度目か分からない溜息を吐いた。
少し癖のある茶色の髪に一部金色のメッシュが掛かるその髪を面倒臭そうに一纏めに手で整えると、首元できちっと結わえる。
それと一つ「参ったね」と呟いた。
丁度タイミング良く入ってきた弟が、それに首を傾げるのも同時。
「レオン?」
「おや、エレフ」
メッシュが髪に入っているのは同じだが、全く異なる色を持つ弟が片手に色々と抱えて入ってくる。
「珍しいな、溜息なんてさ」
「ああ。疲れが溜まっているだけだよ」
にこりと笑った兄と対照的に眉間に皺を寄せた弟が、片手の荷物から器用に一つ何かを取り上げる。小さなその包みを開くと、ぼんやりと眺めていたレオンの口にそのまま放り込んだ。
「……飴?」
「うん。さっき貰ったから。甘いのは良いんだってよ」
ほどよい甘さでまとまった紅茶の味が口内に広がっていく。ころりと口の中で転がして、この弟が菓子の類など一つも持たないのにどうしたのかと首を傾げた。貰った、と言ったか。
「誰に貰ったんだい? これ」
「んー、ザクス姉さん」
自分の分も包み紙を外して飴を口に放り入れた弟の腕を掴む。
驚いて目を丸くした弟の抱えた荷物の一番上で変わった色の小さな缶詰が揺れた。
それに目を留める。からりと乾いた音がしたところをみると飴はここに入っていたらしい。
「ちょっと、レオン?」
「エノア姉さんがいらっしゃってたのか」
缶詰を手にとって蓋を開ければ、可愛らしい色の包み紙にくるまれた飴が数個存在している。
あの人は甘いものが好きで、その中でも一番飴が好きだったと思い出す。凜と真っ直ぐに立ち、誰よりも強い人だったが綺麗で、実はとても可愛らしい人だった。
「ああ。さっき街に下りたら会ったんだ。祭りを見に来てたんだって」
「いつまでいらっしゃるって?」
「荷物持ってたし、今日帰るっていってたよ。……ってレオン?」
どうせ帰ってくるなら顔を出していけばいいのに。
王位継承権を返した後、国を離れアフロディーテに渡ってから彼女は王宮に戻ってくることが少ない。
隣国の一般階級の人間と結婚したのは知っているが、だからといって此処が彼女の故郷であることは間違いないのだ。
別に何も望みはしないのだから、普通に笑って里帰りしたらいいものを。


バタン、と大きな音を立てた扉を声を掛けることも出来ずに見守ったエレフが片手の荷物を机の上に置く。
走って出て行った兄を見送って、甘い飴を転がした。
「馬鹿だなぁ。今から行ったって間に合うわけないじゃないか」

――あの人は風みたいなもんだぞ。



>>一つ前のネタのあと。
   エノアお姉さんは、レオンの世代の人にとっては憧れの人。

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祭りの夜は人でも多く喧噪も一際激しい。街のあちこちにイルミネーションが点り、とにかく賑やかだ。一つ通りを入ったホテルは騒がしさから少しだけ離れてはいたが、矢張り人々の熱気だけは伝わる。
カランとドアのベルが鳴った音に番をしていた主人が顔を上げれば、帽子を目深に被った女性が入ってきたところだった。
どうにも線の細い女性だ。深く被った帽子で表情は余り見えないが。
「いらっしゃい。予約は?」
問えば、女性が肩に提げていた鞄から一枚の紙を取り出す。
「ちょっと待ってくれよ」
それは確かに予約票で主人は自分の持つ控えと照らし合わせた。問題はない。
確認して部屋の鍵を用意する。その間女性は一言も口にせず、ただ通りから聞こえる喧噪に耳を傾けているのか、ドアの方をちらりと見遣ったりしていた。
鍵を女性の目の前に置くと、その視線が主人の方を向く。
「ありがとう」
さらりとした流暢な響きで礼を言われ、その後女性がふと首を傾けた。
「何か?」
「ええ、すみません。一応二人で予約してたのですが、連れはまだ来てませんよね?」
「……ああ」
「分かりました。ありがとうございます」
口元が笑みの形を作り、カウンターに置かれた鍵を白い指先がつまみ上げる。
同時にいつの間にか記帳してたのだろう、宿泊者名簿の紙がカウンターに置かれた。
迷いのない足取りで上の階に向かう女性の背中を見送った後、主人は記帳された名前に視線を落とす。
先ほどの流暢な言葉と同じく、筆跡も滑らかで、
「……ルネット、さんね」
連れがいると言っていたが、確かに予約の人数はもう一人分あったが、不思議と人目を引く女性だった。


***

――嘘吐き。レイムさん、来れないなら来れないって言って下さいヨ。

部屋に入るなり荷物を置きながら、繋がった回線の先にいるであろう夫に告げる。小さく溜息が聞こえた気がした。
――『仕方ないだろう。抜けられなくなったんだ』
――別にそこは責めませんヨ? レイムさんは忙しいですから。でも無理に予定を空ける事なんて無かったんです。
結局予約した一人分は無駄になってしまった、と帽子を外しながら思う。
目深にずっと被っていたのは、どうにもこの国で自分の容姿は知られすぎているからだ。
ぺたりと額に張り付いた前髪を指先で摘むと、邪魔にならないように掻き上げる。
――『行こうと思ってた』
――だから、それ。そんな風に無理しなきゃ良いでしょう、って話ですヨ。
別に一緒に祭りに来れないのは、共働きである以上仕方ないと割り切っている。
土産に話とお菓子をたくさん持って帰れば良いだけのこと。
――『でも、エノア』
――はい?
――『多少は無理したいだろう? 折角なら一緒に楽しみたい』

お前の国の祭りなんだから。

そう付け足されては、文句も何も言えなくなってしまう。
空いたベッドに腰掛けて「そうですね」とそれしか言えないままで、まだ賑やかな祭りの喧噪に耳を澄ませた。

(来年は一緒に行きましょうネ)


>>博物館設定の眼鏡と帽子屋さん。
   お祭り好きの帽子屋さんと一緒に出かけたいレイムさん。
   なかなか予定が合わない…(苦笑

大体ねぇ、おかしいのよあんたたち。
そうケーキを食べながら言い出したミュリアに首を傾げたのはジオットだ。
女性の中に混じっても遜色のない中世的な容姿もさることながら、所作に関して言えばそこらの女性よりも繊細である。
「ミュリアさん? なにがおかしいのでしょう?」
どう返せばと思っている中でおっとりとミュリアに問うた声。受付の制服を折り目正しく着込んだシャンパンブロンドの、浮かべた表情に少女の面影を残している、――シャロンだ。
「何がって……、」
予定が付いた時、メンバーが抜けることもあるがお茶をする面子というのは決まっている。
どうにもミュリア的には一般人らしからない雰囲気を漂わせた面子だと思うのだ。
シャロンはある国の貴族であるし、元就も日本で有数の名家の出身。ジオットはある国の名家の当主であるし、その横で黙々とパフェを口に運んでいるザークシーズに関して言えば、それらしくはないのだが元お姫様だ。
会話をしている時には余り感じないが、ふとした折の所作が全員違うのである。
優雅と言えばいいのか。しっかり教育を受けていると言えばいいのか。
「ああ、きっと理解して貰えないわ」
溜息混じりに吐き出して、ミュリアはケーキを食べるのを再開する。
「言って見なきゃ分からないだろうに」
しみじみとお茶を飲みながら言って寄越す元就に「無理よ」と呟いて、何故この面子の中に自分がいるんだろうときっかけを思い出そうとしたミュリアは、そういえばきっかけも何も自分がジオットにお茶を奢れと言ったのが始まりだったなと思い至る。
いつの間にか色々と増えて、このメンバーが固定なのだ。
「……あれ、そういえば」
「今度はどうしました?」
そうだ。日によってお茶をする面子の中に違う人間が混ざることもあるのだが、今日は面子の一人がいない。
自分の他でなら、その少女が一番一般人なのだが。
「隆景どうしたの?」
「隆景君なら、今日は用事があって遅れるそうデス」
ぱくりと最後の一口を食べ終えたザークシーズが答える。この時間になっても来ないと言うことは遅れる、ではなくもしかしたら来られない可能性も高い。
「ふうん。珍しいわね」
「ああ……、アポロンの仕事が入ったようでな」
「あら? それは大変じゃありませんの?」
「何、平気でしょう? 確かレイムさんと一緒ですから」
「そうですね。今、走って此方に向かってるようです」
のんびりとそう言ってのけてジオットが店に面した通りを指さした。
キャスケットを被った少年のような格好をした少女が全力で走ってくるのが見える。
信号で一旦停止した彼女は、青になるのと同時に駆けだした。
それをぼんやり全員で眺めて、笑う。
「あーあ、若いって良いわねぇ」
「ミュリアがそれを言ったら我はどうする」
「まだ二人とも若いデスヨ。私なんて最近少しでも無理すると直ぐにバテますからね」
「それはザクス姉さん、心配ですわ」
「おや…。義体の調子が悪いんじゃないですか?」
「そんなことは無いですヨ」
「まぁ、それは置いても旦那に相談した方が良いんじゃない?」
「嫌ですよ。そうじゃなくても心配性なんですカラ」

「お、おまたせ……!」

わいわいとした会話に、呼吸の整わないままの声が割り込む。
肩で息をしながら空いた椅子に腰掛けた隆景の目の前に、さっとメニューが差し出された。



>>ランチ仲間ではなくお茶仲間は少し年齢層が高い(笑)
   でもきっとわいわい楽しいんじゃないかな。

それはいつものことでもないのだが、どうにも吃驚するくらいに指先が冷たかったので
「……レイムさん、離してくれませんか」
心配になっただけだったのだけれど、相手にとっては意味不明な行動でしかなかったらしい。
少し困ったように名前を呼ばれてレイムも握ったままの手をどうしたものかと考える。かといって手を離してしまうのも不自然な気もするし、このままというのも良くない気がした。
「……? レイムさーん? 聞こえてます?」
ひらひらと握られてない方の手を眼前で振って確認しようとする相手が、しかし矢張り困ったように首を傾げた。
反応がないのではどうにも出来ないと言った様子で自分が振った手を見下ろしている。
「ザークシーズ、寒くないか?」
「……はい? 何ですか、突然」
指先の温度は握っても余り変わらない。冷たいままで何も変わっていない。
「レイムさん、どっか具合が悪いんですカ? だったら無理しない方が良いと思うんですケド」
「それは」
困りましたネェ、と小さく呟く相手の存外華奢な肩に手を掛ける。指先は離してしまった。
「こっちの台詞だ! お前、絶対に体調良くないだろう?!」
思わず上げてしまった声に相手はきょとんと目を丸くして、笑う。
「いいえ」
それは年上が子供をあやすような笑みだった。無理をして尚も心配をさせないような表情。
「大丈夫ですよ。心配性ですね、レイムさんは」
だからもう一度冷たくなってしまった指先を掴んだ。

「お前の言葉は信用ならん」



>>だから温度をあげたいと思う
   そんな眼鏡と帽子屋さん。

アラームセット、六時半。
結局溜め込んだ仕事のせいでアラームの時間まで起きていたら世話がないのだけど。
――『おはよう、景ちゃん』
それは回線ではなく録音音声なんだけど。
(――うん、おはよう。冬さん)

疲れて半分眠りに落ちていた隆景が呟く。
疲れて回線か録音音声なのかも区別がつかないままで、笑う。回線を通して向こう側、相手がその笑みに驚いて赤面してるのさえ知らずに。
「……今日も一日頑張ろうね」



>>でも結局このまま眠りに落ちるっていうオチ。
   やっつけ仕事なのは私だよ。すみませんね^q^

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此処は思うがままにつらつらとその時書きたいものを書く掃き溜め。
サイトにあげる文章の草稿や、ただのメモ等もあがります。大体が修正されてサイトにin(笑
そんなところです。

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